
自分勝手な考えしか出来ない浅はかな母は、佐藤と言う存在をすっかり忘れて夫から再び愛される日を夢見ていました。
しかし、そんな母の独りよがりな気持ちを打ち崩すかの様に突然、その男が家の前に立ったのでした。
母の旧悪を暴き立てるかの様に『佐藤が戻るまで、離婚は待ってやる』と言う夫の言葉を母に思い出させるかの様に、ついに佐藤が母の前に姿を現したのでした。
正月も半ばを過ぎようとしていたある晩の事。
父の同級生で、同じ町内に住んでいる鈴木さんが尋ねて来ておりました。
鈴木さんは父が富山から帰って来てからすでに何回と無く遊びに来ており、父と酒を飲んでは、楽しそうにおしゃべりをして行きましたが、この日は、父にいつもの様に仕事を頼みに来ていたのです。
鈴木さんの屋号は『曳鈴』と言い、『曳き屋』を仕事としておりました。
『曳き屋』とは、建物などが道路などの拡張に引っかかった時に家を壊すには勿体無いし後ろに土地もあるような場合、その家ごとジャッキで持ち上げてコロなど使い、家ごとそっくり移動させる仕事です。
『曳き屋』の仕事が無いときは、鳶の仕事もしており3~4人の人足を使っていますが、『曳き屋』の仕事が入ると父にも手伝いを頼みに来るのでした。
二月早々の仕事で、三日もあれば終わる簡単な仕事なのでした。
もちろん父もいつものように二つ返事で受けたのでした。
そんな話も終わり、にぎやかに酒を酌み交わしていたときに玄関が開く音がして「今晩は、よっちゃんいるかい?」と一声聞けば誰だか判る、だみ声が響くのでした。
その声をお勝手で聞いた母は、背中にゾッと悪寒が走り、顔から血の気が引いて行きます。
とうとう佐藤がやって来たのです。
居間に招き入れられた佐藤は、父やその場に居合わせた鈴木さんに新年の挨拶などをしております。
母もいつまでもお勝手に隠れている訳にもいかず、新しいお酒と佐藤のための杯を用意し、覚悟を決めて居間に行くのでした。
佐藤との浮気が夫にばれている事を『佐藤にも悟られるな』と言う夫の言葉通りに笑顔を作ろうとするのですが、口元が引きつっているのが自分でも解ります。
そんな母の気持ちも知らないで佐藤は
「やあ、サッチャン新年明けましておめでとう。どうかな?久しぶりによっちゃんが帰って来ていい年だったかな?」
・・・と、すでに何処かでたらふく飲んで来たであろう赤い顔に、これも充血した赤い目をいやらしく母に向けます。
その佐藤の目は「ワシの女だと言う事を忘れていないだろうな?」と母に問いかけている様で、母は思わず父の顔を盗み見するのでした。
夫と佐藤は、いつもの様に去年の仕事場であった事を楽しそうに話をしております。
しかしその二人の胸の内に渦巻く自分を巡る思いを両方とも知っている母は気が気ではありません。
佐藤は夫に向かって陽気に話をしておりますが、時折、母にそのいやらしい視線を送りながら「幸子はいつもワシのチンボでもだえ狂っていたんだ・・・お前の妻はもうワシの『女奴隷』なのも知らないで哀れなもんだ・・・」と父の事を内心ではあざ笑っている事でしょう。
父はそんな佐藤と母を見比べながら「ふん、今に見ていろ・・・幸子を追い出して、お前に赤っ恥をかかせてやる・・・」と、これも思っているのでしょう。
母は極力自然に振舞おうと心がけますが、父の一言、佐藤の一言に敏感に反応してしまいます。
母のそんな反応を父が知っているとは思っていない佐藤は、自分の『マゾ奴隷』を夫の前で辱めている感覚になって悦に入っていたのでしょう。
11時を過ぎた頃に鈴木さんが帰りました。
母は誰にでもしている様に玄関先まで出て庭から客が道へ出るまで見送ります。
『佐藤さんも一緒に帰ってくれればいいのに』と母が思いながら玄関に戻ると「佐藤さんも帰るそうだ」との父の声に送られて、赤い顔をした佐藤が居間から出てきました。
本当は佐藤を送りたくは無い母ですが、どうすることも出来ません。
玄関を出るとき、佐藤が母に顎をしゃくって付いて来るように目配せします。
佐藤は玄関脇のお勝手の前を通り母屋と夫婦の寝室にしている納屋との間の凹んだ陰に(母屋と納屋は階段で途中まで繋がっていて丁度屋敷が凹形になっていた)母を連れ込みました。
「どうだ?・・・幸子、明日出てこれないか?久しぶりに可愛がってやるぞ」
・・・と、母の気も知らないでいやらしく囁きますが、そんな誘いを今の母が受けられる訳はありません。
母は言葉も出ずに、激しく頭を横に振ります。
「なんだ幸子、もう三月もワシの精子を飲んでいないんでそろそろワシの太いチンボを尺八して飲みたくなったんじゃあないのか?それとも何か?義男の汚い精子でも飲んだのか?」と佐藤は言葉で母を凌辱するのです。
佐藤は久しぶりに会った母に『マゾ奴隷』の気持ちを呼び起こさせようとしたんだと思います。
「止めてください!もうお父さんが帰って来たんです。お願いですから、もう忘れてください・・・」
母はやっとそれだけ言うと佐藤を振り切るように玄関に駆け込みました。
玄関を後ろ手に閉めると母は目を瞑り呼吸を整えるのでした。
久しぶりに聞く佐藤の声は、おぞましく汚らしく聞こえます。
しかしそれと同時にここ何ヶ月も夫にさえ抱いてもらえない母の体は、熱を持ち佐藤のいやらしい囁きに母の下腹部はジン・・・と痺れ、久しぶりに濡れてくるのでした。
それはまるで怖く、深く、今度こそ足を踏み入れたら二度と抜け出せなくなる地獄の底に母を引きずり込もうとする様な恐ろしい声に聞こえて母は身震いするのでした。
母の口の中にあの佐藤の精子が喉に絡みつく感覚がよみがえります。
愛する夫の精子さえ飲んだことは無かったのに、母は自分の口さえ佐藤の汚らしい男根で好きなように犯され、弄ばれた事を思い知るのでした。
口だけではありません体中すべてをあの佐藤の口と手足と男根でしゃぶりつくされ犯されつくされたのです。
いえ、体だけではありません。
心の中まで『マゾ奴隷』として汚辱されつくしたのです。
こんな事を今の夫に知られたら?
いえ、決して夫には知られてはならない事なのでした。
母は更なる恐ろしさに再度身震いするのでした。
気持ちを落ち着かせた母が、居間に行くともう父の姿はありません。
きっともう寝室に行って休んだのでしょう。
『もう二度と夫を裏切らない』と誓ったのに、自分の意思とは関係なく体が反応してしまった事が後ろめたい母は、夫に気持ちの底を見透かされなくて良かったと安堵して、何事も無かったかのように汚れ物を片付け洗い物をして明日の準備を忙しくするのでした。
今の母はこうして忙しく働いているときが、嫌なことを何もかも忘れられて幸せなのでした。
入浴を済ませて寝室に行くと、いつものように夫は布団の中で向こうを向いて寝ております。
夫を起こさぬように気を遣い、ストーブを消し、そっと夫の布団に潜り込んだその時、夫が突然つぶやくのでした。
「あいつの精子を飲んだのか?」
その言葉を聴いたとたん母の体はカァーと熱を持ち、『夫に聞かれてしまった!』と心臓が高鳴りすぐに今度はスゥーと血の気が引いて冷や汗が噴き出すのでした。
母は慌てて布団から出ると畳に土下座をするのでした。
「ごめんなさい・・あなた・・許して・・・無理やりだったのよ。本当よ、飲まないと中で出すって・・・ごめんなさい・・・もうしませんからゆるして・・・」
母は体中が震えました。
寒さではなく隠していた秘密が夫に知られてしまい、また一つ夫に嫌われてしまうであろう恐ろしさが込み上げて来たのです。
「無理やりだと?お前はいつもそう言って俺に嘘を付くじゃあないか?本当はあいつのちんぼうを嬉しそうに尺八して、いつも飲んでいたんだろ?あいつがそう言っていたじゃあないか?」
夫は背中を向けたまま言いました。
「わーーー」と母は泣き崩れます。
もうどうにも言い訳が立たないのです。
「やっぱりお前は俺よりあいつの事が好きなんだな?あいつの精子なんか、嬉しそうに飲みやがってなんて汚ねえ女なんだ!」
「ちがうの!信じて、あなたを愛しているのよ!」
どう言っても信じてもらえないであろうけれども、言わずにはいられない母でした。
「ふざけるな!他にどんな事をしてあいつを喜ばせたんだ!」
夫は怒りをあらわにしてむっくりと起き上がりました。
「なにも・・・何もしていません、本当です。・・・もう決してしませんから許して・・・」
母はもうそれ以上言えませんでした。
「もうしませんだとー!盗人猛々しいとはお前の事だ!一回したらもうお終いだって事が分からねえのか!?お前みたいな汚い女は見るのも汚らわしい!あっちへ行ってろ!」
そう言うと夫は頭から布団を被って寝てしまうのでした。
母は成す術もなく泣きながら部屋を出るしかありませんでした。
そうして居間のコタツで泣きながら夜を明かすのです。
このまま『時間が経てば夫も許してくれる』と思っていた浅はかな母も、心底夫に嫌われてしまったことを悟るのでした。
みんな自分が蒔いた種とは言え、何とか夫に許して貰おうと心を痛める母でした。
しかし母の悲しみはまだ始まったばかりなのです。
幸いな事にあれから夫は「出て行け」とは言いません。
その事をいい事に母は毎日を忙しく働くのでした。
相変わらずお客が絶えることはありませんでした。
母は夫の気に触らぬようにビクビクと日々を送っていました。
この時の父の気持ちは、一刻も早く佐藤に目のもの言わせて意趣返しをして、その上で自分を裏切った憎い母を叩き出したいと思っていた事でしょう。
しかしそれには、佐藤が確実にダメージを受ける手立てが欲しかったのだと思うのです。
そのために自分の心を押し★して我慢をしていたのだと思います。
中二日置いた夜、「珍しい酒が手に入った」と一升瓶を手土産に、またしても佐藤が家を訪ねてくるのでした。
小一時間話をして佐藤が帰ります。
佐藤の目的は、父と話をする事ではなく、勿論母と話をする事だったのです。
この前、母を誘った時にてっきり喜んで会いに来ると思っていた佐藤は、思わぬ母の態度に夫への未練に目覚めたのかもしれないと思ったのでしょう。
しかし佐藤は母を『マゾ奴隷』に調教したと言う自負があるので、母の心などすぐに取り戻せると思っているようでした。
今日、佐藤は母を納屋の奥にある作業場へ連れ込もうとしました。
そこは去年、最後に母を犯した場所でしたが、母はそんな周りから見えない所に連れ込まれては、佐藤に犯されることは解っていました。
もしそんな事をされたらそれこそ今日にも夫に離婚させられます。
母は家と納屋の間の凹みに入りそこから動こうとはしないのでした。
此処なら暗がりとは言っても通りから丸見えの場所です。
いくら佐藤でも此処で母をどうこうしようとは思わないはずです。
「なんだ?幸子ワシのチンボを尺八させてやろうと思ったのに」と佐藤もしぶしぶ戻って来ました。
「後生だから、もう私を放って置いて下さい・・・ねえ、お願いします」
母はこれ以上佐藤に付きまとわれたく無いので必★でした。
「幸子!お前はワシの『奴隷』だって言う事を忘れたか!ワシが嵌めたくなったら、いつでも嵌められる様に『オマンチョ』を濡らしている『便所奴隷』だって言う事を・・・」
「やめて!!・・・そんな大きな声を出さないで、聞こえてしまうわ・・・」
母は慌てて佐藤の言葉をさえぎるのです。
お勝手で夫が聞き耳をたてている様で気が気ではありません。
「もう、それ以上言わないで!・・・お願いします・・・」
母は泣き出すのでした。
今日もまた夫には聞かせたくない事を聞かれてしまったと思うのでした。
そんな母の様子に佐藤も戸惑ったかもしれません。
いつもなら言う事を聞かない母に声を荒げて恫喝すると、母の『マゾ奴隷』の心が反応して目を潤ませてた母が堪らない様に佐藤の足元に跪き、『奴隷の誓い』を言うはずでした。
それが思わぬ反発を食らったのです。
佐藤は此処で出方を変えようと思ったのでしょう。
今度は母の耳元で囁く様に
「幸子、思い出すんじゃ・・・お前の『マゾ』の心を愛してやれるのはワシだけだと言う事を・・・」
母は慌てて母屋の方を見るのでした。
二人は納屋の影に隠れる様に立っていました。
母屋のお勝手からは少し離れていますので、いくら夫が聞き耳を立てていてもお勝手の中からでは、今の佐藤の囁き位では聞こえないでしょう。
「幸子もワシのことを一番愛しているって言ったろ?・・・ほら、群馬へ旅行に行って山の中で二人だけで裸の結婚式を挙げたじゃあないか?思い出すんじゃ、お前を縛ってお前の好きな浣腸をしてやったろ?うん?岩の上で後ろ手に縛られてお前はワシのチンボを美味そうに尺八しながら浣腸した沢の水を尻の穴から思いっきり噴き出したじゃあないか?ワシはあの時の幸子がいとおしくて溜まらんのだよ・・・。」
母もすすり泣きながらその時の光景を思い出すのでした。
その時は確かに佐藤の事を愛していると思っていましたし、二人だけの結婚式に酔っていたのです。
「木に縛り付けて鞭打ちした時もほら、ワシの上に縛られながら跨って腰を振ったときもワシは幸子が綺麗で美しいと思ったぞ。幸子もワシに尻の穴を犯されてよがり狂ったろ?そんなお前の好きな事を全部やってやれるのは誰だと思う?幸子もワシを愛しているって言ったじゃあないか?」
佐藤は甘くとろける様に母を口説くのでした。
「ワシの精子を飲みながら『旦那様が幸子の一番の夫です。義男は二番目です』って言ったじゃあないか?」
そこまで聞いて母はハッと我に帰るのでした。
いつの間にか佐藤の囁きに心が酔ったようになり、危なく自分を忘れるところでした。
『夫が二番目』などと今の母には冗談にも言えないのです。
「違うのよ!・・あの時、あたしどうかしていたんだわ・・・あなたに騙されていたのよ・・・もう、許して・・・あたしはお父さんを一番愛しているのよ・・お願いだからもう忘れて・・・」
そこまで言うと母は佐藤の呪縛から逃れるように家の中に逃げ込むのでした。
母は玄関を慌ただしく閉めるとそのまま上がり口に崩れこみ、声を★して泣くのでした。
自分がいかに醜く、夫を裏切り続けていたか、今更のように気付くのでした。
「そんなに佐藤と別れるのが辛いのか?」
ハッとして母が顔を上げると目の前に夫が立っていました。
夫の顔は怒りで真っ青になって小刻みに体を震わせています。
『やっぱり聞かれたんだわ』と、母はもうどうして良いか分かりません。
「来い!話がある!」
そう言って夫は寝室に向かうのでした。
母は後を追いながら恐ろしさに体の震えが止まりません。
ただ母は、夫に聞かれたのは最初だけで佐藤の囁きまでは夫には聞こえなかっただろうとの思いがあり、夫が聞いたであろう佐藤が最初に何と言ったか必★に思い出していました。
確か佐藤は最初に『奴隷』『便所奴隷』と言う言葉を使ったと思います。
母はこの期に及んで『奴隷』『便所奴隷』と言う言葉をどう言うふうに夫に説明すれば一番怒りを買わずに済むか?と考えていたのです。
夫には佐藤と『SMプレイ』をしていた事は最後まで隠したかったのでした。
寝室に入ると夫は部屋の真ん中で仁王立ちし母を睨み付けました。
母はただうな垂れて畳に座ります。
「お前はなんて言う破廉恥な事をしていたんだ!?」
夫の罵声が飛びます。
「ごめんなさい・・あなた、もうしませんから許して・・・」
母はここ何日間ですでに何百回も言った言葉しか出ません。
今更、そんな事を言っても夫が許せるはずは無いと解っていても謝るしかないのです。
「お前はそうやって嘘ばかり付くじゃあないか!あいつとは何もしていないだと!?笑わせるな!!!群馬で裸で結婚式を挙げただと・・・?縛られて浣腸されておまけにケツの穴まで犯されてよがり狂っただと!?あいつを一番愛していて俺は二番目だと!?!ふざけるの!もたいがいにしろ!!」
夫は怒り狂っていました。
(イャーー!!)
母は心の中で悲鳴をあげました。
(聞かれていた!全て夫に聞かれていた!・・・)
目の前が真っ白になり、母は一瞬気を失い畳に倒れこむのでした。
そんな母に父は罵声を浴びせ続けましたが、気を失い放心状態の母には何を言っているのか解りませんでした。
ただ最後に「出て行け!!今すぐ出て行け!!あいつの所へでも何処でも好きなところへ行け!!俺の前に二度と顔を見せるな!!」と怒鳴られると、そのまま腕を取られて階段の踊り場に放り出されました。
狭い踊り場にボロ屑のように投げ出された母に向かって父が
「畜生!!お前のやった破廉恥で淫乱な事は洗いざらい世間様に聞いてもらうぞ!勿論、お前のお袋にも聞いてもらう!・・・いや、お袋だけじゃあない。兄弟や親戚中にお前の汚い淫売ぶりを話して顔向け出来ない様にしてやる!子供達にもよーくお前の淫乱振りを言い聞かせておくからもう二度と顔を見せるな!!」
目の前の障子がビシッと閉められて、母はようやく我に帰るのでした。
もう涙も出ません。
何も考えられません。
全て失ったのでした。
母はその後でどうしたのか覚えていませんが、次に気が付いたときは居間のコタツに突っ伏していました。
(★にたい・・・。)
母は本気で思いました。
(明日の朝、もう一度夫に謝ってから出て行こう。年老いた母親や子供達には黙っておいてくれるように頼もう。そして何処かで★んでしまおう。)
そう思う母でした。
子供達の顔が浮かびます。
夫の笑顔も浮かびます。
幸せだった暮らしが思い出されるのでした。
母は最期まで父がお勝手で二人の話を聞いていたんだと思っていたようですが、それを聞いた私は、父が聞き耳を立てていたのは、お勝手では無いと思い当たりました。
当時、階段の下にはそのデットスペースを利用した物置が作ってあり、漬物や乾物などを入れてあり、お勝手から小さな扉で出入りが出来たのです。
父はそこに潜り込んで節穴から目の前の二人のやり取りを聞いていたんだと思うのです。
ですから佐藤の囁きも手に取るように聞こえたのでしょう。
しかし、その時の父の怒り絶望感は、どれほどだったでしょう。
自分の愛する妻がそこまで汚されて弄ばれていようとは、思ってもいなかったでしょう。
普通の浮気でしたらもしかしたら許せたかもしれません。
しかし、母は佐藤の『マゾ奴隷』にされていたのです。
しかも夫である自分をないがしろにして、佐藤に『愛』を誓っていたとは、到底我慢が出来ない事だったでしょう。
それと同時に佐藤へのどうしょうも無い怒りが益々込み上げて来たことでしょう。
父は考えたのだと思います。
勿論そんな佐藤への復讐をです。
そして、さっき母にぶつけた自分の言葉で思い当たったのでしょう。
佐藤に恥をかかせて社会的に制裁を加える手立てを・・・。
夜も明けきらない頃、寝られずにまんじりともしないでコタツに居た母の前に、これも一晩中寝られなかったであろう父が立ちました。
母は慌ててコタツから出て畳に土下座をするのでした。
「おなた・・・ごめんなさい・・もう許してくれなくてもいいんです。私が馬鹿でした。・・あなたを忘れてしまうなんて・・・あたし・・・あなたと離れて寂しかったのよ・・・そこを・・・でも・・・あなた信じて!今は心から後悔しているの。なんで、なんであんな人と・・あんな事を・・・今は・・ううん、前からずーと、あなただけを愛しているのよ・・・もう遅いのは解ります・・・だから★んでお詫びします・・・お願い・・私が★んだら子供達にだけは言わないでくださいお願いします」
さっきからずっと考えていた言葉です。
もう枯れ果ててしまったはずの涙が、また溢れてくるのでした。
そんな母の前に父が座ります。
「もう一度だけチャンスをやろう。別れるかどうかはそれで決める。お前が俺の言う事をちゃんと守れれば、たとえ別れるような事になってもお前のお袋や子供達には何も言わないでやる」
その言葉を聞いた時、母は信じられぬ嬉しさに思わず父の膝頭に取り付き大声を出して泣くのでした。
「何でもします。何でもおっしゃって・・・なんでも・・・」
単純で先の事など深く考えられない浅はかな母は、『今すぐには、この家から出なくて済む』というその事だけで本心から喜ぶのでした。
父の出した条件と言うのは、今までの佐藤との浮気を『告白文』として、初めから全部を文章に書くと言うものでした。
佐藤の女漁りは有名でしたが、自分の社員の妻に手を出す事については噂では流れておりましたが、実際に表立って問題になったことは無かったようです。
おそらく佐藤が裏でうまく立ち回っていたのでしょう。
そんな事が表立てば、ほとんどが単身赴任の佐藤組の社員が安心して仕事など出来なくなることは必定です。
そこを父は攻めようと思い当たったのでした。
母に佐藤のサディストとしての振る舞いや、セックスの悪趣味など実際に『奴隷妾』になった本人に告白文を書かせて、佐藤の会社や社員は勿論の事、取引先にまで配ろうと言うのでした。
母に断れる筋合いはありませんでした。
それからの母は、佐藤との始めての浮気から『マゾ奴隷』に調教されて行く過程などを手紙の便箋に約二ヶ月もかけて書き出したのでした。
はじめは本当の事などをあまりあからさまに書きたくは無い気持ちがあり、上手く書けなくて夫に散々叱られて何回も書き直しをさせられながら書くのでした。
自分がその時どんな気持ちで佐藤の男根を尺八し精子を飲んだか?とか、自分が何とお願いして佐藤の男根を尻の穴に嵌めてもらったか?など、とても夫の前では言えない事も最後には書くように命じられるのでした。
そして書きあがった物を夫に読んでもらって、時にはその場面の再現までさせられるのでした。
浅はかな母の事です。
嘘や夫に知られたくなくて書かなかった事などは、再現の時などにすぐにばれてしまうのでした。
私は今になって、母の告白を文章に書き起こしながらある事に気が付いたのです。
それは、母とただならぬ関係になってから母に自分の浮気話を話させた時に母は二十年以上も前の話なのに、ついこの間浮気をしていたかの様に身振り手振りを交えて少しも恥らう事も無く楽しそうに話をするのです。
その姿を見てこの人の心の中はどうなっているのだろうか?・・・と、不思議に思っていたのですが、この箇所の告白テープを改めて聴いてみて『なるほど』と思い当たったのです。
それは、母は浮気がばれた時に父にその全てを告白文として一旦自ら書き、その上再現までしていたのでした。
その為、母は自分の浮気のことは、自分の中で何回も繰り返しシミュレーションしており、忘れられない出来事として昨日の事のように心に焼き付いていたのでしょう。
そして、その挙句の結果として愛する夫に許して貰ったと言う思いがあり、自分の心の中では当時の浮気は恥ずべき事でも隠す事でも何でも無い、いわば夫公認の楽しいゲームだったという思いがあるのでしょう。
ですから二十年以上も前の事を、正確に恥ずかしげも無く語れたのでしょう。
母が毎夜、告白文を書いていたその最中にも佐藤は頻繁に家を訪ねてきました。
母が余りにも言う事を聞かないので、二月になるとさすがに佐藤も焦って来たのでしょう。
家に来る度にお土産を買ってくるようになりました。
「いいネクタイがあったから、よっちゃんに買って来た」と言いながら、「ついでにサッチャンにもネックレスがあったから買って来たぞ」と、ついでのはずの母の土産のほうが見るからに高価だったりと、毎回何がしかの土産を父や子供達にと買ってくるのでした。
佐藤が良く使う手だということは、母は勿論の事、父にも見え見えですが、二人は口裏を合わせているために気付かぬ振りをするのでした。
『この時期の出来事だったのか!』と今になって私にも納得する事がありました。
ある晩、家に来た佐藤が「ほれ、ジュン、お土産だ」と言って、スケート靴を買ってきてくれたのでした。
それは私が欲しかった『ホッケー型スケート靴』でした。
当時の子供達の間で流行っていた物だったので、私は飛び上がって喜びましたが、何故急に佐藤の叔父さんがこんな高価なものを僕に買ってくれるのか?・・・とても不思議に思ったことを覚えていたのです。
今から思い返すとあの時、佐藤は母の関心を買いたくてプレゼント攻めをしていたんでしょう。
当然、その時も私にかこつけ母にはもっと高価なプレゼントをしたのでしょう。
ある晩の事でした。
いつもの様に佐藤と父が居間で酒を飲んでいた時に、佐藤が話のついでと言うように急に別の話を話し始めました。
父に向かって話している様に見えても、その実、母に聞かせたかったのだと思います。
その証拠に、母がお勝手からおかわりの熱燗と酒の肴をお盆に載せて居間に足を踏み入れた瞬間に言ったのでした。
「よっちゃんは『花電車』を見たことが有るかい?」と、赤く淀んだ三白眼に淫乱な光を宿して大声を上げました。
その声を聞いて母は心臓が止まる程びっくりして、思わずお盆を落としそうになったと言いました。
そんな母の反応を佐藤は横目で見ながらニヤニヤ笑うのです。
「路面電車の飾ったやつの事かい?いやー実際には見たこと無いなー」
「ほほほ違うよ、よっちゃん『ストリップ劇場』でやってるやつだよ」
「ああー、そっちのかー。いや、話には聞くけど見た事ねえな」
「いやー面白いぞ。ストリッパーが『オマンチョ』で色んな芸をするんだ。なあ、サッチャン」
青ざめながらこたつのテーブルの上の酒徳利を替えている母に言うのでした。
「し、知りません・・・そんないやらしい話、しないでください」
母は顔も上げられずにそそくさと台所へ逃げ出すのです。
佐藤はそんな話を父にワザとして、母の羞恥心を煽っているのでしょう。
母は台所で仕事をする振りをして佐藤の話しに聞き耳を立てるのでした。
きっと父は、母が佐藤から『花電車プレイ』をさせられていた事を感付いたでしょう。