のんきな大学生をしてた頃の話。



地方都市に進出してきた大型スーパーでバイトをしていました。



基本は飲料水なんかの品出しとか重いもの中心。



スポーツとバイクが大好きで、そのための資金を稼ぐのが目的。






身長が185センチあるんで、パートの叔母さん達には「ケン君背が高いねぇ」とか言われて、高い所の荷物をひょいと降ろしてやると、なぜか拍手して喜ばれた。



休憩中とかに、「ケン君、彼女いるの?」とか「体も大きいからアソコも大きいでしょ」みたいな、笑いながらセクハラしてくるおばちゃん達も結構多くて、嘘か本当なのか、「ケン君ならいつでもいいわよ」みたいな事を言う人も多かった。



ただ、まあそういう人は見るからにおばさんというか、もうおばあさんの域なので、もちろん笑って流すだけ。



個人的に年上は嫌いじゃないけど、年上過ぎるし、下品な感じの人はNGだったしね。






そんな時に一人、綺麗で大人しい人がレジ打ちの新人で入ってきた。



店長が「顔が良かったからw」と冗談半分で採用したようなこと言ってた。



確かに言うだけあって凄い美人でナイスバディだった。






名前はマキさん。



年齢は35歳(俺と15歳差)。



けど、見た目は全然20代後半で通用するし、何より20代にはない独特の色気があった。



芸能人だと長谷川京子さんによく似ている。






でもこの人、見かけによらず、凄い鈍くさい人だった。



レジも全然上手くならなくて、美人な事もあってレジ部の女性陣からすっかり浮いてしまっていた。



休憩室でも一人ポツンとしてて所在無さげ。



その日もお釣りの渡し忘れと、常連の口うるさい嫌味なババア客から「遅い」とのクレームで、散々いびられた後だった。



肩を落として疲れきった背中を見て、これは長くないなとか店長と話してた。






ちなみに俺と店長は同じ大学の先輩と後輩ってことで意気投合。



飲みに連れて行ってもらったり凄い親切にしてもらってた。



ちなみに凄い美人の奥さんがいて凄い愛妻家。



可愛い娘さんも2人いる。



仕事も出来るからとても尊敬してる。






ある日、バイト先に行くと店長が俺を呼び出した。






「すまんケン、今日から内沢さん(マキさん)、お前の所(品出し)で教えてやってくれないか」






「えっ?」






話を聞くと、とうとうマキさんへの不満がレジ部で爆発。






「美人だから許されるのか?」とか「マキさん、辞めさせてください」とか、まあ良くある話になったらしい。






店長はマキさんを辞めさせることも考えたらしいが、家計が厳しいマキさんはやっと見つけた仕事を辞めたくないらしくて泣きつかれたらしい。



女性の涙に弱い店長は苦肉の策で俺の所に振る事にしたらしい。






「鮮魚部は気が荒い人ばっかりだし、惣菜部は時間までに仕上げないといけないからバタバタしてるからさ、お前のところならお客さんに直接急かされないから彼女もなんとか出来るだろ」



「でも、うちはうちで肉体労働が多くてハードですよ?大丈夫ですか?」






「その時はその時で、辞めてもらうよ」



「わかりました」






という事で、店長がマキさんを呼んで紹介された。



これまでも挨拶程度はしてたけど、直接話をするのは初めてだった。






「よろしくお願いします!」






15歳も年下の相手に細い体を90度に折り曲げて挨拶するマキさん。



人はいいんだろうなとは思った。






「とりあえず棚を見回って商品の前出しが基本です。場所はやってるうちに覚えますから」






「はい」






「足りない物をメモにとってバックヤードに・・・、台車使って、重い物は無理に一人で運ぼうとしないでくださいね、怪我が怖いし、お客さんにとっても迷惑で危険ですから」






と、仕事の基本を教えた。



ぶっちゃけ品出しは、体力に自信があるならレジなんかよりよっぽど楽チンだ。



面倒な客の相手をしなくていいし、お金を扱わないからレジ部のようにギスギスしていない。






「大きな物は俺がまとめてやっちゃうので、細かいお菓子とかお願いしますね」






「はい!」






マキさんは仕事は真面目だし丁寧だった、が・・・、確かに致命的に遅かった。



これじゃあレジは無理だわと思った。






品出し担当は大きな店の割りに数人しかいない。



とにかく少人数でバンバン出して並べるので、結構大きな店舗でもそんなに大勢は必要ない。



専門でやってる奴が入れば、大概の場合平常時は一人で事が足りる。



なので、必然的に2人で行動する事が増える。



マキさんは他の人たちが周りにいる時は硬い表情だけど、俺と2人でバックヤードにいる時はニコニコして、冗談とかも言い合ったりしてた。



ただ、そういうのがまたおばちゃん達には面白くなかったんだと思う。



俺への態度は皆にこやかだけど、マキさんへの陰口は酷くなった。






「店長に色目を使って残った」とか「ケン君を今度は狙ってる」とか色々。






「ごめんなさいね・・・私のせいで変な事言われて・・・」



「そういう噂をいちいち気にするのは良くないですよ。それより今日の仕事を確実にこなす事ですよ」






「そ、そうですね・・・ダメだな・・・私・・・」



「ほら、そういう落ち込みは今は必要ないですから、これ持って行って下さい!」






「はい!!」






仕事はきっちりやる主義なので仕事中は年齢は関係ない。



出来る奴が上を取ればいい、これは店長の主義で、うちのスーパーに年功序列はない。



鮮魚部も若い兄さんがチーフやってるし、レジ部も仕事が一番速い20代のお姉さんが仕切ってる。



だから仕事中はマキさんにあーだこーだ遠慮なく指示を出す。






マキさんはバタバタしながら毎日それを一生懸命こなしている。



たぶん、レジには向いていなかったんだろう。



確かに機敏さはないが、結構タフな人だった。



意外に品出しではへこたれずに仕事をしている。



この時間帯はここが品薄になりやすいから補充を手厚く、みたいに目安を教えておくと結構忠実に覚えてくれていて丁寧にやってくれる。



こまごました作業は苦手な自分は大物担当で小物はマキさんに振っておくようなチームワークで仕事をこなしていた。



仕事をちゃんとこなしているうちにマキさんも自信を持ってきたのか、少しずつ明るい表情でイキイキと仕事をするようになった。






お店の年末、店長が主催しての忘年会。



パートのおばさんから惣菜部、鮮魚部、肉、野菜、冷凍レジの社員が勢ぞろい。



色々ドロドロした内部事情もあるが、基本は仕事に熱い人たちばかりなので、飲み会はおおいに盛り上がった。






いつも仕事を2人でこなしていたので当然のようにマキさんは俺の隣に座り、俺は店長の隣なのでマキさんもいささか安心だったのか。



それとも、店員の中にはマキさんを狙ってる人もいて、しつこく言われて困ってると言っていたから、そういう人たちからも逃げたかったのだろう。






「ふう・・・」






マキさんはあまりビールに強くないらしく、一杯目のチューハイ一口で、すでにほんのり赤くなっていた。



胸元が大きく開いている服なので、谷間が微かに赤く上気してるのが色っぽかった。






「マキさんってお酒弱いんですね」






「ええ・・・こういう席もあんまり経験なくて。いつも家にいたから」






一次会が終わり二次会のカラオケに。



ただ俺は大学の課題があったため、今回はそこで帰ることに。



マキさんは唯一の話し相手である俺が帰るから心細いのだろう。






「あの、私もそれじゃあ帰ります」と立ち上がる。






「あれー、内沢さん帰っちゃうの?」と、酔っ払った精肉部の人が絡んできた。






「はい・・・夫が待っていますので」






明らかに困った顔のマキさん。






「えー、もうちょっといいじゃない~」としつこい。






そのうち周りの女性陣がその騒ぎを見て、「またあの人だわ・・・」って感じに。






「ほら、A君!二次会行くぞ!」






一瞬空気が悪くなるタイミングで店長がすかさず割って入り、精肉部のAさんを捕まえる。






「それじゃあ店長お先します」






「おう!マキさんをちゃんと送っていってくれよ」






「はい」






そのままお店を後にして、2人繁華街を抜けて駅に。



俺とマキさんは反対方向なので、駅のホームは別々になる。






「じゃあ、俺こっちなんで、今日はお疲れ様、また明日からよろしくお願いしますね」






「はい、こちらこそ!」






丁寧にお辞儀するマキさんと別れた俺は、電車が来るまでマキさんとは反対のホームのベンチで缶コーヒーを飲んでいた。



ふと見ると、なんとマキさんが駅の階段を上がってこっちに歩いてきた。






「どうかしました?」



「あの・・・」






「?」



「・・・」






何か言いたげだが、なんと言うべきか迷うように、何度も視線が地面と俺を行ったり来たりしていた。






「あの・・・ご迷惑じゃなければ、もう少し2人でお話できませんか?」






「・・・」






<続く>