当時俺28歳のある日。
会社のウラ側の窓から、女の声が聞こえてきたんだ。
いつも閉まってるけど、夏だからかな、ブラインドも窓も開いてた。
昼休み、俺はウラ手に広がる田んぼ見ながら、タバコぷかぷかしてた。
社員約20名の田舎の営業所。
喫煙者はなんと俺だけなんで、いつも外で吸ってる。
ここは人が来ないからのんびりリラックスできる。
壁にもたれてさ、窓側からは身を乗り出さないと見えない位置。
窓の向こうは物置みたいなもんで、普段は人の出入りはないんだけどさ。
ただ新人のヒヨリが入社してから、時々そこで電話してるのは知ってたよ。
よく昼休みに遠距離の彼氏と話してるらしい。
どっちかっていうと地味だけど、肌つやつやでカワイイ女子なんだ。
彼女はヒヨリ(仮)22歳。
うちの営業所に配属されて、俺が主な教育係。
ちょっとフシギちゃん?オタク?入ってるが、愛想は悪くないし真面目な頑張り屋だと思った。
礼儀正しくて素朴な色気があってさ、目で追っちゃうこともあったな。
ヒヨリは子供っぽいトコもあるが気が利くし、先輩後輩としてはいい感じでやれると思ったよ。
素直に言うこと聞いて頑張ってくれるから、俺も気を引き締めようって気になれたんだ。
彼氏いるから、口説こうって気は起こさず、昼休みの電話に聞き耳立てたこともなかった。
でもま、その時は窓が開いてて。
聞くでもなく聞こえてしまったわけね。
「もしモシ、うん。・・昼休みだからいいケド。・・うーん仕事、3ヶ月だけど、まだ慣れないヨ。・・先輩がね、うん?そう、前にも言ったでしょ、男だヨ。・・5才くらい上カナ」
どうも俺のこと話してるな、気になるよ?この状況でも盗み聞きっていうのかな。
ゆったりとした、舌足らずなしゃべり方。
仕事ではもどかしいこともあるが、こうやって聞いてるとカワイイもんだなあ・・。
「えー?浮気とかまだソンナ心配してるの?会社では地味にしてるカラ、大丈夫だってば。・・その人?カッコよくないって、だってサルだモン」
・・遠距離の彼が浮気の心配するのはいいとして、俺のサル顔をバカにするとは何事か!
「比べたらモンちゃんに失礼ダヨ、あんなサル。要領悪いし、タバコくっさいしネ」
こいつ!オモテじゃほんわかニコニコして、ウラでは俺をバカにしてたわけか。
無性に腹が立ってきたんだぜ!・・と同時にとても悲しい!
いやしかし、誰にだって愚痴や本音なんてのはある。
偶然とは言え聞いてる俺も悪い。
どうする?悩んでたら、こんなことが聞こえてきた。
「いつも電話でしてるじゃない。昨日だって3回も・・恥ずかしかったヨ」
電話でって何、してるって何、3回って何!あれか、やらしいことか!
可愛い細い声して、普段からは想像つかないことばかり話してる!
「え?やだ今?いくら何でも会社でHなことするわけナイでしょ・・!もう切るからネ?じゃね。・・・今日も?うーん・・8時頃?・・うーん・・うん、ワカッタ・・じゃ」
・・エロいこと聞いちゃったな・・・。
あの声でどんな風にあえぐんだろ?
テレHか、今日もするのかな。
昔彼女とやって盛り上がったことあったなあ・・イイなあ・・。
やばい、意識しちゃうじゃねーか、こんなムカつく女に、チキショー。
でもまあ・・・俺の悪口言ってたのはムカつくが、直接言ってきたわけじゃない。
悔しいがここは、聞かなかったことにして立ち去るべきだな。
それが大人というもんだ。
ところが突然、ヒヨリが窓から上半身を出した。
「あーもう~!すーハー、ウーん!・・ん?・・オゥフ!」
大きなため息と深呼吸と背伸び。
そこまでしてやっと俺に気づいた。
「あー!サル野さんお疲れ様デス!あの、ココで何・・」
驚いてはいるが、今俺が来たと思ってるんだろう。
話を聞かれたとは思ってないようだ。
「昼休みにタバコ吸う時は、俺ここ来るんだ」
「あー、そうなんですか、中は禁煙でスネ」
ホントは俺をバカにしてるくせにニコニコ笑嫌がって。
でも可愛いな、可愛いなあーチキショ。
「スモーカーは肩身狭いからさ、もうやめよかな~。今時タバコ吸う奴は嫌われる時代だろ」と・・ちょっとカマかけてみたわけなんだが。
「んん・・?そんなコトないですヨ~。タバコ吹かしてる人って、渋くないデスか?」
「(コイツは・・!)ふーん。クサイとか思わないの?」
「キライじゃないですヨ?男の人のニオイがするって感じで。エヘヘ」
何だコレ、ヒヨリのオモテウラをハッキリ見た気がして気持ち悪くなった。
社会人としてはその対応が正解なのかも知れないが!
もういいや、言ってやれ。
「男ならいいけど、サルならクサイってわけか?」
「・・オゥフ!」
顔赤くして口パクパク。
お前は金魚か。
「・・聞こえテたんでふは!あのデふね、アレは、彼氏が、あのその」
「まあ落ち着け、言い訳すんな、みっともない。あれがヒヨリのウラの本音だろ」
「ちがひます!ホントはあっちが建前のオモテの本音デ」
「もういい、意味がわからん。悪かったな、ロクに仕事も出来ない、タバコくさいサルで」
「サル野さん、ゴメンなサイそんなつもりでわ・・」
「まあいいや、俺だって上司の愚痴、人に言ったことあるし。Hな会話も秘密にしとくよ」
「オゥフ!・・そこまで聞いて・・・!でもアレも誤解というかソノ」
「しつこいな、仕事でヘマしなければ文句ないから。あと愚痴は会社の外で言え。じゃな」
このイライラは多分嫉妬のせいもあったんだろうな、と思うと情けない。
いい加減鬱陶しいんでその場から離れようとしたら、後ろから声が。
「ちょっと待って下さいヨー」
無視無視。
振り向かずに歩くのだ。
ところが。
「よいしょ、よいしょ、オゥフ!・・ワ、ワワ」
思わず振り向いてしまった、そこには・・ナニやってんだこいつ。
スカートのまま、窓を乗り越えようとして片ヒザ立てた状態、パンツ丸見えのヒヨリ。
しかもバランスくずして前のめりに倒れそうになってやがる!
うひょー、パンツ白いよエロいよ!どうする?ハミ毛とか見えねーかな。
おっとそうじゃない、ここはさすがに手を貸すしかないな、ついでに触れるかも。
「何だよもう、外から回ってくればいいだろ」と悪態をつきつつ、ヒヨリの両脇に手を入れる。
ちょっとおっぱい触ったんだぜ!
ニヤニヤしながら持ち上げて、窓の外側にひょいと下ろしてやる。
・・・つもりだったんだが、意外と重くてスムーズにいかない。
そりゃそうだ、小柄だが少なくとも40kg以上はある。
引きずり出すような格好になった。
しかも勢いあまって抱き付かれちゃうし。
どさくさでおっぱいちょっと触ったし、パンツは白いし、抱き付かれるし、いいニオイだし!
やばいな、これ勃つよ、ちんこ勃つよ、今勃つよ、ほら勃った。
ムカつく女だって分かったけど、カワイイもんな、チキショー。
でも、なんですぐ離れないの?ムーネにほほーをうーずーめー♪
泣ぁいていーたね、・・・あ、泣いてる?何で!何で!足でもぶつけたか?
「誤解ですからネ!オゥフ!」
結局走って行っちゃった、何だったんだアレ。
泣きマネしながら言い訳でも並べるつもりだったか。
だまされるかボケ。
でもま、腹は立ったが、偶然聞いた陰口に怒るのもスジ違いてもんだ。
あーあ。
しかしなあ、午後はどうしても仕事中不機嫌になったよ。
ヒヨリも俺のことを避けていたが、他のスタッフには明るく接していたな。
ウラを見られたから、俺には無理に愛想をふりまかなくてもいいって思ってるのか。
でも仕事さえちゃんとしてくれれば、先輩としては文句言う理由がない。
別に、仲良くやったって仕事がはかどるわけじゃないしな。
悔しいけどそう割り切ろう、と思ってたんだが帰り際に言われた。
「サル野さん、話がしたいでス。お願いしマス」
えー、何だよ、今日のことがなければ単純に喜ぶとこだけど。
何か企んでないだろうな。
まあいいや。
俺は車通勤だから、とりあえず助手席に乗せた。
走ってる間、何か言ってくるかと思ったが・・・無言。
気まずい。
どこ行くんだよ。
話があるって言ったのはそっちだぞ、俺からはまだ何も言うまい。
ま、明日休みだし、どっか店で飲みながらと思ったから、自宅アパートに車置くことにした。
俺んちは、ヒヨリの住んでるトコと会社の中間くらい。
で、家に着いて車止めて。
「ちょっと歩くけど、何か食べに行くか」
「・・誰もいないトコがいいデス」
それはつまり、聞くまでもないが。
「じゃあウチ、来る?」
黙って頷いて、ついてくるヒヨリ。
まさか口止めのためにヤラせる?
そんな計算高いのは俺嬉しくないぞ。
陰口言いふらされたらそりゃ気分良くないだろうが、そこまで必★に止めるようなことか?
言いふらすメリットは俺にもないしな。
何なんだろ。
変な期待は抑えて、ワンルームの部屋に上げて、あ、俺1人暮らしね。
まあ座れば?と座布団出したら、それを横に置いて、土下座!
絵に描いたようなTHE・土下座!
何だ?何だ?
「申しワケ、ございませーん!」
「・・!おいおい声デカイよっ。落ち着けって」
「あ、申しワケ、ございませーん!」
何コレすごいな、今度客からクレームあったらコイツつれて謝りに行ってみよ。
「あのー、ヒヨリさん、まずは頭上げて、落ち着いてもらえませんか」
「は、はい・・」
「悪いね、タバコクサイ部屋で。散らかってるし」
あれ、何で俺が謝らなきゃいかんのだ。
と思ってたら。
「私おじいちゃん子でした。で、おじいちゃんはよくタバコ吸ってマシタ」
「それが何?」
「だからタバコのニオイは平気です。てゆうか好きデス。てゆうか私もたまに吸います」
何かよくわからなくなってきたが、とにかく話を聞こうじゃないか。
ビールと摘み出した。
二人ともぐびぐび飲んで一息ついた。
歓迎会の時に知ったがコイツは結構酒好き。
いつの間にか静かに酔っ払ってるタイプ。
「電話で彼に言ってたことは何?」
「彼はですネ、ヤキモチ妬きでめんどくさい人デス」
「ふんふんそれで?」
「周りにいる男の人のコトは悪く言っておかないと、めんどクサイことにナルので」
「だから、俺のことをケナしておくことにしたと」
「ホントはサル野さん頼りにしてマス。今日のことで冷たくされたら困りマス・・」
「・・わざわざそれ言うために来たの?」
「不本意ながら聞かれてシマッタけど、アレが建前で、今話してるのが本音デス・・」
「ウソだろ?何でそんなに必★で言い訳すんの?別に俺、人に言うつもりないけど」
「・・!ですよね、ウラオモテがあるって分かったら、ウソにしか聞こえませんヨネ・・」
「・・もういいよ、仕事だけ真面目にやってりゃいいじゃん。ひどい性格でも」
「それデス!」
「・・んー?」
「私、学生の時、バイトなんかでもドンくさくて、社会人になる自信なかったんですケド」
「・・それがどうかしたの?」
「入社してから、サル野さんのおかげでスゴク楽になれて」
「俺、何かしたっけ」
「人見知りで、緊張してオドオドしてたらアドバイスくれたので、ウレシカッタのです」
「・・何て?俺覚えてない」
「性格は関係ないからトニカク真面目にやれ、新人はまず挨拶と報告だけちゃんとヤレって。それさえ出来れば、あとは周りがフォローするから心配スルナって」
「・・ああ、俺が昔生意気だった頃に、所長から言われたことの受け売りだけどな」
「私アレで開き直れたので、サル野さんを悪く思ってるワケないデス。ホントです」
そういうことでしたか。
信じるべきか?信じてやりたいけど。
もうどっちがウラかオモテかイマイチわからない。
もう一押し欲しいなあ。
冗談まじりに軽く言ってみたよ。
「彼氏と別れて、俺と付き合ってくれるなら信じるよ」
すると・・。
「ホントですか?ホントにホントですか?嬉しい!オゥフオゥフ!」
「・・え、ナニナニ?俺のこと男として好きなの?」
「実はですね!最初からカッコイイ先輩だと、思っておりましタ」
やばい、素直に嬉しいな。
これ嘘だと思いたくないなあ。
100%信じるのはまだだが、不必要に疑うのも一旦保留することにしたよ。
でもさ。
「カッコイイって・・サル顔バカにしてたのは何だ?」
「私サル顔が好きデス。コレ・・・彼氏の写メです」
「うわ、俺よりまるっきりサルじゃねーか!よくもまあ、俺のことバカにしたもんだな」
「申しワケ、ございませーん!」
「・・だから声デカイって。で、本気?そんな簡単に別れられるもんなの?」
「実はめんどくさいデス。めんどクサイ人です。別れたいけど、どうしていいかワカリマセン。お互い初めて付き合ったので、どうしていいかワカリマセン」
「うーん、そっか」
「悪い人ではないんですけどネ、性格合わなくて、就職で遠距離になる前から冷めてマシタ。で、実はあ、離れる時に一度別れ話したんですヨ。でもゴネられてしまいまして。はあ、もう。冷めてはいたけど、他の人を好きになったワケじゃないノデ、マアいっかと。で、ズルズル・・」
「もう俺のこと関係なく、とっくに終わってんだな、ソレ」
「遠距離になってから、週に3回か4回は電話が来るんデスけども。正直めんどくさいです。最近はかなりの頻度でテレセになるので憂鬱です。相手したくないデス。最初は浮気防止になるからいっか、って思いましたケド」
「いや、浮気してくれた方が良かったじゃん。別れるきっかけになるよ」
「ですよネ。全然考えてませんデした。不機嫌になられるとめんどクサクテつい・・」
「優柔不断なんだなあ。で、今日も電話かかって来るんじゃないの」
「はい多分。・・って、オゥフ!8時ごろかけるって言ッテタ!今・・・もう8時?うわー、ドウシヨ」
ピリリ、ピリリ。
見事なタイミングでホントにかかってきた。
「電話出る?」
「とりあえず出まス・・」
何か面白い展開になってきたんだぜ!
俺の目の前で彼氏とテレHし始めたら・・・するワケないか。
「もしモシ。・・あー、うん、えっとっと、うん!今ウチだよ」
ウソつきやがった。
いや、一応俺の“ウチ”だから嘘じゃないな。
墓穴掘りそうな気もするけど。
「え、え、もう今・・?だって昨日モ・・。ちょ、チョ、ちょっと待って!あ、あ、アノネ、洗濯物!洗濯物入れなきゃイケナイから、10分したらまたかけて!ゴメンネ・・!」
さてどうなるのかなー?
「ふー」
「大丈夫なの?」
「今日はダメって言えばヨカッタ・・・。“臨戦態勢”だったんですよお。もうヤだあ」
「彼やる気まんまんだな(笑)どうする?ここでする?(笑)フリで誤魔化せばいいだろ」
「フリしかしたことないですヨ?ホントにするわけないじゃナイですか」
「あ、あ、そうなの?」
フリだけか・・・。
ちょっと残念なような、ホッとしたような?
「いつも適当に、アンアン言っとけば終わってくれるんですケド。回数が多くて疲れマス・・・。イヤそういうことじゃなくて!サル野さんの前で出来るワケないデスよ・・!」
「でももう、俺の前でするか、即別れ話するしかないよな」
「別れ話って、まだ心の準備ガ。今日は適当に何とか断ってミマス」
でもここまで来たら、断らないで欲しいよ。
せっかくだからやっぱり見せてもらおう!
「フリでもいいから、ヒヨリのHなとこ見たいなあ・・」
「オゥフ!それはあ・・コマリマス・・」
「ヒヨリが入社した時からずっと、カワイイって思ってたよ。彼氏いるから遠慮してたけど。でもここまで来たらもう遠慮する理由ないだろ?」
「サル野さぁん、嬉しいケド、でも、でもお」
「昼間のことは正直ムカついたけど、ヒヨリの本音、信じるよ。好きだよ」
「私も好き・・です・・。でも、でも、オゥ!・・フんぅ・・ふっ」
キスとはこういう時、言葉を遮るためにあるんだぜ。
カッコイイなおい!
シャツの上からおっぱいに手のひらをかぶせて、軽く指を這わせる。
ヒヨリの体が一瞬硬直して、すぐに脱力する。
「あッ・・ハ、はうふ」
と、その時。
ピリリ、ピリリ。
彼氏からだ。
目を潤ませて俺を見ながら、ケータイを開いたヒヨリに言った。