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30代童貞という都市伝説









〈注=筆者は推定50代のオッサン(既婚)らしい〉



性にまつわるいい加減な噂話に若者が振り回されるのは、

なにも今に始まったことじゃありません。ただ、ネット社会の弊害でしょうか、

眉唾の情報に一喜一憂して、正常なのに「自分は異常じゃないか」と悩んだり、

逆に「誰でもやってるから」と危機感を持たず痛い目に遭ったりするケースが

以前より増えてる気はします。



先日、知人の年配男性と「近ごろの若者は大丈夫なの?」という話をしました。

その知人曰く、最近は30歳どころか40歳近くになってもセックスの経験がない

男性が増えているとか。40歳だともう「若者」じゃありませんけどね。



確かに匿名掲示板を見ると「30代童貞」を自称する書き込みが目立ちます。

少し前まで「性体験の低年齢化」が言われていたのに、どういうことでしょう。



「ネット社会ならではの都市伝説」というのが、とりあえず私の推論です。

その男性にも「心配するほどのことはないと思いますよ」と言っておきました。



もちろん正確な統計があるわけじゃありません。

初体験年齢に関する調査は幾つもありますが、あれほど当てにならないものはない。

例えば自分が10代の頃、アンケートで「セックスの経験がありますか?」と聞かれ、

果たしてどこまで正直に答えるか、考えてみれば分かるでしょう。

なので、以下は私が若い人たちと接した「体感」だとお断りしておきます。



まず、「性体験の低年齢化」からして眉唾ものです。

唱歌「赤とんぼ」に「姉やは十五で嫁に行き」という歌詞がありますが、

明治・大正期まで10代で結婚・出産する女性は決して珍しくありませんでした。

男性の結婚年齢には幅がありましたが、初体験はおおむね今の中学生・高校生の

年頃に済ませるのが一般的だったようです。



比較的最近も「ヤラハタ」といって、性体験のないまま二十歳を迎えるのは

恥ずかしいことだ、という風潮がありました。今でも使われてるんですかね。

逆に言うと、大抵の男性は10代で初体験を済ませてたわけです。



つまり絶対年齢で見ると、昔も今も初体験年齢に大して差はないんですね。

「低年齢化」も社会に出るのが遅くなったことによる相対的な現象でしかない。

成人年齢やいわゆる「結婚適齢期」は社会の仕組みにしたがって変化しますが、

セックスは人間の本能に関わる行為ですから、そう変わるもんじゃありません。



女性なら初潮、男性なら精通から数年のうちに性体験を済ませるのが自然だし、

異性とのふれ合いを通じた人格形成の上でも望ましいと言えます。

もちろん一人前の「社会人」になるのが遅くなった現代は避妊が不可欠ですが。

いずれにせよ、ここ10?20年で性体験年齢が極端に遅くなったとは考えづらい。





もちろん、何らかの理由で性体験のないままの男性も、少数ですがいます。

例えば同性愛者の中には、異性とセックスしたくないという方が少なくない。

重度の心身障害者にもセックスを経験する機会がない方がいます。

さらに特殊な例ですが、カトリックの神父様とか主に宗教的な理由で

異性との交わりを絶つ人もいらっしゃいます。



ですが、こういった方々がここ何年かで急増したわけじゃありませんよね。

強いて言えば同性愛者に対する社会的認知が進んだ結果、

以前ならさまざまな圧力で意に沿わない形での結婚を強いられた男性が、

少しだけ性的指向に正直に生きられるようになってきた、くらいでしょうか。

障害者のノーマライゼーションはむしろ進んでいるとすら言えます。



女性にとってセックスに応じることは「遺伝子の受け入れ」です。

言葉を換えると「この男の子供を産んでもいい」という意思表示。

避妊の有無とは無関係に本能レベルでそう判断した、ということです。

この辺の感覚は、なるべく多くの畑に種をまきたい男性と、

まかれる種を吟味厳選したい女性で違いがあるかもしれませんが。



逆に言うと、セックスの拒否は「遺伝子を受け入れない」という女性の意思表示。

女性の場合、吟味しすぎて機会を逸する人もいるようですが、

男性は誰からも遺伝子レベルで無価値と判断されたわけで、より深刻と言えます。



本当なら人間の尊厳に関わる問題ですよね。そんな馬鹿な話はない。

能力や個性は違っても、誰しも次世代に遺伝子を引き継ぐ価値はあるはずです。



確かに、いつの時代もモテる男がいればモテない男もいます。

私の若い頃も、男前だったり金持ちだったり口が達者だったりする男は

いろんな女と浮き名を流し、内心うらやましく思ったものでした。

見てくれが悪い男、貧乏な男、口下手な男はそれだけでハンデなのは事実です。



ですが大抵の人は学校生活や社会生活の過程で他人との交わりを経験し、

その中で自分に見合ったお相手を見つけるものです。

私だって決して見てくれが良い方じゃないしモテもしませんでしたが、

21歳の時、同じ下宿に住む年上の女性に初めて手ほどきを受けました。

それこそ「ヤラハタ」。当時でもかなり遅い方だったんでしょう。



運悪くお相手が見つからなかった男は、プロの女性が相手をしてくれました。

今なら一部の性風俗店がそれに当たるかもしれません。そういう環境の下だと、

強い意思で拒否しない限り、30歳までセックスを避け続けるのはかなり難しい、

というのが常識的な感覚じゃないでしょうか。



実際、私が日ごろ接してる若者にも、人付き合いが下手な人もいれば

女性の前で緊張してしまう人もいますが、皆さんやることはやってますね。

どの女性からも遺伝子レベルで拒絶される男なんて、そうそういませんよ。



最初の年配男性に話を戻しましょう。

彼が心配した原因が匿名掲示板ということに注目したいと思います。



身分確認のない掲示板は老若男女を自称する大勢の人で賑わってますが、

例えば男性が女性、女性が男性のふりをして簡単に書き込めますよね。

「私はクリプトン星から来た」でも「俺は平将門の生まれ変わり」でも

書くだけなら何でもありです。



「自分は30歳で童貞」と書き込んだ本人が2児のパパの可能性もありますし、

もしかしたら女性かもしれない。本当に童貞でも30歳じゃなく10代の少年が

ふざけて書き込んだとも十分考えられますよね。



同性愛者、障害者、聖職者といった特別な事情があるならともかく、

そうでない「本物」の30歳童貞は、掲示板にもまずいないと思います。

若者の性欲が落ちているという俗説を真に受けて生まれた冗談でしょう。

性欲だって10年かそこらで急激に落ちるわけがない。表現の仕方が変化して、

われわれオジサンに分かりにくくなっただけ、と考えた方が自然です。



というわけで、心配症な世のオジサン、オバサンに言っておきます。

大丈夫! 日本の若者はそこまでダメになっちゃいません。

特殊な事情でもない限り、30代の童貞なんて「都市伝説」か、

いい加減な調査を基にしたネットメディアの「おふざけ」ですから。







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