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兄と妻・良子








梅雨明けが宣言されたというのに、雨が続き、ついにはこの豪雨。

激しい雨が窓を叩き、近くで雷が落ちた轟音が聞こえる。

夜中だというのに眠れやしない。

あの夜のことを思い出して、眠れなくなる。

 

 











妻の良子とは、職場で知り合った。

お互いを名字で呼び合う仲から、俊樹、良子と呼び合うようになるまでは2年くらいだったろうか。

深く愛し合っていたわけでもなく、適当な時期に適当な相手が居たから、結婚した。平均的な夫婦。





容姿に秀でたものが特になく、性格もそれに見合って控えめな良子は、一緒に居ても会話が続かなくて

気まずい時間を過ごしてしまうことがままあり、正直言うと恋人としては物足りなかった。

しかし妻としては申し分なく、料理は中々に美味で、掃除洗濯を要領よくこなす。



私が家に帰るとメシ、フロ、ネルの準備がすでに整っており、私はそれに従って時間をつぶしていくだけ。

食卓に座り料理を褒め、二人でテレビを見て感想を言い合う。

休日にはドライブなり散歩にでかけ、写真をとりそれをプリントアウトしてアルバムを埋めていく。

私はそれで幸せだったし、妻もそうだろうと思っていた。





兄から電話がかかってきたのは確か7月半ばだった。

「兄ちゃん、おかえり。久しぶりだね。」

「ああ。昨日、戻ってきたんだ。半月くらいこっちにいるから、今度お前んとこ、遊びに行ってもいいか?」

「もちろんだよ。むしろ、もっと早く来いって話だよ。」

「いつでも行けるだろって思うと、結局行かなくなるもんなんだよな。お前だって、ドイツに来てくれないじゃないか。

 まあいいか、いつが都合いい?」

私には3つ年上の兄が居て、今は翻訳家だか通訳だかでドイツで暮らしている。

私の結婚式に出席して以来だから、会うのは2年ぶりだった。







毎週火曜日はセックスの日。という暗黙のルール。

どちらからが言い出したわけでもなく、いつの間にかそうなっていた。

「…というわけで、今度の土曜日、兄ちゃんが遊びに来ることになったから。」

「えぇっ!俊也…義兄さんが?」

布団に座っていた妻が、飛び上がらんばかりに驚いた。

しばらく音信不通だった人間が突然やってくるのだから無理もないだろう。



「昨日帰ってきたと言ってた。バイクで2泊3日ツーリングをして。そのうちの1泊がウチなんだって。」

「そう…なんだ。あ、場所、うちの場所わかるのかしら。迷ったりしたら」

「兄ちゃんは昔から道に迷ったことがないんだ。地図を一目見たら目的地まで迷わずに行ける。

 バイク乗りはみんなああなのかな。父さんから住所を聞いてるから、兄ちゃんなら適当に、適当な時間に着くと思うよ。」

「義兄さんは、そうね、きっと大丈夫ね。何でもできる人だから」

良子は懐かしそうに言う。





良子と付き合い始めた時に知ったのだが、兄俊也と良子は大学で先輩後輩の間柄だった。

といっても、学部が同じで授業がたまに重なるという程度だったが。小中高と真面目がとりえの兄だが、

大学へ入学してからの兄は学業こそ優秀だったが、私生活はとにかく派手というか破天荒だったらしい。

連れている女性が日替わりでローテーションしていた、学祭で暴れていた○をぶちのめした覆面の男は兄かもしれない、

兄と後輩のつくったバンドが兄の卒業後しばらくしてメジャーデビューした。が一曲だけ売れてそれっきり。等など。

中には今ならブログやmixyに書きこもうものなら炎上してしまいそうな事もしでかしたらしい。

あくまでもらしい。なのだが。



口数の少ない良子だったが、兄の話題に関してはよく喋った。

私のように灰色の学生生活を送ってきた者としては、私の知らない、経験できなかった学生生活が聞くのは楽しかった。

兄は大学卒業後すぐに外国へ行ってしまい、会う機会は少なくなったが。

それでも何度か3人でドライブに出かけたり食事をするほどには会っていて、兄も良子には親切にしてくれた。

良子と親密になれたのは兄の影響が大きかった。良子も同じような事を言う。

その夜は、久しぶりに兄の話で夜が更け、結局セックスをすることはなかった。







――そして土曜日。



昼前から小雨がぱらつき、兄が到着した夕方には土砂降りになっていた。

案の定、兄は迷わずにやってきた。懐かしいバイクの音がかなり先からでも聞こえたので私達は傘を持って出迎えにいく。

「兄ちゃんお疲れ。どこまで行ってきたの?」

「おお。日本海をみてきた」

「そんなとこまで!あいかわらず若いなぁ」

「なんだ俊樹、ちょっと見ない間に老けたんじゃないのか?」

「まだ27だよ。おっさんあつかいするな。」

久しぶりに会った兄は2年前と変わらず快活で、精悍だった。

「お久しぶりです、義兄さん」

バイクから降りた兄に、妻が傘を差し出した。



「やあ、あいかわらずきれいだね。えと、いもうとさん。俊樹がお世話になってます」

悪いね、と言いながら兄はそれを受け取り、せっせと荷物を解きにかかる。

私たちはマンションンの一階に住んでいるので、バイクにくくりつけてあった荷物はベランダに放り込んだ。

「本降りになるまえに着きたかったんだがね。カッパの中も濡れちまった。悪いな、ウチ、濡らしちまう」

「いいよそんなの。途中から車で迎えに行ってもよかったのに」

「雨に降られるのもツーリングの醍醐味さ。知ってるか?むこうの雨はそれはもう汚いんだ。泥を浴びる感じだ。

 俺はな、日本のきれいな雨に打たれると、ああ日本だなぁと思えてきてうれしいんだ。」

「ふうん、そういうものかな」

「そういうものさ」

「あの、お風呂沸いてますから。その後でご飯にしましょう」

「ありがとう。いただくよ。風呂もメシも嬉しいねぇ」

兄はそう言って笑い、残った荷物を抱えて歩き出した。





風呂に入ってさっぱりした兄を交えて、妻のつくった料理に舌鼓を打つ。

久しぶりの日本だということで妻は和食をメインに考えていたようだ。

鶏そぼろの炊き込みご飯、かぼちゃの煮物、海老とかぼちゃとしその天ぷら、

れんこんとごぼうのきんぴら、シジミの味噌汁…

「いもうとさん、何だこのかぼちゃ!」

「あ、あの、すいませんお口に合いませんでした?」

「いやいや逆だようまいよ!やわらかいな!丁度軟らかいな!どうなってんの?」

「それは、レンジで一度あたためて…」

「それにこれ、砂糖入れてないね!?かぼちゃ本来の甘みで、こうも旨くなるのか!いやでも、みりんだけでは…

 おい俊樹、お前うらやましいな!やっぱりいもうとさんは料理の鉄人だなオイ!」

「まあね。良子の得意料理さ。きんぴらもうまいよ、あとこの天ぷらも…」

兄は一品ごとにいちいち感動し、褒めちぎる。妻はそれにいちいち照れくさそうにして、傍から見ていて可愛らしい。

三人で囲む食卓は賑やかで楽しいものだった。





――そして土曜日。

昼前から小雨がぱらつき、兄が到着した夕方には土砂降りになっていた。

案の定、兄は迷わずにやってきた。懐かしいバイクの音がかなり先からでも聞こえたので私達は傘を持って出迎えにいく。

「兄ちゃんお疲れ。どこまで行ってきたの?」

「おお。日本海をみてきた」

「そんなとこまで!あいかわらず若いなぁ」

「なんだ俊樹、ちょっと見ない間に老けたんじゃないのか?」

「まだ27だよ。おっさんあつかいするな。」

久しぶりに会った兄は2年前と変わらず快活で、精悍だった。

「お久しぶりです、義兄さん」

バイクから降りた兄に、妻が傘を差し出した。



「やあ、あいかわらずきれいだね。えと、いもうとさん。俊樹がお世話になってます」

悪いね、と言いながら兄はそれを受け取り、せっせと荷物を解きにかかる。

私たちはマンションンの一階に住んでいるので、バイクにくくりつけてあった荷物はベランダに放り込んだ。

「本降りになるまえに着きたかったんだがね。カッパの中も濡れちまった。悪いな、ウチ、濡らしちまう」

「いいよそんなの。途中から車で迎えに行ってもよかったのに」

「雨に降られるのもツーリングの醍醐味さ。知ってるか?むこうの雨はそれはもう汚いんだ。泥を浴びる感じだ。

 俺はな、日本のきれいな雨に打たれると、ああ日本だなぁと思えてきてうれしいんだ。」

「ふうん、そういうものかな」

「そういうものさ」

「あの、お風呂沸いてますから。その後でご飯にしましょう」

「ありがとう。いただくよ。風呂もメシも嬉しいねぇ」

兄はそう言って笑い、残った荷物を抱えて歩き出した。





風呂に入ってさっぱりした兄を交えて、妻のつくった料理に舌鼓を打つ。

久しぶりの日本だということで妻は和食をメインに考えていたようだ。

鶏そぼろの炊き込みご飯、かぼちゃの煮物、海老とかぼちゃとしその天ぷら、

れんこんとごぼうのきんぴら、シジミの味噌汁…

「いもうとさん、何だこのかぼちゃ!」

「あ、あの、すいませんお口に合いませんでした?」

「いやいや逆だようまいよ!やわらかいな!丁度軟らかいな!どうなってんの?」

「それは、レンジで一度あたためて…」

「それにこれ、砂糖入れてないね!?かぼちゃ本来の甘みで、こうも旨くなるのか!いやでも、みりんだけでは…

 おい俊樹、お前うらやましいな!やっぱりいもうとさんは料理の鉄人だなオイ!」

「まあね。良子の得意料理さ。きんぴらもうまいよ、あとこの天ぷらも…」

兄は一品ごとにいちいち感動し、褒めちぎる。妻はそれにいちいち照れくさそうにして、傍から見ていて可愛らしい。

三人で囲む食卓は賑やかで楽しいものだった。





妻が食器を洗い、私がそれを拭き、食器棚に片付ける。兄はリビングでテレビをザッピングしながら暇そうにしていた。

「俺、なんか手伝おうか?」

「いいよ。座って待ってろよ」

「すぐ、すみますから」

夫婦っぽいな。と兄は笑って、カバンの中を漁りだした。

「遅くなったけど、これ土産。割れてやしないか心配だったが、大丈夫みたいだな」

兄が土産に持ってきてくれたのはワインと香水と有名なサッカー選手のサイン入りユニフォームだった。

ユニフォームは私に、香水は妻に、ワインは今日のために。

私がこの選手のファンだと覚えていて、通訳の仕事を請けた時に書いてもらったそうだ。にくい心遣いだ。

香水の方は日本でもありふれている物だが、ビンは向こうの特定の店でしか売っていないタイプのものらしい。



私にはよくわからないが、妻は大層喜んでいた。

「俺は白しか飲まないから、赤いほうは、お前たちで飲んでくれ。たぶん日本じゃ飲めない珍しいものだから。

 このワインはな、乙女の口付けといって、葡萄酒なのに桃みたいな甘い香りがするんだ。

 桃のように甘くて、でもワインらしく酸っぱくて、それが癖になる。乙女のキスのようにね」

兄はどこからか取り出したコルク抜きを使って、器用に開ける。すると、桃のような香りが広がった。

「ほんとう。いい匂い。義兄さんはワインにも詳しいんですか?」

「まあ全部受け売りだけどな。向こうじゃこればかり飲んでる」

「そういえば兄ちゃんは桃が好きだからなぁ」

「そうだったの、買っておけばよかったわね。そうだ。今から買いに…」

「いいよいいよいもうとさん。この雨の中、行く事ないよ。それに桃缶なら昨日食べてる」

「兄ちゃん、さっきから良子の事、いもうとさんって呼んでるけど、どうして?」

「わたしも思っていたの。逆に他人行儀みたいに聞こえます」

「いやだってさ。前みたいに、旧姓で呼ぶのも変だし、うーん。良子さんつーのもなぁ。

 それに、俺の事も義兄さんって呼ぶんだし、じゃあ義妹さんでいいのかなって思ったんだ」

「じゃあ、わたしが俊也さんって呼んだら、わたしのこと、良子って呼んでくれますか?ねえ俊樹さん。いいと思わない?」

「うん。兄ちゃん、そうしてくれよ」

「わかった。あー、…良子さん」

「はい、俊也さん」

椅子に片足をのっけてだらしなく座っていた兄は居ずまいを正し、妻に向き直った。妻は背筋を伸ばし、やや緊張した面持ちだ。

「これからもよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」

何だか奇妙な空気になってしまったので、私はグラスを持ち咳払いをした。

兄と妻もそれに倣い、グラスを掲げる。

「じゃあ、そろそろ乾杯しようか。」

「そ、そうね」

「よし飲もう!Zum Wohl(ツムヴォール)!」

「なんだよそれ」

「乾杯って意味さ」





私は酒に関する造詣はさっぱり持ち合わせていないので、美味いという表現しかできないのだが、かなり美味かった。

自分でも驚く程に酒が進み、良子が止めるのもきかずに調子に乗って赤ワインの方も開け、それも殆ど私だけで飲んでしまったのだ。

たちまちのうちに酔いが回り、兄とどんな話をしたのか今でもさっぱり思い出せない。

情けなくもへべれけになった私は、兄に支えられて早々に寝室へと退場になってしまった。







ずずん、という轟音と振動に驚いて目が覚めた。

何事かと思ったが、どうやら雷が落ちたらしい。布団から這い出して時計を見ると、12時前。

数時間ほど眠りこけていたようだ。起き上がってみたものの、どうにも眠い。

枕元に水が置いてあったので、それを一口飲み喉の渇きを癒す。

リビングからテレビの音が聞こえてくる。二人は、映画のDVDを観ているのだろう。



もう一度眠る前に、二人に声をかけておこうと考えて、音を立てないようにふすまを開ける。

しかし、リビングを見回しても、誰も居ない。観る者もいないのに、先日買ってきた恋愛映画のDVDが上映されている。

男が不倫相手と激しく言い争っている。そろそろ佳境にさしかかる場面だ。

妻を呼ぼうとして、私はそれができなかった。テレビから聞こえてくる声の他に、雨音に紛れ、別の声、いや。音を聞いてしまったのだ。





その音は兄のために用意した部屋から聞こえてくる。

私はその音が何なのかわかっている。肉と肉がぶつかり合う音だと。

しかし、これほどに粘つき、湿り気を帯びた音は聞いたことがない。

私はその声が何なのかわかっている。女が快楽に悦び、悶えるときにあげる声だと。

だが、これほどに淫らで、男に媚びた声を聞いたことはない。



淫らな声の主は、妻。良子。卑猥な音を立てているのは、他でもない、他に誰がいるのか。我が兄俊也と我が妻良子!

心臓は激しく動悸し、息が詰まる。手がのひらが、足の裏が、汗でべっとりとする。全身がガタガタと震えている。

それでも私は音がしないようにかがんで、そっとふすまに耳を近づけた。

「うぅ…もうだめ、またイきます、声、抑えられない、です。ああ…」

「じゃあ、止めようか?」

「止めちゃいやぁ…意地悪しないでぇ…く、唇で塞いで、キス、お願い。きすで舌、舐め、させてぇああん!うん…うむ、ちゅ…」





魂が消えると書いて、たまげると読む。私はそれを習ったとき、おおげさだな。と思った。

しかし今の私は文字通り魂消ていた。リビングの照明が眩しくて目がよく見えない。金縛りにあったように体が動かない。

息が、できない。脳にめぐる血が首の後ろでせき止められているように疼き、熱い。

「この格好だとお前のまんこが濡れてるのがよく見える。なあ?貝原。いや、いもうとさん」

「せんぱぁい…りょうこって呼ぶって、言ってくれたじゃないですかぁ」

「りょうこ、良子。はーあ。ほら、腰を引くたびに糸引いてるだろ?良子はいやらしくて、かわいいな。おい、な?どうだ」

「ああ…恥ずかしい、です。おまんこに入れて、もらって気持ちいあぁん!はずかしいわたしを、みてぇ…エッチなわたしを、

 わたしを、かわいがって、いっぱいあ、あああ…」

耳だけが、聴覚だけが研ぎ澄まされ、妻と兄の声がクリアに聞こえてくる。





「あ、あっ、いい…そえ、うぁっきほちいい!」

「痛ってえな。指噛むんじゃねえよ。ホント止めちまうぞ」

「ごめ、ごめんなさい。だって、しゅん先輩が、俊也が、おっぱいいじめるから…」

「お前がかわいいからな。いじめたくなるんだよ」

ふすま一枚を隔てた、普段は物置きに使っている六畳の空間で、あろうことか私が寝ている間に、なんということを。

怒りに任せ、ふすまを蹴り破って怒鳴りこめばよかったのかもしれない。

絶望に苛まれ、このまま静かに寝室に戻り、タオルケットを引っ被ればよかったかもしれない。

しかし私はそのどちらもしなかった。

私はふすまに手をかけると、ゆっくりと、ゆっくりと開いていったのだった。







指二本ほどの隙間を開けると、かろうじて中の様子が伺える。

「くそう角度が悪いな」

ここからではふたりの頭しか見えない。下手をすればどちらかと目が合ってしまう可能性があった。

それでも、中がどのような状況か大体の事は判断できた。

ローテーブルの上に良子は仰向けに寝ているようだ。その上に兄が覆いかぶさり、お互いに唇を貪りあっている。

あの座卓は、結婚祝いに父が買ってくれたものだった。

紫檀の高級品だそうだが、デザインがあまりに和風すぎて持て余し気味に部屋に押し込んでいた。

まさかこのような使われ方で活躍するとは、父は思いもしなかっただろう。



兄がキスを中断して顔を上げた。

それを追う様に良子がその顎に、首筋に名残惜しむかの如く口付けをし、舌を這わす。

「はぁ…はぁ…。もっと、キス、して」

「はは。お前は昔からキス魔だよな。待てよ、息が続かねえんだよ」

「うん…キス、大好き…です。俊介さんのキス、おいしい…」

「いっぱいしてやるから。ふうー、暑いなこの部屋」

一瞬、兄と目が合ったような気がして、驚いた私はふすまから顔をそむけてしまった。

情けないことに、見つかってしまったのではないかと怯えてしまったのだ。



さっきまで閉められていたふすまが、少し開いているのに気付けば、私が覗いている事などすぐに悟られるのに。

さらに情けないのは、兄はただ長いキスの息継ぎのために顔をあげたのだと分かると、安心してふすまに顔を寄せてしまったことだ。

「髪、切ったのか」

「急に来るっていうから。一昨日美容院に行ってきたんです」

「ふうん。似合ってるよ。雨の中、傘を差して立っているお前を見て、学生の頃みたいだと思った。」

「ほんとう?うれしい」

兄の手が、良子の頭を撫で、指が髪を漉いていく。

ここからでは見えないが、良子がどんな表情をしているのか、私には容易に想像できた。

目を細め、少しだけ歯をのぞかせて微笑む。えくぼがかわいいね、とからかうと、もう知らない、と拗ねてそっぽを向くのだ。

その貌は、私だけに見せてくれていると思っていたのに。それなのに。

「やっぱり、良子は短い髪型のほうがよく似合うな。大きくてかわいらしい目が、よくみえるからな」

「いろんな人に、言っているんでしょう?」

「ああ。悪いか」

「ううん。今は、わたしだけに言ってくれているから…」

良子の口から、こんなセリフを聞いたことがない。私に、あんなに甘えるような声でささやいてくれたことなどない。

良子がいまどんな表情なのか、私には想像できなかった。









「良子、動くぞ」

「あ、ああっ、おああぁ!…んぅ、んひぃ」

テーブルが静かに軋む。兄が注挿を再開して、良子は一際大きな声をあげた。

寝室で眠りこけている、間抜けな私を起こしはしないかと思ったのだろうか、自分の手を噛んでそれを抑えようとしている。

私はここで嫉妬と焦燥感が頂点に達した。

良子はここがどこで、自分が誰と、何をしているのか。そしてその意味がわかっているのだ。

「スローイン・ファーストアウトってな。ふふ。良子、知ってるよな?ははっ」

「もう…」

「拗ねるなよ。悪かったって。ほら、ここでリーンイン」

「ひ?んあぁ、しゅん…俊介ぇ…すごい。ああ」

「まだイくんじゃないぞ。もう少しだ。わかってるよな?」

「なんでぇ?無理よむりぃ…もう、あ、あっは。そこ、ひゃ嫌嫌いや○ぬ!クリだめぇ!抓っちゃやだぁ!ああ、ダメ、いく…」



絶頂を宣言したというのに、座卓の軋む音は止まらない。座卓に力なく投げ出された良子の手が、ゆらゆらと動く。

「おい、勝手に気を遣ってんじゃねえよ。ほらっ」

「あっあっ、いまだめ。今、あ、はぁっはぁっ。あ、あは、あはははは」

良子がこんなにはしたない啼き声をあげる女だというのを、私は初めて知る。



私とのセックスの時は、吐息を漏らすか、控えめな喘ぎ声を出す程度だった。

それでも良子の秘所は存分に濡れていたし、膣内に射精した時は快楽を感じてひくひくと身体を戦慄かせていた。

心地よい倦怠感の後の、長い抱擁とキス。指を絡ませて愛を囁きあう。おとなしい良子との静かなセックスで、私は満足していた。

「いい、いいよぅ。しゅんくんのちんぽ、ひっく、きもちいいよう。ぐすん。」

「何、泣いてんだよ。うっ、子供、みたいだな。ええ?おい?」

「せんぱいに、おまんこいじわるされるの、ぐす、ずっとまってたのぉ。うれしくて、もっと、もっと。わたし、ずず。ひっく。」

「かわいいやつだな、キスさせろ。涙なめてやるから顔上げろ。鼻水も舐めてやるよ。はは」

兄は、いともたやすくその壁を破り、刺激と快楽を積み重ねて造られた階段を登っていく。

その先にある絶頂の扉を蹴破り、さらにその先へ。二人で手を取り合って。私の妻。良子と共に。





「あー!あー、またくる!きちゃうー!ごめん!ごめんなさい、ああ、ダメごめんなしゃい」

良子はもう声を抑えようとはしていない。そのごめんなさいが、誰に向けてのものか、私にはわからなかった。

遠くで響く雷鳴よりも、窓が雨風に軋む音よりも、ぐちゃぐちゃと汁の弾ける音の方がよく聞こえる。

「あーだめだ。はぁー、もういくぞ。むむ」

「い、一緒に、一緒に?イくの?わたし俊介と一緒にいくのぉ」

「うお、ああ、イくぞ、いっしょに、うう。い、く、ぞ」

心臓の鼓動が熱い。呼吸が早くなりそれを抑えるのに苦労した。

悲しくて、悔しくて、どうしようもないのに不思議と涙はでていなかった。

打ちひしがれて脱力しきったはずのなのに、それなのに。



それなのに私のペニスは痛いほどに固くなり、小便を漏らしたかのように、ズボンが先走りで濡れているのだ。

もしかしたら、私のしらない間に射精してしまったのかもしれない。

ふすまに密着していたその部分をゆっくりと引くと、私とふすまとの間に粘ついた液体の糸橋が伸びる。

私は苦笑しながら自分のベニスをひと撫でする。快感がぞくぞくと体を駆け抜けた。

「おお。あぉぉ…」

ふすまの向こうで、良子がくぐもった悲鳴をあげる。兄に塞がれた唇からもれ出てしまったのだろう。

奇しくも私たち三人は、同時に絶頂に達したようだった。

二人は絶頂の余韻に浸っているのだろう。粗い息遣いと、ぴちゃくちゃ舌を絡め合わせる音が聞こえる。

兄から流し込まれる唾液を、一滴もこぼすまいと必○で啜っていることだろう。

その隙に私は、そっとふすまを閉じるのだった。





射精を実感したことで、気分もすこし落ち着いていた。

ふすまを閉じた私は、未練たらしく、聞き耳を立てている。何故かそうするべきと思ってしまった。

DVDは繰り返し映画のトップメニューを再生し続けていた。いい加減うっとうしいが、止めるわけにもいかない。





「気持ち…よかったです。こんなの初めて」

「そうか。よかったな」

「わたし、どうでした?」

「聞かなくてもわかるだろ」

「ひあっ…う、うれしい。ああっはあ、ちくび、恥ずかしい。あん。俊介、さん。また、こんなに堅くなってます」

兄が、汗や愛液まみれになっている良子の身体を拭いているようだ。時に敏感な部分に触れるのだろうか、良子の声も艶かしい。

「そうだな。でも、もうゴムがないぞ」

「あ…そうか。じゃあ…」

「メシ、フロ、セックスのあとは寝る。だな」

さっきまでにいくつコンドームを使ったのかわからないが、兄が膣内射精だけは控えてくれていたようで、安堵する。

この饗宴もようやくお開きだろうか。私は、夜が明けてからどんな顔をすればいいのだろう。二人はどんな顔をしているだろう。

そんなことを考えていた。



「うっ、ああん、や、いい、ああ指、ゆびが、ああ。意地悪しないで」

「お前がかわいいからだ。どうする?どうしたい?どうしてほしい?いもうとさん」

「ああ…俊介。して…わたし、したい」

「まだし足りないのかい?だろうな。拭いても拭いても、いやらしい汁があふれてくるもんなぁ」

「良子、動くぞ」

「あ、ああっ、おああぁ!…んぅ、んひぃ」

テーブルが静かに軋む。兄が注挿を再開して、良子は一際大きな声をあげた。

寝室で眠りこけている、間抜けな私を起こしはしないかと思ったのだろうか、自分の手を噛んでそれを抑えようとしている。

私はここで嫉妬と焦燥感が頂点に達した。

良子はここがどこで、自分が誰と、何をしているのか。そしてその意味がわかっているのだ。



「スローイン・ファーストアウトってな。ふふ。良子、知ってるよな?ははっ」

「もう…」

「拗ねるなよ。悪かったって。ほら、ここでリーンイン」

「ひ?んあぁ、しゅん…俊介ぇ…すごい。ああ」

「まだイくんじゃないぞ。もう少しだ。わかってるよな?」

「なんでぇ?無理よむりぃ…もう、あ、あっは。そこ、ひゃ嫌嫌いや○ぬ!クリだめぇ!抓っちゃやだぁ!ああ、ダメ、いく…」

絶頂を宣言したというのに、座卓の軋む音は止まらない。座卓に力なく投げ出された良子の手が、ゆらゆらと動く。

「おい、勝手に気を遣ってんじゃねえよ。ほらっ」

「あっあっ、いまだめ。今、あ、はぁっはぁっ。あ、あは、あはははは」

良子がこんなにはしたない啼き声をあげる女だというのを、私は初めて知る。



私とのセックスの時は、吐息を漏らすか、控えめな喘ぎ声を出す程度だった。

それでも良子の秘所は存分に濡れていたし、膣内に射精した時は快楽を感じてひくひくと身体を戦慄かせていた。

心地よい倦怠感の後の、長い抱擁とキス。指を絡ませて愛を囁きあう。おとなしい良子との静かなセックスで、私は満足していた。

「いい、いいよぅ。しゅんくんのちんぽ、ひっく、きもちいいよう。ぐすん。」

「何、泣いてんだよ。うっ、子供、みたいだな。ええ?おい?」

「せんぱいに、おまんこいじわるされるの、ぐす、ずっとまってたのぉ。うれしくて、もっと、もっと。わたし、ずず。ひっく。」

「かわいいやつだな、キスさせろ。涙なめてやるから顔上げろ。鼻水も舐めてやるよ。はは」

兄は、いともたやすくその壁を破り、刺激と快楽を積み重ねて造られた階段を登っていく。

その先にある絶頂の扉を蹴破り、さらにその先へ。二人で手を取り合って。私の妻。良子と共に。





射精を実感したことで、気分もすこし落ち着いていた。

ふすまを閉じた私は、未練たらしく、聞き耳を立てている。何故かそうするべきと思ってしまった。

DVDは繰り返し映画のトップメニューを再生し続けていた。いい加減うっとうしいが、止めるわけにもいかない。

「気持ち…よかったです。こんなの初めて」

「そうか。よかったな」

「わたし、どうでした?」

「聞かなくてもわかるだろ」

「ひあっ…う、うれしい。ああっはあ、ちくび、恥ずかしい。あん。俊介、さん。また、こんなに堅くなってます」

兄が、汗や愛液まみれになっている良子の身体を拭いているようだ。時に敏感な部分に触れるのだろうか、良子の声も艶かしい。

「そうだな。でも、もうゴムがないぞ」

「あ…そうか。じゃあ…」

「メシ、フロ、セックスのあとは寝る。だな」

さっきまでにいくつコンドームを使ったのかわからないが、兄が膣内射精だけは控えてくれていたようで、安堵する。

この饗宴もようやくお開きだろうか。私は、夜が明けてからどんな顔をすればいいのだろう。二人はどんな顔をしているだろう。

そんなことを考えていた。



「うっ、ああん、や、いい、ああ指、ゆびが、ああ。意地悪しないで」

「お前がかわいいからだ。どうする?どうしたい?どうしてほしい?いもうとさん」

「ああ…俊介。して…わたし、したい」

「まだし足りないのかい?だろうな。拭いても拭いても、いやらしい汁があふれてくるもんなぁ」

「それは、だって、あなたが、うう。クリだめいや、またいく…」

良子の声がだんだん熱を帯びてきた。

兄もどうせやる気満々だろうに、白々しくとぼけている。

「おちんちん、舐めればいいの?そしたら、またしてくれるの…?かわいがってくれるの…?」

「フェラしてもらうのもいいが、俺だけ気持ちよくなってもな」



兄の口調が、だんだんと強くなっていく。子供のころ兄に叱られた記憶がよみがえる。あれはキツい。

「ゴムがなくてもハメてやるさ。なにしろ今日初めてお前のまんこを味わったんだからな。俺も、正直まだ堪能したいんだぜ」

「わたしも、もっとして欲しい…ねえ、キスして。しゃぶらせて、おちんちんちょうだい」

「気が早いな。けど、だめだ。良子、おちんちんだと?かわいい呼び方じゃないか。俺のは、そんなにかわいいか?」

「ペニス、おちんぽ、ちんぽ。ああ、はやくぅー、なんで、触るだけなのぉ?お願い、もう」

何かの遊びをしているように、兄は良子を追い詰めていく。良子はたやすく追い詰められ、自ら深みにはまっていく。

今夜も良子はそうやって罪悪感を、羞恥心を剥がされていったのだろうか。



今となってはどちらが先に誘ったかなど、些事でしかないのに。こんな事をしている私が、気にしてもしょうがないのに。

「もう、欲しがってるの、はしたないおまんこが、ちんぽ入れてもらいたがっってるの。ああ、いじわるしないで…

 何でもいいから、俊介さんの好きなところでいいから、ちんぽハメてぇ!」

「そういや便所、長かったなぁ。浣腸してたのか?また学生のころみたいに、ケツでしてもらいたくて、トイレにこもってたのか?

 …ケツでいかされたくて、穴をきれいきれいしてきたのか?」

「あああ!」

「俺のちんぽの味を、ケツが思い出しちまったのか?おや。どうした?なんで自分でいじってるんだよ。教えてくれよ。

 どうして自分のアヌスを、そうやって、気持ちよさそうにいじってるんだ」

「はあ、あっ、あっああ」



おかしいと思っていたのだ。会話の端々から二人は以前から親密な関係にあったのは推測できた。

私と良子は、お互いが初めての相手だった。これは間違いないのだ。それなのに、なぜ、兄は良子の身体をよく知っているのだろうと。

良子は、なぜ兄とのセックスに馴染んでいるのだろうと。

私達が交際を始めてから、兄と良子が会った回数も、両手の指で足りる程しかない。

その僅かの間にこういう関係になったのだろうかと私は思っていたのだが、事実はもっと残酷だった。

良子は言っていた。学生時代の兄は連れている女性が日替わりでローテーションしていた。

成る程、良子が何曜日の女だったかは知らないが、兄は良子が処女のまま、アナルセックスを仕込んでいたという事か。

何人も女性を侍らせていれば、そういう趣向で楽しむための女が欲しくなるのかも知れない。

だが、それが何で、よりによって良子なのか?どうして、私はそんな男の弟なのか!





「ゆびが、ああ、いい…おしり…気持ちいいからです…」

「…へぇ?じゃあ、オナニーでもしてれば?」

「あ、あの」

「何ていえばいいか、わかってるよな。どうすればいいか、覚えてるよな?」

「………わ、わたしは、おまんこにちんぽハメてもらって、はしたなくよがり狂ってしまいました!気持ちよくって、な、何回もイキましたぁ!

 でも、すけべでいやらしいわたしは、全然、もっと、もっとしてもらいたくて、全然足りなくて、気持ちよくなって欲しくて、

 俊介さんのせ、精液を味わいたくて、コンドームから精液を啜って、飲み干したいです!ああ、キスしてもらいながらおまんこに中出しされて

 ひぃ、子宮でイキたい!わたし、わたし、オナニーしてイクところ見てもらいたい!広瀬せんぱいの、俊介さんの…ちんぽで、

 おしり、お尻の穴にちんぽハメて欲しい!ケツ穴にしゃ、しゃ、射精されて、ケツまんこ受精したいでふぅうう!だから!だからお願い!」

「かわいいな。良子。いいさ、全部してやる。精液まみれの口にキスしてやろう。膣で狂わせてやる。まずは、尻で孕め」

「~~~!」



良子の、声にならない悲鳴があがる。アナルに挿入されたのだろう。そしてすぐさまイった。ふすまに耳を当てなくても丸聞こえだ。

それにしても、けつまんこじゅせい。あの良子から、そんな言葉が吐き出されるとは。

自分を中心にして景色がぐるぐると回るような感覚に襲われる。吐き気を催し台所を見た。

食堂の椅子に、ちょこんと座って、私に微笑んでくれている良子の姿が浮かぶ。幻影とわかっていても、私は妻に微笑み返す。



そして妻はその優しい表情で、えくぼのかわいい笑顔で言うのだ。俊樹さん、ちんぽハメて。と。

ささいなことでけんかをした時の、涙目の表情で言うのだ。ねえ、子宮でいかせて。と。

ちょっと拗ねている時の、口をとんがらせた表情で言うのだ。ケツまんこで受精しまふぅぅ!

どの顔の妻も、私が知っているすべての顔が、そんな言葉で語りかけてくる。

「ひあぁああ~、灼ける!おしりやけちゃうぅ、アナル最高!あっ、おまんこいじめないでぇああ。イっていい?ねぇイっていいよね!」

もう、現実がどれなのかここが私なのか夢はどこなのかわからなくなっていた。○のう。とさえ思った。

包丁は、どこにあるんだろう。





そんな私を引き止めたのが、ふすま越しの兄の声だった。

「…というわけだ。いるんだろ?こいよ俊樹」

「へえ?」

さっきまで喘いでいた良子が素っ頓狂な声をあげる。

兄は私がここにいるのを知っているのだろうか。覗いていたのに気付いていたのだろうか。

知っていて、良子を抱いていたのだろうか。全身から汗が吹き出る。

私が開けなくても、兄か良子がふすまを開けば同じことだ。

私は、声を出さない。

なぜなら本当の私は、間抜けな私は酔いつぶれて布団で寝ているのだから。部屋の前に立ち尽くしている私は、夢の中の私なのだから。

そうでなければいけないのだ。これは夢なのだ。私は、淫らで悲しい夢を見ているのだ。

しばらくの沈黙。

沈黙。





ふすまは開かなかった。

「…なんてな。冗談さ。びびったか?悪い。」

「あああ!ああああ…」

兄は明るく言うが、良子は放心しているようだ。喘ぎ声が嗚咽に変わる。

「ほら、落ち着けよ。俊樹が起きているなら、止めに入るだろ。普通」

「わたし…わたし…」

「良子、これはな、夢なんだ。俺たちは酒に酔って、夢を見ているんだ。だってそうだろう?夢じゃないなら、俊樹が入ってくるはずだ」

「うっ。わたし、ううぅう~」

「夢じゃないなら、お前が俺に抱かれているはずないじゃないか」

「あ…」

「「だってそうだろ。お前は俊樹の妻で、俺は、お前の義理の兄なんだ。こんなことあるはずがない。そうだろ?」

「夢…これは、夢…?」

「夜が明ければ、目が覚めれば、何も変わらない、今まで通りの俊樹と、良子と、俺がいるだけさ」

兄の声は私にも聞こえるように大きかった。

「そう…夢、夢なんだ…これは、わたしはゆめをみてる」





「好き…!ずっと、好きだったの!今でも、愛してるの。だから、俊介さん、わたしを、わたしだけを愛してるって言って。

 夢なら、夢の中でならいいでしょ?せめて、お願い。愛してるって言って」

「ああ。愛してるよ、良子。俺が好きなのは、お前だけだ」

「うれしい…しゅんすけ、抱いて。もっと、おっぱいも、おまんこも、おしりもかわいがって。ねぇ、キスして。わたしを愛して」

私たちは夢を見ている。良子にとっては幸せな夢なのだろう。私にとっては悪夢だが。兄は、どんな夢を見ているのだろうか。

夢なら、早く覚めてもらいたくて、私は静かに寝室へ戻る。精液の染みたズボンと下着をはき替えて布団に倒れこむ。

「ああ、いいっ!○ぬ、○んじゃうっ!いく、またイくっひっ、ひぃっ」

タオルケットにくるまり、はやく夜が明けないかと祈りながら、何も聞こえないふりを、気付かないふりをし続けた。







朝になると雨は上がり、照りつける太陽が地面を乾かしきっていた。ゆうべの雨が、本当に嘘のような快晴だった。

「う~ん、やっぱり俺も若くないんだろうか。朝がこんなにしんどいなんて。ツーリングの疲れが溜まってる」

「兄ちゃんまだ30だろ。おっさんくさいこと言うなよ」

「ゆうべは飲みすぎましたね。わたしも寝坊しちゃって」

「すいません良子さん、味噌汁のおかわりいいですか」

ごはんと味噌汁と昨日の残りの簡単な朝食。穏やかな時間が過ぎていく。





「兄ちゃん、荷物ならドライブのついでに車で持っていくよ」

「わかってないな。うちに着いて、荷物を降ろすまでがツーリングなんだよ。風呂に入って、ビールを飲んで、

 濡れたテントを干しながら、ああ、帰ってきたなーって思う。そこがいいんじゃないか」

「うちまで30分とかからないだろ。朝からビールなんてバカみたいだ」

「うるせぇな。揚げ足とってんじゃねぇよ」

軽口を交えながら兄はせっせとバイクに荷物を積んでいく。野営道具一式、着替え、工具、etc…

持ち物一つ一つにこだわりがあるらしく、いちいちそれの自慢というか説明をするので時間がかかった。



テトリスのようだ。と妻は言うが、たしかにこの狭いスペースに上手いこと載るもんだなあと思う。

「ふふ。ねえ俊介さん、もっとゆっくりしていけばいいじゃないですか。どうせなら夕飯まで。ねえ俊樹?」

「そうだよ。急ぐ事ないじゃんか」

「悪い。友達と会う事になってんだ」

「女なんじゃねーの?」

「まあな。織姫と彦星みたいだろ」

ちらりと妻の表情を窺うが、変わらずにこにことしていた。





あの日以来、兄がうちへやって来ることはない。たまに会う事はあるのだが、実家だったり、外食だったりと短い時間だった。

あいかわらず、日本には短期間しか居られず、ツーリングに出る時間がないとぼやいていた。最近腹がでてきてなぁとも。

私は、あの夜の夢を見て以来、妻に恋をした。深く深く愛してしまった。妻の一挙一動がいとしくて仕方がない。

なんなら、もう一度プロポーズしてもいいくらいに。私に抱かれて、静かに吐息をもらし、喘いでいる妻に、

「お前は兄ちゃんの何曜日の女だったんだ?」

「ケツで孕むか試してやろうか?」

などと聞いてみたい衝動にかられるが、結局、できずにいる。

「すごく良かった。愛しているよ、良子」

と言って抱きしめるのがせいぜいだ。

妻は、わたしもよ。と言いキスをしてくれる。

今日は、良子からあの香水のかおりする。兄が土産にもってきた、桃の匂いのする香水。兄の好きなにおい。

そういえば、兄が帰ってきているんだな。と思い、私はますます妻が愛しくなるのだった。

 








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