2泊3日の出張だったが、思いのほか仕事が順調に進み、1泊で帰ってきた。






彼女(奈美/仮名)にはすぐに帰るとは連絡を入れず、奈美のアパートへ駅に停めてあった車で直行した。



ちょっとビックリさせようという気持ちがあったからだ。



奈美とは3年の付き合い。そろそろ結婚とお互い考え出した頃だった。



アパートの脇の駐車場に着くと、部屋の電気は点いていた。



あっ、居る居る。びっくりするだろうなぁと思った。






車から降りながら窓を見ていたら、もう一人の人影があった。



そのときは友達が来ているのかと思って、お土産だけ置いて帰ろうと考えていた。



ドアの前まで来てチャイムを鳴らそうとしたら、なんとなく男の声が聞こえた。



さらに男の笑い声と奈美の笑い声。



えっ?なんだ男の声?



訳が判らずドアの前に立っていたが、通路を通る人から変な目で見られたので駐車場に戻った。



しばらく車の脇で窓を見ていた。やっぱりもう一人居る。






誰だ?






奈美には男の兄弟はいない。



親父さんか?



ん~いや、しかし・・・。






もんもんとした気持ちでいたら、突然部屋の電気が消えた。



えっ?なんだ?どういうことだ?頭が混乱していた。帰ろうと思った。



しかし、不安だった。帰っていいのか?明日会った時にでも聞いてみるのか?



どうしていいか判らないまま、気が付いたらドアの前に立っていた。



ドアに耳を押し付けてみた。なにも聞こえない。



ドアノブを回してみた。カギが掛かっていた。



俺は合カギを持っている。どうする?これで開けてみるのか?



心臓がドキドキしていた。



カギ穴にキーを差込み、静かに回した。



ゆっくりとノブを回し、少しドアを開けて中をのぞきこんだ。






いつも真美が履いているスニーカーが見えた。



その脇に男物のスニーカーがある。



男だ、この部屋に男がいる。



俺はあせった。心臓がドキドキしていた。



静かにドアを開け、中に入った。



入ってすぐはキッチンで、小さなテーブルが置いてある部屋だ。



その奥は8畳ほどのフローリングの部屋になっている。



奥の部屋から、かすかに音楽が聞こえていた。






どうする?



ここものぞいてみるのか?



このまま帰る訳にいかない。



自問自答していた。






静かに進み、引き戸を少し開けてのぞきこんだ。



蛍光灯の小さな電球が点いていた部屋のテーブルにはビールの缶があった。






すぐに壁際のベッドへと目が行った。俺は足が震えて身体中から力が抜けていった。



奈美の裸の背中が見えた。



その背中と尻に男の手がゆっくりと動いていた。



奈美どういうことだ?誰だ、その男は?なんなんだいったい?



完全に頭の中はパニックだった。



のぞきこんだ状態から身体が動かず、戸を開けてわめき立てることも、引き返すこともできずに中の様子を見ていた。



男は俺の知らない男だった。






セックスは普通のセックスだった。



あまり思い出したくないので詳しくは書かないが、キス、フェラ、69、正常位、バック、正常位。



奈美が自分からバックでしてと、俺以外の男に尻を突き出したのはショックだった。



男が「奈美ちゃんはバックが好きだよなぁ」と言ったのもショックだった。



もう何回か関係があるということだ。



最後は腹の上に出していた。



最初から最後まですべて見た。次々と流れ出る涙を拭うこともできずに声を押し★して泣きながら見た。。



悔しかった。男が憎かった。






ゆっくり、ゆっくり玄関のドアを開けて帰ろうとしたとき、奈美に買ってきたお土産の紙袋を持っていることに気が付いた。



あっ、そうだ、お土産を買ってきたんだっけ。






「うわぁ、ありがとう。お土産を買ってきてくれたんだ。」






奈美の喜ぶ顔が浮かんだ。



のんきにそんなことを思っていた。



玄関の脇に紙袋を置いて、静かにドアを閉めた。



車の中にいた。窓を見た。電気が点いていた。



すると窓が開き、奈美が顔を出した。俺の車に気が付いた。



ビックリしている奈美の顔が見えた。



奈美の後ろに男の顔が見えた。






俺は車を急発進させ、その場を立ち去った。



泣いた。泣いた。泣きながら運転した。かなりのスピードをだしていたと思う。



家に帰って酒を飲んだ。泣きながら飲んだ。悔しかった。



奈美からの電話があったが、出なかった。



その夜は計三回の電話があった。でも、出なかった。



次の日の朝にも電話があった。俺は出なかった。



会社にも電話があった。奈美のようだったので居留守を使った。



数日間、電話があったが俺は出なかった。



家にも来たが、会おうとはしなかった。



そのうち電話も来なくなって、俺たちの関係は消滅した。






後日、うわさで聞いたのですが、あの男は妻子持ちの34歳だということでした。