その日は秋真っ只中だった。



俺と部活動の仲間達は、部室で文化祭の出し物の準備をしていた。



鈴木さんも、その中の一人だった。






鈴木さん。



1歳年下の後輩。



色白で眼鏡をかけた、あんまり口数が多くない女の子。



正直なところ、華やかな美人というよりは、地味目な感じの女の子だと思う。



でも、他の人の悪口を一切言わない、ものすごーく真面目な女の子。



個人的には、部活一の性格美人だと思っていた。






文化祭の準備は忙しい。



時間は刻々と過ぎていく。



部員達は部活や塾で、一人、また一人と去っていく。



そして教室には最終的に、俺と鈴木さん、二人だけが残った。






「・・・」






鈴木さんは黙々と、飾り付け用の折り紙を折っている。



放課後の教室に、年下の女の子と2人きり。



一応俺も、お年頃の男子高校生なわけで。





何となく居心地が悪くて、ドキドキした。






「・・・」






15分ほど過ぎただろうか。



鈴木さんは全く集中力を切らさずに折り紙を折り続けている。



しかし俺はひたすら続く単純作業にやや集中力が切れ始めていた。






そんな時だ。



ふと、椅子に座った鈴木さんのスカートから伸びる脚に目がいってしまった。



細く、しかし十分に柔らかそうなソックスに包まれた鈴木さんの脚。



その脚が、やや内股気味になっている。






「・・・」






自慢じゃないけど、俺は女の子の内股になった脚が大好きだ。



俺の中で、女の子の内股姿は可愛らしさが5割は引き立つという持論がある。






「先輩、どうかしたんですか?」






「っ!!」






見惚れていたところにいきなり声を掛けられ、ビクッとなる俺。



鈴木さんは、いぶかしげな表情で俺を見つめている。






「あ、いや・・・」






「わたしの脚、見てませんでした?何か付いてます?」






「!!」






(ばれてる!?どうしよう?)






鈴木さんの可愛らしい内股になってる脚に目を惹きつけられてしまいました。



なんて、まさか言えるわけがない。






「えーと、あのね・・・」






返答に困り、パニクる俺。



そしてあろうことか、最悪な選択肢に飛びついてしまった。






「す、すず、鈴木さん、女の子の内股姿って可愛いよね?」






「え?」






「あ・・」






若かった、そして馬鹿だったとしか言いようがない。



とっさに馬鹿正直にも、思考の中身をモロに口から出してしまったのだ。






「ごご、ごめん!何でもないから!忘れて!さ、さーてさてさて折り紙折り紙」






俺は慌てて鈴木さんから視線を逸し、近くの折り紙に手を伸ばした。



折り紙を折りながらも、頭の中はぐしゃぐしゃだった。



必★に思考を巡らせる俺。






なんてことを言ってしまったんだ!



変態と思われたかも?



高校生活の、いや人生の汚点が!



これからの人生が、人生が!



いやでも鈴木さんなら許してくれるかも?



謝ろう。



それで口止めするしかない。



けど鈴木さん聞いてくれるかな?






再びパニクる俺。






「内股・・・」






鈴木さんがぽつり、と呟く声が聞こえた。






「え?」






俺が頭を上げて鈴木さんを見ると、彼女は座ってる椅子から立ち上がるところだった。






(一体、何を?)






呆然と、鈴木さんをただ眺めることしかできない俺。



すると鈴木さんは、戸惑っている俺の目をしっかりと見つめてきた。



潤んだように見える、瞳。






「こうですか?」






「え?いやちょっと」






制止の言葉はあっさりとスルーされた。






鈴木さんはゆっくりとした動きで、脚を肩幅に開く。



そして視線を足元に落とすと、右のつま先を外側から内側に向ける。



左のつま先も同じように内側に向け、つま先をハの字に開いた。






(まさか、本当に・・)






俺の予想を、鈴木さんは裏切らなかった。



鈴木さんは最後に、白くて可愛らしい膝小僧の内側を、柔らかくきゅっと合わせた。






それは、完璧な内股姿だった。






鈴木さんの可愛らしすぎる内股姿に、俺の目は完全に釘付けになった。



股間の暴走を制御するのが辛かった。



鈴木さんは拳を胸の前で組むと、改めて俺の目を見つめ、小さな声で言葉を紡ぐ。






「でも、わたしがこんな感じに立っても、全然可愛くないでしょう?」






「いやいやいや!どう考えてもめっちゃ可愛いでしょ」






俺は間髪入れずに答えた。






何で自分から、わざわざ俺に内股姿を披露したのか?



正直意味が分からないが、そんな事はどうでもいい。



直立内股で真っ直ぐに俺を見つめる女の子。



可愛くないわけがない。



偽りゼロの、率直な感想だった。






「あ・・・」






俺の言葉に、なぜか鈴木さんは驚きの表情を浮かべた。






「というか鈴木さん普通に可愛いから、その体勢だと可愛すぎて困る」






「え・・・」






俺は思った事を言っただけだ。



けれども鈴木さんは、驚きの表情のままその場に固まってしまった。



かと思うと・・・。






「う・・・ぐすっ、ひっく。うあああん!」






鈴木さんはその場にぺたんと崩れて泣きだしてしまった。






「ど、どど、どうしたの?何か悪いこと言った?」



「ひっく、違います、違うの!」






「じゃあ、何で泣くの?」



「だって、ぐすっ。嬉しいんです。わたし、みたいな、ぐすっ、女を、可愛いなんて」






「だって、別に本当のことだし」



「わたし、可愛くないもん!」






「いや、可愛いでしょ」



「嘘です!先輩の嘘ツキ!」






「嘘じゃないよ本当だよ」



「何か、ひっく、心が、あったかいの。えぐっ、もう訳がわからないです!」






そのままわんわん涙を流し続ける鈴木さん。



俺も訳がわからない。






「どう、しよ、ひぐっ。涙、止まらない」



「いや、誰も見てないから大丈夫だよ」






「何でこんな、ぐすっ、心が、あったかいんだろ、えぐっ」



「鈴木さんだからじゃない?めちゃくちゃ性格良いから心は暖かいに決まってる」






「そういうの言わないで・・・また泣いちゃう・・・ぐずっ」






俺が何かを言うたびに、涙を溢れさせる鈴木さん。



とっても純な女の子だったんだなぁ。



涙をぼろぼろ流す鈴木さんが、心の底から可愛く見えた。






結局5分以上経っても鈴木さんの涙は止まらず、眼鏡には涙の川ができていた。



最後には、俺が許可を取って鈴木さんを立たせて後ろから脇腹をくすぐり、強制的に笑わせることでどうにか泣き止ませられたのだった。



くすぐりながら、俺は鈴木さんの脚に視線を落とした。



身を捩って笑う鈴木さんの脚は、見事な内股になっていた。






「さっきのことは誰にも言わないでください。お願いします」






泣きやんだ後、目の周りを赤くした鈴木さんは、手を合わせて俺にお願いしてきた。



その仕草にちょっとだけ悪戯心が湧いた俺は、試しに聞いてみた。






「もし話しちゃったらどうなるの?」






すると鈴木さんは、悪戯っぽい表情を浮かべて言った。






「女の子の内股姿が好きって言いふらしますよ?あと、くすぐられたことも」






「ごめん!それだけはどうか勘弁してください!」






しまった。



洒落にならない弱みを握られていたのを、俺はすっかり忘れていた!






「クスッ、交渉成立ですね」






慌てふためく俺を見て、口元を手で押さえてクスクス笑う鈴木さんだった。






文化祭は無事成功に終わった。



そして、その日の放課後。






「もう、誰も来ないですよね?」






「おそらく」






誰も居なくなった部室で、俺と鈴木さんは、またも二人きりだった。






「どうしても話したい事があります」






休み時間に真剣な表情で鈴木さんに言われ、俺は帰る時間を引き延ばしたのだ。






そして今、鈴木さんの体はガチガチに緊張してるように見える。



そんな鈴木さんの姿を見て、俺はこれから何を言われるのか、なんとなく分かったような気がした。






「文化祭、終わりましたね」



「・・・うん」






「色んなこと、ありましたね」



「・・・うん」






「・・・」



「・・・」






「・・・準備の日のこと、覚えてますか?」



「うん、覚えてる」






「・・・内股、恥ずかしかったけど。先輩が喜ぶならって、少しだけ期待しちゃいました」



「・・・」






「あの時は泣いちゃってごめんなさい。本当に嬉しくて・・・」






そう言うと、鈴木さんはゆっくりとした動きで、脚を肩幅に開く。



そして視線を足元に落とすと、右のつま先を外側から内側に向ける。



そして左のつま先も同じように内側に向け、つま先をハの字に開いた。






・・・そう、あの日と同じように。






鈴木さんは最後に、白くて可愛らしい膝小僧の内側を、柔らかくきゅっと合わせた。



あの日と同じ、完璧な内股姿だった。






・・・俺の心の準備は出来た。






俺の心は決まってる。






鈴木さんは拳を胸の前で組むと、改めて俺の目を見つめ、小さな声で言葉を紡ぐ。






「・・・ずっと好きでした。付き合ってください」






鈴木さんの色白の顔は、リンゴみたいに真っ赤になっていた。



その言葉を言うのにどれほど勇気が必要だったのか、俺には想像することはできない。



もちろん、俺の答えはただ一つ。






「はい。こちらこそよろしくお願いします」






俺に抱きついてきた鈴木さんの顔は、早くも溢れ出した涙で一瞬にしてぐしゃぐしゃになった。



抱きつかれた状態で、俺は抜かりなく鈴木さんの脚に視線を落とした。



鈴木さんの脚は可愛らしく、内股のままで保たれていたのだった。






おわり。