
私と妻は高校の同級生で、二十歳の時に海で偶然再会し、妻の水着姿を見て高校の時には気付かなかった大きな胸と、海には不釣合いな白い肌に目が眩んで交際を申し込みました。
同級生だったと言ってもクラスが一緒になった事は無く、隣のクラスに可愛い娘がいると思っていた程度で性格については何も知らなかったので、結局は可愛い顔からは想像出来ないようなセクシーな身体に惹かれて交際を始めた事になるのですが、いざ付き合ってみると凄く優しくて、性格も可愛い女だったので私が離れられなくなり、大学在学中にプロポーズして、就職するとすぐに結婚しました。
妻は昔から子供が大好きで、短大を出ると幼い頃からの夢だった保育師をしていましたが、皮肉にも私達にはいつまで経っても授かりません。
結婚して2年目には妻はその事を酷く気にするようになっていて、3年目には検査を受けて自分に異常が無い事が分かると私にも検査を勧めましたが、私は恥ずかしさもあって「そのうち出来るさ」と言って逃げていました。
しかし妻は検査を受けて欲しいと頭を下げ続けるので、自宅で採取出来る事が分かった事もあって、私はようやく重い腰を上げます。
「自分で出すの?どうやって出したら良いのか分からないから、香代がやってよ」
「うそー。出来るでしょ?」
私は妻に出してもらうのは初めてで、この時は検査結果など軽く考えていたので、私のオチンチンを丁寧に拭いてくれる妻を見ているだけで興奮していました。
「どうせなら口でしてよ」
「唾液から雑菌が入る可能性があるから、口では駄目だって書いてあったわ」
「そんな事まで書いてあるの?」
「私も恥ずかしいんだから、余計な事を言っていないで早く出してよ」
私の横に身を寄せて、一生懸命手を動かす妻の大きく軟らかい乳房を揉みながら、私はセックスとはまた違った興奮を覚えて、意外とすんなり出してしまいます。
しかし私が馬鹿な事を言っていられたのも、検査結果が出るまででした。
精液量 :0.6ml(2ml以上、多い人で5ml)
精子濃度 :1ml中100万匹(2000万匹)
運動率 :10%(50%以上)
高速運動率:0%(25%)
即ち、精液の排出量も足りず、その中にいる精子の数も極端に少なく、動いている数も少ない上に、元気良く動き回っているのは一匹もいないのです。
「無精子症ではないし、その時の体調にもよるらしいから、きっと大丈夫よ」
妻は落ち込む私を慰めてくれましたが、体調を整えて翌月臨んだ検査でも、結果は似たようなものでした。
「ごめんね。検査なんて勧めなければ良かった」
自分の子孫を残せないという事など考えた事も無く、今までは気にもしなかった私はオスとしての自信を無くし、妻はそのような私を励まし続けていてくれましたが、後から結婚した妻の兄や妹に子供が生まれると、鬱とまではいかないまでも流石に妻も落ち込む日が増えていきます。
当時は体外受精など一般的ではなかったので、何度か人工授精は試してもらいましたが、流石に私の数値では出来ません。
毎日他所の子供達を見ているのも辛いと思って、保育園を辞めるようにも言いましたが私が原因では強くも言えず、私も次第に子供の話題は避けるようになっていきました。
そして結婚して10年経った33歳の時、妻が深刻な顔をして相談があると言います。
「私やっぱり子供が欲しい」
「ごめん」
「違うの。あなたを責めているんじゃないの。私こそごめんね」
妻からの提案は、人工授精で子供を儲けようというものでした。
「いいけど、それは何度か・・・」
しかし言い辛そうに小声で話す妻の内容は、私にとってかなりショックなものでした。
「怒らないで聞いて。実はある人から、精子を提供してもらおうと思って」
「何!提供者は誰だ!」
「それは言えないの。あなたにも自分の子供として育てて欲しいから、父親が誰か分からない方が良いと思うの」
当然私は即答など出来ませんでした。
「勿論あなたが嫌だったらやめる。あなたが自分の子供として育ててくれる自信が無いのなら、きっぱりと諦めるから正直に言って」
返事も出来ずに二週間が過ぎると、たまたまつけていたテレビでアメリカ人のご夫婦が、親が★んで孤児になってしまったベトナムの子供を、3人も引き取って育てているのを見ました。
それを見た私は感動し、他の男の精子でもまだ私達の場合は愛する妻の血が半分は入っているので、私の子どもとして育てられると思ってしまいます。
「この間の話しだけれど、精子の提供者は誰だ?俺の知っている奴か?」
「いいの!」
「ああ」
自分でも信じられないような返事をしてしまったのは、妻を可哀想に思っていた事もありますが、決してそれだけではありません。
実は私も友人と会うと子供の話が中心になってきていて寂しい思いをしていて、その事で何処に出掛けても子供連ればかりが目に付いてしまうようになっていたのです。
「ありがとう。でもそれなら尚更、変な先入観も持ってほしくないから、提供者は知らない方が良いと思うの。相手の彼はあなたの知らない人だけれど、頭も良くて運動神経もいいし、温厚で性格も申し分ない人だから心配しないで。何よりあなたと血液型も同じで背格好も似ているし、顔もどこか似ているところがあるから、私達さえこの事をお墓の中まで持っていけば、絶対に誰にも気付かれる事も無いわ」
「その男は信用出来るのか?」
「ええ。信頼出来る方よ」
「そんな人と、どこで知り合った?そんなに親しいのか?」
「あなたに黙って相談に乗ってもらっていたけれど、変な仲ではないから勘違いしないで。彼に対して恋愛感情なんて一切無いし、彼も奥様を凄く愛しているわ。私は今までもあなたを愛していたし、これからもあなただけを愛していくから私を信用して欲しいの」
このような事を頼めるのですから親しいには違い無いのですが、妻の浮気は疑っていませんでした。
ただ妻の職場には男はおらず、知り合えるとすれば出入業者か園児の父親ぐらいしか無いのですが、今までそのような人間の話は聞いた事が無く、提供者が誰だか私には皆目見当もつかない事が少し不安でした。
「その人には元気なお子さんがいて、今も2人目が奥様のお腹の中で元気に育っているそうだから、精子に異常は無いと思う。私の夫にあなたに成りすましてもらって、精子だけもらってあなたとの子供として届けるから、あなたにも自分の子供だと思って欲しいの。当然私も彼の事は全て忘れる」
しかし一週間後、私が帰ると妻は暗い顔をして待っていました。
私の顔を見た妻は目に涙を溜めながら、縋る様な目で何かを訴え掛けていました。
「どうした?」
「今日彼と話し合ってきました。そうしたら彼に断られたの」
「精子を提供してもらう話はついていたのだろ?・・・でも無理もないか。自分の分身がもう一人、この世に存在する事になるのだから」
「違うの。その事は納得してくれているの」
「それなら何が?」
妻はしばらく黙ってしまいましたが、一度大きく深呼吸すると、彼が話した内容を話し始めました。
「彼は奥様に内緒で提供してくれるの。奥様のショックを考えたら、絶対に知られたくないって」
「だから俺に成りすますって・・・」
「ええ。でもよく考えたら、そんな事が上手く行くはず無いと思えてきたようで、真面目な人だから、これは犯罪だからやめておこうって」
「それならちゃんと届けて、正式に提供してもらったらどうだ?」
「私も考えました。彼にも相談してみました。でも彼は、そうなれば色々な検査も有るだろうし、手続きも簡単では無いと言って・・・」
妻の目から涙が毀れます。
「それに届ければ、彼の子供だと何処かに残ってしまうし、第一このような事が許されるかどうかも分からないって」
「諦めよう。俺が不甲斐無いばかりに、辛い思いをさせてしまったな」
しかし妻はまだ何か言いたそうで、私の目を見詰めています。
「どうした?諦め切れないか?」
「彼が言うの。あなたさえ理解してくれれば、誰にも知られずに、違法にならない方法が一つだけあるって」
「どのような?」
「つまり・・・直接・・・精子をもらう・・・」
「よく分からないが?」
「彼が私の中に、直接精子を入れる方法が・・・」
私は耳を疑いました。
「言っている意味が分かっているのか!駄目に決まっているだろ!」
「私も断わりました・・・もう・・この話は忘れて下さい」
妻はこれで子供が出来るものだと思っていて、妊婦の読む雑誌を買ってきたりしてここ数日舞い上がっていただけに落ち込みようは可也のもので、私にその原因があるので声も掛けられません。
そして次の日、私が帰ると電気もつけずに、妻は真っ暗な中で泣いていました。
「今日彼に、正式にお断りしてきました」
「駄目になったのだから、もう相手を教えてもらえるか?」
しかし妻は相手の男の話はせずに、その彼に言われた事を一方的に話します。
「彼が言うの。今回の事は、私はあなた以外の男性を受け入れる事で苦しみ、あなたは自分の妻に他の男性が入る事で苦しむ。そして彼は奥様を裏切り、子供達に対しても、知らない所に自分達の兄弟がもう一人いるという、罪深い事をしなければならない。結局3人が地獄の苦しみを味わわなければならない。でも一つの命をこの世に生み出すと言う事は、そんな3人の苦しみなど、凄く小さな事に思えるほど神聖で尊い事だって」
妻が相手の素性を明かさないのは、まだ望みを捨てきれないでいたからでした。
「彼の提案を受け入れてでも、香代は子供が欲しいのだろ?」
「ううん。あなたにそんな苦しい思いをさせてまでは・・・」
私に苦しい思いをさせるからと言う事は、裏を返せば私さえ我慢出来れば、妻はその様な行為を受け入れてでも、子供が欲しいと言う事です。
「香代はこんな俺でも好きか?子供も作ってやれない俺でも好きか?」
「・・・私はあなたを愛しています」
「それならいいぞ。誰だか知らないが、彼にもう一度頼んでみろ」
妻はようやく笑顔を見せましたが、私に悪いと思ったのか、すぐに真剣な顔になって頭を下げました。
私はどうしてこのような事を言ってしまったのか、自分でも分からずにすぐに後悔しましたが、これも全ては私に子供を作る能力が無い事が原因なのです。
「その代わり、ただの生殖行為でセックスはしないでくれ」
「どう言う意味?」
「服は脱ぐな。それと触らせるな。勿論香代には感じないで欲しい。露骨な言い方だが、ただ入れて出してもらえ」
「でも脱がないと・・・」
私はそのために脱がずに出来る穴の開いたパンティーと、妻が濡れていなくても結合出来るように、潤滑剤のローションを買ってくると言いました。
このような方法で子供を儲ける事は馬鹿げていると思われるかも知れませんが、皮肉にも妻は毎日子供達を見なければならない仕事で、精神的にも限界が来ていると思ったのです。
そして私も全ての原因が自分にあるだけに、その様な妻を見ていて普通の精神状態では無かったかも知れません。
その後はとんとん拍子で話が進み、相手の希望で妻が妊娠可能な時期の土曜日に、シティーホテルに泊まって行う事に決まりました。
「泊まりになったのは、すぐに動かずに安静にしていた方が、妊娠の確率も上がると彼が言うからで、泊まりでもそのような行為は一度だけだからね」
「それなら、終わったら電話してくれ。その後俺も一緒に泊まるから」
「奥様には出張で一晩帰れないと言って出て来るから、終わっても彼は帰れないの。だからもう一部屋とって彼も泊まっていくから、あなたが来ては顔を合わせてしまうかも知れない。精子を貰うだけで、終わったらすぐに自分の部屋に行ってもらうから信用して」
いよいよ翌日に迫った金曜の夜、妻は裸で私の隣に入ってきました。
「ごめんね。抱いて。抱いて欲しいの。今日抱いてもらえば、あなたの子供だと思って産めるから」
私は妻を激しく突き続け、妻も涙を流しながら私にしがみついていました。
「ごめんね・・・ごめんね・・・」
そして翌日の夕方、妻はお風呂に入っていつもよりも念入りに身体を洗い、私がアダルトショップで買ってきた、売っていた中では一番地味でも普通の下着に比べればセクシーな、穴の開いたパンティーを穿いて出掛けて行きました。
その夜私は、地獄の苦しみを味わいます。
どんなに眠ろうと思っても、見知らぬ男の下で悶える妻の姿が浮かんで眠れません。
妻は妊娠すれば、これから生みの苦しみを味わいます。
これは私の生みの苦しみだと言い聞かせても、次から次に涙が溢れてきて止まりません。
それでも翌日の昼前には、妻の顔を見た事で少しほっとしましたが、妻は可也やつれて見えました。
私はどのような行為をしたのか知りたかったのですが、いくら待っていても妻からは話そうとしません。
「どうだった?」
「あなたに言われた通り、ローションを塗って入れてもらって、終わったらすぐに離れてもらいました」
「そうか・・・」
「あなた・・・ありがとう」
「下衆な事を聞いてもいいか?彼のはどうだった?」
「えっ?」
「つまり・・・大きかったとか・・・太かったとか・・・」
妻はようやく笑顔を見せます。
「そんな事を気にしていたの?ずっと目を閉じていたからよく分からなかったけれど、入って来た時の感じでは、あなたの方がずっと大きくて逞しかったわ」
それからの妻は暇があるとお腹を擦って、妊娠を確信しているようでしたが、次の生理予定日に帰ると、妻はまた明かりもつけずに泣いていました。
「駄目だったのか?」
「彼が言った通りでした。一度で必ず妊娠するものでは無いって。奥様が彼の最初の子供を妊娠したのは、結婚して半年後だったって・・・」
妻はこれで諦めると思っていましたが、泣きながら私に言います。
「もう一度お願い・・・もう一度だけ・・・そうで無いと一晩我慢した事が無駄になってしまう」
「一晩我慢した!」
すると妻は慌てて言い直します。
「ううん。行為は一度ですぐに終ったけれど、我慢している私には凄く長く感じて、一晩我慢していたくらいに思えたから」
一度されたから二度も同じだという気は更々ありませんでしたが、私もこのままでは妻の中に他の男が入った悔しさが残るだけで、後悔だけで終わってしまうような気がしました。
「もう一度だけだぞ」
しかし翌月も失敗に終わると、妻は私を地獄に突き落とすような事を言い出しました。
「二回も我慢したのが、全て無駄になってしまうのが嫌なの。次に駄目だったら諦めるから、次回は一週間泊まりで行かせて」
「彼の家に、一週間も泊まりたいだと!」
妻の話では「このままではご主人にも申し訳ない。意地でも妊娠して欲しいから、次の妊娠可能な時期は、私の家に一週間泊まりで来てくれ。一週間も中に射精し続ければ、どこかで最も妊娠し易い時期に当たる。私も妻を裏切ってしまったから、妊娠してもらわないと後悔だけが残る」と彼が言っているそうなのです。
「彼は奥さんには内緒だと言っていたよな?一週間も泊まって大丈夫なのか?」
「奥様が出産で子供を連れて実家に帰るから、しばらく彼だけになるらしいの」
私は彼の家庭を心配しているような振りをして断わろうと思いましたが、その様な事は妻と彼の間で話し合いがついているようです。
「最初は毎晩通って来ないかって言われたけれど、あなたの事が気になって精神的に辛いと言ったら、精神が安定していない事が妊娠し難い原因じゃないかって言うの。一週間泊まって一時あなたの事を忘れるように努力して、妊娠する事だけを考えていれば、きっと上手くいくって・・・」
妻の中に彼が二度も入った事と、そのような我慢をしていても妊娠しない事で、私も精神的におかしくなっていたのかも知れません。
そうでなければ、このような事を許可する事は絶対に無かったでしょう。
「絶対に楽しむような行為はするなよ」
「私を信じて」
「今迄通り服は脱がないで、生殖行為をするだけだと約束出来るか?」
「はい、約束します」
私は妻に数枚の穴の開いたパンティーを買い与え、妻を信じて送り出しました。
しかし一週間の苦しみは今までの比では無く、妻は彼とのセックスを楽しんでいるのではないかと疑ってしまいます。
私を忘れて夫婦に成りきり、愛の言葉を囁きながら、激しいセックスをしているのではないかと心配で眠れません。
しかし一週間経って妻のやつれた顔を見ると、妻も一週間我慢したのだと可哀想に思えて、疑っていた事を強くは言えませんでした。
「どのようにしてもらった?」
「どのように?勿論約束通りただ入れてもらって、出してもらったらすぐに離れてもらって別々の部屋で眠ったわ」
「一週間も毎晩していて、本当にそれだけで済んだのか?」
「はい。彼も分かってくれていたから」
「彼は香代の身体を見ても、他には何もしないで我慢してくれたのか?」
「約束だから身体は見せていません。私はいつもパジャマを着たままだったし、彼は触ってすら来ませんでした」
妻は恥ずかしそうに俯いていましたが、顔を上げると私の目を見詰めます。
「私を信じて。彼もその事は理解してくれていて、凄く紳士的に扱ってくれたわ」
健康な男が一週間も毎晩交わっていて、ただ入れて出すだけの行為で我慢出来るのか疑問は残りましたが、妻に子供を授けてやれない私は信じるしかありません。
「終わったな。今回駄目でも、こんな苦しい思いは二度と嫌だ」
「ごめんね。でも駄目だったらなんて考えてないの。一週間も辛い思いをしたから、今度こそは大丈夫だと信じている」
妻の言葉で、私よりも妻の方が恥ずかしく辛い思いをしているのだと思い直し、その時は妻と彼との仲を疑っていた自分を恥じましたが、その後の妻は勤めている保育園が延長保育を始めたと言って遅く帰る日が増え、仕事の疲れなどを理由に私との行為を拒むようになります。
そして私が出張で泊まりになった時、夜遅くにホテルから電話すると妻は出ませんでした。
「昨夜は電話しても出なかったな。何処かに行っていたのか?」
「ええ・・・延長保育で預かっている園児の母親が、仕事の関係でお迎えが2時間も遅れたから私も帰れなかったの。だから家に帰れたのも遅かったけれど、疲れてしまって何もせずに眠ってしまったから」
電話があった事を知らなかった妻は、私の問い掛けにすぐには答えられなかった事で、私は妻を疑いの目で見ていました。
そしてその夜も妻に拒まれ、翌日「続けて出悪いが、明日も急に泊まりの出張になってしまった」と嘘をつき、妻の仕事が終わる時間に合わせて保育園に行くと、妻は家とは反対の方向に車を走らせます。
私は慌てて後を追いましたがそこは素人で、途中の信号に捕まってしまって見失ってしまいましたが、幸い妻の車が走り去った方向は山で、麓は切り開かれた200件ほどの新興住宅地になっていて、途中には数件の民家しかありません。
それで私は一軒一軒探して回ると、住宅地の外れでまだ周りには家の立っていない空地か建設中の家しかない、一軒家に近い状態の新しい家の駐車場に妻の車を発見します。
「何をしている!」
チャイムを鳴らすと彼が帰って来たと思ったのか、すぐに出てきた妻は夕食の支度をしていたようで、新妻のような可愛いエプロンを着けていました。
「あなた・・・」
妻の目には見る見る涙が溜まっていき、やがて泣き崩れた妻に何を話して良いのか分からずに、私も黙って立ち尽くしていました。
どのぐらいの時間が経ったのか分かりませんでしたが、妻は急に立ち上がると家に帰って話すと言います。
しかしそれは、彼に会わせたくないからだと直感した私は動きませんでした。
「俺がどれ程の覚悟で、今回の事を許したか分かるか!香代が他の男に抱かれている間、俺がどの様な思いで待っていたのか分かるか!辛くて、情けなくて、男としてのプライドなど全て捨てなければ居られなくて・・・」
辛い気持ちを口に出した事で、私の目からも涙が毀れます。
「ごめんなさい・・・」
「それなのに香代は、まだ俺にこのような仕打ちをするのか!どれだけ俺を馬鹿にすれば気が済む。今俺は香代を殴りたい。しかし情けないが殴れない。何故だか分かるか!全て俺が悪いと思っているからだ。俺さえまともな身体なら、このような事にはならなかったと思っているからだ。香代も全て俺が原因だと思っているのだろ?」
「そんな事は思っていません。あなたに黙ってこのような事をした私が悪いの。許して下さい」
私は彼の帰りを待って抗議しようと思っていましたが、不覚にも泣いてしまった事で、ただでさえオスとしての能力が私よりも勝っている彼に、このような情けない姿は見せられず、妻を一人残して家に帰りました。
すると後を追うように帰って来た妻は、入って来るなり土下座します。
「許して下さい。私が悪かったです」
「子供を作れない俺なんか捨てて、彼に子供を作ってもらって幸せになれ」
「許して下さい。お願いですから話を聞いて」
私には当然二人の間に何があったのか聞きたい気持ちはあり、子供のように拗ねていても何も解決しないと思い直しましたが、自分に欠陥があるだけに嫌味を言わずにはいられません。
「愛する彼と裸で抱き合いながら、子供を作る能力も無い俺を笑っていたのだろ?」
「そんな事はしていません。あなたを馬鹿にした事は一度も無いです」
「表札を見たが、お前の好きな彼は篠沢と言うのだな。篠沢もこのままでは済まさない」
「やめて。悪いのは全て私です。彼は私の事を真剣に考えてくれて、奥様を裏切ってまでも協力してくれただけなの」
妻の彼を庇う言葉を聞いて怒りが増し、妻に手を上げてしまいそうな自分を落ち着かせるために黙っていると、妻は泣きながら言い訳を始めます。
「勘違いされるような行動をとってしまってごめんなさい。今日は今までのお礼に、ただ夕食を作りに行っただけです」
「それなら俺に言って、堂々と行けば良い事だろ!」
「責任を感じているあなたは、言えば行ってもいいと言ってくれたかも知れません。でも心の中では辛いはずだから、それなら黙って行った方が良いだろうと思って」
妻がただ食事を作りに行ったなどとは信じられませんでした。
仮にそうだったとしても、それは今までのお礼ではなくて、今回も駄目だった場合を考えて、これからも関係を続けてもらうために機嫌を取りに行ったように感じます。
それも食事だけではなくて、身体を使って機嫌を取る事も。
私は今回が駄目でも、二度とこのような事はさせないと決心して気を落ち着かせましたが、泣き疲れて眠ってしまった妻を見ていると一つの疑問が浮かびました。
それは妻がどのように篠沢の家に入ったかという事です。
例え身体の関係を結んだ事で親近感があったにしても、留守に自宅に入れると言う事は並大抵の信頼では出来ません。
鍵の隠し場所を教えてもらったとすれば、妻はそれだけ篠沢と親しい関係にある事になります。
ましてや合鍵などを渡されているとすれば、私が思っているよりも遥かに親しい間柄なのでしょう。
堪らず妻のバッグを探ってみると、やはりそこには見た事もない鍵が入っていて、猛烈な嫉妬心に襲われた私はそれを抜き取ってしまったので、鍵を失くした事に気付いた妻は慌てたと思いますが、私に聞けるはずもありません。
「あなた・・・今回も駄目でした・・・」
「また篠沢の所に行きたいのだろ?」
妻は黙ってしまって返事をしません。
「次回が本当に最後だぞ」
妻と篠沢に二度とあのような行為はさせないと、固く決めていた私がなぜそのような気になったのかと言うと、妻は篠沢の事を半年前に引っ越して来た園児の父親で、度々お迎えに来ていたので親しくなったと説明しましたが、半年間たまに迎えに来ていたぐらいでこのような事を相談し、このような行為が出切るまで親しく成れるとは到底思えなかったのです。
それで私は篠沢の家の鍵を手に入れた事で、妻と篠沢の関係を探れると思ったのです。
妻と篠沢がどのような会話をし、どのような行為をしていたのかも知りたかったのですが、妻に聞いても本当の事は話さないと思ったので、その事も知るチャンスだと思いました。
しかしそれには、もう一度我慢して堪えなければなりませんが、このままでは一生妻を疑って暮らさなければなりません。
「ありがとう。以前のようにホテルでしてもらって、二度と彼の家に行きませんから」
計画が狂った私は慌てました。
「一週間ものホテル暮らしはお金も大変だろ?」
「一週間いいのですか!」
「その方が、妊娠し易いと言ったじゃないか。本当に次回が最後だぞ。今まで散々辛い思いをしたのだから、今回どうしても妊娠して欲しい」
「ありがとう・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」
妻が篠沢の家に行った日、会社帰りに直行するとキッチンと思われる部屋に明かりがついていました。
そして10分もすると擦りガラスの小窓がある、お風呂と思われる場所に明かりがつき、しばらくしてキッチンの明かりが消えたので小窓の下に行って耳を澄ますと、篠沢と思われる男の声が聞こえてきます。
「楽しむセックスならただの快感の道具かも知れないが、目的が違うのだからこれは神聖な物だろ?だったらもっと丁寧に洗ってよ?そうそう、その下の袋も」
篠沢は妻の羞恥心を煽るためか、わざと大きな声で話すので外からでもはっきりと聞こえて来ます。
「香代も脱いで、一緒に入ったらいいのに」
「裸にはならないと、主人と約束しているから」
妻の声は普段よりも小さく、余程注意していないと聞き取れません。
「まだそんな事を言っているの。前回も、あんな凄い姿を見せたのに?」
「言わないで」
「香代は昔と何も変らないな。確かあの時も、俺と付き合っても身体の関係だけはもたないと、親と約束しているからと言って」
「もう言わないで」
「しかし結局は」
「あれは篠沢君が・・・」
妻が篠沢のオチンチンを洗わされている事にショックを受けましたが、それよりも、やはり以前からの知り合いだったと知って怒りで体が震えます。
「もうそのくらいでいいよ。さあ、種付けをしてやるから先に出て、先週の部屋に布団を敷いて待っていて」
「そんな言い方はやめて」
「じゃあどう言えばいい?セックスとは言うなと言うし・・・」
「何も言わないで」
シャワーで洗い流す音が聞こえた後、妻は先に出て行ったようです。
「うっ・・・ううっ・・・うー」
妻がいなくなると低い呻き声が聞こえ、またシャワーで流すような音が聞こえた後、篠沢は鼻歌を歌いながら出て行きました。
この後すぐに二人が行為を行うのは確実で、私は音を立てないように合鍵を使って入って行くと、奥の和室らしき部屋から話し声が聞こえてきました。
「そろそろ始めようか」
「よろしくお願いします」
私は二人に気付かれないように、細心の注意を払いながら襖を3センチほど開けて覗き込みましたが、幸いこちらは暗くて中は明るかったので気付かれる心配はありません。