緊張感に包まれた車内はまるで会話が無かった。



時々盗み見るM先生の横顔はさっきと同様に何か怒っているようにも見えて、軽々しく話しかけられるような雰囲気ではなかった。






どこをどう走ったか分からないけど、車はやがて市外を走る高速道路のインターチェンジの近くを走っていた。



周辺にはケバケバしいネオンを点したラブホテルが林立している。



「・・・私も良く分からないから」






M先生は独り言のようにつぶやくと、狭い路地を折れ、その中の一軒の建物に車を滑り込ませた。






遊園地のアトラクションの様なエントランスで部屋を選ぶと、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。



狭い箱の中で、音が聞こえちゃうんじゃないかって言うぐらい心臓が波打っている。






目の前にはM先生が立っていて、そしてそのM先生とこれから・・・。



そう思うと俺は期待と不安で、思わず生唾を飲み込んだ。



思いのほか大きく喉が鳴ってしまい、M先生が思わずこちらを振り返る。






「・・・もう」






そう言うとM先生は小さく笑った。






部屋に入ってからのことは緊張のせいか、断片的な記憶の繋ぎ合わせになる。








ただ俺は何故かベッドには近づいてはいけないんじゃないかっていう気がして、とりあえずソファーに腰を下ろしていた。



M先生はしばらくは洗面所のほうへ行ったり、上着をクローゼットにしまったり色々動き回っていたけど、一段落したところでようやく俺とは少し間を開けてソファーに腰を下ろした。






2人の間に微妙な空気が流れる。






「・・・A君」






M先生が口を開く。






「あのね、ちょっと聞いてくれる・・・」






そう言うとM先生はゆっくりと話し始めた。



真剣な表情。






「A君、私ね、さっきA君に今日だけ一緒にいたいって言われた時すごく迷ったのね。正直言うと今でも迷ってる。でもA君にそう言われて、どこか心の中で嬉しいっていう気持ちもあったのね」



「・・・・・・」






「でも、やっぱりこういうことはしちゃいけないことなんだとも思うの。だから、こういうのは本当に今日だけにしよ。それだけ最初に約束してくれる?」






静かではあるけれど、M先生の言い方には有無を言わせない強さがあり、俺は素直に応じざるを得なかった。






「・・・うん、わかった・・・」






俺が返事をすると、M先生は少しホッとしたような表情を浮かべた後、「ありがと」と言うと、先にお風呂入るねと言って立ち上がった。



いきなり風呂!?と俺が思う間もなくM先生は視界から消えると、バスルームに明かりが灯り、しばらくすると部屋とバスルームを隔てる擦りガラスに一瞬M先生のシルエットが映った。






風呂から出てきたM先生はバスローブ姿になり、髪の毛も束ねてアップにしていた。






俺が今まで見たことも無い色っぽい雰囲気のM先生の姿に思わず見惚れていると、「ちょっとw、あんまりジロジロ見ないの!」とM先生が笑いながら釘を刺す。



さっきまでの重たい感じとは違い、明るいM先生が戻っている。






「じゃあ、俺も入ってくるね」






俺は緊張からこの状況に何か居た堪れない感じを覚え、逃げるように風呂に向かった。



脱衣所で服を脱ぐと、俺の裸体が鏡に映る。






(俺、今M先生と一緒の部屋で裸になってるんだな・・・)とか、キリが無いくらい色々なことを考えてしまう。






風呂では念入りに身体を洗った。



童貞とはいえ、知識だけはひと通りある。



もしかしたらここをM先生が口でしてくれたりするのかな?などと想像しながら俺は体の隅々までボディソープの泡を行き渡らせた。






よからぬことを想像したせいか、念入りに洗ったせいか、あっという間にチンポが立ってしまった・・・。






俺が緊張の面持ちで部屋に戻ると、部屋は既に灯りが落とされて薄暗くなっており、M先生はベッドに腰を掛けていた。






「ドキドキするね」



「・・・うん」






短い会話を挟んで、俺はM先生の横に座った。






俺はおずおずと手を伸ばしなんとかM先生の手を握ったものの、その後をどうして良いかがわからない。



俺が固まったままでいると、M先生が俺の方を向き「私だって緊張してるんだよ・・・」と囁いた。






その一言がきっかけになった。






俺はゆっくりとM先生の方に身体を捻ると、そのままキスをし、布団の上にM先生と一緒に倒れこんだ。



ただ当然のことながら俺には全く余裕が無い。



憧れのM先生とキスをしたというのに、その余韻に浸ろうともせずに、俺はすぐにM先生の胸に手を充てると、いきなり乱暴にバスローブを脱がそうとしてしまった。






「ちょっ、ちょっとA君!」






M先生が慌てたように声を上げる。






「ちょっとA君、慌てすぎだよ。落ち着いて!」



「あ・・・」






我に返る俺。



完全に平静を失っていた。






M先生は「もー、A君はー」と叱責口調ながらも、「・・・と言っても初めてだから仕方ないか」と優しく言うと、俺と体勢を入れ替え「最初は私からするから目を瞑ってて」と囁いた。






素直に目を瞑った俺にM先生がゆっくりとキスをする。



さっきとは違い、柔らかな唇の感触が良くわかる。



M先生は唇だけでなく、俺の頬や首筋にもキスをしながら、同時に手で俺の身体を撫で回してくれる。






細い指先の柔らかな感触が地肌に触れてたまらなく気持ちがいい。



M先生は俺のバスローブに手を掛けるとゆっくりと脱がしにかかる。



ジリジリするほど動きが遅く、完全に焦らされているのが分かるけど、俺にはそれに抗う術はなく、ただひたすらされるがままの状態。






M先生が俺の乳首に舌を這わす。



冷たい舌先の感触。



今までに経験したことの無い快感が全身を貫く。



舌はさらに下のほうに移動し、下腹部の辺りに到達したところで、M先生の手がパンツにかかり、ゆっくりと下ろされた。



完全に勃起したチンポがM先生の目の前で剥きだしになる。






M先生に勃起したチンポを見られている!!そう思うだけで、たまらない興奮!!






しかし、ここでも俺は焦らされ、M先生は一切チンポには触れてくれない。






再びM先生がキスをしてきて、「起きて」と優しく命じる。



言われるがままに上半身を起す俺。



M先生が背中越しに自分の身体を押し付けてくる。



M先生もいつの間にかバスローブを脱いでいるみたいで、乳房の膨らみや素肌のスベスベした感触が背中に感じられる。






今度は後ろから耳元にキスをされたと思ったら、胸の辺りをさすっていたM先生の手がゆっくりと滑り、そのままチンポを握られた。



不意を突かれて、「あぁ」と思わず情け無い声が出る。






「・・・先生」



「なに?」






「気持ちよすぎ・・・」



「ほんとにww」






M先生が可笑しそうに笑う。






「先生、目開けてもいい?」



「開けたい?」






「うん、開けたい」



「じゃあいいよ。でもあんまり見ちゃ駄目だよ」






そんなやり取りの後、俺はゆっくりと目を開けた。






M先生は俺の背後にいるので姿は見えない。



ただ背中から伸びているM先生の右手がしっかりと俺のチンポを握っている。



俺は振り向いてM先生と向かい合いたいのに、チンポを握られているため振り返ることができない。






「先生、手が・・・」



「なーに?」






「振り返れない」



「振り返りたいの?触られるの嫌なの?」






「いや、嫌じゃないけど、先生のこと見たい・・・」



「そう、じゃあ、いいよ」






そう言うとM先生はいきなり俺のチンポをシコシコと数回強くこすった。






「ああっ」






また情け無い声が出る。



完全にM先生に弄ばれている。






M先生がようやく手を離してくれ、俺が振り返ると、そこには一糸纏わぬ姿のM先生がいた。



ちょっと照れたような表情の下に、細い身体に似合う小さなおっぱいがはっきりと確認できた。



M先生の何とも言えず恥ずかしそうな表情・・・。






そして視線を下のほうに移すと、そこにはいやでも黒い茂みが目に入る。



そして、その茂みの奥には夢にまで見た・・・。






俺がそんな想像をめぐらせていると、






「もう、あんまり見ちゃだめって言ったでしょ!」






M先生が恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、俺の顔に手を伸ばし、視線を塞ごうとする。



細い指が顔に触れると、その代わりにM先生の両脇のガードはガラガラになる。






すかさず俺はM先生の両脇から腕を滑り込ませ抱きかかえると、そのままベッドに押し倒してキスをした。



今度は俺が上になる体勢になり、M先生の体を抱きしめると体の自由を奪ったままキスをし続け、さらに調子に乗って舌まで絡めてみた。






「もう!Aのエッチ!」






M先生は藻掻いて俺から逃げると、俺のことを初めて呼び捨てで呼んだ。



今度はM先生の逆襲。






「経験も無いくせにそんなことしてw。仕返し!」






そう言うと、M先生はまた俺のチンポを握るとグリグリッと捻り回し、「こんなにしてるくせにーw」とわざと耳元で囁いた。






言葉責めと局部への直接的な刺激、もちろんビジュアル的には全裸のM先生が俺の股間に手を伸ばしてしごいてくれているという光景。



乳房もお尻も、陰毛も全部が丸見え。



正直、童貞にこの3点セットは刺激が強過ぎた。






「先生ごめん!!このままされたら出る!!」






俺は敢え無く降参すると、M先生の手を振り払った。






「勝手なことするからそうなるんでしょww」






勝ち誇ったように笑うM先生。



なんかM先生Sっ気が出てる、っていうかそういう性癖の人だったのか!?






「ねぇ」






M先生が俺の耳元に顔を近づける。






「もう、する?」



「えっ・・・」






「まだ?」



「いや・・・」






実際のところ、このままいたぶられ続けたら遅かれ早かれ射精させられるのは目に見えていたし、というよりも既に危険水域はもうとっくに越えていた。



もちろんこんなイチャイチャも俺にとっては最高の体験には違いないんだけど、やっぱり童貞にとっての最大の関心事はその先。



つまり、女の人のあそこを生で見て、そこに自分のチンポを挿入すること。



これこそがSEXであり、童貞時代に焦がれるほど想像し、それでも結局よく分からない究極の行為(大袈裟かw)。






「・・・いいの?」






窺うように尋ねる俺。






「いいよ。ってそんなこと言わせないでww」






もうって言うみたいにM先生は俺にもたれかかると、そのまま体勢を崩して俺のチンポを口に咥えてくれた。






夢にまで見たフェラチオ!!しかもM先生が俺にしてくれてる!!






夢の様な光景。



しかしこの期に及んでのフェラチオはある意味諸刃の剣。



要するに気持ちがよすぎる。






(これ以上はやばいっ!!)






俺の悲鳴にも似た心の叫びを知ってか知らずか、M先生はすぐに口を離すと、「着けてあげるね」と言って、枕元にあったコンドームの袋を破るとゆっくりと俺のチンポに被せ始めた。






「先生、俺多分すぐイッちゃうと思う・・・」






初めての時にアッという間にイッちゃうっていうのは良く聞く失敗談だけど、自分も間違いなくその仲間入りすることを確信した俺は先にM先生に申告した。






「いいよ。最初は自分の事だけ考えてればいいからね」






M先生が優しく言ってくれる。



この人優しいんだかSなんだか良くわからない。



でもほんと大好き。






「恥ずかしいから最初は私が上になるね」






M先生はそう言うと、おもむろに俺の上に跨った。



結合部を凝視する俺。



M先生が俺のチンポを掴み、自分の中心部に誘導すると、ゆっくりと腰を下ろす。






チンポの先が肉のトンネルを分け入って行く様な感覚。



チンポ全体が温かく包まれる感じと、先端部分に電流が流れるような快感。






「あー、ふぁー・・・」みたいな俺の声と、「ンッ」というM先生の声が同時に漏れる。






M先生のおまんこが俺のチンポを根元まで飲み込むと、M先生はゆっくりと身体を倒し、俺の体とぴったり重なり、優しくキスをしてくれた。






「・・・入ったのわかる?」



「うん・・・」






「動かして大丈夫?」



「・・・駄目かもしれないけど、動かして欲しい・・・」






「じゃあ動かすよ。ウンッ」






M先生も気持ち良さそうな声を出した後、ゆっくりと腰を振り始めた。






チンポ全体が絞りあげられる様な快感が背筋を走る。



オナニーが点だとすると、おまんこは面。



良くわからないけど快感の質がそんな感じ。






「ねぇ・・・気持ちいい?」






M先生が追い討ちをかけるように優しい口調で尋ねる。



M先生はゆっくりと腰を動かしながらも、俺を上からじっと見下ろしたまま視線を外さない。



俺は今まで見たことが無い恥ずかし気なM先生の表情を見つめたまま、快感に身を委ねる。



お互いの目を見つめ合ったままでいることが嫌でも興奮を高める。



あっという間に絶頂感が訪れた。






「先生。いきそうっ!!」



「いいよ。そのまま出していいよ」






そう言いながらM先生が俺に抱きついてくる。



俺はM先生の言葉が終わるのを待ちきれずに、爆発するかのように発射した。






チンポが自分の意思とは無関係にビクビクとM先生のおまんこの中で飛び跳ねる。



ビクッとチンポが痙攣するたびに、その刺激が伝わるのかM先生が小さな喘ぎ声を漏らす。






そんな状態が数回続き、ようやく射精が収まったのを確認すると、M先生はゆっくりと体を起こしチンポを抜くと、俺にキスをしながら、「A君の最初の相手になっちゃったw」と少しはにかんだような言い方で微笑んだ。






その後、俺とM先生は深夜まで何度も体を重ねた。



俺は初体験だし、猿のようにM先生の体を求めたけど、M先生も嫌がることなく積極的に俺のことをリードしてくれた。



やっぱり普段から人を教える立場の人は自分が主導権を握る方がしっくりくるのか、普段はエッチな雰囲気なんて全く無い人が、ベッドの上ではすっかり積極的で、色々な行為を厭うことなく受け入れてくれた。



フェラチオ、69はもちろんのこと、マングリ返しや顔面騎乗(俺の顔へのおまんこ擦りつけ)までしてくれたし、体位も正常位、騎乗位、対面座位、バック等、おそらく普通のSEXでやれる行為は、大方この日のうちにM先生が試させてくれたような気がする。






また特に忘れられないのは、M先生に後ろから挿れたこと。



実は俺は童貞時代からの夢としてバックでの挿入に強い憧れを持っていただけに、このときは感激した。



俺が四つん這いになって欲しいって言ったら、最初は恥ずかしがっていたけど、最後は諦めてお尻を突き出してくれたM先生。






この上なく恥ずかしい格好をしたM先生のおまんこがぱっくり口を開いている。



よく初めて見たおまんこはグロかったとかいう話を聞くけど、俺にはそういう感覚は全く無くて、むしろ何でこんな素敵な人にこんないやらしい形状のものが付いてるんだろうと思うと、逆に物凄く興奮したことを覚えている。






中心部だけでなく、その周囲までがテラテラと光っているM先生のおまんこ。



俺は既に愛液ですっかり黒光りしているM先生の陰毛の間にチンポをあてがうと、遠慮なくぶち込み思いっきり腰を振った。



M先生が仰け反るように体を硬直させ、喘ぎ声を上げる。



局部と局部がぶつかる激しい音を聞きながら、俺はM先生の尻を鷲掴みし左右に思いっきり広げると、チンポとおまんこの結合部をじっくりと凝視した。



出し入れに伴いM先生の肉襞がチンポにまとわり付いてくる様がこの上なくいやらしい。



お尻の穴も皺の一本一本まではっきりと確認できるぐらい丸見え。






「先生、凄い・・・丸見えだよ」






思わず俺がそう言うと、恥ずかしさのあまり喘ぎ声を上げながらも「そんなに見ちゃだめっ!!」と懇願するM先生の姿態がさらに興奮を誘う。






「先生っ!先生の中凄く気持ちいい!」



「アアッ、もう言わないで!あん、もう、アンッ、凄いっ!」






「先生、好きです!」



「あー!もうおかしくなるっ!!」






「出るっ!!」



「いいよ!出してっ!!あぁっー!!」






瞬く間に興奮はピークに達し、結局この時はそのままバックの体勢のまま射精をした。



憧れのM先生のケツを鷲掴みにして後ろから突きまくった征服感と、M先生の泣くような喘ぎ声。



あまりにも強烈な印象が放出を終えた虚脱感の中にも鮮明に残っていた。






「すごく気持ちよかった・・・」



「・・・初めてなのにいっぱいしちゃったね」






「でも最初の相手がM先生で、俺ほんとよかった・・・」



「そうだよー。感謝しなさいw。でもね私も嬉しいよ」






「ほんとに?」



「ん?うそww」






そう言うとM先生は俺に軽くキスをすると、顔を胸に埋めてきた。






M先生をぎこちなく抱きしめる俺。



華奢な背中をさすっていると、教師と生徒ではなく、一人の男と女としての関係になった様に感じる。



俺とM先生はぴったりと体を寄せ合い、いつまでもお喋りをしていた。



M先生の柔らかい体の肌触り感じながら、






(至福の時ってこういう事を言うんだな・・・。)






俺はそんな事を心の底から実感していた。






夢の様な夜が終わり、翌朝、俺たちはかなり早くホテルを出た。



M先生は一度家に戻り着替えなくてはならないため、ほとんど時間が無く、俺は近くの駅で下ろしてもらった。



駅で別れるときは、お互い疲れと恥ずかしさでロクに挨拶も出来なかったけど、俺としては本当は昨夜の食事の後そのまま別れていてもおかしくなかったことを考えれば、こんな素晴らしい朝もないというのが素直な感想だった。






(大人の男になりました・・・)






俺は生気が抜け疲れきった体を充実感に浸しながら家路についた。






その後、何日かして俺は予定通り引っ越しをした。



ホテルに行った時にはその日限りっていう約束ではあったけど、実は引っ越しの前日にもM先生には会った。



実際は俺が強引に頼み込んで会ってもらったっていうのが本当なんだけど、M先生の方もそれ程抵抗感がある様子でもなく、意外とすんなり時間を作ってくれたので嬉しかった。






俺としてはこの間の夜の一件以来すっかり頭の中はM先生に支配されていたから、もうこの際正式にM先生に交際を申し込んじゃおうかって勢いだったんだけど、その辺りはM先生に巧みに話を逸らされ、結局告白は未遂に終わった。






「いよいよ明日行くんだね」






「行きたくないなー」



「何言ってるのww」






そんな会話を延々と繰り返した挙句、翌日俺は未練たらたらのまま地元を離れた。



引っ越してしまえば、俺の地元と引っ越し先の土地は気軽に行き来するにはあまりにも距離がありすぎたし、引っ越し後の片付けや手続きをしているうちに学校が始まり、学校が始まれば俺には授業やバイト、その他もろもろの日常があり、M先生はM先生で当然仕事があるので、その後しばらくはM先生と会う機会はなかった。






引っ越し後、ようやくM先生と会えたのはゴールデンウィーク。



M先生が俺のアパートに遊びに来てくれた。






「俺の部屋に最初に入った女の人だよ」って言ったらM先生なんか照れてた。






でもその日の夜にあの日以来のエッチをした後、俺は唐突にM先生から別れを告げられた。



別れるって言っても元々付き合ってるっていう訳じゃないからそういう言い方は変なんだけど、要するにもう会うことは出来ないよってことを言われてしまったんだ。






「どうして!?」






問いかける俺に対するM先生の回答は明快で、簡単に言うとお互い先の見えない恋愛は傷が深くならないうちに止めておこうというものだった。






当時M先生は26歳で俺とは8歳の年の差があった。



つまり俺が卒業する時にM先生は既に30歳を迎えることになり、M先生が結婚の適齢期のピークを迎えるときに、俺はようやく社会に出たばかりで、さらにそれから一人前になるまでに数年を要すことを考えると、「私はそれまで待てないよ」というのがM先生の言い分だった。






卒業時期に突発的に接近した俺たちには2人で築き上げた拠り所の様なものは何もないし、しかも親密になった矢先にすぐに遠距離ではお互いのことを深く知ることすらも難しい。



冷静になって考えればM先生の判断は妥当と言うよりはむしろ当たり前で、俺にしてもそれを強く拒むだけの自信は正直言って無かった。



当時の俺にはM先生に対する愛情以外は何も無く、確かな将来像や目標、人生設計の様なものを考えたことは無く、当然のことながらM先生に対する責任を担保する具体的なものは何一つ持っていなかった。






M先生はそんな現実を見つめると、このまま俺とこういう関係を続けていくことが自分にとっても俺にとっても良いことではないと考え、そうとなれば俺との関係をこのままずるずると続ける訳にはいかないと判断した。






「ごめんね。でもA君といつまでもこういう関係を続けることは出来ないし、今のうちにお別れしておくほうがお互いにとっていいと思う」






M先生がすまなそうに、でももう決めたことだからって感じで俺に告げる。






俺は元々彼氏でもないし、それにこういうことを言われることを全く想像しない程楽天的な性格でもなかったから、変な言い方だけどM先生の言葉は自分でも意外な程冷静に受け止めることが出来た。



それに悲しいという気持ちよりも、俺のことを男にしてくれたM先生に感謝するという気持ちがあまりに大きくて、ここで未練がましくM先生にすがって迷惑をかけたくないって気持ちが悲しみに勝り、結局のところ俺はほとんど何も反論することなくM先生の申し入れを受け入れた。






「うん。わかった。先生、本当にありがとう」



「・・・ごめんね」






本当は感謝や寂しさ、その他色々な感情が湧き上がってきたんだけど、俺にはそれをどう言葉にして良いかが分からず、ただM先生に覆いかぶさると強く抱きしめキスをした。



M先生も何も言わず、そっと俺の頭に手を添えると、やっぱり同じように俺のことを抱きしめ、そのままじっと動かずに俺のことを受け入れてくれた。



結局その日の夜は話をするというよりは、そんな感じで2人で体を寄せ合ったまま時が過ぎていった。






翌日は眩しいくらい良い天気だった。



昼間はM先生と二度目にして最後のデート。



人出の多いところは避け、近場の大きな公園に散歩に出掛けた。



公園では恥ずかしかったけど手を繋いで歩き、話が盛り上がるとM先生はいつものようにコロコロと笑っていた。






(俺がM先生と同じような年齢だったら、俺がM先生と付き合えたのかな・・・?)






そんな疑問が頭の中をよぎったりする。






(いやそんな簡単なモンじゃないだろ。今回はたまたまタイミングが良かっただけだって・・・。)






すぐに別の声も聞こえる。






すぐ目の前にM先生がいるのに、何故かそれが現実ではないような不思議な感覚。



すぐ近くにいるのに決して手の届かない俺とM先生との距離感。



俺はM先生の一挙手一投足、どんな些細なことでも目に焼き付けておこうと思い、ただひたすらM先生の姿を見つめ続けていた。



俺のそんな気持ちを知ってか知らずか、この日のM先生はいつにも増して明るく、優しくて、そしていつもよりもすごく綺麗だった。






夕方になりいよいよ別れの時間が迫ってきた。



M先生を見送りにターミナル駅へ向かう。






駅に着くとさすがに別れの時が近づいてることが実感されて、俺は何を話してよいか分からず言葉が出てこない。






M先生は改札口の手前で振り返ると「A君ありがとう。もうここでいいよ」と言った後、一呼吸置いて「私、A君と会えて良かったよ。ありがとう」と言った。






M先生の目が少し赤くなっている。



その表情を見て、俺は無性に悲しくなりもう何も言うことが出来ない。






ありがとうって感謝しなくてはいけないのは絶対俺の方なのに・・・。



俺はこんな素敵な人とほんの一時でも特別な関係になれたっていうことが、今更ながら不思議な気がして、なにか居ても立ってもいられない気持ちになった。






「先生、俺の方こそほんとに・・・俺、本当にM先生と出会えて・・・」






俺も何とかお礼を言おうとしたけれど、そこまで言うのが精一杯で、後は自分でもビックリするぐらい涙が出てきて言葉にならなくなってしまった。






M先生も驚いて、「ちょっと泣きすぎだってw」と言いながら、ハンカチを貸してくれたけど、そういうM先生も涙をぽろぽろこぼしていた。






時間が来てM先生が「じゃあ、行くね・・・」と言って改札を通り抜ける。






あっという間に距離が広がって、やがてエスカレーターで小さく手を振るM先生の姿が視界から消えた。



俺はその後も改札口に佇み、電車の出発時刻を知らせる表示板からM先生が乗る電車の表示が消えるのを確認した後、ゆっくりとその場を離れた。






もしかしてM先生が電車に乗らずに戻ってきてくれたりしてなんてことも頭をよぎったけど、現実にはそんな奇跡は起こるはずもなく、俺は一人寂しく家路についた。






その後、自分がどこをどう歩いて家に帰ったのか、今となってはほとんど思い出すことは出来ない。



ただ部屋に戻った後は何もせず寝転んだままひたすら天井を見つめていたことを覚えている。



少しでも動くと張り合いを失った体がバラバラになりそうで、俺はただひたすら天井を見上げながらM先生との数少ない思い出を何度も何度も反芻していた。






それから数日後、抜け殻の様な状態の俺にM先生から手紙が届いた。



そこにはM先生らしい力強い大きな文字で、お詫びとお礼、そして俺に対する激励の言葉が記されていて、文面の言葉をM先生が喋っているかのように頭の中で読み上げると、半年前に西日の当たる教室でM先生に叱られたことが思い出されて仕方が無かった。






わずか半年ぐらい前の出来事が遥か昔の出来事のように感じられるけど、それはこの半年間が俺にとって人生で最も刺激的で充実していた時間だったという証明なんだと思った。






その日の夜は痛飲した。



ガキで酒の味なんてロクに判らないくせに、俺はアパートの部屋で一人でひたすら前後不覚になるまで酒を飲んだ。



案の定、翌日はとんでもない二日酔になったけど、俺は酷い吐き気と頭痛の中で、二日酔いの苦しみをM先生との別れの辛さに投影していた。






二日酔いが治ればM先生との別れの苦しみも消える。






そんなことがあるはずも無いのに、俺はそんなことを朦朧とした意識の中で考え、一日中苦しみにのた打ち回っていた。



ただその日に限って言えば、何故か二日酔いの不快感がそれ程嫌ではなく、泣きたい様なそれでいて笑いたいような奇妙な感覚がいつまでも不思議と残っていた。






それから4年が経ち、俺は無事に大学を卒業した。



あの日以来俺がM先生と会うことは無く、大学生活自体はM先生が言っていた程素晴らしいものでもなかったけど、それでも俺なりに悔いの無い学生生活を全うし、卒業後は平凡な就職をして現在に至っている。






恋愛についてはその後何人か深い関係になった女性はいたけれど、さすがにあの時のM先生との様な焦がれるような経験はしていない。



今でも大した恋愛経験を積んだわけじゃないし、これからも憧れの人との初体験を超えるような経験をするっていうのは難しいかもしれないけど、それはそれで仕方がないと思うし別に残念なことでもない。



俺にはひとつ大切な思い出がある。



それ以上でも以下でもなく、その事実だけで十分だと思っている。






最後に、なんでM先生は俺みたいな冴えない生徒とああいう関係になったのかっていうことがずっと俺の中では謎ではあったんだけど、後に親しくなったと知人の女性(彼女ではない)に何かの折にそんな話をしたら、「母性本能がくすぐられちゃったってことじゃないの。Aさんってそういうとこあるよ」と言われて、そんなもんかなーと思ったことがある。






当時、何をやってもどこか自信無さげな俺の姿がM先生にはもどかしく、それ故、気にもなり、何とか成長させてあげたいという風に思わせた部分があったのかもしれない。



もちろん今となっては真相を確かめようも無い話ではあるけれど、もしいつかM先生と会う機会があればその辺りのことを聞いてみたいという気がしないわけでもない。



まぁ俺も当時のM先生の年齢をとっくに超えているし、M先生はさらにいい年齢になられている訳だから、もしそんな機会があったら少しは大人の会話が出来るかもしれないなーなんて考えることもある。






今は仕事に追われるしがないサラリーマンの思い出話はこれで終り。