これから先は後日譚になります。
後日譚も、という話もありましたがスレ違いでもあるような・・・。
ちなみにたぶん長いです(w
エロ無し。
では、お目汚しを・・・。
激しい痛みで気が付いた。
体全体が痛い。頭がズキズキする。
全体もそうだが、一箇所が特に痛い。
頬も痛い。右手首も痛い。右足の親指も痛い。
それより、ここどこよ?
病院の・・・ベッドか・・・とすぐに気付いた。
腕には点滴の針が刺さっている。
右足と右手首に包帯が巻かれている。
はっと手を伸ばすと、頭にも包帯が。
何だ、こりゃ。
ああ、頭がズキズキする・・・。
「お・・お・・いい・・・誰かあ・・・いますか・・・」
「気付きましたか?」とナースが入ってきた。
30くらいの痩せ型のナース。
女性、痩せ型ってだけで佐智子さんを思い出し、思わず泣きそうになる。
「あ・・・あ・・・あの・・・」
「ああ、あんたね、頭三針縫って、右手首捻挫、右足親指骨折、急性アルコール中毒で担ぎ込まれたの」
ナースはウザ~みたいな顔で俺を見ている。
そりゃあ、そうだろう・・・すいません・・・。
ナースが席を立って、ちょっとすると佐藤、笹原さん、菊池が入ってきた。
佐藤と笹原さんは泣いていた。
「助かったあ、助かったあ」と佐藤はマヌケな声をあげていた。
急性アルコール中毒と右足骨折はわかるが、他の2つがわからない。
それをまず聞いた。
菊池が話してくれた。
俺が日本酒一気をすると、途中で俺はぶっ倒れたらしい。
蒲団が敷いてあったので、そこで怪我はなかった。
しかし、意識が完全になかったのでこれは救急車だ!という話になった。
佐藤が「今救急車来るからな!」と言ったところ、俺はむくむくっと起き上がったらしい。
すると、ふらふら~っと寺田のところに歩み寄り、「おい・・・寺田・・・氏ねよ!!」と言って殴りつけたらしい。
寺田は泥酔した俺の拳をまともにあごに受けて、ぶっ倒れたとか。
俺はなお寺田を殴ろうとしたらしい。
しかし、手を捻られ、そのまま突き飛ばされた。
手はその時捻挫したらしかった。
突き飛ばされた俺はテーブルにぶっ飛び、角に後頭部を強打した、らしい。
だらだら~っと血が流れて、俺はまたそのまま気を失った。
佐藤と笹原さんは、血を流してぴくりともしなくなった俺を見て、★んだ・・・んじゃないよな?みたいになったらしい。
「おい!!武田!!起きろ!!」みたいなことを佐藤がやっている脇で、寺田は「ああ、★に真似してんなよ、カス!!」みたいなこと言って暴れようとしたが、菊池がなだめたとのこと。
俺は、スマン、スマン、スマンと狂ったように謝った。
佐藤も、笹原さんもただ泣いてた。
菊池は・・・
「バカみてーに泣くなよ!こんなんで★なねーって医者言ってたじゃん・・・」
もう、5時だった。
佐藤たちは「宿と色々話をつけた上で引き払ってくる。7時頃にはまた来るから、お前は寝てろよ」と言って宿に戻っていった。
うちにどうやって戻ったか、よく覚えていない。
ほとんど寝てた。
とにかく、病院代4万あまりは佐藤・笹原さん・菊池で立て替えたこと、宿にはクリーニング代を払うと言ったが、いいですと言われた。
でも、後で「謝罪に行くということだけ忘れるな」と菊池に念を押されたことは覚えている。
うちに帰った日、佐藤はうちに泊まった。
たぶん心配だったんだろう。
次の日、佐藤の携帯に電話が掛かってきた。
佐藤はしばらく外に出ると、戻ってきた。
「今日も泊まろうと思ったんだけど、ちょっと急用でさあ・・・」
「いいよ・・・もう・・・」
「荷物、うちに置いたり、着替えも持ってきて明日の夜には来るからよ」
「いいって・・・」
佐藤はコンビニでとりあえずの食べ物と飲み物を買ってきてくれると、それを冷蔵庫に入れた。
「ちゃんと、食うんだぞ」
そう言うと、佐藤は出て行った。
佐藤がいなくなると、部屋の中は急にがらんとして夏の終わりの未練がましい蝉の声だけがした。
思わず、涙がこぼれる。
佐智子さんのことより、覗きをやっていて自爆した俺を助けてくれた佐藤・笹原さん・菊池に申し訳なかった。
「★にてえ・・・」
ぽつりとつぶやいた。
次の日の夕方、佐藤から電話が掛かってきた。
「今日いけなくなった。明日、行く」とのことだった。
もう、何もかもどうでもよかった。
いや、違うな。
どうでもよくなかった。
こんな俺を佐藤は心配している。それが辛かった。
どれくらい時間が経ったろう。
時計はなんかウザイんで止めた。
光がイヤで雨戸も締め切った。
部屋の中は蒸し暑くて、ほとんどサウナだった。
体に著しい偏重が現れ始めているのはわかったが、ひたすら横になっていた。
次にはっきり覚えているのは、佐藤が大家さんといっしょに部屋に飛び込んできたことだった。
救急車が呼ばれて即入院。
かなりの脱水症状で、あと半日そのままだったらあぼーんだったらしい。
入院した次の日、母親が来た。
親父は仕事で来なかった。
親父はそういうヤツ。来た方が気持ち悪いな(w
母親は「イヤだったら、何にも言わなくていいから・・・」と言って、ずっと泣いていた。
佐藤からなんか聞いたんだろうな。
母親も仕事があって、その日に帰っていった。
医者やナース、佐藤に「息子を頼みます」って何度も何度も言ってたっけな。
笹原さんと菊池はその日の午後に来た。
笹原さんも泣いた。
「★なないでよ~」くらいしか笹原さんは言えなかった。
菊池は・・・あんな時もむすっとしてたな(w
帰り際、菊池は「体調よくなったらよ・・・海外行こうぜ・・・」と言い、ごそごそっと沢木耕太郎の『深夜特急』を取り出した。
俺はこの時だけちょっと笑って「あ・・・あ・・・それ持ってるんだ・・・」とだけ言った。
菊池はばつが悪かったようで「そ、そうか・・・」とだけ言った。
持ってるなんて言わなきゃよかった。
一週間くらいで退院した。
さすがに入院費は親が持った(w
バイトも無断欠勤ってことでクビになってる。
でも、バイトをする気力もない。
親は、「生活費送る」と言っていたが、これは家計的にかなり辛いはずだった。
入院後、俺は佐藤としばらくの間、暮らすことになった。
最初、佐藤家の好意で佐藤家に下宿する話もあったんだが、これはとにかく断った。
それで、佐藤が俺のうちで暮らすことになった。
そういうのが、全部イヤだった。
俺を生かそうとする周りの努力が。
俺は、そんな他人の好意に値する人間じゃない・・・。
生気のない俺に佐藤がキレるのに時間は掛からなかった。
俺はむしろそれを望んでいて、出てって欲しかった。
佐藤の怒鳴り声、俺の腐った言葉、そんな応酬が続いた後、佐藤は言った。
「みんな、どれほどお前のこと心配しているか、わかってんのかよ!!」
「わかってるよ・・・俺はそんな心配してもらう価値なんてない人間なんだよ!!」
「俺は、お前の友達だし、お前の親がお前を心配するのは当たり前だろ!!」
「うるせえなあ!!俺はそういう以前の人間なんだよ!!!俺は・・・佐智子さんのこと覗いてたんだからな!!」
「・・・そんなこと・・・知ってるよ・・・」
しばらくの間、二人ともただ泣いていた・・・。
しばらくして佐藤はぽつり、ぽつりと話し始めた。
あの日の夜、俺が病院に担ぎ込まれた時、佐藤たちの間では誰ともなく「色んな状況からして武田は、見ていたんじゃないだろうか・・・」という話になった。
たぶんね、でも証拠ないからこれは我々のうちで内緒にしておこうってことになったらしい。
その時、まだ寺田は病院に付き添いで来ていて、「覗き野郎の付き添いなんてやってられっか!!」みたいなこと言ったらしい。
それで菊池が「覗いてたって証拠、ねーだろ!!もし、武田のことウワサにでもなったら、★すぞ・・・」とか言ったらしい、寺田はそれでびびって帰ったとか。
知っててみんな、優しかった・・・。
いや、その優しさもただのエゴだ!!
俺が★んだら、自分が傷つくから、なんとか俺が★なないようにしているんだろ!!
そんなドロドロした感情が渦巻いた。
その後も色々あったが・・・。
まあ、佐藤と菊池と笹原さんのチームワークで助かった、とだけ書いておく。
笹原さんはその年卒業して、公務員になった。
佐藤と俺は、次の年ちゃんと卒業して、二人とも無名の中小企業に就職した。
菊池は・・・一緒に卒業はしたが、その後一度も会っていない。
菊池は日本でバイトで金を溜めると、その後海外へ行く。
そして金がなくなると戻ってきてバイトして・・・みたいな生活をしている。
年に2回くらい、聞いたこともない土地から短いメールが送られてくる。
結局、一緒に外国に行くという約束は果たせないままだが、菊池は今でも俺を誘っているのかもしれない。
日本で会おうと返事をするんだが、日本では連絡をくれない(w
で、ちょうど二年前のお盆休み、笹原さんと佐藤とで飲むことになった。
佐藤とは今でも月二回くらい会って、一緒にアキバ行ったり、飲んだりするが、笹原さんと会うのは笹原さんの卒業以来だ。
月2回、近況報告をする義務が俺にはあったので、メールはしていたけど。
会って一番最初に聞いた話は、笹原さんに年上の彼氏ができて、来年結婚するということだった。
俺と佐藤はバカみたいに騒いだ。
「うごお!!おめでとう!!」とか言って。
笹原さんは・・・俺はどうしても女性として見ることができなかったんだが、人間としては、出来過ぎたくらいの人なので、あの人を女として選ぶ男は「本物」だと思った。
で、笹原さんの本題は、結婚のことではなかった。
佐智子さんのことだった・・・。
あの事件以来、佐智子さんは1度しか見かけていない。
あの年、大学が始まっても俺は引きこもり状態だったので、ゼミの単位が危なくなった。
年末には何とか復調しつつあった俺は、適当に病気の経緯を教授に説明すべく、大学に行った。
教授室に入ると、佐智子さんがいた・・・。
その時は、頭がグラグラっとしてきて、汗が噴出し、吐き気がしてきた。
息が詰まった。
「う・・・か・・・ろ、廊下で・・・待ちます・・・」と俺は教授室を出て、しゃがみこみ、気分を落ち着かせた。
ちょっと落ち着いたので、廊下の突き当たりの窓の方へ行って、外を眺めた。
がちゃりと戸があくと「失礼致しました・・・」と佐智子さんの声がした。
そして、カツカツカツカツ・・・と足音がして、エレベーターの開く音がした。
佐智子さんは卒論指導で教授室に来ていたみたいだったから、卒業はしたんだろう。
その後の佐智子さんに関して知っていることは、これだけだった。
さて、話は笹原さんに戻る。
あの事件があった日、佐藤はうちに泊まると行ったのに、慌てて出て行った。
俺の状態が状態だったので、あれが何だったのか考えたこともなかったが、あの日、佐智子さんはうちに戻らず、連絡を受けた佐藤・笹原さん・菊池が探し回ったんだという。
結局、三人は佐智子さんを見つけることができなかったが、佐智子さんは二日無断外泊をして、ふらりとうちに帰ってきたらしい。
笹原さんは佐智子さんの勝手な振る舞いに、「怒髪天を衝く勢い」(本人談)で怒っていたんだと言う。
で、「帰ってきました」と言う佐智子さんの母親から電話をもらうと、その場で佐智子さんに代わってもらい、「明日◯時に大学の学食に来い!」みたいなことを言ったらしい。
「引導を渡すつもりだった」笹原さん、素敵好き。
会うなり佐智子さんは泣き崩れた。
笹原さんは「あら、白々しいこと!」と思ったとか。
佐智子さんは訥々と話し始めた・・・。
1年位前から父親が愛人を作って家に帰らなくなった。
父は「島耕作(笹原談)」みたいな人で、生活費は十分にくれるが、母親が精神的に参ってしまい、家事は一切佐智子さんがやっており、佐智子さんの高校生の妹の弁当も作っていた。
家事が忙しくなると、彼氏とあまり会えなくなった。
母親の傍にもいなくちゃいけなかったし、就職活動でも忙しかった。
彼氏とはますます会えなくなり、彼氏は、佐智子さんの浮気を疑うようになった。
浮気は、実際彼氏の方先だったが。
心身ともにボロボロのところに、ゼミ合宿は久々の外出で、浮かれていた。
男に優しくされてしまい、癒されたい、と思ってしまった。
彼氏への当てつけってのもあった。
佐智子さんの話はそんなところだった、らしい。
佐智子さんは、「色々みんなには迷惑をかけた。一人一人にお詫びしたいけど、恥ずかしくてできない。だから、笹原さんのから伝えて欲しい、わがままだってわかってるけど、お願い」とのことだった。
「あなた、男に癒されてるんだから、それでいいでしょ?私たちのことよりも、そっちが大事だからそれをやったんでしょう?よくてよ、謝罪なんかいらないわ。ごきげんよう」
ホントにあの口調でやったんだかは知らんけど、笹原さんはそう言った(w
・・・と、笹原さんが席を立とうとすると、佐智子さんは笹原さんの腕を掴み、「お願い、お願い」と泣きながら、消え入りそうな声で言ったという。
このまま、袖を振って立ち去るのも辛くて、笹原さんは話を聞くことにした。
あのあと、佐智子さんは男と「付き合おうね」みたいな話をしていたんだという。
それで、酒も入っていたのですぐ二人で寝てしまい、隣の騒ぎに気付かなかった、という。
朝起きて、酒が引くと「どうしよう、どうしよう」と急に不安になった。
しかも、ゼミの人間は誰もいない。
宿の中を駆け回ってみんなを探した。
ヨットサークルの連中に、ゼミの人たちがどうしたのか聞くと、「ひゅーひゅー!」とか「あのさあ、今夜は俺と・・・どう?」とか言われて、ここで取り返しのつかないことしたと、打ち震えたらしい。
すぐに宿を引き払い、その後は友達のうちにいたらしい。
「え・・え・・と・・・笹原さん、荷物はどうしたんですか・・・そういえば・・・」
「ああ、荷物?さっちんと男がイタした部屋においてあった荷物なんて気持ち悪くて」
「豪快ですねえ・・・」と佐藤。
「学食で会った時、さっちんが荷物持ってきたから、結局受け取ったけど」
「あ・・・あ・・・部屋代はどうしたんですか?男部屋は清算したけど・・・」
「さっちんが払ったんでしょ?」
「豪快ですねえ・・・」と佐藤。
笹原さんは一通り佐智子さんの話を聞いた。
「確かに、さっちんも大変だったんだね・・・でも、あなたのせいで、深く傷ついた人がいるのよ!?もしかしたら、★ぬところだったんだから・・・」
「え・・・?」
「誰かは・・・自分で考えることね・・・」
「・・・もしかして、武田くん・・・」
「もう・・・私・・・★んだ方がいいよね・・・」
「そんなことして、武田くんが知ったら、武田くん、もっと傷つくよ・・・」
「謝りたい・・・」
「・・・何を?わけもわからず謝ったって、今の武田くんはもっと苦しむだけね・・・」
「・・・」
「武田くんが、話しても大丈夫になったら、伝えておくわ・・・」
「お願い・・・」
以来、笹原さんは佐智子さんと話をしていないという。
人づてに聞いた話だと、佐智子さんは以来陰のあるような感じになって、仕事人間みたいになっちゃったとか。
彼氏も、いないらしい。
俺は、笹原さんにお礼を言った。
笹原さんの選択は、俺にとって全く正しかった。
あそこで、もし、笹原さんが佐智子さんを俺のところに連れてきたりなんかしたら・・・。
何が起こったか想像もできない。
(・・・勝手だ・・・勝手すぎるよ、佐智子さんは・・・)
でも、あの快活な佐智子さんが、今では仕事人間になってしまった、なんて聞くと・・・。
(俺が・・・俺が・・・もしフツメンくらいだったら・・・)
(コクるくらいはできんだろうな・・・そこでフラれても、あの事件はなかったかもしれない)
(いや、いくら俺がキモメンでも、佐智子さんにコクって嫌われたとしても・・・)
(あの前にコクっていれば、あの事件はなかったのかもしれない・・・)
(佐智子さん・・・助けられなくて・・・ごめんなさい・・・)
そう思った。
それで、ああ、俺まだ佐智子さんのこと好きなんじゃん、と気付いた。
ボタボタっと涙がテーブルに落ちた。
「おい・・・タケ・・・」
「俺・・・俺・・・バカだよなあ、まだ佐智子さんのこと・・・」
「やっぱ・・・まだ言わない方がよかったかな・・・」
「い・・・い、や、言ってくれた方が・・・」
「ほ、ほら~私みたいな女でも彼氏できたし、だから・・・」
俺と佐藤はこういう言葉に実は一番へこむ。
金はない、オタク、アキバ系、キモメン。
おどおどしている。
ダメなとこばっか。
電車男なんていない。
エルメスなんていない(w
「佐智子さんのこと・・・助けたかった・・・」
「・・・今から、連絡つけてみる?できるけど・・・」
「・・・い、い、いや・・・」
「でも・・・」
「いいです、いいですって・・・」
悪いが、女にはわからない。
特に、いい人の笹原さんにはわからない。