小学校生活最後の日が来た。



外は雪だった。



萌ちゃんが在校生に囲まれてる。



両手に持ちきれないほどの贈り物を抱えていた。



萌ちゃんの目には涙が光っている。






体育館に卒業生と在校生が集まった。



みんなで校歌を歌う。



僕の後ろから変な泣き声のようなものが聞こえてくる。



教室に戻ると萌ちゃんが号泣していた。



もうずいぶん前から泣き通しだったようだ。



下から萌ちゃんの顔を見上げると、鼻水があとからあとから流れてくる。



ハンカチが絞れそうなほど濡れている。






「萌ちゃん、これ使いなよ」



「ありがとうぅぅ、うえっうえっ」






「萌ちゃんがそんなに泣くなんて」



「雄太君は寂しくないのぅ?うえっうえっうえっ」






「寂しいけど、横でそんなに泣かれちゃうとね」



「だってだって」






(・・・萌ちゃんって泣き虫だったんだ・・・)






意外な一面を初めて見た感じだった。






やがて雪も溶け、桜も咲いて僕らは中学生になった。



萌ちゃんの制服姿はキレイで格好良かった。






「ねえ萌ちゃん、ちょっとスカート短すぎない?」



「え?みんなこの長さだよ」






「だって・・・他のやつにパンツ見られたら・・・ブツブツ・・・」



「何ブツブツ言ってんの?さあ行くよー」






僕はダブダブの詰襟で大きなカバンを担いでいるような感じで中学の門をくぐった。



偶然にも僕と萌ちゃんは同じクラスになった。



いきなりあちこちで萌ちゃんのファンクラブができた。



上級生が次々を萌ちゃんをひと目見ようとやって来る。



先生までもがしばらく見惚れるくらいだった。






「目が大きくって、まつ毛が長くてカワイイ」



「モデルになればいいのに」



「ハーフタレントみたい」






萌ちゃんはいきなりクラスでも人気者。



小学校からの仲間は僕と萌ちゃんが付き合ってことを知ってるけど、僕のことを考えてそれを言わないでいてくれた。






あっと言う間にGWになった。



僕の体に異変が現れた。



そう、やっと毛が生えたのだ。






「きゃー、うぶ毛が濃くなってきたよお」



「あんまり見るなよ。恥ずかしい」






「だってだって生えてきたんだもーん」



「なんで萌ちゃんがそんなに喜ぶの」






「嬉しいもん」



「変なの」






萌ちゃんはそれからと言うもの毎日のように僕の毛が生える過程をチェックした。



ポヨポヨとヒゲのようになってくると、萌ちゃんはそれを触るのが楽しみだったようだ。






中学生になって僕は授業にまったくついて行けなくなった。



放課後、僕は萌ちゃんに勉強を教えてもらうのが日課になった。






「ねえ、萌ちゃん」



「ん?」






「部活はやらないの?」



「うん」






「あんだけ色んな運動部から勧誘を受けてるのに?」



「別に興味ないもん」






「いいの?僕のために時間を割いてくれてるようなもんじゃん」



「いいの。雄太君のためだから。勉強頑張ってね」






「うん・・・」






なぜか将来の日本の宝を独り占めしてるような気がして気が重くなった。






「ねえ、雄太君、最近元気ないね」



「そう?そうかなあ?」






「うん、なんか雄太君らしくない」



「僕、元気しか取り柄がないからかなあ」






「そんなことないよ。雄太君の取り柄っていっぱいあるよ」



「ありがとう」






「なんか気になることでもあるの?」



「いや、別に・・・」






「ならいいけど」






そんな感じで数週間が過ぎたある日。



放課後の帰り道。






「ねえ、いつまでそんなに塞ぎ込んでるの?」



「気にしなくていいよ」






「いやん、気になる。なんで?教えて?」



「いや、いいよ」






こんなやり取りがしばらく続き、僕は白状させられた。






「だって、萌ちゃんってスポーツもやればできそうだし・・・」



「え?」






「見た目はモデルみたいだから芸能界だってやって行けそうだし・・・」



「え?」






「だから僕なんかにくっついていたって何にもいいことないよ!」






パーンっっ!!!






僕は萌ちゃんに引っ叩かれた。



久しぶりのビンタに左頬がジンジン痺れている。



スカート捲りして叩かれたことを思い出した。






「雄太君なんか大っっ嫌いっ!!!」






萌ちゃんは走って行ってしまった。



僕はその夜、ご飯が喉を通らなかった。






僕と萌ちゃんは口を利かないまま2週間が過ぎた。



同じクラスだから目を合わせることはよくあるが、会話に発展することはなくなった。



僕は寂しくなった。



萌ちゃんの存在が大切だったことが初めて身に染みた。



謝らなくちゃと思った。



僕はなけなしの小遣いをはたいて女性物のTシャツを買った。



今でも覚えてるけどバッタの絵がプリントされている変なやつ。



なんであんなTシャツ買ったんだろうと思う。






僕はそれを持って萌ちゃんの家に行った。



呼び鈴を押すと中から萌ちゃんが出てきた。



僕は無言でそのTシャツが入った袋を差し出した。






「何よ、これ?」






「あの・・・これ・・・」






謝りに行ったはずが、僕はなぜか「ごめんなさい」が言えなかった。



Tシャツだけ渡してそそくさと帰った。






また数日が経過した。



やっぱりちゃんと「ごめんなさい」を言いたくなって僕は萌ちゃんの家に行った。






「入って」






「うん。お邪魔します」






普段言わないことを言って僕は萌ちゃんの部屋に入った。






「何しに来たの?」



「あの・・・あの・・・」






「ん?」



「萌ちゃん、ごめんなさい!!!」






「・・・」






萌ちゃんの目から大粒の涙が溢れ出た。






「も、萌ちゃん・・・」



「バカ・・・雄太君のバカ」






「萌ちゃん・・・」



「私のことが重いの?ウザいの?嫌になったの?」






「え?いや、そんな・・・」



「嫌になったんなら正直に言って。束縛してたつもりはないから・・・」






萌ちゃんは泣きじゃくっていた。



萌ちゃんの顔が涙と鼻水だらけになった。



僕は自分の発した言葉の重みをこのとき初めて知った。






「萌ちゃん。ゴメン・・・ホントにゴメン」



「・・・」






「僕のことを許して。僕、萌ちゃんがいないとダメなんだ。勉強もできないし・・・」



「・・・」






「それに・・・寂しくって・・・」






萌ちゃんが僕に飛びついてきた。



思いっきり抱き締められた。



そのまま何もしゃべらず泣いていた。



僕も泣いた。



・・・萌ちゃんは僕のことを許してくれた。






「ねえ、泣いたら暑くなってきたね」






萌ちゃんは薄手のカーディガンを脱いだ。



中から緑色のバッタが現れた。






「ねえ私、雄太君にお願いがあるの」



「なあに?」






「絶対、絶対、絶~対、将来いい男になってね」



「いい男?」






「うん私、信じてるんだ。雄太君は絶対にいい男になるって」



「なんだかよくわからないけど・・・頑張るよ」






お互いの大切さを知った日だった。



僕が精神的にひとまわり成長できた日でもあった。






<続く>