翌日からも、藤井の生活態度はなにも変わらなかった。



如才なく授業をこなし、取り巻きの女生徒たちと騒ぎ、男子の敵視を浴びながら残った実習期間を過ごした。



修一は、出来るかぎり藤井の動向を追いながら、その数日を過ごしたが。



知りえた範囲で、母と藤井の接触はなかった。



母の態度にも、なんら変わるところはなかった。



いまや秘密を知ってしまった修一にも、その表情や言動から、些かの変調も見てとることは出来なかった。



そして。二週間の教育実習は終了した。






日曜の朝。






「・・・修一。母さん、出かけるけど・・・」



「・・・んー・・・」






自室のドアの向こうから掛けられた声に、修一は寝ぼけ声で応えた。






「・・・食事、用意してあるから・・・」






ドアを開けようとはせず、休日にも珍しい息子の寝坊をとがめることもなく。



それだけ言い置いて、奈津子は去った。






「・・・・・・」








階段を下りていく足音が消えてから、修一はベッドの上に起き上がった。



寝ぼけた声は演技だ。






目は完全に覚めている──



実のところ、ほとんど寝ていないのだ。



母が部屋に入ってきたときの擬装のためだけの寝巻を脱ぎ捨て、素早く着替える。



そっとドアを開けて、忍び足に階段に寄った。



そっと階下をうかがった時、遠く玄関の扉が閉まる音が聞こえた。



なおもしばし時間を置いてから、修一は一階に下りた。



母の姿はなく、玄関から靴もなくなっているのを確認して。



自分も通学用のスニーカーを履いて、修一は外に出た。



晴れた午前の空が広がっていた。



こそこそと我が家から脱け出した修一は制服姿だった。



身をかがめるようにして門扉に近寄り、道路をうかがう。



すでに母の姿は見えないが、それでいいのだった。



その行き先が、休日の学校であることを、修一は知っていた。






すでに、藤井の実習は終了した。



明日の月曜日、藤井は全校生徒に別れを告げて、東京へ帰っていく。



だが藤井は、母に拒まれたまま去る気はなかったのだ。



この街への滞在の最後の日である今日、藤井は母を呼びつけた。



今度はハッキリとした脅迫だった。



数日前の準備室での誘いのような、まだるっこしい遣り口ではなく。



奈津子の絶対の弱みである“写真”をネタにしての強制だ。



奈津子は従わざるをえない。






二年前と同じように。






その頃にも、何度もこうして藤井からの呼び出しに応じていたのだろう。



修一には仕事や所用だと偽って、望まぬ逢瀬へと出掛けていったのだろう。



二年前には、そんな母の言葉を疑いもしなかった修一だが。



いまは母の抱える秘密を、その鉄壁の仮面の下に隠した苦痛を知っている。



知っているが、なにも出来ないことは変わらない。



こうして・・・ひそかに母のあとを追いかけて。



その行為に、なんの意味があるというのか。






休日の通学路を、ゆっくりと修一は歩んだ。



足を速めて、母に追いつくわけにはいかない。



急ぎたいという気持ちがあり、引き返したいという気持ちがあった。



どちらに従うのが正しいことなのか、わからない。



決着のつかない心のまま、修一は母のあとを追っている。



これは、息子である修一にだけは、藤井との関係を知られたくないという母の想いを踏みにじることになるだろうか?多分、そうだろう。



それは理解していても、動かずにはいられない。



せめて、これから母が味わう苦痛を、共有したいという思いがあった。



ただ護られて、そのことに気づきさえしなかった自分への断罪の意味もこめて。



・・・本当は、辛い想像と戦いながらひとりで過ごすことには耐えられなかった。






結局、母の姿を見つけることはないままに学校にたどりついた。



グラウンドからは運動部の生徒たちが練習に励む声が聞こえていたが。



校舎の中はひと気もなく、シンと静まっていた。



それでも修一は周囲を気にかけながら、二階へと上がる。



藤井は実習期間、監督係である教諭の家に下宿していた。



実家が、いまはこの地から引っ越していたからだ。



当然、その部屋で女と(それも、同じ学校の女教師と)会うわけにはいかない。



かといって、ホテルの類を利用することもはばかられる。



女の家は論外だ。



だから、密会の場として、休日の校内という場所が選ばれたのだ。



そういういきさつを修一は知っている。



誰が教えたかは言うまでもない。



そんなことをわざわざ修一に伝える真意は、推し量るしかなかったけれど。



二階の廊下に出た修一は、息をひそめ気配を★して進んだ。



最奥の国語準備室、その隣りの資料室にたどりついて、そっと忍びこむ。



慎重に閉ざしたドアにもたれて、息を吐いた。



隣室からは、なにも聞こえてこない。



ひとの気配はあるように感じるのも、先入観からだろう。



そこでなにが行われているか。



見て聞くためには、前回のように窓から覗かねばならない。






(・・・本当に・・・)やるのか?と、いま一度自問する。






そこで行われていることを目にして、自分はこらえることが出来るだろうか?



激発せずにいられるだろうか。



自信はなかった。



だが、それでもいいと思って。



修一は、もうひとつの本音に気づいた。



どこかで自分は望んでいるのだ。暴発を。






藤井が母に非道を働く現場を見て、最低の悪党に汚される母の姿を目の当たりにして、ついにすべての自制を砕いてしまうことを。



その場におどりこんで、こらえ続けた拳を、あの男に叩きつけてやることを。



それは、ひとつの破局には違いなかった。



なにより、母の受ける傷は深いだろう。



あるいは、藤井は本当に“写真”を公開してしまうかもしれない。



少しでも冷静に考えれば、それだけはしてはならないことだ。






だが・・・本当はそれが正しい行動なのではないだろうか?






(・・・ダメだ・・・そんなこと。絶対に・・・)






修一はひとりきりの狭い部屋で佇んだまま、懸命に気持ちを落ち着かせた。



だが、危険な衝動は完全には消え去らなかった・・・と。






壁の向こうで、気配が動いたような気がした。



ビクリと反応して、修一はそちらを見やった。






・・・いずれ、迷っている場合ではない。いまさら。






もう一度、大きく息をついて。



修一は窓辺へと向かった。



音をたてぬように窓を開け、周囲をうかがってから、枠に腰を乗せた。



そろそろと。



細心の注意を払いながら、身を乗り出していく。



窓ガラス越しの、準備室の風景が視界に入った。






部屋の中央。



机に上体を伏せた母の姿。



俯いた表情はうかがえない。



高く掲げられた臀は裸だった。



スカートは腰までたくし上げられ、下着は取られている。



剥き身の大きな肉丘、差し込む陽光に艶々と輝くような滑らかな肌を、背後に立った藤井の手が撫で回していた。






「相変わらず、いいお尻ですね。ムチムチ張り切ってて、スベスベで」






愉しげに藤井が言う。






「正直、二年もたってるから、ちょっと不安だったんですがね。奈津子先生の見事なヒップも、タルんで崩れちゃってるんじゃないかって。杞憂に終わって、嬉しいですよ」



「・・・・・・」






奈津子はなにも応えない。



顔を隠したまま、机の上の両手は固く握りしめられていた。






「もしかして、僕と切れてる間、誰かほかの男にこの大きなお尻を抱かせてたんですかね?それで、こんなに色気を保ってるとか」



「・・・・・・」






「教えてくれないんですか?」






無言を貫く奈津子の態度は、硬い拒絶の心を表しているに違いなかったが。






「久しぶりだからって、そんなに固くならなくてもいいじゃないですか。楽しみましょうよ、昔みたいに」






藤井はおかまいなしに、猫なで声で囁きかけながら、ネチっこい手つきで奈津子の豊臀を愛撫する。






「うーん、どうやらもう少しほぐしてあげないと、調子が戻らないみたいだな」






臀肌を這いまわっていた手が、中心部へと移動する。



こんもりと盛り上がった双臀の狭間へと。






「・・・ん・・・」






奈津子のスーツの肩が強張り、微かな声が洩れた。






「ああ、この感触も久しぶり。柔らかいや」






喉を鳴らすように藤井が言う。



その腕の動きが、潜りこんだ手の蠢きをうかがわせる。






「・・・ふ・・・う・・・」






また奈津子がくいしばるような息を洩らす。



机上の拳にギュッと力がこもった。






「どうです?思い出してきましたか?」



「・・・・・・」






「こちらはだいぶこなれてきてますがね。この反応の良さも変わらないな」



「・・・ふッ、あッ」






一瞬激しくなった蹂躙の動きに、奈津子が頭をふりあげ短く高い声を響かせた。



あらわれた面は微かに上気して、眼鏡の下の双眸はきつく閉じられていた。






「・・・は、早く、済ませて・・・」






アップにまとめた髪を小さく揺らして、口早に奈津子は訴えた。






「うん?それって、もう待ちきれない・・・ってことじゃあ、ないですよね」



「早く、終わらせてッ」






鋭い叫びになった。



それは卑劣な脅迫に屈して恥辱に耐える奈津子の立場からは当然な心理だろう。



しかし、眉間に深い皺を刻み唇を噛み締めたその表情には、苦痛や嫌悪だけではなく、なにかに怯える感情が滲むようにも見えた。






・・・呆然と、修一は見ていた。



ただ眼前の光景を見つめていた。



意識は白く灼けついている。



覗きこむまでの煩悶も迷いも完全に霧消していた。



学校の一室で。






臀を晒して、男の玩弄を受ける母の姿。



ただそれだけの絵図に衝撃を受けて凍りついた修一は、つまり本当には理解していなかったということだった。



母は・・・これから藤井とセックスするのだ、男の欲望を受け止める女としての姿を晒すのだ、と。



そんな当然な現実をいまさらに突きつけられて。



しかし、もはや眼を逸らすことも出来ず。



凌辱者の手に嬲られる母の臀の眩いような白さに釘づけられながら。



息をつめて、ただ修一は見守る。






「早く済ませろ、か。本当に最初の頃に戻ったみたいだな」






妙に嬉しそうに藤井は言った。



その間も双臀のあわいに隠れた手に怪しい動きを演じさせながら。






「ねえ、奈津子先生。今回僕が実習生として戻ってくるって知ったとき、どんな気持ちでした?」



「・・・・・・」






「不安・・・は、あったでしょうねえ、やっぱり。僕が、まだあの画像を持ってたらって。それでまた関係を強要されるんじゃないかってね?」






でも、と藤井は続けた。






「そういう不安や怯えだけじゃなくて。少しは期待する気持ちもあったんじゃありません?」



「・・・馬鹿な・・・ことを・・・」






にべもなく奈津子は否定した。



わずかに乱れる息をこらえながら。






「ありゃりゃ。僕のうぬぼれでしたか。でも、先生のここは、僕の指を懐かしんでくれてるみたいだけどなあ」



「・・・・・・」






「ほら、だんだん溢れてきましたよ。わかるでしょう?いやらしい音が聞こえませんか?」



「・・・くッ・・・」






大きくなる玩奔の手の動きに、奈津子はくいしばる息を洩らす。



苦悶の皺は深くなり、生え際には汗が滲んだ。






「ブレーキをかけることはないでしょう。どうせなら、愉しみましょうよ。あ、それとも」






藤井はもう一方の手をふりあげると、固く緊張の色を滲ませた豊かな臀をピシャリと叩いた。






「アッ・・・」






「昔みたいに、この大きなお尻を打たれないと、エンジンがかかりませんか?」



「や、やめてッ」






「ベルトの鞭を浴びて、鳴いてみますか?あの頃みたいに」



「いやよっ」






奈津子は体をもたげて、背後へと首をねじって藤井を睨みつけた。






「そんなことは許さないわよっ」



「・・・そうですか」






あっさりと藤井は頷いて、






「とにかく先生は、早く終わらせて解放されたいと。わかりました」






諦めたように言うと、腰のベルトに手をかけた。






「まあ、しょうがないですね。結局今回も、写真をネタに言うことをきかせてるわけだし」






柄にもなく自嘲的な述懐を漏らしながら、ズボンとトランクスを脱ぎ下ろした。






「・・・ッ」






すでに漲った姿を現した逞しい肉塊に吸いよせられた眼を、奈津子はすぐに逸らした。






「ここは卑劣な脅迫者らしく、自分の欲望だけを果たさせてもらいますよ。しばし、ご辛抱を」






慇懃な言上とは裏腹な無遠慮な手つきで奈津子の臀を抱えこみ、腰を前へと進めた。






「・・・あっ・・・」






奈津子に竦んだ声を上げさせた暴虐の矛先は、そのまま無造作に抉りこんで、洩れる声を重い呻吟に変えた。






「・・・んん・・・クッ・・・」



「ああ、相変わらず、いい感じですね」






ブルブルと慄く豊臀をグッと抑えこんで、ゆっくりと貫きを続けながら、藤井は賞賛する。






「・・・ム・・・んああッ」






やがて長大な肉塊が根元まで埋まりこむと、奈津子の引き結んでいた唇は解けて、深いうめきをついた。






「フフ、完全に繋がりましたよ。どうです?久しぶりに教え子のを咥えこんだ感想は」



「・・・情けない、わ・・・」






背をたわめ顔を隠すようにして、奈津子は震える声をふりしぼった。






「あ、あなたなんか、と・・・また、こんなことを・・・」



「そうですか。じゃあ、やっぱり早いとこ終わらせましょう」






震える声で拒絶を告げる奈津子に淡白に答えて。



やおら藤井は激しい勢いで腰をふりはじめた。






「ヒッ!?んんッ、ちょ、ちょっと待・・・、アッ、」






前のめりに潰れかかる体を必★に支えながら、奈津子が上擦った叫びを上げる。






「そ、そん、ヒ、いきなり、アアッ」






「早く終わらせるためですからね。少し我慢してくださいよ」



「い、いやッ、やめ・・・ヒイイイッ」






「お、ようやく可愛い声が出てきましたか。もっと聞かせてくださいよ」



「・・・クッ・・・んん・・・フ・・・」






揶揄されて懸命に唇を噛み締める奈津子。



しかし荒々しい突き上げに押し出されるように、引き結んだ口の端から音が洩れる。






「・・・んッ・・・フ・・・んんッ・・・」






そして、その声は徐々に色彩を変えていく。



と、また唐突に藤井は苛烈な攻勢を止めて、深々と貫いていたものを半ばまで引き抜いた。






「フフ、グチャグチャだ。先生のジュースで僕のはベト濡れになってますよ」



「い、いや・・・」






羞恥の声を上げて、奈津子がかぶりをふる。



肩や背があえぎをつき、体が微細な震えを刻んでいる。






「ホラホラ、ここはムズがるみたいに僕のに絡みついて」






愉しげに言いながら、今度はゆっくりとしたリズムで、藤井は腰を送りはじめる。






「・・・アッ、アッ・・・」






「“ここ”と同じに素直になってくれれば、お互いにもっと楽しめるのに」



「ヒイッ、あっ、ダメッ」






「わかってますよ。ここでしょう、ここが弱いんですよね」



「アヒッ、イヤッ、アアアッ」






大きなストロークで攻め立てながら、藤井が卑猥に腰をまわせば、奈津子の声は切迫して、ほとんど純粋な嬌声になった。



両肘が崩れ、机に突っ伏した横顔は上気しきって汗にまみれている。



眼鏡ごしの双眸は潤んで、焦点をなくしていた。






「そろそろ率直な言葉を聞きたいですね。気持ちイイんでしょ?奈津子先生」






重く抉りこみ掻き回しながら、藤井が訊く。



机に頬を擦りつけるように頭を左右にふって、奈津子は精一杯の否定をあらわした。






「そうですか。まだ足りないというわけだ」






必★な抗いを哂った藤井は、汗にぬめる臀を掴んでいた手を、繋がった部分へとすべらせた。



立てた指を、ズブリと奈津子の後門に挿し入れる。






「ヒイイッ」






奈津子はギクッと顎を逸らして、甲高い叫びを迸らせた。






「い、イヤッ、そ、そこはっ」



「物欲しそうにヒクついてましたからね。ホラ、喜んで僕の指を食いしめてる」






悲鳴のような声を愉しげに聞きながら、藤井は指を注挿させた。






「アアッ、イヤ、やめて、そこは、アアッ」






「これもお好きでしたよね?前後の穴を同時に責められるのが」



「ヒッ、アアッ、ダメ、ダメ、いやぁっ」






指の抜き差しに合わせて腰を使われれば、もう奈津子は噴きこぼれる声を抑えられない。



構えも備えもなくした剥き出しの叫びを絶え間なく響かせはじめる。



きつく眉根を寄せキリキリと歯を食いしばった表情も、苦痛に耐えるというよりは、こらえがたい感覚を享受するように見えた。






「お尻が踊りはじめましたよ」






裸の臀が微かな揺動を演じだしたのを藤井が指摘する。






「い、イヤァッ」






泣くような声を上げて、奈津子は意識を裏切りはじめた体を必★に抑えようとするが。



ズンと深く突きこまれれば、生臭いようなうめきとともに儚い抵抗は潰えて。



再開する臀のうごめきは、いっそう生々しく卑猥なものに変わっていく。






「あぁ、こ、こんな、」






羞辱の涙が溢れ、弱りきったすすり泣きの声が洩れた。






「無理することないですよ」






口調だけは優しく、藤井が囁きかける。






「先生のこの熟れた体が人一倍感受性が豊かなこと、僕は充分に承知してますからね」






奈津子の背に乗りかかるようにして、汗を滲ませた首筋に顔を寄せた。






「だから、素直な声を聞かせてくださいよ。キモチイイ、久しぶりの若いチンポ美味しいって」



「い、いやッ」






奈津子が激しく顔をふった。



耳元に吹きかけられる藤井の息と卑猥な台詞を払おうとするように。






「・・・そうですか」






急に冷淡な口調に変わって。



藤井は腰の動きを止めた。






「・・・あ・・・」



「やっぱり、もう以前のようには楽しめないということですかね」






不意の中断に訝しげな声を上げた奈津子の中から、また剛直を半ばまで引き抜く。



入り口のあたりでユルユルと浅い注挿をくれると、グチュグチュと隠微な水音が響いた。






「アッ、あ、ハッ」



「残念だな」






舌足らずな、どこかもどかしげな声を断続させる奈津子に、藤井は淡々と言葉を繋いで、






「じゃあ、やめにしますか?」



「・・・え・・・?」






奈津子はハッと眼を見開いて、後ろへとふりかえる。






「奈津子先生の気持ちはよくわかりましたし。このままじゃ、僕も楽しくはないんでね」



「あっ・・・」






さらにズルリと藤井は腰を引いて、奈津子から微妙な声音を引き出しておいて。



しかし、完全に結合が解ける直前で転進すると、一気に最奥まで貫いた。






「んっ、あああっ」






喜悦の─そうとしか聞こえない─叫びを奈津子は迸らせて、ガクガクと腹這いの肢体を震わせた。



だが藤井は、そのまま本格的な攻めを再開しようとはせず、反射的なのたくりをうつ熟れ臀の動きをかわしながら、また剛直を抜き出してしまう。



ギリギリまで。






「アアッ、いやぁッ」






咽び泣きながら、必★に追いすがろうとする奈津子の臀をガッチリと押さえこんで、ヌプヌプと浅瀬を掻き回す。






「本当に、やめにしましょうかね」



「・・・フ・・・アッ・・・」






切ない息を弾ませながら、奈津子は潤んだ眼で藤井をふり仰いだ。



半ば開いた唇が、逡巡にわななく。



微笑んで、藤井は、もう一度同じ行為を繰り返した。



奈津子の最終的な屈服を引き出すには、それで充分だった。






「や、やめないでっ」






奥深く嵌まりこんで歓悦の叫びをふりしぼらせたものが、またズルズルと後退しはじめたとき、奈津子は夢中で訴えた。






「つ、続けて、おねがいっ」



「ようやく、ですね」






口の端を歪めた藤井が、激しく腰を叩きつけた。






「アアッ、い、いいッ」






血の色を昇らせた喉を反らして、奈津子は手放しのヨガリ声を張り上げる。



一度自制を崩されてしまえば、もう止め処もなく。






「いいっ、いいの、もっと、もっと突いてぇっ」






あさましい言葉を吐き散らしながら、狂ったように腰をふり臀を悶えさせた。






「フフ、そうでなくっちゃね。奈津子先生は」






淫欲に敗れた女教師を冷たく見下ろしながら、藤井はかさにかかって責め立てた。



緩急をきかせた腰使いと尻穴を穿った指で、奈津子の官能を煽り立て、さらなる狂乱へと追いこんでいった。






「ああ、ダメ、私、もう・・・」






ほどなく、奈津子が切迫した声を上げて、ブルルと背をわななかせた。






「アアッ!?い、いやあッ」






だが藤井は、そのタイミングを待っていたかのように動きを止めて体を引いた。



今度は完全に奈津子の中から肉根を抜き出してしまう。






「イヤ、いやよっ、藤井くん、やめないで、続けてッ」






半狂乱になって泣き喚き、掲げた臀をふりたくる奈津子を無視して後ずさると、手近の椅子を引いて腰を下ろした。






「邪魔なものは脱いで、じっくり楽しみましょうか」






膝にからんでいた下着とズボンを脱ぎ捨て、隆々と屹立したままのものを見せつけるようにしながら言った。






「あぁ・・・」






哀しげな吐息を漏らして、奈津子がのったりと身を起こす。






「・・・全部、脱ぐの?」



「ええ。先生も随分汗をかいてるし。僕も、ちゃんと奈津子先生の体を見たいですしね」






「・・・・・・」






それ以上、奈津子は躊躇しなかった。






上着を脱ぎ、腰にまるまっていたスカートを引き下ろした。



藤井の指摘通り、汗で貼りついたブラウスを脱ぎ、白いブラジャーを外した。



藤井の眼を気にする様子を見せながらも、手を止めることはなかった。



全裸にパンプスだけの姿になった。






豊満な熟れ切った肢体が、明るい光の中に現れる。






「いいですね。どこも崩れていない。相変わらず、綺麗でいやらしいカラダだ」



「・・・いや・・・」






藤井の賛美に、奈津子は身をすくめ微かに腰をよじった。



白昼の校内で素肌をさらしたことに、わずかに理性を蘇らせたのか、






「・・・本当に・・・こんなことになるのは・・・いやだったのに・・・」






力無く、独り言のように呟いた。






「わかってますよ。僕との過去は忘れてしまいたかった。こんな関係に戻ることを、先生は本気で恐れていた」






でも、と、藤井は続けた。






「それだけでもなかったでしょう?」



「・・・・・・」






「それとも。やっぱり、ここまでにしときますか」






そう言いながら、藤井は招くように手を差し出した。



フラリと、奈津子が足を踏み出す。



藤井へと歩みよっていく。



滑らかな白い背肌が汗に輝いている。



歩みにつれて巨きな臀が揺れ弾み、汗とは違った濡れが内股にのぞく。



乱れながらもアップにまとまったままの髪型と、地味な眼鏡だけが、普段の姿の名残りだった。



その眼鏡も、藤井の手で外された。






「そのまま、跨っておいでよ」






奈津子の手を引き寄せながら、藤井が命じた。



ああ・・・と、恥辱と昂ぶりの混ざった息を吐いて。



奈津子は言われるままに、ムッチリと肉づいた太腿を開いた。



藤井の両脚を跨いで、片手にとらえた剛直の上に臀をおとしていく。



熱く濡れそぼった秘苑に切っ先が触れたところで動きを止めて、藤井を見つめた。






「・・・忘れられなかったわ。あなたを」






心の奥底の秘密を明かすように告げて。



奈津子は体を沈めた。






「フッ、ああ、は、はいってくるぅ」






ズブズブと、自らの重みで太い肉根を呑みこみながら、喜色に満ちた声を響かせる。






「ん、アアッ、深い、奥まで」






やがて藤井の腰に密着した豊臀をビクリビクリと震わしながら、奈津子は両腕で藤井の首にしがみつく。






「すごい締めつけですね。昔より反応が激しいんじゃないですか」



「あぁ、だ、だって」






「二年も放っておかれたから、溜まってたってわけですか。僕とのことを思い出して、自分で慰めたり?」



「ああ、いやぁ」






否定するのではなく、媚びるように鼻を鳴かせて。



奈津子は藤井の唇にむしゃぶりついた。



自ら仕掛けた濃厚なキスに耽溺しながら、若い雄肉を咥えこんだ臀をユサユサと揺らしはじめる。






「ああ、いいわ、いいッ」






堪えかねたように離した唇から、歓悦の女叫びが噴き上がる。



踊り狂う臀の動きは、際限もなく激しく淫猥になっていく。






「まったく。こんな姿を見たら、他の教師や生徒たちは、なんて言うでしょうねえ」






時折、腰を突き上げて奈津子の狂熱をあおりながら、藤井が嘲笑する。






「学校の中で素っ裸になって。元教え子の上に跨って。大きなお尻をふりたくって、ヨガリ狂ってるなんて」



「いやぁッ」






頭をふりながら、しかし奈津子の淫らな動きは止まらず、むしろいっそう激しくなっていく。






「特に、修一くんが、こんな母親の姿を見たら。どう思いますかね。彼も、あまり僕にいい感情は持ってないみたいだから。それが、自分の母親とこんな関係だなんて。知ったらショックだろうなあ」



「あぁ・・・言わないで」






「そんな悲痛な声を出したって。いやらしい腰の動きは止まってないじゃないですか。ほらほら」



「アヒイイッ」






両手に抱えた臀を藤井がのの字に回すと、奈津子は高い嬌声を迸らせて、背を反らした。






「もう、もうどうなってもいいっ」






官能の業火の中で、すべてを投げ出す言葉を叫んだ。



教師としての矜持も、母親としての心も。



この肉を灼く悦楽以外のものはなにもいらないと。






「ヒイッ、あ、イイッ、くる、きちゃう」






そして、その放擲の言葉が、すでに臨界近くをさ迷っていた官能を急速に押し上げた。






「ふ、藤井くん、私、もう」






「いいですよ。昔のように言いながら、派手にイッってみましょうか」



「アアアッ、イクッ、オマンコ、いっちゃう、来て、一緒に、一緒にッ」






二年前に教えこまれた台詞を口走り、奈津子は、豊かな乳房を押しつけるようにきつく藤井の首を抱きしめながら、若い牡の精をねだった。






「しょうがないですね。ホラッ」



「アアッ、イク、イクッ、アアアアアッ」






大きく突き上げられて、奈津子が極みに達する。



絶息の叫びとともに、淫らな汗にまみれた裸身が硬直し、やがて凄まじいような痙攣を刻んだ。






・・・グッタリと力を失ってもたれかかる奈津子の体を、藤井はぞんざいに引き剥がして、床へと下ろした。



裸の臀を床に落して、辛うじて片手で横座りの姿勢を支える奈津子の前に脚を開いて、






「終わったあとは、どうするんでしたっけ?」






居丈高に言った。



情事のあと急に偉そうになる男・・・というのを、意図的に演じるようにも見えた。






ノロノロと顔を上げた奈津子は、いまだ覚めぬ余韻にけぶった眼を、藤井の股間へと向けると、重そうな体を前へと進めた。



もたげた臀の深い狭間から、たっぷりと射こまれた精汁が滴った。



だが奈津子は、汚された自分の体はそのままに、男の始末をするため、股座へとりついていく。



多量な男精と女蜜にまみれて、しかし力強さを残した肉根を、そっと握りしめ、顔を寄せた。



丁寧に舌で清めた。



清められた若い雄肉が漲りを取り戻すと、いっそう熟女教師の奉仕には熱がこもって。






「・・・フン・・・んんッ」






昂ぶった息に鼻を鳴らしながら、張りつめた肉冠を頬張り、首をふりたてた。






「久しぶりの味は、格別でしょう?」






頭上から訊かれれば、蕩けた眼に甘い恨みの色を滲ませて藤井を見上げたが、口の動きは止めない。






「次は、後ろの穴にブチこんであげましょうか?先生はアナル・ファックも大好物でしたよね」



「・・・・・・」






口を離した奈津子は、なんとも答えず。



ふっと表情をかげらせた。






「どうしました?後ろはイヤなんですか?」






意外そうに藤井が訊くと、奈津子は小さく、しかしハッキリと首を横にふって。



握りしめたままの藤井の肉体を、ゆるゆると扱きたてながら、






「・・・また・・・あなたと、こんなことになってしまって・・・」






弱い声で呟いた。



嘆くように、哀しげに。






だが、「・・・でも・・・明日には、あなたは、東京に帰ってしまうのね」そう続けた言葉こそが、本当に言いたかったことであるらしかった。






「そりゃあ、先生次第ですよ。東京といっても、電車で二時間だ。会えない距離じゃない」



「・・・・・・」






「先生次第です」






藤井は繰り返した。



勝ち誇るような倣岸な笑みを浮かべて。






「これまで通り、僕とのことはなかったことにして暮らすか。それとも・・・」



「・・・・・・」






奈津子は眼を伏せて。



そして、コクリと頷きを返した。






「じゃあ、もう少し楽しみますか」






藤井は、優しく奈津子の頬を撫でると、床に脱ぎしてたズボンを拾い上げ、ベルトを抜き取った。






「尻を向けて」



「あぁ・・・」






昂ぶりの声を洩らして、ネットリと熱をたたえた眼で藤井の手の皮のベルトを見やって。



奈津子は立ち上がる。



藤井に背を向けると、剥き身の豊かな乳房を揺らしながら、上体を前へと倒した。



両手を机に突き、両肢を大きく広げる。



高く掲げた巨きな臀に、グッと気合を滲ませて。






「う、打ってっ」






二年前に教えこまれた被虐の悦楽を、その肉と心に蘇らせて。



女教師は熟れ臀を揺すり、期待に震える声で懇請する。



かつての教え子、長い空白を越えて、再び彼女の支配者となった年若い男に。



白昼の密室に、肉打つ音と歓悦の女叫びが交互して響きはじめた。



窓の外、窃視者の姿は、すでに消えていた。






月曜日。



朝礼の場で全校生徒への別れを告げて、藤井は去っていった。



シンパの女子生徒たちは大袈裟に嘆き、敵視していた男子生徒たちは喜んだが。



どちらにとっても、しょせんは、ひとつのイベントが終了した程度のことだった。



すぐに話題にも上らなくなった。



その存在を忘却の彼方へ追いやれないのは・・・修一だけだった。



生徒の中では、ということだが。






奈津子の様子にも、変わったところはなかった。



学校では謹厳なベテラン女教師であり、家では良き母である。



母子の関係も、特に変わりはない。



相変わらず、良好といえる。






唯一、奈津子の生活の中の変化は、週末になると家を空けるようになったことだ。



土曜の午後から出かけ、帰るのは日曜の夜というパターンが多かった。



理由については、仕事がらみのこととされている。



そんな曖昧な説明しか、告げられなかったのだが。



修一はとくに追及はしなかった。



いそいそと母は出掛けていき、憔悴と充足の色をたたえて帰ってくる。



そんな姿を、冷静に観察している修一の眼を、気にかけるでもなく。



不自然な自分の行動についても、顧みる様子はなかった。



表面的には良好さを保っているとはいっても。



母子の会話は減り、心は通わなくなっている。



それについても、修一は、どうしようとも思わなかった。






そんな状態のゆえもあって、まだ母には告げていないが。



修一は、進学先を地元から地方の大学へと変えようと決めていた。



ランクも場所も拘らない。



とにかく現役で合格して、どこか遠くの地で、ひとり暮らしをする。



藤井が教師として母校に戻ってきてもいいように。



必ず、自分は、この街を、この家を出ていこうと、修一は決意している。