翌日からも、藤井の生活態度はなにも変わらなかった。
如才なく授業をこなし、取り巻きの女生徒たちと騒ぎ、男子の敵視を浴びながら残った実習期間を過ごした。
修一は、出来るかぎり藤井の動向を追いながら、その数日を過ごしたが。
知りえた範囲で、母と藤井の接触はなかった。
母の態度にも、なんら変わるところはなかった。
いまや秘密を知ってしまった修一にも、その表情や言動から、些かの変調も見てとることは出来なかった。
そして。二週間の教育実習は終了した。
日曜の朝。
「・・・修一。母さん、出かけるけど・・・」
「・・・んー・・・」
自室のドアの向こうから掛けられた声に、修一は寝ぼけ声で応えた。
「・・・食事、用意してあるから・・・」
ドアを開けようとはせず、休日にも珍しい息子の寝坊をとがめることもなく。
それだけ言い置いて、奈津子は去った。
「・・・・・・」
階段を下りていく足音が消えてから、修一はベッドの上に起き上がった。
寝ぼけた声は演技だ。
目は完全に覚めている──
実のところ、ほとんど寝ていないのだ。
母が部屋に入ってきたときの擬装のためだけの寝巻を脱ぎ捨て、素早く着替える。
そっとドアを開けて、忍び足に階段に寄った。
そっと階下をうかがった時、遠く玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
なおもしばし時間を置いてから、修一は一階に下りた。
母の姿はなく、玄関から靴もなくなっているのを確認して。
自分も通学用のスニーカーを履いて、修一は外に出た。
晴れた午前の空が広がっていた。
こそこそと我が家から脱け出した修一は制服姿だった。
身をかがめるようにして門扉に近寄り、道路をうかがう。
すでに母の姿は見えないが、それでいいのだった。
その行き先が、休日の学校であることを、修一は知っていた。
すでに、藤井の実習は終了した。
明日の月曜日、藤井は全校生徒に別れを告げて、東京へ帰っていく。
だが藤井は、母に拒まれたまま去る気はなかったのだ。
この街への滞在の最後の日である今日、藤井は母を呼びつけた。
今度はハッキリとした脅迫だった。
数日前の準備室での誘いのような、まだるっこしい遣り口ではなく。
奈津子の絶対の弱みである“写真”をネタにしての強制だ。
奈津子は従わざるをえない。
二年前と同じように。
その頃にも、何度もこうして藤井からの呼び出しに応じていたのだろう。
修一には仕事や所用だと偽って、望まぬ逢瀬へと出掛けていったのだろう。
二年前には、そんな母の言葉を疑いもしなかった修一だが。
いまは母の抱える秘密を、その鉄壁の仮面の下に隠した苦痛を知っている。
知っているが、なにも出来ないことは変わらない。
こうして・・・ひそかに母のあとを追いかけて。
その行為に、なんの意味があるというのか。
休日の通学路を、ゆっくりと修一は歩んだ。
足を速めて、母に追いつくわけにはいかない。
急ぎたいという気持ちがあり、引き返したいという気持ちがあった。
どちらに従うのが正しいことなのか、わからない。
決着のつかない心のまま、修一は母のあとを追っている。
これは、息子である修一にだけは、藤井との関係を知られたくないという母の想いを踏みにじることになるだろうか?多分、そうだろう。
それは理解していても、動かずにはいられない。
せめて、これから母が味わう苦痛を、共有したいという思いがあった。
ただ護られて、そのことに気づきさえしなかった自分への断罪の意味もこめて。
・・・本当は、辛い想像と戦いながらひとりで過ごすことには耐えられなかった。
結局、母の姿を見つけることはないままに学校にたどりついた。
グラウンドからは運動部の生徒たちが練習に励む声が聞こえていたが。
校舎の中はひと気もなく、シンと静まっていた。
それでも修一は周囲を気にかけながら、二階へと上がる。
藤井は実習期間、監督係である教諭の家に下宿していた。
実家が、いまはこの地から引っ越していたからだ。
当然、その部屋で女と(それも、同じ学校の女教師と)会うわけにはいかない。
かといって、ホテルの類を利用することもはばかられる。
女の家は論外だ。
だから、密会の場として、休日の校内という場所が選ばれたのだ。
そういういきさつを修一は知っている。
誰が教えたかは言うまでもない。
そんなことをわざわざ修一に伝える真意は、推し量るしかなかったけれど。
二階の廊下に出た修一は、息をひそめ気配を★して進んだ。
最奥の国語準備室、その隣りの資料室にたどりついて、そっと忍びこむ。
慎重に閉ざしたドアにもたれて、息を吐いた。
隣室からは、なにも聞こえてこない。
ひとの気配はあるように感じるのも、先入観からだろう。
そこでなにが行われているか。
見て聞くためには、前回のように窓から覗かねばならない。
(・・・本当に・・・)やるのか?と、いま一度自問する。
そこで行われていることを目にして、自分はこらえることが出来るだろうか?
激発せずにいられるだろうか。
自信はなかった。
だが、それでもいいと思って。
修一は、もうひとつの本音に気づいた。
どこかで自分は望んでいるのだ。暴発を。
藤井が母に非道を働く現場を見て、最低の悪党に汚される母の姿を目の当たりにして、ついにすべての自制を砕いてしまうことを。
その場におどりこんで、こらえ続けた拳を、あの男に叩きつけてやることを。
それは、ひとつの破局には違いなかった。
なにより、母の受ける傷は深いだろう。
あるいは、藤井は本当に“写真”を公開してしまうかもしれない。
少しでも冷静に考えれば、それだけはしてはならないことだ。
だが・・・本当はそれが正しい行動なのではないだろうか?
(・・・ダメだ・・・そんなこと。絶対に・・・)
修一はひとりきりの狭い部屋で佇んだまま、懸命に気持ちを落ち着かせた。
だが、危険な衝動は完全には消え去らなかった・・・と。
壁の向こうで、気配が動いたような気がした。
ビクリと反応して、修一はそちらを見やった。
・・・いずれ、迷っている場合ではない。いまさら。
もう一度、大きく息をついて。
修一は窓辺へと向かった。
音をたてぬように窓を開け、周囲をうかがってから、枠に腰を乗せた。
そろそろと。
細心の注意を払いながら、身を乗り出していく。
窓ガラス越しの、準備室の風景が視界に入った。
部屋の中央。
机に上体を伏せた母の姿。
俯いた表情はうかがえない。
高く掲げられた臀は裸だった。
スカートは腰までたくし上げられ、下着は取られている。
剥き身の大きな肉丘、差し込む陽光に艶々と輝くような滑らかな肌を、背後に立った藤井の手が撫で回していた。
「相変わらず、いいお尻ですね。ムチムチ張り切ってて、スベスベで」
愉しげに藤井が言う。
「正直、二年もたってるから、ちょっと不安だったんですがね。奈津子先生の見事なヒップも、タルんで崩れちゃってるんじゃないかって。杞憂に終わって、嬉しいですよ」
「・・・・・・」
奈津子はなにも応えない。
顔を隠したまま、机の上の両手は固く握りしめられていた。
「もしかして、僕と切れてる間、誰かほかの男にこの大きなお尻を抱かせてたんですかね?それで、こんなに色気を保ってるとか」
「・・・・・・」
「教えてくれないんですか?」
無言を貫く奈津子の態度は、硬い拒絶の心を表しているに違いなかったが。
「久しぶりだからって、そんなに固くならなくてもいいじゃないですか。楽しみましょうよ、昔みたいに」
藤井はおかまいなしに、猫なで声で囁きかけながら、ネチっこい手つきで奈津子の豊臀を愛撫する。
「うーん、どうやらもう少しほぐしてあげないと、調子が戻らないみたいだな」
臀肌を這いまわっていた手が、中心部へと移動する。
こんもりと盛り上がった双臀の狭間へと。
「・・・ん・・・」
奈津子のスーツの肩が強張り、微かな声が洩れた。
「ああ、この感触も久しぶり。柔らかいや」
喉を鳴らすように藤井が言う。
その腕の動きが、潜りこんだ手の蠢きをうかがわせる。
「・・・ふ・・・う・・・」
また奈津子がくいしばるような息を洩らす。
机上の拳にギュッと力がこもった。
「どうです?思い出してきましたか?」
「・・・・・・」
「こちらはだいぶこなれてきてますがね。この反応の良さも変わらないな」
「・・・ふッ、あッ」
一瞬激しくなった蹂躙の動きに、奈津子が頭をふりあげ短く高い声を響かせた。
あらわれた面は微かに上気して、眼鏡の下の双眸はきつく閉じられていた。
「・・・は、早く、済ませて・・・」
アップにまとめた髪を小さく揺らして、口早に奈津子は訴えた。
「うん?それって、もう待ちきれない・・・ってことじゃあ、ないですよね」
「早く、終わらせてッ」
鋭い叫びになった。
それは卑劣な脅迫に屈して恥辱に耐える奈津子の立場からは当然な心理だろう。
しかし、眉間に深い皺を刻み唇を噛み締めたその表情には、苦痛や嫌悪だけではなく、なにかに怯える感情が滲むようにも見えた。
・・・呆然と、修一は見ていた。
ただ眼前の光景を見つめていた。
意識は白く灼けついている。
覗きこむまでの煩悶も迷いも完全に霧消していた。
学校の一室で。
臀を晒して、男の玩弄を受ける母の姿。
ただそれだけの絵図に衝撃を受けて凍りついた修一は、つまり本当には理解していなかったということだった。
母は・・・これから藤井とセックスするのだ、男の欲望を受け止める女としての姿を晒すのだ、と。
そんな当然な現実をいまさらに突きつけられて。
しかし、もはや眼を逸らすことも出来ず。
凌辱者の手に嬲られる母の臀の眩いような白さに釘づけられながら。
息をつめて、ただ修一は見守る。
「早く済ませろ、か。本当に最初の頃に戻ったみたいだな」
妙に嬉しそうに藤井は言った。
その間も双臀のあわいに隠れた手に怪しい動きを演じさせながら。
「ねえ、奈津子先生。今回僕が実習生として戻ってくるって知ったとき、どんな気持ちでした?」
「・・・・・・」
「不安・・・は、あったでしょうねえ、やっぱり。僕が、まだあの画像を持ってたらって。それでまた関係を強要されるんじゃないかってね?」
でも、と藤井は続けた。
「そういう不安や怯えだけじゃなくて。少しは期待する気持ちもあったんじゃありません?」
「・・・馬鹿な・・・ことを・・・」
にべもなく奈津子は否定した。
わずかに乱れる息をこらえながら。
「ありゃりゃ。僕のうぬぼれでしたか。でも、先生のここは、僕の指を懐かしんでくれてるみたいだけどなあ」
「・・・・・・」
「ほら、だんだん溢れてきましたよ。わかるでしょう?いやらしい音が聞こえませんか?」
「・・・くッ・・・」
大きくなる玩奔の手の動きに、奈津子はくいしばる息を洩らす。
苦悶の皺は深くなり、生え際には汗が滲んだ。
「ブレーキをかけることはないでしょう。どうせなら、愉しみましょうよ。あ、それとも」
藤井はもう一方の手をふりあげると、固く緊張の色を滲ませた豊かな臀をピシャリと叩いた。
「アッ・・・」
「昔みたいに、この大きなお尻を打たれないと、エンジンがかかりませんか?」
「や、やめてッ」
「ベルトの鞭を浴びて、鳴いてみますか?あの頃みたいに」
「いやよっ」
奈津子は体をもたげて、背後へと首をねじって藤井を睨みつけた。
「そんなことは許さないわよっ」
「・・・そうですか」
あっさりと藤井は頷いて、
「とにかく先生は、早く終わらせて解放されたいと。わかりました」
諦めたように言うと、腰のベルトに手をかけた。
「まあ、しょうがないですね。結局今回も、写真をネタに言うことをきかせてるわけだし」
柄にもなく自嘲的な述懐を漏らしながら、ズボンとトランクスを脱ぎ下ろした。
「・・・ッ」
すでに漲った姿を現した逞しい肉塊に吸いよせられた眼を、奈津子はすぐに逸らした。
「ここは卑劣な脅迫者らしく、自分の欲望だけを果たさせてもらいますよ。しばし、ご辛抱を」
慇懃な言上とは裏腹な無遠慮な手つきで奈津子の臀を抱えこみ、腰を前へと進めた。
「・・・あっ・・・」
奈津子に竦んだ声を上げさせた暴虐の矛先は、そのまま無造作に抉りこんで、洩れる声を重い呻吟に変えた。
「・・・んん・・・クッ・・・」
「ああ、相変わらず、いい感じですね」
ブルブルと慄く豊臀をグッと抑えこんで、ゆっくりと貫きを続けながら、藤井は賞賛する。
「・・・ム・・・んああッ」
やがて長大な肉塊が根元まで埋まりこむと、奈津子の引き結んでいた唇は解けて、深いうめきをついた。
「フフ、完全に繋がりましたよ。どうです?久しぶりに教え子のを咥えこんだ感想は」
「・・・情けない、わ・・・」
背をたわめ顔を隠すようにして、奈津子は震える声をふりしぼった。
「あ、あなたなんか、と・・・また、こんなことを・・・」
「そうですか。じゃあ、やっぱり早いとこ終わらせましょう」
震える声で拒絶を告げる奈津子に淡白に答えて。
やおら藤井は激しい勢いで腰をふりはじめた。
「ヒッ!?んんッ、ちょ、ちょっと待・・・、アッ、」
前のめりに潰れかかる体を必★に支えながら、奈津子が上擦った叫びを上げる。
「そ、そん、ヒ、いきなり、アアッ」
「早く終わらせるためですからね。少し我慢してくださいよ」
「い、いやッ、やめ・・・ヒイイイッ」
「お、ようやく可愛い声が出てきましたか。もっと聞かせてくださいよ」
「・・・クッ・・・んん・・・フ・・・」
揶揄されて懸命に唇を噛み締める奈津子。
しかし荒々しい突き上げに押し出されるように、引き結んだ口の端から音が洩れる。
「・・・んッ・・・フ・・・んんッ・・・」
そして、その声は徐々に色彩を変えていく。
と、また唐突に藤井は苛烈な攻勢を止めて、深々と貫いていたものを半ばまで引き抜いた。
「フフ、グチャグチャだ。先生のジュースで僕のはベト濡れになってますよ」
「い、いや・・・」
羞恥の声を上げて、奈津子がかぶりをふる。
肩や背があえぎをつき、体が微細な震えを刻んでいる。
「ホラホラ、ここはムズがるみたいに僕のに絡みついて」
愉しげに言いながら、今度はゆっくりとしたリズムで、藤井は腰を送りはじめる。
「・・・アッ、アッ・・・」
「“ここ”と同じに素直になってくれれば、お互いにもっと楽しめるのに」
「ヒイッ、あっ、ダメッ」
「わかってますよ。ここでしょう、ここが弱いんですよね」
「アヒッ、イヤッ、アアアッ」
大きなストロークで攻め立てながら、藤井が卑猥に腰をまわせば、奈津子の声は切迫して、ほとんど純粋な嬌声になった。
両肘が崩れ、机に突っ伏した横顔は上気しきって汗にまみれている。
眼鏡ごしの双眸は潤んで、焦点をなくしていた。
「そろそろ率直な言葉を聞きたいですね。気持ちイイんでしょ?奈津子先生」
重く抉りこみ掻き回しながら、藤井が訊く。
机に頬を擦りつけるように頭を左右にふって、奈津子は精一杯の否定をあらわした。
「そうですか。まだ足りないというわけだ」
必★な抗いを哂った藤井は、汗にぬめる臀を掴んでいた手を、繋がった部分へとすべらせた。
立てた指を、ズブリと奈津子の後門に挿し入れる。
「ヒイイッ」
奈津子はギクッと顎を逸らして、甲高い叫びを迸らせた。
「い、イヤッ、そ、そこはっ」
「物欲しそうにヒクついてましたからね。ホラ、喜んで僕の指を食いしめてる」
悲鳴のような声を愉しげに聞きながら、藤井は指を注挿させた。
「アアッ、イヤ、やめて、そこは、アアッ」