キャバクラなんて仕事の付き合いでしかいかなかったし、
キャバ嬢のギャルギャルしい感じは好きじゃなかったんだ。
なのにオレは本気で惚れてしまったんだ。
そのキャバクラに初めて行ったのは4月頃。
取引先の人に連れられてお店に行った。
その時すでに3件目で酒の弱いオレはヘロヘロだった。
でもその取引先の人、(ドン小西に似てるから小西にしとく。)
小西は酒も強くて女も大好き。
金もあるしとにかく羽振りがいい人だった。
そのお店は小西の行きつけらしく、店に着いたら混み合った席じゃなくて
奥のゆったりした席に通された。
「オレちゃん、ガンガン飲みぃや!」
小西はご機嫌で女の子がつく前にボーイに酒を作らせて飲み始めた。
オレは既に吐きそうだったが「いいんすか!?いただきまーす!」
と言って立ち上がり一気飲みした。
一気飲みすると小西は喜ぶ。
本当にくだらなかった。
でもオレは小西に気に入られてから仕事をドンドンもらっていた為、
そうするしかなかったんだ。
「すいません!ちょっとトイレいいっすか?」
小西は「だらしねぇ」などと言っていたが、ペコペコしながらトイレに行った。
便座を抱きしめながら吐いた。
何度もうがいをし、鏡を見るとゲッソリした自分の顔に引いた。
時計はまだ22時。
17時から飲み続けてるオレにはもう限界は近い様に感じていたんだ。
あまり長くトイレにいると小西の機嫌が悪くなる。
オレは溜息をつきながらトイレを出た。
トイレを出ると目の前にザ・キャバ嬢みたいな髪がコンモリした女がおしぼりをくれた。
「エミでーす!おしぼりどーぞ!」
なんだコイツ?と思いつつもありがとうと伝えてテーブルに戻った。
すでに小西の隣には2人のキャバ嬢が付いていた。
「オレちゃんおそいがな!吐いてたんか?情けないのぉー!」
大笑いしながらキャバ嬢にオレの小言を言っていた。
「何言ってるんすか!久々のキャバクラなんで気合入れてたんすよ!」
満面の笑みで小西に言った。
「どんな気合やねん!まぁ飲みぃや!」
席に着くなり小西自らウィスキーをドボドボグラスに入れた。
「いっただきまーす!」
またオレは立ち上がり飲みかけたが口に入れた瞬間吐き気がして
少ししか飲めなかった。
小西が動いた。
「オレちゃん、それはさすがにねーんじゃねぇか?」
声のトーンが低くなった小西が真っ直ぐな瞳でオレを睨んだ。
「ちょ、少し時間を・・・」
「小西さんイジメたらダーメ!!」
小西についていたキャバ嬢が止めてくれたのだ。
「せやなー!ミクちゃんに言われたら仕方ねーのー!」
上機嫌でミクの肩に手を回しゲラゲラ笑う小西。
助かった。本気でミクに感謝していた。
さすがに場ゲロはマズイ。
でもこれ以上飲めないよ・・・。
吐き気の波が数分おきに襲ってくる。
先ほどおしぼりをくれたエミが焼酎水割りをつくる振りして水をくれた。
エミにも感謝を伝えて必○に吐き気と戦っていた。
でもさすが都会のキャバクラはキャバ嬢も気を使ってくれて優しいんだなとか考えてた。
エミとは何を話したかも覚えていない。
どれくらい時間が経ったかわからないがエミが去り別のキャバ嬢がオレについた。
結果から言うとオレは彼女に恋をすることになる。
「ユウでーす!隣失礼しまーす!」
キャッキャウフフな雰囲気を出しながら彼女は隣に座った。
「あ、ども。お願いします。」
それを言うのが限界なくらい吐きそうだった。
「飲んでますー?ってか顔真っ赤ー!」
嬉しそうにはしゃぐユウ。
簡便してくれ。
オレは本当に限界なんだ。
「せやろー?だらしないねん!コイツはホンマー!」
ゲラゲラ笑いながら同調する小西。
「本当に真っ赤ー!鏡見てみなー!」
そう言いながらユウは俺の手を引きながらゆっくりトイレに連れていってくれた。
「トイレに吐きに行くなら許さんぞ!」
小西が叫んだ気がする。
「指名もらいにイチャイチャするの!」
とかユウがうまい事言ってくれた気がする。
正直ここらへんは記憶が曖昧だった。
トイレに着くなり個室に駆け込み三発くらい吐いた。
個室から出たくない。というか出れない。
キツイ、くるしい。
胃液だけが糸を引いて口から垂れる。
何分たったかわからないがユウが個室をノックして声を掛けてきた。
「大丈夫?他のお客さんくるとマズいからとりあえずこれ飲みな!」
個室の上からウコンの缶を落としてくれた。
「ありがてぇ、ありがてぇ・・・」
なんかカイジを思い出していた気がする。
それを飲みきり、顔を洗いトイレを出た。
ユウがおしぼりを渡してくれながら「大丈夫?」とか聞いてくれた。
「本当にありがとう。助かった。」そうユウに伝え歩き出すと真っ直ぐ歩けない。
ユウが腕組みながらテーブルまで連れて行ってくれた。
「イェーイ!場内指名もらっちったー!」などとピースしながら小西に言うユウ。
「どうせ吐いてきたんやろー!ホンマにもー・・・」
とか何とか言われてた気がするがヘラヘラ笑うので精いっぱいのオレ。
ユウはオレの腕を組みながらニコニコ笑っていた。
しばらく休めそうだ・・・。
ホッとしながらボンヤリしてるオレにユウは携帯を見せながらはしゃぎ出した。
「ってかねー!猫飼ってるんだけど超カワイイの!見てみて!!」
ユウは携帯をいじりながら1人で興奮していた。
いやいや、そっとしてくれよ。
「これー!みてみて!」
視線だけ動かし携帯を見ると写メではなくメール画面だった。
よく読めない。
「ねぇー!かわいくない?ちゃんと見てよー!」
ユウが携帯をオレの目の前に笑いながら見せてくれた。
【カルーアミルク頼むけど、牛乳だけだから、飲みな?】
オレはうなずきながらユウに「ありがとう」と耳打ちした。
ユウは大きな声で「でしょー!ホントに可愛いんだから!」と
ニッコニコしていた。
なんかつられてオレも笑っていた気がする。
「他にも写メあるの!見てみて!」
次は何だ?早く牛乳くれ・・・。
ユウは携帯をいじった後、画面をオレに見せた。
「猫の名前を大きな声で聞いて!」
ワケがわからないまま聞いた。
「猫の名前なんていうの?」
「カルーア!カワイイでしょー!あ、そうだ!私もお酒頼んでいい?」
予定調和でバレるだろと思いながらもうなずいた。
「そーだ!カルーアで乾杯しよ!ね?いいでしょ?」
曖昧にうなずきながら小西を見たら、ミクのおっぱい必○に突っついてた。
作戦の意味ねぇじゃん。
でもここまで気を使ってくれるキャバ嬢って初めてだと思った。
ボーイを呼んだユウがコッソリ注文してくれた。
ほどなくしてカルーア到着。
真っ白やん。バレるでしょ・・・。
酔っ払ったオレでもわかるくらい真っ白なロックグラスを素早くオレに手渡した。
その時に指でロックグラス全体を隠すように持たせてくれた。
プロすげぇ・・・・。
本気で思った。
ユウも同じ持ち方をして「カンパーイ!」と言った。
ゴクゴク飲んだ。
優しい。牛乳がやさしい。
「そんなにカルーア好きなの?女々しー!」とか言いながらオレの方を向いて
背中で手元隠しながらユウのグラスと交換してきた。
オレはフーフー言いながら高いキャバクラはすごいなーとか考えてた。
二杯目の牛乳をチョビチョビ飲みながら口がヌメヌメしたら
焼酎水割りに見せかけた水を飲んでた。
さっきまでうるさかった小西はミクを抱きしめたり囁いたり忙しそうで
オレのことを一切かまわなくなった。
ユウは「よくキャバ来るのー?」とか「明日も仕事ー?」とか
当たり障りない質問をほどほどしてくれた。
後からユウに聞いたんだけど、この時の質問は
イエスかノーで答えられる質問しかしなかったらしい。
しゃべるのも辛そうだったからって言われた。
それにしてもいつこの店出るんだろう。
ボーイが「延長しますか?」とかも聞いてこないし。
そんなことを考えながら腕時計を見るともう1時だった。
「その時計カワイイ!!どこで買ったのー?」ユウがはしゃいだ。
「フォリフォ・・・」
「えー!?フォリフォリ?メンズもあるのー?レディース?」
ウンウンと頷いてるオレに対して
「メンズ?レディース?メンズ?メンズあるんだー!カワイイー!」
とか色々1人で言ってた。
こんだけしゃべらない客を楽しませてるように見せる努力だったんだよね。
その時は静かにして欲しかったけど、黙ってるワケにもいかなかったんだと思う。
そっから何話したかあんまり記憶にないけど、
「おい!オレちゃん!アフター行くで!」と小西が叫んで目が覚めた。
ずっとウトウトしてたみたい。
隣にはユウがニコニコしながらオレの手を握っていた。
「オレちゃん!その子とアフターしたいんやろ?スケベやなー!」
とか言いながら小西とミクとオレとユウの4人で店を出た。
だいぶ酔いも覚めたし、外の風に当たってると眠気も覚めた。
「お肉食べたーい!」とかはしゃいでるミクと小西が先に歩いて行って、
オレとユウは少し離れて付いて行ってた。
「本当に色々ありがとう。本当に感謝してます。」
素直な気持ちをユウに伝えた。
「えへへー!どういたしまして!良い女でしょ?」
と笑いながらユウは言った。
「ホントに良い女だよ。」
そう伝えた。
笑いながらユウはオレの腕に組んでいた手を話してオレの手を握った。
「?」
ユウを見ると、ユウは笑顔のまま小西に呼びかけた。
「小西さーん!コンビニでタバコ買っていいですかー?」
小西とミクは振り返り
「●●ってしゃぶしゃぶ屋に先入っとるからはよ来いよー!」
と叫び返してきた。
「走っていきまーす!」と手を振ってコンビニに俺を連れていった。
コンビニに着くと、ユウはウコンの力とレッドブルを持って俺のところへ来た。
「レッドブルぐらいおごってよね!」
相変わらず笑いながら話すユウ。
この子の笑顔見てるだけで酔いが引いていく気がした。
「もちろん!他には?」俺が聞くと、
「大丈夫!早く行かないと小西さんまた不機嫌になるかも!」
って言って俺の手を引っ張りながらレジに向かい、
店出て2人でウコンとレッドブルを飲んだ。
「ねぇ!見てみて!翼生えてる?」
そういいながら無邪気に背中を見せるユウがとても愛おしかった。
その後しゃぶしゃぶ屋へついて小西と合流。
ゲロ吐いて腹も減ってたので多少は食べれた。
ユウは本当においしそうにニコニコしながら食べてた。
小西も
「君はホントに旨そうに食べるのー!」という程だった。
「だって本当においしいもーん!小西さん連れてきてくれてありがと!」
ユウの笑顔に小西もデレデレ。
ミクが「ちょっとー!」とか言って小西につついてた。
しゃぶしゃぶ屋に着いてから初めてユウの事を色々きいた。
ユウは23歳でキャバは3年目。
大学通いながら始めて、卒業してからキャバ一本。
オレはなんでキャバやってるの?と聞いたら
踊る方のクラブを作る為に3000万貯めるの!と笑わずに言った。
オレは「へぇー」みたいに半笑いで言ったら
「本気だから!」と真っ直ぐ俺の目を見た。
その3000万もいろいろ計算しての金額らしかった。
「今いくら溜まったの?」と聞くと
「ひみつー!」とさっきまでの笑顔に戻った。
今まで同じ質問を色んなキャバ嬢に聞いたが、
たいてい「親の借金が」とか「留学費用が」とか
多分ウソなんだろうなって答えが多かったけど、
ユウの様な答えは始めてだったので意外だった。
他にも色々聞いた。
キャバやってる間は絶対に彼氏を作らない。(仕事辞めたくなると思うから)
色恋営業はしない。(揉めた時の時間がもったいない)
キャバ嬢として胸張って仕事する為に頑張ってる(所詮キャバ嬢とか言われたくない)
とかとか。
なんかプロ意識が高くてすごいと思った。
でも不思議に思ってユウに聞いた。
「でもさ、そんなに色々話したらお客さん引いちゃわない?」
「高級店だから安っぽい色恋求めるお客さんは少ないし、
それに後々の起業に向けて応援してくれる人も探してるから」
とあっけらかんと言った。
あくまでキャバは資金稼ぎとコネ作り。
でもやるからには全力で。
確かに話してると応援したくなってきていた。
それと同時にユウに惚れ始めていたんだと思う。
ちなみにユウは今ドラマでヒロインやってる韓国人に似てる。
色々話していると、小西が言った。
「オレちゃん、そろそろお開きにしよか。」
そう言って会計を済ませてミクと2人でタクシーに乗ってどこかへ消えて行った。
時間は朝の5時ぐらいだったと思う。
しゃぶしゃぶ屋の前で小西を見送ったオレ達はお互い顔を見合わせた。
「ごちそうさまでした!そしてお疲れ様だったねー。」
ユウは笑ってオレのほっぺたをつねった。
「どういう意味だよ!金は小西が全部出してくれたから今度本人に言ってあげて。
でも本当にありがとう!楽しかったし本当に助けてもらって感謝してます!」
ユウは笑いながら言った。
「えへへー!じゃあひとつだけお願いしてもいい?」
オレも笑いながら「何?オレに出来ることなら何でも言って!」と伝えた。
「今度おいしいスープカレー屋さん巡りに連れてって!」
え?オレはポカーンとした。
しゃぶしゃぶ屋でオレが札幌出身でスープカレーが好きと言ったら
ユウも大興奮してたけど、お願いがそれ?
「まぁ・・・いいけど。」
ユウに伝えると
「絶対だよ!いつならいい?」と聞いてきた。
あー、とか言いながらオレは気づいた。
なるほど。これは同伴の営業だな。
ユウは続けてオレに言った。
「今週の日曜日どうかな?私その日休みだからお昼ぐらいからとか予定空いてる?」
ニコニコしながらユウはオレに聞いてきた。
「空いてるけど、同伴とかしなくていいの?」
オレは恐る恐る聞くとサラッと言われた。
「気を悪くしたらゴメンね。オレさんが通える様なお店じゃないでしょ?
私は普通に本場のスープカレー好きな人のオススメ食べたいだけ!えへへ!」
あー、良いお客さんにもなれないんだとか思うと悲しかったし、
確かに通えるほど金もないし、なんか一瞬夢見た自分が悲しくなった。
「ゴメンね?怒ったよね?本当にごめんなさい。やっぱウソです。ゴメンなさい」
ユウは泣きそうな顔しながらオレに言った。
「怒ってないよ。その通りだし。でもウソって何?」
しょんぼりしたユウに聞くと
「本当にごめんなさい。ウソじゃないけど何でもないです。本当にすいません。」
さっきまでの笑顔は消え、ユウは悲しそうに何度も謝り続けた。
なんか複雑な気持ちだったけど、落ち込んでるユウは見たくなかった。
「だいじょーぶ!よし!任せて!オレのオススメの他にも色々調べてみるから!」
わざと明るく言った。
それでもユウは謝り続けてた。
「もう謝るの禁止!今日のお礼に奢るから日曜日楽しみにしてて!
それに次、謝ったら本当に怒るよ!」
今にも泣きそうなユウを見たら、なぜだかオレも泣きそうになった。
「うん・・・。ありがとう。でも本当にゴメ、あの・・んー・・・。」
オレは俯くユウのほっぺたをつねった。
「グズグズしないの!さっきの仕返し!」
笑いながらユウに言うと、「痛いー・・・。」って言いながら笑ってくれた。
「じゃあ私も仕返し」と言ってユウもオレのほっぺたをつねって来た。
「なんで仕返しだよ」って言いながら2人でジャレてた。
すごく、すごく楽しかった。
そしてすごくユウの事が好きになった。
「ってかこんな時間までゴメンね?明日ってか今日も仕事だよね?」
ユウは時計を見ながらオレに言った。
「うん、仕事だけど俺個人事業主だから全然大丈夫!ユウも疲れたでしょ?」
そう言うとビックリした顔で聞いてきた。
「え?会社員じゃないの?さっき言ってた仕事は?」
オレは名刺をユウに渡した。
「ほそぼそやってるよ。さっき言った仕事で個人事業主なの。」
ユウは「そうなんだー・・・。」って言いながら名刺の表裏を交互に見てた。
「あ、お客さんとして見たでしょ?」
笑いながら聞くと
「違うの!個人事業主ってやっぱり大変?なんで起業しないの?個人事業主のメリットって何?」
矢継ぎ早に聞かれた。
びっくりしながらもメリットデメリットをいくつか言うと
ユウは難しい顔しながら手帳を出してメモを取り始めた。
「いやいや、そんな真剣に聞かなくても。」と言うと
「経営者の人は私のお客さんに多いから色々聞けるけど、
最近個人事業主のお客さんいなかったから!生の声を聞きたいの!」
と眉間にしわ寄せて食いつくように聞いてきた。
思わずオレも「へぇー・・・」と若干引いてしまった。
するとそれに気づいたのかユウは急に「あっ!急にごめんなさい!」と謝ってきた。
「いや、別にいいけど。ユウはちょっと変わってるよね。」
と笑いながら言うとまたほっぺたつねられた。
「変わってるってなにー!?」って言いながら笑うユウ。
「痛いって。あ、ってか謝ったじゃん。怒らないとだね!」
とユウに言うと
「さっきとは違うじゃん!あ、そっか。そうだ!」
とか目をクリクリさせながら続けて言った。
「じゃあ、謝ったお詫びにラーメンおごるから食べに行こう!
そして話聞かせて!」
と笑いながら俺の手を引っ張り歩き出した。
しゃぶしゃぶ食ったばっかりなのにとか思いながらも
なんか楽しくなって2人でラーメン屋に向かった。
ラーメン屋についてからはひたすら仕事や法人化のリスクなどの話をした。
結局1時間くらい話して、連絡先交換して解散した。
家に着く前にごちそうさまメールが来てさすがキャバ嬢と思ったけど、
次の日の夕方に来たメールには税金や融資の受け方などの長文の質問メールが来て笑った。
やっぱり変な子だなって思った。
でも恋人は無理でも友達にはなれるのかなとか考えてた。
気づけばいつもユウの事考えてた。
早く日曜日が来ないかと待ち遠しかった。
待ちに待った日曜日。
それまで何度かメールはしたけど、電話はしなかった。
早く会いたくて、待ち合わせの20分前くらいに着いた。
ソワソワしながら待ってると約束の10分前にユウは来た。
「はやーい!待った?」
オレはユウを見て言葉を失った。
アフターの時の格好やドレス姿と違って、
お団子頭にメガネで森ガールの様な格好。
メイクもキャバの時と違ってすごくナチュラルメイク。
でもそれがめちゃくちゃ可愛かった。
「・・・いや、全然待ってないよ。ってか雰囲気だいぶ違うね」
会いたくて膨らんでた気持ちとキャバの時とは違うギャップにしどろもどろだった。
「ならよかった!ってか変?」
不安そうな顔で聞くユウに
「いや!全然!ってかカワイイ。うん。カワイイ。」
本当に見とれた。
「なにそれー!」って言いながら、ほっぺたつねってくるユウになんだか安心した。
「行こっ!ってかお腹ペコペコー!!」と言いながら歩き出すユウ。
俺が車で行くって言ってあったのにどこに向かってるの?と聞くと
恥ずかしそうに体当たりしてくるユウが可愛かった。
結果から書くとその日は11時に待ち合わせしてから
スープカレー屋3件回った。
その間にカフェ寄ったり、ペットショップに行ったりした。
ユウは辛いものが大好きだった。
3件とも辛さを増して食べてた。
ユウは本当によく食べる。
お腹一杯で休憩でよったカフェでもケーキ食べたりしてた。
でもやっぱり女の子で、写メを取ったり、それをツイッターに書いたりしてた。
ツイッターのアカウントを教えてもらった。
ユウがトイレに行った時に過去のツイートを見てみると
お客さんとは書いてないけど、同伴やアフターっぽいのが多かった。
でもその日のツイートには
「友達とスープレーなう」みたいな事が書いてあってとてもうれしかった。
しかもそれはオレにアカウント教えてくれる前に書いてあったんだ。
ニヤニヤしてツイッター読んでるとユウが戻ってきて
「エローイ!エロ画像見てたんでしょ!」って言われて必○に誤魔化した。
この日のユウの事がわかったこと。
辛いもの好き。
めっちゃ大食い。
動物と子供大好き。
虫大嫌い。
そして
オレが「いただきます」って言わなくてめっちゃ怒られた。
あと、バイクと麻雀が好きwww
変な子だけどドンドン惹かれていった。
ドライブしながらの会話でユウの考えを教えてくれた。
【ポジティブな事は小さなことでもドンドン言う】
ちょっとでもおいしかったら、すぐに「おいしー!」
子供見て可愛かったら「カワイイ!!」
甘いもの食べて「幸せー!!!」
それは全て本心でだからこんなにもニコニコ笑ってるんだと思った。
女同士の馴れ合いの「カワイイ」は嫌いだけど
ユウはオレがちょっと離れてても1人で笑顔になったりしてた。
そしてお店の人やペットショップのお客さんにも笑顔で話しかける。
コミュニケーション能力も高いけど、人柄が素敵だと本当に思ったんだ。
夜になって最後のスープカレー屋で食べ終わってのんびりしてると
ユウはその日初めて険しい顔でしゃべりはじめた。
「私ね、水商売始めてから一時期人間不信になったんだ。
お客さんはお金にしか見てなかったし、○のお客さんもいたりしたし、
指名の取り合いもしたし、別の派閥の女の子がバックルームで泣いてても
なんとも思わなかった。」
オレは黙って聞いていた。
「指名取ることに必○で、それこそ枕はないけど色恋営業もたくさんしてた。
そんな時にね地元の友達と久々に会ったらみんなに言われたの・・・。
ユウ変わったよね。人間じゃなくてロボットみたいって。」
ユウはまっすぐに俺の目を見て言ったんだ。
オレは何て言っていいかわからなかった。
ユウは続けて言った。
「悲しくてみんなの前でワンワン泣いたの。でもそれで何かスッキリして
人としてちゃんとしようって思ったの。誰かを騙したり蹴落としたりするのは
もう辞めようって。それをみんなに言ったら笑ってくれて、私も笑おうって思ったの。」
そう言っていつものニコニコしたユウに戻った。
結局俺は「そっか。」しか言えなかったけど、
色々あって今のユウがあるんだと気づいた。
どっかでバカっぽい今時の子って考えも正直あったんだけど
そんな風に勘ぐってた自分が恥ずかしくなったのを覚えてるんだ。
そっからはなんだか微妙な空気になった。
ユウは「変な事言ってゴメン!こうちゃんの考え聞かせて!」
って無理に話題変えたりしてきた。
でもオレにはそんな確固たる信念もなくて、
会社員で雇われのストレスから逃げたくて独立して、
でも結局は小西みたいな奴にペコペコしてようやく仕事して生きてる。
夢という夢もないし、物欲も大してないし、自分が何したいかもよくわからない。
オレには何にもないじゃないか。
そんなことを話した気がする。
ユウは全部オレが話した後に言った。
「目の前に私がいるじゃん!」
言われた時はユウは何言ってるの?って思った。
黙ってユウの目を見たら
「なーんてね!」ってユウは嬉しそうに、楽しそうに笑った。
オレは慌てて「やめろよー。そういうので男は好きになるんだよ」って言った。
そしたらユウはニッコニコしながらオレに言ってくれたんだ。
「だからこそ私は笑っていようって思うよ。何にもなくないじゃん。
経験も知識も人脈もお客さんも仕事もあるじゃん!」
「それはそうだけど・・・」と口を濁すオレに
「こんな小娘が偉そうにゴメンね。でも私はオレさんが好きだよ。
仕事の話もたくさん教えてくれるし、今日みたいなお願いも聞いてくれて。
それにね、今日は本当に楽しかったの!ありがとう!」
【好きだよ。】にどんな意味が含まれているのかはわからなくて
そこが気になってその後の会話はあまり覚えていない。
でも店を出る時にユウがオレに教えてくれた。
「ユウって言うのは本名なの!前は違う源氏名だったけどさっきの一件のあとに
ユウに変えたの。これ、オレさんにしか言ってない秘密だからねー!」
1人で楽しそうにピョンピョン跳ねるユウを見て、
このままでもいいのかなって思えたんだ。
それからはユウに夢中だった。
帰る時に家まで送るよって言ったらユウは即答で
「次の交差点でだいじょー・・・お願いしていい?」
思わず2人で笑った。
「言い慣れてるんでしょ」って言ったらペロって舌出すユウ。
家の前について、オレも家入れるのかな?とかちょっと思ったけど、
がっつくのは嫌だったし、本当に大事に慎重にしたかったから
必○に紳士気取ってユウに言ったんだ。
「今日はありがとう!楽しかった。また食べ歩きしようね」って。
そしたらユウはびっくりした顔してたんだ。
「どした?」って聞いたらユウは「いやー・・・」とか言いながら
窓の外見たりしてた。
これはもしかして行ける流れ!?押そうかとか考えてたら
「うん、やっぱこうちゃん良い人だね!」
って満面の笑みで俺を見るユウ。
それってどういう意味?イケルの?イケないの?
とかユウの目を見ながら真意を探ろうと必○だった。
「ゴメンね。ウソついた。私の家、もう少し奥なの。」
ユウはそう言ってゴメンってポーズをオレにとった。
「正直ちょっと不安だったんだ。店長やマネージャーでさえ相談聞いてくれた後に
キスしようとしてきたり家に入って来ようとするし、お客さんなら尚更だったから。」
ハザードを出したまま動きが止まっている車とオレ。
「だから基本的には家まで送ってもらわないし、家まで送ってもらっても大丈夫かなって
人でも必ず家の手前で降ろしてもらって逃げれる様にいつもしてるんだ。」
オレは前を向いてなぜか電柱を眺めてた気がする。
「大抵は猫見せてとか、お茶ぐらいいいじゃんとか言ってくるしね。」
ユウはどんな表情をしていたんだろう。
少しの沈黙の後、ユウは大声で言った。
「でも私、こうちゃんを全力で信頼するって今決めた!ゴーゴー!」
オレは動揺を隠すのに必○だった。
「なんだそれ?」とか言いながら車を走らせた。
本当の家の前に着くとユウはオレのほっぺたを思いっきりつねってきた。
「ちょっ!マジ痛いって!何っ?」
手を振り払うとユウは大爆笑しながら車を降りた。
「こうちゃん!本当に今日はありがとう!
キャバ始めてから初めて信頼出来る男の人出来た!また遊んでね!」
言い終えた後、ユウはニーって笑ってドア締めてバイバイしてきた。
オレは助手席の窓を開けてから
「痛いなー、ってかなんだよそれ。まぁ今日はオレも楽しかったよ!
また連絡するね!」
って言った。
ユウは「うん!」って言って全力てブンブン手を振ってくれたんだ。
俺も軽く手を振ってから車を走らせた。
少し先の大通りに出る前にミラーを見るとユウはまだ手を振ってくれていた。
そこからの帰り道はしばらくニヤニヤしてた。
でも、ユウはあんなに信頼出来るって言ってくれたのに、
オレは他の男と変わらないじゃないか。
結局ワンチャンスあればヤろうとしたじゃないか。
とか考えると自分に腹が立ってムシャクシャしたんだ。
気づいたら首都高乗って車飛ばして一周してたんだ。
しばらくドライブした後、「何やってるんだ?オレ」状態になり帰宅。
家ついて着替えたりシャワー浴びてから携帯見ると
1時間前にユウからメールが来てた。
「今日は本当にありがとう!こうちゃん良い奴!おやすみニャー!」
って猫の写メと一緒にメールが来てた。
もう時間も遅かったし、ガッついてると思われたくないから
明日メールする事にした。
翌日、
「おはよう!昨日はありがとう!楽しかった!
次は何食べに行くか考えといて!」ってメールした。
それからしばらくはメールを1日1通ペースでしばらく続けてた。
でも中々予定が合わなくて会える日は決めれなかった。
結局1か月メールする日々だった。
ユウからのメールは
今日は何食べたとか、こんなお客さんが来たとか、セクハラされたとか。
でも基本的にはポジティブな事しか書かれていなかった。
オレも何食べたとか、飲まされまくって吐いたとか、
ブログに書くような他愛もない内容だった。
ユウに会いたい、声が聞きたい。
でもユウはメールが帰ってくるのが遅くて、なんとなく電話出来なかった。
だからオレは考えた。
そうだ!お店に行こう!
会いたくて必○だったんです。ユウに会いたくて仕方なかったんです。
ユウが休みの日は週に1、2回。
特に金曜日は確実にいるだろうと思って金曜日に1人で行った。
仕事の付き合い以外でほぼ行くことがないし、
1人でキャバクラ行くのは27歳にもなって初めてで
とてつもなく緊張した。
普段持ち歩かない無意味な唯一のゴールドカードを財布に入れて
目一杯見栄張って30万円ATMで降ろしてお店に向かった。
店に着いたら満席でオレの前に4組待ってた。
その時気づいたピークだもん。そりゃそうよ。
それでも会いたいオレは1人で1時間近く待ってたんだ。
俺の他にも待ってるのに、金持ちそうな人達が来ては黒服がドンドン案内してた。
先に待ってた酔っ払いの客が黒服に文句言ってたけど、
「ご予約のお客様ですので」とか言われて放置プレイ。
オレが案内されたのは1時間半後だった。
ようやくユウに会える!
心臓がバクバクしてた。
ちなみにその日初めて知ったんだけど、ユウはナンバー4だった。
ユウすげーって思って1人でニヤニヤしてた。
待ってる時に「ご指名は?」と聞かれて
なぜか「ありません」って言ってしまっていた。
まぁ席に着いてから場内指名すればいいや。
でもそれってダサくね?
いや、でも今更「ユウ指名で!」って言いにくいしな・・・。
とかグルグル頭の中、回ってたんだけど、
結局席についてちょっと経ってから場内指名しようと決めた。
「はじめましてー!エミです!ってアレ?前に吐いてたお客さんですよね?」
君、確かに前にもついてくれたね・・・。
今日も爆発したようなデッカイ頭ですね。とか
心の中で呟きつつも「あ、ども。」とか急にコミュ障気味になるオレ。
「またエミに会いに来てくれたのー?うれしー!」
とか言いつつ腕組んでデカパイを押しつけるボンバヘッ。
やめてくれ、ユウにこんなとこ見られたくない。
ってかユウはどこだ?
見当たらない。
ボンバヘッの腕を振りほどき、「ちょっとトイレ」と言って
ゆっくり歩きながら店内を見渡すオレ。
あれー?おかしいなぁ。
トイレを出ると「ハンパネェ」とか芸人が言いそうな頭した人が
「また吐いてたりしてないー?」とか言いながらおしぼりくれた。
無言で頷いてゆっくり歩きながら再度店内をキョロキョロ。
席に戻る直前後ろから声を掛けられた。
「こうちゃん?」
振り返るといた。
小西だった。
悲しい事に小西もオレの事を「こうちゃん」と呼ぶ。
「こうちゃんやんけ!どうしたん?誰と来てるん?1人か?」
バシバシと背中を叩きながら上機嫌の小西。
「あ、あぁ・・・まぁ。小西さんはお仕事絡みで?」
いつもは小西に満面の笑みを向けれるのにさすがに不意を突かれると無理だった。
「ちゃうねん!ミクが会いたいーってうるさいから仕方なく今1人で来たんや。
そや!一緒に飲もうや!」
ガハハと笑いながら黒服に声をかける小西。
オレに拒否する権利はなかった。
小西が黒服と話している間に溜息をついて
「いいんすか!あざまーす!いやぁー運命っすよ!運命!
そろそろ小西さんと飲みたいなーって思ってたんすよ!」
と営業スマイルで言った。
小西は嬉しそうに「せやろー」とか言ってた。
心の中でうっせーデブって正直思ってた。
小西は空気が読めない。
それに完全に自分の考えが全て正しいと思ってる人間だ。
「そうや!その子指名したれよ!今日もオレの奢りや!遠慮するな!」
小西は大声を出してオレとサイババ頭に言った。
サイババも
「ホントにー!エミうれしー!」とか言いながらオレと小西の間に入り
2人の腕に絡まりながら奥の席に移動した。
自分達のテーブルの隣にユウがいた。接客中だった。
マジか・・・。
しかし小西の手前、何も言えなかった。
しかも指名した後に他の子をすぐに指名出来るの?
そんなことしたらユウにも迷惑かかるんじゃ・・・。
でも、でも、でも。
その時ユウはオレに気づいた様ですごくビックリした顔をしていたが
すぐに接客中の男の肩に頭を乗せて甘えていた。
嫌だった。
でも今の状況を見られるのも嫌だった。
「あれ?この前こうちゃんが指名した子やん!そやなー?」
小西・・・空気読んでくれ・・・。
本気で小西を殴りたかった。
接客中の客も嫌そうな顔をしていた。
ユウはニコっと首をかしげて客にまた寄り添った。
辛い、むかつく、うぜぇ、見たくない、見られたくない、
帰りたい、あ、そうか!帰ろう!
そうだ、今日は帰ってユウにメールか電話しよう!
「エミー、泡飲みたいなー?」
「よっしゃミクも来たし泡入れよか!こうちゃん!今日は飲むでー!」
最悪の2人が横並びで俺を攻めてきた。
「・・・今日は飲んじゃいましょう!」
俺は攻め落とされた。
完全にヤケになったオレはガバガバ飲んだ。
ウイスキー飲むとすぐに吐いてしまうが、シャンパンなら耐えれた。
それでもグラス3杯くらい一気に飲んだらフワフワしてた。
そんなオレを見てご機嫌の小西。
初めて自分から小西におねだりした。
「小西さん、もう一本泡いいっすか?今日は小西さんととことん飲みたいんす!」
ユウは見たくない。
隣のテーブルに背を向けパカパカ飲んだ。
なんだかエミまで可愛く見えて気がした。
今日は無かった事にしよう。
自暴自棄になるしか自分の苛立ちを鎮めることは出来なかったんだ。
途中で小西がワインに切り替えた。
オレと小西は2人でゲラゲラ笑って飲んでたんだ。
落ち着いた雰囲気の店内でオレらは浮いてたと思う。
エミが腕組んで来ようがもうどうでも良かった。
小西もいつもなら途中から一気飲みとかさせるのに
この日は無かった為、久々に気持ち良く酔っている気がした。
なぜかポッキーゲームでオレと小西がチューしたりしてたのに。
エミもミクもゲラゲラ笑ってた。
どれくらい時間が経っただろうか。
グラグラする視界にユウと隣の客が通過した。
オレは小西に言った。
「あの子指名していいすか?」
小西より先にエミが答えた。
「今日はエミがこうちゃんを独り占めするのー!」
小西はゲラゲラ笑いながら黒服を呼んだ。
すぐにエミは席を立った。
エミから名刺をもらったが、視界からエミが消えた瞬間に名刺をグチャグチャにした。
でもユウになんて言えばいいんだろう?
ってかどうでもいいか。
オレは客なんだし。
はぁー、最低だなー。
でも楽しいなー。
どうでもいいやー。
「ご指名ありがとうございます!ユウです!小西さん!ありがとー!」
「ガハハ!ちゃうちゃう!君を指名したんはこうちゃんや!」
ゲラゲラ笑う小西。
ユウの顔は見れなかった。
「こうちゃん?大丈夫?」
隣に座ったユウはそっとオレの太ももに手を置いて聞いてきた。
オレは「うん。」とだけ言ってワインを飲み干した。
「こうちゃん、すまんかったの。本当はこの子に会いに来たんやろ?」
・・・小西さん!
そうなんです!とか言えば笑いにもなるし、
ユウに対しても言い訳が出来たはずだった。
「いやー、別にそんなんじゃないっすよ。」
思ってもいないのに言葉が勝手に独り歩きする。
「そうなん?まぁええわ!楽しもうや!君もなんか飲むか?」
小西はオレの発言をサラっと流しユウに話しかけた。
「えーと、どうしよっかな・・・。」
そう言いながら、ユウは密着状態から拳ひとつ分オレから離れたんだ。
「じゃあー、カシオレで!」
ユウはいつもの張りのある声で黒服に注文した。
それでもオレはユウの顔を見れなかった。
ドリンクがテーブルに来てみんなで乾杯した。
オレはそれでも小西とミクの方ばかり見てしまっていた。
ユウを直視出来ない。
「今日はお仕事帰りなんですか?」
急に他人行儀なしゃべり方だった。
オレはびっくりしてユウの方をチラ見したけど、
目が合いそうでユウの胸元を見て頷いた。
「そうなんですかー。お疲れ様です。」
ユウの声の張りがなくなっていった。
「ども。」
オレはそれしか言えなかった。
「お久しぶりですね。元気にされてました?」
ユウが台詞の様に話す。
「はい。」
変な間が空いてから答えるオレ。
「そうですか。お元気なら何よりです。」
オレは耐えきれなくなって立ち上がった。
「ちょっとトイレ。」
フラフラしながらトイレに入って顔を洗った。
何やってんだオレは?
あんなにあいたかったユウに会えたのに。
まともに話も出来ない。
目を合わせることも出来ない。
何がしたいんだ?
・・・・・あ、
トイレから出たら絶対ユウが待ってるじゃん。
やばい!
どうしよう!
何て言おう!
さすがに何か言わないとマズいよな?
いやー、厳しいって!
でも何か言わないと!
ってかさすがにこの状況は目が合うよな?
気まずい!気まずい!きまずい!
そうだ!電話きたフリだ!電話したまま出れば大丈夫だ!
これだ!
これしかない!
後は勢いだ!
行け!
オレ!
オレは俯きながら「もしもしー?」と言いながらトイレのドアを開けてフロアに出た。
フロア音楽うるせー!
一瞬で自分の違和感に気づいた。
ユウがビックリした顔で立ってた。
オレはトイレに戻った。
いやいやいや!
あからさまに変でしょ!
明らかにユウびっくりしてたじゃん!
どうすんの?
どうしよう?
やべー!
マジやべー!
ってかオレ酔ってるな!
やべー!
やべー!しか出てこない!
マジやべー!
「ガチャ!」
ユウがトイレのドアを開けた。
目が合った。
オレは石の様に固まっていたと思う。
「電話終わった?」
ユウが顔だけトイレを覗きこんで聞いてきた。
オレは黙って頷いた。
「じゃあ小西さん待ってるし早く戻ろ?」
オレはまた頷いた。
でもその場から動けない。
ユウが心配そうな顔でおいでおいでしてる。
よくわからないけど、なぜかオレは鏡を見た。
オレは泣いてた。
ユウがトイレに入って来て、
「はい」って言われておしぼり渡された。
「ありがと」
それだけ言うのが精いっぱいで顔をゴシゴシ拭いたんだ。
トイレのドアがまた開いた音がしてフロアの音が流れこんでくる。
その後から酔っ払った男の声がした。
「え?なんでお姉ちゃんがいるの?」
オレは顔をおしぼりで覆ったまま何も言えず何も見れない。
「すいません!お客様が酔っちゃって!大丈夫ですか?まだ吐きそう?
もう大丈夫?とりあえず席戻ってお水飲みましょう!ホラ!戻りましょ!
お騒がせしてすいませーん!」
とか色々ユウが言ってくれてトイレを出た。
おしぼりをそっとユウが外してくれた。
「ゴメン・・・。」
オレはユウに言った。目は見れなかった。
「こうちゃん、何かあった?心配だよ。」
耳打ちしてくれたユウの言葉にブンブン首を横に振った。
前から別のキャバ嬢がおしぼりを持って来た。
トイレの客を出待ちし始めた。
「じゃあ今日は私も飲む!トコトン飲もー!」
ユウはハリのある声でオレの腕を組み席に引っ張っていってくれた。
「えっらい遅いご帰宅やのー!」
小西が怪訝な表情で言った。
オレが引きつった作り笑顔で「うっす」とだけ言って座った。
「小西さーん!こうちゃんが飲み足りないと思いませんー?」
ユウが初対面の時と同じようにノリノリな声で言った。
「せやなー!飲んでないからダメなんや!」
そう言いながらグラスにウイスキーをドボドボ入れた。
マジか・・・。
さすがにこの量は飲んだら吐くだろ・・・。
「もーらい!」
そう言ってユウが飲み干したんだ。
オレもミクも小西でさえもビックリして何も言わなかった。
「ウー。」
ユウは飲み干してから声を漏らした。
「おいしかったー!小西さん!私もワイン飲んでいいですか?」
ニコニコ笑うユウ。
「・・・おぉー!君えぇ飲みっぷりやな!よっしゃよっしゃ飲み飲み!」
オレは小西を見ずにずっとユウの顔を見てた。
「やったー!ワインだーいすき!」
そう言いながらユウはオレの手を握ったんだ。
オレは何がなんだかわからなかった。
「こうちゃん!おい!こうちゃん!」
小西に背中を叩かれた。
「あっ、はい!なんでしょう?」
振り向いて言うと
「なんでしょうじゃないがな!その子がこうちゃんの分飲んでくれたんや!
ワイン注いであげぇや!ってかこうちゃんもワイン飲み!」
小西に頭を叩かれながら言われた。
「すいません!注ぎます!飲みます!」
黒服を呼んでワイングラスを頼んだ。
その直後、ユウは俺に耳打ちした。
「ワインは飲めるの?大丈夫?」
オレは頷いてユウを見た。
オレがユウに注いであげたらユウもオレに注いでくれた。
ユウはワイングラスなみなみの注いできた。
こ、こんなに?
ニコってユウが俺に笑って
「かんぱーい!」って言った。
慌てて口を付けてゴクゴク飲んだ。
半分過ぎからがキツイ。
「絶対飲めや!」
小西が横から怒鳴る。
唇にワインが触れているがこれ以上飲めない。
隣で「うっぷ」ってユウの声が聞こえて空のグラスを置いたのが見えた。
やばい、ムリだ。
飲めない・・・。
「ホンマ飲まなかったらシバくぞ?」
例の低いトーンで小西の声が聞こえた。
プレッシャーで更に飲めない。
ミクの「やめてあげようよー」って声が聞こえる。
キツイって、
無理だって、
俺の右側から声が聞こえた。
「こうちゃん、無理なら私が飲むから」
多分オレは目を見開いたんだと思う。
一気に飲み干せた。
そしてその後の記憶は曖昧だ。
吐いたような吐いてないような。
よくわからない。
たしかその後、四人でカラオケに行った記憶がある。
次の記憶は
ユウの家だった。
目が覚めたら布団の中だった。
隣にはユウが寝ていた。
オレはヤッちゃったのか?
メガネどこだ?
暗い。
よく見えない。
でもこの子はユウだな。
ソワソワしてたらユウが目覚めた。
んー、おはよ・・・。・・・大丈夫?気持ち悪くない?」
寝ぼけた声でユウが話す。
「・・・・うん、ちょっと気持ち悪い。ってかゴメン・・・」
頭がガンガンしてきた。
「ちょっと待ってて」
そう言いながらユウは目をこすりながらポカリを持ってきてくれた。
「・・・ありがとう。」
そう言ってゴクゴク飲んだ。
ユウが「私も飲む・・・」って言って同じようにラッパ飲みした。
沈黙が重い。
ユウが口を開いた。
「仕事大丈夫?もうお昼なんだけど・・・。」
仕事・・・今日はどうでもいいや。
「・・・大丈夫。」
そう答えた。
「ってかゴメン、・・・記憶ないんだ。」
オレがそう言うと、ユミは笑った。
「ホントに大変だったんだからねー。」
大変って何やらかした?
「カラオケのトイレで寝ちゃうし、家わからないから免許書見せてもらったけど
遠いからここにタクシーで帰って来て、こうちゃんの肩持って運んであげたんだよ?
感謝してよねー?」
「マジか・・・ゴメン・・・。」
そういいながら気づいた。
オレ、パーカー着てる?
「あ、ゴメン!さすがにトイレで寝っ転がってて汚かったから服脱がして着替えさせちゃった!
あ!でも心配しないで!何もないよ!私も最初起きてたけど気づいたら寝てたけど。」
そう言ってエヘヘってユウは笑った。
布団をめくるとスウェットがツンツルテンになってた。
「ホントにゴメン・・・。」
気まずい空気だった。
「仕事大丈夫ならもうちょっと寝ない?ちょっと眠いや・・・。」
立ってたユウが布団に入ってきた。
オレは「うん・・・。」とだけ言ってベットの端に寄った。
「狭いでしょ?もっとこっち来ていいよ。」
ユウが背中を向けながら言った。
「大丈夫。」
オレは仰向けから壁に体の向きを変えた。
「もっとこっちきなって。」
「いや、大丈夫。」
「いいから。」
「・・・大丈夫だって」
「・・・ふーん。」
沈黙。
この状況は寝れないよ。
どれぐらい時間が経っただろう?
カチカチと時計の針の音が響く。
冷蔵庫のブーンという音が聞こえる。
ユウの寝息は聞こえない。
きっとユウは起きてる。
体の下にあった腕が痺れてきた。
でも寝返りはうてない。
腕がいてぇ・・・。
ユウに触れないようにゆっくりうつ伏せになった。
顔は壁を向いたままだ。
しばしの沈黙の後、ユウもモゾモゾ動いた。
ユウがオレの肘らへんのパーカーをギュッと握った。
オレはそっとユウの方を見た。
ユウは体をこっちに向けてた。
でも頭しか見えない。
「ありがとね」
呟いただけで心臓がバクバクする。
「うん。」
ユウも呟いてくれた。
「・・・大丈夫?」
ユウは微動だにせず言った。
「もう大丈夫。吐かないよ。」
オレがそう答えると、ユミが顔を上げた。
「それもだけど、そうじゃなくて・・・。」
ユウは涙目だった。
「うん。ありがと、大丈夫・・・。」
オレも泣きそうだった。
「大丈夫じゃないじゃん。泣いてるじゃん。」
涙声でユウは言った。
「大丈夫だって。」
オレの声も震えた。
「おし・・え・・てよ・・・。話して・・・よ。」
ユウは泣きだした。
オレはユウの方を向いて頭を撫でながら
「だいじょ・・ぶ、・・・だから」
そう呟くので精いっぱいだった。
そして2人で泣いてたんだ。
ユウはオレにオレの胸に抱きついて泣いていた。
オレもユウの小さな背中を抱きしめた。
声を抑えたいのにどうしても漏れてしまう。
そしてユウの頭に自分の頬をくっ付けたまま背中を
ゆっくり「ポン・・・ポン・・・」と赤ちゃんをあやす様にそっと叩いてた。
ユウはオレの左腕を腕枕にして泣きやんだ。
どのくらいポンポンしてただろう?
気づけば「スー、スー、」とユウの寝息が聞こえてきた。
オレはそっとユウの頭にキスをして目を閉じたんだ。
目が覚めた。
ユウはまだ寝ていた。
オレの左腕は全く感覚がなくなっているのに痛かった。
ユウを起こさないようにゆっくり腕をずらす。
枕にユウの頭をそろりそろりと動かしてる途中でユウも目覚めた。
「・・・んー、ゴメン、腕痺れたでしょ」
「ゴメン、起しちゃったね。」
ユウは首を横に振った。
「・・・こうちゃん、ちゃんと話して?・・・なんで昨日お店に来たの?」
ユウは目をシパシパさせながら言った。
「・・・それは、あの、」
「小西さんから全部聞いたよ・・・。」
「あ、あぁ・・。うん。」
「こうちゃんがちゃんと話して」
「・・・うん。ユウに会いたかった・・んだ、よね。」
「・・・それで?」
「でも偶然小西さんと会って流れでエミ指名になって」
「なんでそれなら最初から私を指名してくれなかったの?」
「いや、なんか」
「・・・なんで?」
「・・・黒服に言えなくて。」
「・・・どういうこと?」
「・・・」
「・・・黙ってたらわかんないよ。」
「・・・うん。」
「・・・意味わかんないっ!私に会いに来てくれt
オレは仰向けになって言った。
「初め・・・てだったんだよ!キャバクラに1人でいくのが初めてだったの!
仕事の付き合い以外でほとんど行かないし、なんかすごく待たされて、
指名聞かれたけどなんか緊張してかよくわかんないけど、とりあえず
言えなかったんだよ!そしてユウどこかなって思ってトイレ行ったりして
店内見回してたら小西と鉢合わせて一緒に飲むことになったの!
それで、流れでなぜかエミがついて、隣にユウがいてパニックになって
でもよくわかんなくて、だから飲むしかなくて、だかr
ユウは笑いながらオレの言葉を遮るように言った。
「だからあんな態度とったの?」
オレは天井を真っ直ぐ見ながら言った
「・・・とりたくてとったワケじゃない。」
ユウがクスクス笑いながらオレのほっぺたを軽くつねった。
そして言った。
「こうちゃん不器用過ぎでしょ」
急に恥ずかしくなったオレは壁向いてユウに言った。
「うるせぇよ。」
後ろからユウは抱きしめてくれた。
「ありがとう。」
オレは自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
「こっち向いて。」
ユウが優しく言った。
向きたいのに向けない。
「ねぇ、こうちゃん、こっち向いて。」
ゆっくりユウの方を向いた。
ユウは満面の笑みだった。
なんだかとても恥ずかしくてオレは俯いた。
ユウにほっぺたを両手で挟まれて顔を見合った。
そしてユウはオレにチュっとキスしてくれたんだ。
「エヘヘ!」ってユウは笑った後にオレを抱きしめて
やたらフーフー言ってた。
オレも思いっきりユウを抱きしめた。
たぶん抱きしめ合った時間は2,3分だっただろうか。
でもそれはとても長く長く感じたんだ。
そしてユウはオレの目を真っ直ぐ見ながら
ちゃんと言ってくれた。
「ごめんなさい」って。
私はクラブを作るのが夢で、そのお金を稼ぐにはやっぱりキャバしかない。
まだ約半分の約1600万しかお金が貯まっていない。
夢を諦めることは出来ないし、オレと付き合ったらキャバ続けるのが辛くなる。
そしたらもっと夢が遠のく。
だからごめんなさい。
オレの事は本当に大好きだけど、会うと辛くなるから
もうお店に来ないでほしい。
連絡もしないで欲しい。
今日が最後。
本当にありがとう。
そんなことを泣きながら言われたんだ。
オレは泣いてるユウを抱きしめながら、
何も考えられず、
ただユウの言葉と泣き声を聞いていた。
その日は夕方くらいまで布団の中で抱きしめ合ってた。
セ●クスはしていない。
ユウがそろそろ行かなきゃって言って、
準備を始めた。
「目がパンパンだー」とか泣き笑いしながら言ってた。
オレも着替えた。
「先行って。じゃないといつまでも踏ん切りつかないから」って言われた。
オレは情けないがまた泣いた。
泣きながら靴を履いた。
でも玄関のドアは開けれない。
後ろから「こうちゃ・・・ん」って言いながらユウは抱きしめてくれた。
オレはユウの方を向いて思い切り抱きしめた。
ユウは背伸びをしてオレにキスしてくれたんだ。
そしてまた抱きしめ合った。
「ホントにそろそろ行かないと!」
泣きやんだユウは真っ赤な目で思いっきり
「ニーーー」
って顔して笑ってくれた。
オレも泣きながらそれ見て笑った。
「バイバイ」って手を振って
「バイバイ」ってオレも手を振った。
そしてオレはアパートを出たんだ。
3週間くらい最低限の仕事しかしないでほとんど引きこもってた。
こういう時、個人事業はいいよなぁとか思ってた。
きっとこんな感情の時に覚せい剤とかあったら人は嵌って落ちていくんだろうなとか
何の為にオレは働いてるんだろうとか
なんとなくだけど、○にたいなぁとか
でも怖いなぁとか
痛いのヤダなぁとか
普段見ないテレビのバラエティ見ながら泣いたりとか
こんな気持ちでも腹減るんだなぁとか
でも食べたら吐いちゃって
なんかもー嫌だなぁとか
遠くへ行きたいなーとか
でも車に乗れないなーとか
いろいろいろいろ考えてた。
そんでそんで
やっぱり見ちゃうんすよwww
ユウのメール見ちゃうんすよwww
写メ見ちゃうんすよwww
やっぱ君カワゥィーネ!wwww
何度も何度も電話したくなるんすよwwww
何度もメール作って消しては作ってんすよwwww
ヒャッハーwwww
マジwwwオレwwwwキメェwwwwww
ヒョーwwwwww
ボロッボロっだったんすよwwww
でもねwwwやっぱ無理なんすよwww
仕事を辞めることもwwww
頑張ることもwwwww
どっちも出来ないwwww
テラwww優柔不断wwwww
情けねぇwww情けねぇwwwww
かゆwwwうまwwww
完全に精神崩壊してwwww
更にwww2週間wwwくらいかなww
引きこもり延長パーリナイwwwwww
とりあえずwwww6月中旬ごろだったなwwww
テラ小西wwwメールwwww
ユーガッタメールwwwww
「元気かー?久々に飲み行こうや!」
空気嫁wwwwデーブwwwww
写メもついてるwwww
デブwwウゼェwwww
ユウのキャバクラのランキングの写真?だった。
ユウはナンバーワンになってた。
オレはすぐに小西に電話した。
「もしもし?こうちゃんか?元気にしt
「あのっ!!ユウはナンバーワンになったんですかっ!?」
「なんやねん!久々の電話でまずはごきげn
「ナンバーワンなんですか!?どうなんですっ!?」
「あぁー、ユウちゃんならナンバーワンやで。写メ送ったやん!」
「・・・・そっか。頑張ってるんですね・・・。」
「久々に会いに行けばええやんけ!」
「・・・無理ですよ。」
「ほぇーやっぱ女の方が強いんやなー!男は女には勝てんわな!」
「・・・。」
「・・・会いに行きぃや!」
「・・・無理ですよ。それにオレg
「全部聞いたで!ユウちゃんから!」
「ユウちゃんクラブ作る為に金貯めとるんやろ?いつまでかかるかわからんけど
せやったらお前が足りない分の金出してやらんかい!」
「無理ですよ・・・。オレの全財産140万ですよ。」
「で?なんで無理なんや?」
「・・・いや、だからまったく届かないじゃn
「借りればえぇやん。」
「・・・は?」
「借りればええやんけ。」
「どこからですか?」
「オレは貸さんよ?そんなギャンブル夢物語には!ガッハッハ!」
「・・・やめてくださいよ。」
「・・・いや、お前本気好きなんちゃうんか?」
「・・・」
「ハッキリせぇや!男やろ!金かき集めろや!」
「・・・無理っすよ。」
「やってもいないのに無理言うなドアホ!!!!」
「公庫行けや!銀行行けや!信金行けや!」
「・・・オレじゃはした金しか借りれないっすよ。」
「・・・そのクラブの事業計画書は見たことあるんか?」
「・・・ないです。」
「ホンマに3000万必要なんかのー?」
「え?」
「話聞いた限りじゃユウちゃんのやりたいのは居抜きで行けるで。」
「でもクラブの居抜きなんt
「それがあるなら?お前どないすんねん。」
「どこっすか!あるんですか?」
「あるで。でもお前が本気じゃなきゃ教えん。」
「教えてください!」
「本気なんか?焚きつけてアレやけど、お前にホレた女の為に人生かける覚悟があるんか?」
「・・・」
「どないやねん?」
「・・・人生かけます。仕事じゃなく・・・ユウに人生かけます!」
「ほんなら教えるわ。オーストラリアのシドニーや」
「・・・はーーーーーーっ?!」
「ちょうどなー、オレ来年の3月からシドニーで飲食店やんねん。
そんでな、大箱のクラブのすぐ隣の物件でやるのをもう決めてん。
そしたらな、そのクラブが来年の5月でオーナーが店締めるって言ってんねん
ちなみにナンボなら出来るん?って聞いたら2200万やった。」
「・・・いや、でもユウが海外でクラブをy
「ユウちゃん海外でもぜひやりたいって言いよったで。」
「は?」
「もし出来るならやりたいって。一緒に出来なくてもそれまでに金貯めて
キャバ早く辞めてこうちゃんに会いたいって言いよったで。」
「・・・それ、ホントですか?冗談だったr
「じゃっかしぃ!ドアホ!冗談で○んだ魚つつくかボケ!」
「・・・」
「会いにいくで。今夜。」
結局、小西が最終的にキレて
オレの自宅まで乗り込んできた。
そして詳細の説明して数時間後開店直後のユウの店に行ったんだ。
店の前に着いただけで足は震えて汗が止まらなかった。
会いたいの気持ちと会うのが怖い気持ち。
海外?シドニー?意味分かんない。
グッチャグチャの頭で小西に蹴られてお店に入った。
ユウはまだ出勤してなくて、とりあえずガラガラの店内で待ってた。
ずっと喉がカラカラで足はガクガク震えてた。
小西が黒服に女はいらないと言っていた為、二人きりで待っていたんだ。
そして1時間ぐらいしてユウが来た。
ユウは固まっていた。
オレも固まっていた。
小西は女付けろと黒服に言って別の離れたテーブルへ移動していったんだ。
オレは何も言えずに、
泣いた。
ユウも泣いていた。
何も言わずに手を握ってくれた。
しばらく泣いた後、オレは震える声で聞いた。
「・・・元気?」
ユウはまだ泣いていた。
「・・・元気・・だよ。・・こうちゃんは・・?」
オレは必○に笑って言った。
「元気・・・だよ。」
「ウソばっかり!」
そう言ってユウはまた泣いた。
それでもオレは聞いた。
「ユウ、シドニーでクラブやるの?」
「やり・・たい・・・。」
泣きじゃくりながら言った。
「・・・日本じゃないんだよ?海外だよ?外国だよ?英語しゃべれるの?」
ユウの手を握り締めて聞いたんだ。
しばらくして何度も深呼吸してからユウはオレを見て言った。
「英語はこれから勉強する。シドニーはワーホリや旅行・留学で日本人も多い。
私は女の子が安全に楽しめるクラブをつくりたいの。
それに私は海外で働くのも諦めてたけど、それも夢だったの。
小西さんのバックアップもあるし、シドニーならチャンスはあると思うの。」
オレは思わず首を振った。
「甘いよ、甘すぎるよ。セキュリティーは?あっちのマフィアは?
採用は?教育は?税金は?法人は?何を考えてるの?甘すぎるよっ!」
過呼吸になりそうだった。
「何言ってるんだよ!勝算ないのにやって借金背負ったらどうするの?
それならまだ我慢してお金貯めて日本でやればいいじゃないか!
何年も頑張ってきたんでしょ?なんで勝算ないのに無茶なことするんだよ!
ギャンブルじゃないんだよ!ビジネスなんだよ!リスクのこと考えてる?
勝算ないのはビジネs
「うるせーーーーー!!!」
小西が叫んだ。
そして真っ赤な顔してオレらの元へ走ってきて思いっきり顔面殴られたんだ。
目の前が真っ白になってアゴが爆発したような気がした。
頬からアゴにかけて痛い!熱い!痛い!いたい!
口の中も鉄の味がした。
黒服が集まって小西を抑えつけてる。
ユウがオレを抱きしめながら叫んでた。
小西の怒鳴り声が聞こえた。
「ギャンブルは嫌いやねん!金稼ぎや!てめぇこの野郎!オレが今まで
お前を騙したことあるか!そんな付き合いちゃうねんぞ!お前が好きなんや!
可愛くて仕方ないんや!そんな大事なお前の人生掛ける女やぞ!
絶対に不幸にさせるわけねぇやろうが!それをテメェ!ブチ○すぞドアホー!」
オレは痛みやら怖さやら何が何だか分からなくなって、ただ震えてた。
小西はイスに押さえつけられてその後も色々叫んでた。
ユウはオレを抱きしめながら叫んでた。
「小西さんを放して!じゃないと今すぐ辞めるからっーーーーー!!!!」
黒服も小西も静まり返った。
オレはユウを見た。
真っ赤な目で黒服と小西を睨みつけてた。
怖かった。
初めてユウが怖いと思った。
「小西さんも絶対に暴力はやめてっ!わかったっ!?」
ユウは叫んだ。
小西は何も言わなかった。
「聞こえたっ!?わかったのっ!?返事っ!!!!」
他にいた2組ぐらいの客も黙ってた。
「・・・あぁ、わかったわ。もう殴らん。」
そしてとりあえず黒服は小西を放した。
それからユウは早退した。
オレと小西は出禁になった。
小西に殴った事は店出てすぐに謝られた。
「大丈夫です。」とだけ伝えて無言で店の前でユウを待ってると
すぐに出てきてタクシーで近くのバーへ行った。
そこはユウの行きつけらしく、個室のVIPルームに入った。
ユウが口を開いた。
「今後暴力を振るったらすぐに警察に突き出します。
絶対にしないと約束してください。」
小西は黙って頷いた。
そしてしっかりと頷いたユウは続けて話し出した。
「こうちゃんもちゃんと最後まで聞いて。小西さんは私とこうちゃんの関係とか
気持ちを知ってから色々裏で動いてくれてたの。日本でクラブやるなら小西さんも
出資してくれるって言ってくれたの。でもそれは私が断った。
それでも小西さんは何度も店に来てお酒も飲まずに私を説得してくれた。
でもどうしても自己資金でやりたかったの。そしたらシドニーの物件を教えてくれた
正直不安で最初は断ったんだよ。でも小西さんはリスク分散とシュミレーションを繰り返して
これなら成功する確率がとても高いってずっと言ってくれた。」
オレは小西を見た。
小西はそっぽ向いて壁を見つめてた。
「居抜きでオーナーが経営から退くけど、従業員やお酒の卸業者とかそれらは
全て引き継くことが条件なの。もちろん引き継いだ後に従業員が辞める可能性はある。
それでもスタート時はお金さえあればすぐに始められるの。
マフィア絡みもオーナーのコネがあるから大丈夫。税金や法律面も小西さんが
今も準備を進めてくれてる。
それに小西さんも小西さんの飲食店の立ち上げから半年は日本とシドニーを
往復してるし、全面バックアップしてくれるって言ってくれてる。」
ユウはオレを真っ直ぐ見て視線は、そらさなかった。
「でも小西さんの条件はひとつ言われた。」
オレは小西をみた。
小西もオレを見ていた。
ユウは大きな声で言った。
「その条件はこうちゃんと一緒にやることだったの!」
「それは無理って言ったのっ!こうちゃんを少しでもリスクあることに巻きこめないって!
でも小西さんはその条件は絶対に譲らないって!腐ったこうちゃんを見たくないって!
一緒に成功したいって!説得はオレも手伝うけど、こうちゃんにその意思がなければ
絶対にやらないってっ!こうちゃんを信じろって!!!」
そこまで言ってユウはワンワン泣いた。
オレは何も言えないなかった。
何も言えないし気づいたら首をずっと横に振ってた。
すると小西がオレに静かに言った。
「こうちゃんよ、オレとの付き合いは3年くらいやろ?その間色んな事あったやんな?
お前は絶対にオレに腹立ってる事たくさんあったやろ?それでもお前はオレの
仕事を絶対にこなしてくれた。無茶な飲みも必○に耐えてくれた。どんな理不尽にもや。
さっき言った事はウソやない。お前が好きや。お前に恩返しがしたい。
でも当のお前には仕事に対して高いモチベーションもない。キッカケを待ってたんや。
そしたら偶然ユウちゃんとの出会いがあった。もちろんオレも最初からどうこうなるとは
思ってもみなかった。でもお前は必○に愛してたし、ユウちゃんに振られて
初めてオレの仕事を拒否した。その時思ったよ。これは生半可な恋じゃなかったんだって。
だからオレはユウちゃんに何度も会って何度も話を聞いた。
中々言ってくれなかったけど最後には全てを話してくれた。
これが最初で最後のチャンスやって思った。オレの社員と同じかそれ以上、
オレはこうちゃんが好きや。そして強い、強いユウちゃんも好きになったんや。」
ゆっくりとオレに小西は話してくれた。
オレは小西とユウを交互に見た。
小西は続けた。
「ビジネスの細かい話は後で詳しく話すわ。まず、お前がさっきオレに言った
ユウちゃんに人生かける、その言葉に嘘偽りはないか?」
小西の目も真っ赤だった。
ユウも必○に泣き声をこらえていた。
小西はもう一度オレに言った。
「ユウちゃんに人生かけるんか?」
オレは小西を見た後、ユウを見つめた。
「・・・ユウに人生かけます!」
ユウは「ワーン!!!」と大きな声出して泣いたんだ。
そしてオレは次に小西を見て言った。
「そして小西さんにもずっとついていきます。」
小西は壁を向いて背中を震わせていた。
その後は色々あったけど
再来週のユウの誕生日にオレとユウは籍を入れます。
ユウは今月一杯でキャバクラを辞めます。
オレも今月で個人事業主を廃業します。
そして現地で法人を立てます。
社長はユウ、オレが副社長。小西さんは取締役になってもらうことになってます。
オレとユウは今必○に英会話スクールに通ってます。
そして来月頭から渡豪して2か月ワーホリして現地のネットワークを作って一旦帰国。
その後ビジネスビザ取って再度渡豪します。
最初は通訳付けたりすると思うけど、○ぬ気でやればなんとかなると信じてます。
だってオレには愛するユウと親父の様な小西さんがいるんだから。
ユウは今でもオレに言います。
「笑顔が大事だよ」って!
英語しゃべれなくても笑顔でなんとかなるよって。
正直ちょっぴり不安だけど、ユウの笑顔見ると出来る気がするんです。
キャバ嬢に本気で恋してた。
から
キャバ嬢ど本気で愛し合って結婚する。
に変わったんです。
回りくどい書き方してすいませんでしたww
ちなみに小西さんはもちろんオレらのビジネスで収益あげる仕組みも提示してます。
オレは金目当てじゃないからユウと一緒に入れればいいので問題ないです。
ユウもそれは納得して小西さんに色々教わってます。
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