僕らはそれぞれの道を歩き始めていた。
第一話
僕はいつものルーティーンとなっている作業中。
響「姉ちゃん起きなよ。今日は朝一の授業だって言ってたでしょ?」
奈「……。」
響「おーい起きなよー。」
奈「……。」
『またか』そう思いながら溜め息をつく僕。
最終手段のため姉の耳元に口を寄せ、
響「…奈々未、起きて。」
と囁く。
すると、ニヤリとした表情をしながら僕の首に腕を回して、
奈「…おはよう。」
と返事をする。
僕はその腕を外しながら、
響「そのくらいの声で起きられるなら、その前の声の方が大きいからそっちで起きてよ。」
奈「イヤよ。愛する弟の囁く声が私の1日の始まりを告げるんだもん。」
響「………。」
以前にも増してブラコンに拍車が掛かった姉。多分親の目が届かなくなったせいだろうけど。
奈「何?その蔑むような冷たい目は?」
響「そんな事言ってたら、もう起こさないからね。やっぱり父さんに頼んで別の部屋借りようかな。」
そう言って無表情のまま姉の部屋を出る。
奈「えっ!ちょっとごめん!冗談だって。」
慌てて部屋を出てきた姉に、笑いを堪えながら
響「心配しなくてもちゃんと起こすよ。僕、結構姉ちゃんのこと好きだからね。ほら朝ご飯食べよう。」
そう言うとプク顔で睨みつける姉。
響「はいはい、朝から可愛らしい顔ご馳走様。」
奈「もう…。」
今度は少し顔を赤くする姉。
奈「…支度してくる。」
響「うん。」
洗面所に歩いていく姉。
あれから7年の時が過ぎた。
僕は大学3年生に。『教師になりたい』という目標に向かって頑張っている。
札幌の大学に進学した僕は同じ大学の同じ教育学部に通う姉と一緒に暮らしている。
姉が席に着き、食事を始めると、
響「今日、大学の後バイトね。」
奈「そう。」
響「夜はみなみとデートだから。夜ご飯はいらないよ。」
奈「…そう。相変わらずラブラブね。」
響「おかげさまで。でも、みなみ朝早いから遅くはならないから。じゃあご馳走様。」
そそくさと片付け、大学に行く支度を始める。
響「僕、もう出るよ。」
奈「私も出る。たまに一緒に行こう?」
響「いいけど、僕寄る所があるよ。」
奈「みなみの店?」
響「昼ご飯はあそこのパンって決めてるから。」
奈「じゃあ私もそうしようっと。」
外に出ると、7月の強い日差し。
今日も暑くなるって天気予報で言ってたなと思いながら歩き始める。
少しすると、後ろから声をかけられる。
七「響、ななみんおはよう。」
響「やあ七瀬、おはよう。」
奈「なぁちゃんおはよう。」
声をかけてきたのは西野七瀬。僕らと同じ大学で同じ教育学部の3年生。
今年、選択した講義がことごとく同じで、一度グループ討論の班が一緒になったのがきっかけで、仲良くなった。
最初はあまり喋らず、声も小さかったが、単に人見知りが激しいためだったらしく、最近は可愛らしい笑顔と、穏やかな性格の割に芯の強さを僕らに見せてくれるようになった。
七「響、今日の一講目取ってたん?」
響「いや、二講目から。姉ちゃんは一講目あるけど。七瀬もそうでしょ?」
七「うん。じゃあ何でこの時間に出てるん?」
奈「コレよコレ。」
姉が小指を立てながら、ニヤニヤと話す。
響「ちょっと古くない?みなみ…あ、彼女が働いてるパン屋さんに行くから。」
七「…そうなんや。…ななも一緒に行ってもええ?」
響「うん。結構好きなんだよねあそこのパン。七瀬にもオススメだよ。」
ほんの少し、七瀬のテンションが低くなったのを僕は気づかないでいた。
奈『相変わらず鈍感な弟ね』
姉がそんな事思いながら横を歩いている事にも気づかないまま…。
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