突然、パッとライトがオンにされ、
まるでスポットライトの様に由紀の姿が浮かび上がった
誰からともなく、思わず「ほう」と溜息が漏れる。
セミロングの黒髪をひっつめにしたその細面の美貌は
遠目にもひと目で分かる。
生唾を飲み込んでから、何事かと周囲を見回すと
部屋中の男達が一斉に仕事の手を休めて由紀に見惚れていた。
そんな男達の中に、よく知っている顔を見つけて
俺は思わず叫んだ。
「お前、そんなもん何処から持って来たんだよ!」
「俺の所属部署を知らんのか?今日から同フロアだぜ」
同期の貞森が俺と同じくらいの大声で叫んだ
そうか商品部の撮影用ライトか・・・
俺と貞森の大声でのやり取りで、自分がライトに照らされ、
皆の注目を集めていることに初めて気づいた由紀が眩しそうに眼を細めながら
こっちを向き、品を損なわない小さな悲鳴をあげた
「貞森君、何をやっているのですか!やめてください!」
貞森”君”か・・・
そういえば昔から由紀は貞森を君付けで呼んでいたな
言いようのない嫉妬が胸に広がる
「やっぱ俺の策が良かったんじゃない?
由紀ちゃん明るくなったじゃん」
「高野の策? 確かに由紀ちゃん、久しぶりにイキイキしてる様には見えるけど・・・」
由紀に怒られて
すぐにライトを消した貞森が疑問符を顔に浮かべたが
俺は高野に向かって「まあな」とだけ答えた。
「あ!それは個人情報を含んでいますので鍵付きキャビネットにお願いします!」
「はい!それはその棚で大丈夫です!」
ずっと小気味良い声が聞こえてきている。
由紀にフロアの移転作業を仕切らせてみて
正解だったと心から思った。
ここのところ塞ぎがちで
由紀の精神の均衡はギリギリのラインでなんとか耐えている
そんな感じだった
しかも、気が塞いでいるせいで、
いつもの輝くばかりの美貌がその光を減じていた。
もちろん、その塞いでいる原因が俺自身だということは明らかだったが
だからこそ、そのままにしておくわけには行かった。
俺は考えた。
辛い日々の中でも由紀がなんとか踏ん張っているのは何故か
壊れかけの精神を支えているものは、何なのか?
「なあ市川、
うちに引っ越してこないか? 知ってると思うが
ちょうど当社は八重洲に引っ越すことになったんだ
新オフィスではまだスペースもたくさん余っているし、
引っ越しのタイミングでうちの部の一角に間借りする形にすれば、
事務所の賃借費用も抑えられるし何より仕事がスピーディーになると思うんだ
ぶっちゃけ、うちが八重洲に引っ越すと
お前の事務所から結構遠くなるから不便なんだよ、検討してもらえるかな?」
市川にしてみれば、なるべく費用を抑えたいだろうし、愛する妻とも同じフロアで働ける。
「本当にいいのか?」
二つ返事だった。
それからはトントン拍子で話が進んでいった。
肝心な由紀はどうかというと
愛する夫の傍で働けることになっただけでなく
市川が当社に常駐して働くということは
少なくとも当分の間は市川の事務所が取引を打ち切られる可能性は少ない
当然の様に由紀の表情にも徐々に明るさが戻っていった。
しかし、それでもまだ笑顔がイマイチだった。
嬉しくないはずはないだろうに、、、
もう一押しする必要がある。
そう考えた俺は人事部の高野に相談することにした。
「何か面倒な仕事でもやらせてみたらどうだ?
責任感の強い由紀ちゃんのことだ
のめり込んで”地獄のような辛いこと”を考えてる余裕なんてなくなるんじゃない?」
「”地獄のような辛いこと”とは酷い言い方だな?w
でも良いアイディアかもな、何か面倒な仕事あったか?」
「あるよ!」
その日のうちに高野はオフィス移転の総責任者だった総務部長に話を付け
由紀をオフィス移転実作業の責任者にしてしまった。
不思議かもしれないが
アルバイトにすぎない由紀が重要な仕事を任され
正社員にまで指示をする立場になったというのに文句を言う者は誰も居なかった。
それもそのはず、
類まれな美人の由紀が自分の下で面倒な引っ越し実務を取り仕切ってくれると聞いて
いつも強面の総務部長が、終始鼻の下を伸ばして恵比寿顔だったのだから。
高野の読み通り面倒なうえ責任重大な仕事を与えられては、
悩んでいる暇もなかったのだろう。
俺の期待以上に由紀の精神状態は良い方向に動いていた。
「バカ森のせいで男どもがソワソワ落着きが無くなったねぇ」
「ん?」
ふと見ると若い男性社員達がいつまでも由紀に粘ついた視線を向けている。
どいつも移転先のフロアを共有する別の部署の男達だ。
ちらちら見ている者もいれば、だらしなく口を開けて見惚れている者さえいた。
そうか!
由紀が退職した後に入社した奴らにとっては、初顔合わせになるわけか
「お!」
突然、高野が小さく声を上げた。
若い男達も固唾を飲んで身を乗り出す。
床に落した書類でも拾おうとしたのだろう
由紀が身を屈めたのだ。
だが、それもほんの一瞬のこと
すぐに由紀はスッと立ち上がってしまう。
「良いよなぁ、お前は下着はおろか、その中まで全部見れるんだもんな」
高野が剣呑な目を向けてくる
「まあまあ、それより
あの格好は良いな、由紀ちゃんにすげえ似合ってる」
俺は貞森が話題を変えてくれたことに感謝して、軽く頷いて見せる。
広めの襟元から白い肌を透かせる上品な鎖骨、ひざ丈スカートからすっきり伸びる脚線美
そして、何より胸元のみずみずしい膨らみ加減が男達の目を奪う。
ふふふ
自然と笑みがこぼれる
我ながら良いセンスをしている
俺が選んだ服装は男受けが良い様だ。
「何度見ても、どう見ても美人だよなぁ
まさに清楚を絵に描いた様なって、感じでさ」
「あのさあ、隣の部署の貞森は分かるが
お前は他の部署の引っ越し作業にまで顔を出して・・
人事ってのはそんなに暇なのか?」
「俺は皆を代表して催促しに来ているわけよ
自分だけ美味しい思いしやがって」
「だから、もう少しだって」
「なあ、それよりも、ちょっと気になっているんだけど
由紀ちゃん、あんなに胸あったっけ?
胸の形が良い感じなんだけど?」
「ああ、寄せ上げ盛りブラってやつだよw」
「え?そんなの付けさせてるのかよ」
「まあな
貧乳ってことだけが残念!とか、また誰かに言われないようになw」
「へえ、そんなことまで、言いなりにさせてるんだな・・・
それじゃあ、マジでもう少しなのか・・・」
殊勝にも高野がしおらしい声を出した。
だが、貞森は顔を寄せるようにして小声で囁いた。
「あの由紀ちゃんをよくそこまで堕とせたな
っていうか、だったら、もう少し色っぽい格好させろよw
ブラジャースケスケの服でも着させて会社来させたら、おもろいぞ」
「ちょ、おまっ」
高野が燥いだ声を出して慌てて口を押えた。
俺は二人のやり取りをよそに
若い男性社員達に指示している由紀の清楚な笑顔を眺めながら思った。
どう見ても
大勢の男達の前で尻の穴まで丸出しにさせられて良い様な女ではなかった。
だが、そう思う反面、この美貌をもっと貶めてやりたい
とことんまで辱めてやりたいという感情も芽生えていた。
あの由紀が赤らんだ顔で俯きながら、みんなの前でオールヌードを晒して身体を開いていく・・・
そんなシーンを思い浮かべた時、、
ちょうど由紀の顔が、とびきり美しい笑顔に輝いた。
「え?!」
あまりの美しさに思わず声が出た
だが、その美貌は俺ではなく入口の方へ向けられていた
市川が部屋に入ってきたのだ。
「来週の金曜にしよう」
思わず声に出ていた。
隣に居た高野と貞森が
「ん?」「何が?」とお互いに顔を見合わせた。
「だから、アイツをみんなで可愛がってやるんだろ?」
「マジかよ!いよいよ来週なのか!」
興奮した高野が唾を飛ばしながら叫んだ。
貞森は目を大きくしただけで、「声が大きい」と高野をたしなめた。
「とりあえず同期の男は全員呼べよ、市川以外」
「ぜ、全員って・・・それは流石に由紀ちゃんがもたないのでは?」
「馬鹿かw 全員でやるわけじゃないよ
まずはストリップショウだよ、丸裸をみんなの前で晒させる」
「なるほどね、いきなりヤられるよりはハードルを下げた方が良いか
でも、あの由紀ちゃんが皆の前で脱ぐとは思わないな
いくら脅しても、いざとなると出来ないもんだぜ。
脳が命じても身体が動かなくなるんだよ」
「なんだよそれ、じゃあどうすんの!
今更俺は納得しないぞ、いや俺だけじゃない、みんな納得しない」
貞森のセリフに高野が目を剥いた。
「高野、落ちつけよw
間違いなく、来週の金曜、お前はヤれるからw」
「ほ、本当か!」
「ああ本当だ。
だけど、俺の趣味としては、それだけじゃ満足できないわけよ
同期一の出世頭だった市川が同期一の、いや社内一の美女、
由紀を妻にした時、同期みんなで飲み明かしたよな?
お前らだって悔しがってただろ」
「まあな、式にも呼ばれなかったし・・・」
「そうそう、自慢話は散々聞かされたけど、
肝心な由紀ちゃんの花嫁衣裳は見せて貰えなかったよな」
「だからこそ、その自慢の妻の恥ずかしいところを
あの日のメンバー全員に見せてあげたいわけだよ、
それこそ隅々まで、じっくりと、俺としてはw」」
「ひでえ奴だw」 「その言い方は、何か手があるってことだな?」
「そういうこと」
その日、俺は貞森と高野に全てを話した。
話している途中から二人とも無言で生唾を飲み込むだけになった
そして話し終わると慌てた様子でトイレへ向かった
「お前ら出しただろ?」とは武士の情けで聞かないでやった。
つづく(6 恥辱のウェディングドレス)
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