「あのさ・・・お前に相談があるんだけど・・・」






職場の同期で、悪友とも言える早野からの電話を受けた。






俺「どうしたんだ?金ならねぇぞ」



早野「ばかっ!金なんかじゃねぇよ。木下(俺)じゃなきゃ、相談出来ねぇんだ・・・」






俺「あー・・・分かったよ。じゃ18時に」






俺は時間と場所を設定して、電話を切った。






俺は本社の経理部で課長をしている40歳。



早野は営業所の所長で、俺と同じ40歳。



俺は結婚経験がなく、早野はバツイチ。



早野の営業所と本社は近く、時々飲みに行ったりはしてたが、そんなに切羽詰った感じで相談なんて早野らしくないな・・・。



一抹の不安を覚えながらも、俺は待ち合わせの場所に向った。






俺「なんだよ、相談って?」






待ち合わせ場所の近くにあった居酒屋の個室で、俺と早野は向き合ってた。






早野「うん・・・あのな。俺・・・結婚するんだ」






俺「なにっ!俺が一度も結婚出来ないのに、お前は2度も?相手はどこのどいつだ?」






早野「いや・・・あの・・・サンシャインのアケミちゃん・・・」






俺「は?あのパブの?マジ?」






早野「うん・・・子供出来ちゃって・・・」






俺「アケミちゃんって、確か22歳じゃねぇか?18歳下だぞ。お前、そりゃ犯罪だぞ!」






早野「いや・・・あの・・・でもさ、出来ちゃったもんは仕方ねぇだろ?」






俺「ってかお前、いつ口説いたんだ?いつの間にだ?」






俺は声を荒げて尋ねた。






早野「いや・・・あの・・・口説いたって言うか・・・なんか流れで・・・」






俺「ふ~ん・・・それで?22歳の奥さんに14歳の娘?そしてすぐにまた子供が出来て?」






実は早野には前妻との間に14歳になる娘がいて、男手一つで育てている。



と言えば聞こえはいいが・・・。



若葉ちゃんっていう娘は、ホントに早野の娘か?って位しっかりとしたよく出来た子で、小学生の間はさすがに早野の母親が面倒見てたが、中学に上がると何でも自分でやるようになった。



グレたりもせず、学校の成績もいいと聞く。



今時珍しい本当に出来た子だ。






早野「実は、相談ってその事なんだ・・・」






早野は重い口を開いた。






俺「バカじゃねぇか!お前は!」






俺は早野を怒鳴りつけ、グラスのビールを早野にぶちまけた。



早野は俯きながら、「でも・・・本気なんだ・・・」と呟いた。






早野が言った事を要約すると・・・。



アケミとは結婚したい。



本気で愛してる。



アケミもまた・・・。



ただアケミは若葉ちゃんの存在を気にしている。



若葉ちゃんの母親にはなれる気がしないと。



だから、若葉ちゃんがいるなら結婚はしないと。






俺「そんな女、やめちまえ!」






俺は怒鳴った。



が、早野は「アケミと腹の子はどうなるよ?」と聞いてくる。






俺「んなもん・・・勝手にするだろうよ!」






早野「アケミはさ・・・俺がいないとダメなんだ。それに俺も・・・」






俺「じゃ何か?お前、若葉ちゃんをどうすんの?★す?養女にでも出すんか?」






俺は呆れて尋ねた。






早野「★せはしないけど・・・養女に・・・」






そして俺は、ビールをぶちまける事になった。



その後、早野とは喧々諤々となった。



早野のだらしなさに俺は情けなく、そしてかなり苛立っていた。






俺「分かったよ、このバカ!お前は若い女と好き勝手したらいいさ。若葉ちゃんは、俺が面倒見るよ!」






早野「ホントか?」






早野の嬉しそうな顔を見て、俺は(しまった・・・)と思った。






早野「お前ならさ、安心して若葉を任せられる。良かった・・・ありがとう木下。頼んだからな」






俺「いや・・・早野、ちょっと待て・・・今のは・・・」






早野「口が滑ったのか?取り消すのか?武士に二言か?」






俺「いや・・・だから・・・あの・・・」






一気に形勢逆転。






早野「お前から断られたらさ・・・若葉ってどうなるんだろ?どっかのエロじじいに囲われてさ・・・悲しい末路かな・・・」






(って、誰のせいやねん!)






俺「だから・・・その・・・早野さ~」






早野「頼む、木下!この通りだ!若葉もお前の事は慕ってる。これで皆が丸く収まるんだ。だから・・・頼む!」






拍子抜けしたって言うか・・・。



俺は早野に、返す言葉がなかった。






早野の行動は早かった。



その週の土曜日には、と言っても夕方になって早野は若葉ちゃんをウチに連れてきた。






早野「ほらっ、若葉。お前の新しいお父さんだ。ちゃんと挨拶して」






若葉「若葉です。お久しぶりです。いつも父がお世話になってます。あの・・・よろしくお願いします」






若葉ちゃんも可哀想だ・・・。






早野「えっと、木下。ちゃんとした父娘になるんだったら、養子縁組したがいいな。若葉は14歳だから、俺が代理人になってやるから」






俺「あのな~早野・・・」






早野「えっと、ちゃんと家裁に行ってから、それから・・・家裁には、来週の・・・そうだな。水曜日はどうだ?」






俺「いや・・・だから・・・」






早野「水曜日だぞ!分かったか?じゃ、俺、色々と忙しくてな。式の事もあるし・・・じゃ、若葉をよろしくな」






そう言うと、早野はさっさと帰ってしまった。



取り残された、俺と若葉ちゃん。






俺「ふーーーーっ」






思わず大きなため息をつく。






若葉「あの・・・」






若葉ちゃんが口を開いた。






若葉「あたし・・・迷惑ですよね・・・あの・・・帰りますから・・・」






俺「帰るって?どこに?」






若葉「いや・・・あの・・・友達のウチとか・・・お婆ちゃんの家でも・・・」






俺「友達のウチにいつまでいるの?お婆ちゃん?入院してるでしょ?」






早野の母親は認知症を発症し、今施設に入ってる事は早野から聞いて知っている。






若葉「でも・・・木下さん、迷惑でしょ?」






俺「いや・・・早野には腹立ててるけど、若葉ちゃんには罪はないから・・・」






若葉「そうですよね・・・父には、怒って当然ですよね・・・」






俺「ああ」






俺は相槌を打った後、再度ため息をついた。



若葉ちゃんも同時に大きな大きなため息をついた。



それが何だかおかしくて、2人で笑い合った後、またため息をついた。






俺は独り身だから、大きな部屋には住んでない。



2DKの安アパートを借りている。



早野がこの日に来るのは知ってたが、気乗りしなかったため部屋は何も片付けてない。



つまり、若葉ちゃんの部屋がない。



それを言うと、「大丈夫です。あたし、気にしませんから」って言うが、俺は気にするってば。



娘(まだ娘ではない)とは言え、年頃の娘と、同じ部屋には寝る事は出来ないだろ。



そう思い、奥の間を片付けようと思ったが・・・。



パソコンはあるし、体を鍛える為のトレーニングマシンもある。



釣り竿もあるし、ゴルフバッグに野球道具も・・・。



おまけに掃除をさぼってるせいで、埃まみれ(汗)






若葉「いいですよ、私・・・こっちで寝ますから」






若葉ちゃんは早々と荷物を置き、「この辺?」と指差した。






(ん?ちょっと待て・・・若葉ちゃん、布団は?)






「へ?」って顔の若葉ちゃん。






若葉「持って来てないですよ・・・持てる訳ないし・・・」






だよね・・・、俺、今夜布団なしだな。



でも、とりあえずは今夜を乗り切らないとな・・・。



俺はそう思い直し、若葉ちゃんを夕食に誘った。



歓迎会と称して。






若葉「木下さ・・・いや、お父さんですね」






俺「別に、どっちでもいいよ」






若葉「いや、お父さんです!えっと・・・お父さん?お父さんはどうして結婚してないんです?」






俺「そりゃ・・・モテないから・・・」






若葉「ウソですよ!あたしのお父さん・・・いえ・・・前のお父さんよりも、絶対・・・」






俺だってこの年齢だ。



結婚を考えた女が今までいなかった訳ない。



でも、中学生の若葉ちゃんに、そんな話をマジになってしたってね・・・。






俺は「ありがと」と答えて、その話を締めた。






その夜は、外食と言ってもファミレスで。



俺、ファミレスなんかほとんど行った事がない。



もしも結婚してて、若葉ちゃんみたいな娘がいたら、もっと行ってるんだろうな・・・。



でも結婚する前に、娘が先に出来てしまったよ。



そう思うと、不思議と笑えてきた。






夕食後、家に帰って風呂を沸かす。



若葉ちゃんに勧めると、「スミマセン・・・」と先に入る。



やがて上がった若葉ちゃんが、台所で着替えるのだが・・・。



台所と部屋の間の戸は閉まってる。



だが、戸は磨りガラスになっており、裸体の陰が・・・。



生で見るより想像力が増し、余計に興奮してしまう。



見ないように、見ないようにと心掛けるが、気にすると余計に。






「お父さん、どうぞ・・・」






若葉ちゃんが入って来たが、恥ずかしくて顔を見れない。



参ったな・・・。



風呂に入ると、軽く勃起していた(汗)






若葉ちゃんに布団を与え、俺はコタツで寝る事にした。



だが夜中に寒くてくしゃみが出る。



すると若葉ちゃんが起きてきて、俺に布団をかける。






(いい子だ・・・)






俺「ありがと・・・でも、若葉ちゃん、寒いだろ?」






若葉「いえ・・・」






俺「眠れない?」






若葉「はい・・・枕が変わると・・・」






俺「だよね」






若葉「あたしも、ここで寝ていいですか?」






俺「えっ?」






若葉「ダメです?」






だが若葉ちゃんは、俺が返事をする前に俺の横に潜り込んできた。






若葉「あったか~い・・・」






若葉ちゃんは、俺に身を寄せてきた。



俺・・・恥ずかしながら・・・鼓動が高鳴っていた。






だが若葉ちゃんが、「ふぇっ・・・ふぇっ・・・」と、突然すすり泣き出した。






無理もない・・・。



父親から、捨てられた子だから。



俺は思わず若葉ちゃんの細い肩を抱き寄せた。



若葉ちゃんは俺の胸に顔を埋め、尚も泣き続けた。



泣き疲れたか、程なく若葉ちゃんは寝息をたて始めた。



だが俺は、一睡も出来ぬまま朝を迎えた。






(明日、やっぱ早野に話して・・・若葉ちゃんはやっぱり引き取れない)






俺はそう決めていた。






空が白み始めたのは気付いてたが、いつの間にか俺も寝ていた。



気付いた時、若葉ちゃんはまだ寝ていた。



俺の腕を枕にし、俺の胸に顔を埋めたまま・・・。



足を俺に絡み付け、まるで恋人のそれのように。



時計を見ると、10時を少し回っていた。



俺が起きたのに気付いたか、若葉ちゃんも目を覚ました。



顔は俺の胸の中のまま、顔だけを上げて、「おはようございます」と言った。






俺が、「おはよう」と返すと、「今・・・何時ですか?」と尋ねてきた。






俺「10時を・・・少し回ってるね」






若葉「えっ?」






若葉ちゃんが顔を上げる。






若葉「た、大変・・・ご飯、すぐ作りますね」






体を起こそうとするが、狭いコタツに入ってるため、なかなか起き上がれない。






俺「いいよ!いい・・・俺、朝飯食わない人だから。それに・・・慣れぬ環境で、あまり寝れてないでしょ?ゆっくりしてていいよ」






若葉「そ・・・そうですか?」






若葉ちゃんはそう言うと、また俺の腕を枕にし、足も絡めてきた。






(おいおい・・・)






若葉「あの・・・お父さんともですね・・・一緒に寝た事なくて・・・。お父さん、あたしの事、放ったらかしで・・・。14歳で、何だか・・・子供みたいですよね?でも・・・ホント言うと・・・。だから昨夜、ちょっとドキドキしたけど、ちょっと甘えてみようかなって・・・。お父さんとは、なんだかうまくやっていけそうです。甘えん坊の娘ですけど、よろしくお願いします」






俺は言葉がなかった。



だが若葉ちゃんは、尚も俺にぎゅっと抱きつくと、こう続けた。






若葉「もうあたしを捨てないで・・・お母さんも、お父さんも・・・だからもう、あたしを捨てないで・・・」






そう言うと、また泣き出した。



俺は昨夜の決意をきっぱり忘れる事にした。



昼頃に起き出して、とりあえず奥の間を片付ける事にした。






俺「ここは若葉ちゃんの部屋にするから・・・そうだな。箪笥と机を揃えなきゃね」






若葉「机ですか?」






俺「うん・・・学生は、きちんと勉強しなきゃ」






若葉「コタツでもいいですけど・・・」






俺「だめだめ!机じゃなきゃ、身が入らない!」






若葉「は~い」






俺「それから・・・ベッドもいるな。パイプベッドじゃ・・・ダメ?」






若葉「ベッドは・・・いりません!」






俺「ん?布団を上げ下ろしするの?」






若葉「いえ、そうじゃなくて・・・お父さんと、一緒に寝ちゃダメですか?」






俺「はぁ?」






若葉「ダメ・・・ですか?」






俺はどうも、若葉ちゃんの上目遣いに弱いようだ。



片付けが済んで、箪笥と机を買いに行った。



かなりの出費だったが、可愛い娘の為だ、仕方がない。



それから・・・。



やはりベッドを買う事にした。



パイプベッドではなく、ちゃんとしたセミダブルを。



それに合わせ布団も購入。



やっぱ毎晩一緒に寝るわけにはね・・・。






「たまにならいいから」と言うと、若葉ちゃんは不服そうだったが、「は~い・・・」と頷いた。






本当に、可愛い子だと思う。






養子縁組が済むまで、若葉ちゃんを前の中学まで送るのが日課となった。



新学期までは、前の中学に通わせようと思ったから。






「縁組は春休みまで待ってやれ」と、早野を説得した。






突然転校とか、突然名前が変わるとかは、いくら何でも可哀想だ。



若葉ちゃんの日課は、「いいよ」と言うのに、炊事洗濯をきちんとこなした。



どんなに遅く帰っても、いつも起きて待っていた。



(勉強しながらね)



いい奥さんになると思う。






そして春休み・・・。



晴れて若葉ちゃんは、『木下若葉』となった。



転校の手続きも無事に済んだ。



若葉ちゃんは、本当に成績優秀だった。



公立ならば、この辺の高校はどこでも受かるって感じ。



だが当の若葉ちゃん、俺に気遣って、中学卒業したら働くつもりだったらしい。






俺「娘がね・・・親に気を使うもんじゃない!娘なんだから甘えなさい!」






そう言うと若葉ちゃんは目にいっぱい涙を溜め、「ありがとう」と抱きついてきた。



正直ね・・・いい父娘関係を築けてると、俺は感じてた。



ちと・・・少しだけね・・・ドキドキするが・・・。






<続く>