30分、1時間・・・、たまらず美保に電話した。






「ごめんな、さっき。もう家?」






「まだ渋谷ー。『アメリ』観たっち。すっごい良かった」






「なんだ。じゃあ今から帰るん?」






「ごはん食べて帰るけ、後でメールするー」






プツッ。






『今、1人?』






肝心なことが訊けなかった。



かなり飲んでんのか、テンション高いし。



美保はさほど酒に強いわけじゃない。



前後不覚になるほどは飲まないが、酔うと気が大きくなるところがある。



まさか居酒屋について行くような展開になるとは思ってなかった俺は、そこで激しく不安になった。



90分、2時間・・・、そこで北島から電話。






「もうちょいしたらタクシーで帰るわ」






「・・・結構飲んでんすか?」






「ぼちぼちだよ。真面目だな、美保ちゃん。まぁ5分5分かな?」






足が震えた。






「小倉弁?可愛いな、アレ」






そう言って電話は切れた。



電車じゃ間に合わない。



タクシーを捕まえる。



荻窪の環八沿いのマンション。



渡されてた合い鍵で中へ。



小綺麗にされた部屋。



洒落た間接照明。



寝室・・・セミダブルのベッド。



引き攣る顔。



部屋の電気を消し、クローゼットの中へ。



震える指で美保にメール。






『今日はほんとごめんな』






返信はない。



破裂しそうな心臓。



誰か助けてくれ。



美保の笑顔を思い出す。



過去を思い返す。



こんな俺に優しく笑いかけてくれた。



人に心を開く喜びを教えてくれた。



未来を思い浮かべる。



いつものように映画館前での待ち合わせ。



俺がプレゼントしたコートを着た美保。



変わらぬ笑顔。



大丈夫。



大丈夫。



大丈夫・・・。






突然の着信、北島だった。






「お前の負けかな。どうする?喰われちゃいますよ?」






粘着質な笑い声。



答えず、電源ごと押し潰すように切った。



どれぐらいの時間が経ったのだろう。



玄関のドアが開く音。






「とりあえず水飲む?」






北島の声。






「飲むー」






美保の声。



目の前が暗くなった。






「あーほんとだー。DVDがいっぱいあるー」






「テレビは寝室なんだよね。入りづらいっしょ。貸してあげるから自分んちで観なよ」






いつになく紳士的な北島。



美保は、その被った羊の皮に気づかない。






「うーん・・・そうやね。あ、これ観たかったんよー」






「あー、俺もそれ、まだ観てないかも。でも、いいよ」






「借りていいと?」






「うん。それとも今から一緒に観ちゃう?」






沈黙・・・。



その時、美保は迷っていたのだろうか?



俺の顔が一瞬でも脳裏をよぎっていたのだろうか?






寝室のドアが開いた。



セッティングされたDVD。



画面は見えなかったが音楽でわかった。



押井守の『攻殻機動隊』。



ベッドの縁にもたれかかり、しばらく観入る2人。



そして、北島が美保の肩に手を伸ばす・・・。






「あたし、彼氏おるんよ」






か細い美保の声。






「俺だって彼女いるよ。・・・でも今日だけは何もかも忘れたい」






は?何を忘れんだよ?



おい、北島、てめえ!






奥歯を噛みしめる。



口の中に広がる血の味。



飛びかかって殴りたかった。



ほんとに。



ほんとに。



なのに体が動かなかった。






それから俺が見たもの。



クローゼットの隙間から、俺が、焼けた刃で、両目をえぐるように見たもの。



心理描写は勘弁してくれ。



実は、そんときの俺の心の中が、今でもよく思い出せないんだ。






後ろから美保に抱きついた北島は、うなじから耳元の辺りに顔をうずめてしばらく動かなかった。



今考えると、俺の反応を窺ってたんだと思う。



しばらくすると、その体勢のまま美保の顔を自分の方に向け、キスをした。



美保の動きは、最初こそぎこちなかったものの、舌を吸われると自制が利かなくなったらしく、北島の動きに激しく応えていた。






「あたし、酔っとるんよ」






「俺も酔ってる。今夜のことは2人だけの秘密な」






ベッドに倒れ込む2人。



ニットのセーターが捲り上げられ、美保の小ぶりだけど形の良い胸が露わになった。



鷲掴みにし、ピンクの乳首を舌で転がす北島。






「んっ・・・あっ」






美保の口から吐息が漏れる。



そのままヘソに向かって舌を這わせ、スカートと下着を一気に引き下ろす。






「あっ、そこはやめっ、いけんて・・・んんっ」






北島は無視し、半ば強引に舌と指を使って美保のアソコを責め立てた。



指の動きが速くなる。






「あっ、やだ、なんか出ちゃう、やっ」






クチュクチュと大量の潮を吹き散らし、えびぞりになると、美保はピクッピクッと呆気なくイッてしまった。






「しゃぶって」






仁王立ちになった北島は腰を突き出した。



放心したような顔でボクサーブリーフに手をかける美保。



現れた北島のソレは既にはち切れんばかりに勃起していた。



長さは俺のと同じぐらい。



でも北島のはカリの部分がゴツく、黒光りしていて、全体的に暴力的な猛々しさを感じさせた。



美保は、そのアヒル口いっぱいにソレを含むと、ゆっくりと首を前後させる。






「彼氏にしてるようにやって」






そう言われた美保は目を固く閉じ、何かを吹っ切るように激しく頭を振り始めた。






「舌先でチロチロって、・・・そう、あー、すっげ気持ちいい」






にやけた顔でそう言った北島は、美保の口からソレを引き抜くと、半開きになったその口に濃厚なキスをした。






「美保ちゃんって、普段上に乗ったりする?」






「・・・うん」






北島は満足そうに頷くと、美保を抱えて自分の上に跨がらせ、その濡れぼそったアソコに下からアレをあてがった。






「ゆっくり腰下ろして」






美保は少しずつ、何かを確かめるように、自分の中へ北島のソレを埋め込んでいった。



完全に収まると、軽く息をつき、肩を震わせた。






「好きなように動いて」






北島に言われると美保は小さく円を描くように腰を回しだした。






「いけん、どうしよう、気持ちいいよ」






そう漏らすと腰の動きは徐々に大きくなっていく。



それに合わせるように北島も下から腰を突き上げはじめる。






「あっ、あっ、んっ、やだ、気持ちいいよ」






泣き出しそうな美保の声。



北島は猛然とペースを上げた。






「あっ!やだ、んっ、ちょっ、待って!やだっ!ねえ、お願い!やっ!」






美保の懇願を無視し、ものすごいスピードで北島は下から突きまくる。



美保の腰が浮き上がる。






「あっ!だめ、やだっ!すごい、あんっ、イク!イッちゃうよ!やだっ、ああっ!」






全身を朱に染めて、限界まで背中を反り返らせた美保はガクガクと体を痙攣させた。



そして、そのままぐったりと後ろに倒れ込む。



北島はすぐさま体勢を起こすと、美保の体を『く』の字に折り曲げ、さらに腰を激しく打ちつける。






「いゃぁあん!おかしくなっ!やっ!あんっ!あっ!イク!イク!イッちゃう!」






悲鳴のような喘ぎ声。






「すっげエロいのな、お前」






嬉しそうに笑う北島。



伸びきった美保の足を横に倒し、腰を抱えるように持ち上げる。



バックの体勢になると、再び勢いよく腰を振り始めた。






「やあぁん!あん!あんっ!こ、こわれ、あっ!はんっ!」






狂ったような速さのピストン運動。



美保の膝が浮き、手はシーツを握り締める。






「彼氏とどっちがいいよ?おら!なあ?」






美保はよだれを流しながら口をパクパクさせた。






「あぁ?聞こえねえよ、おら!」






「こっちのほうがいいっ!もう、あっ!あたし、変に、やっ!またイッちゃうっ!ああぁっ!」






初めての夜の美保の言葉が蘇る。






『なんかねー、愛のようなものを感じたっちねー』






心の砕ける音が聞こえた気がした。



俺はクローゼットを出た。



何も言わず玄関に向かう。






「えっ?何?えっ?」






美保の声。



そこで北島を殴るなり、かっちょいい捨てゼリフを吐くなりしていれば、その後の展開も変わっていたのかもしれない。



でもそん時の俺はなんつうか、ひどく疲れていて、全身の関節がつららのようで痛くて早く家に帰りたかった。



マンションを出て駅に向かったら、もう終電はとっくに出た後で、仕方ないから野方まで歩いた。



途中、携帯の電源を入れたら美保からの、おそらく時間的に荻窪へ向かうタクシーの中から送ったんであろうメールが入ってた。






『怒っとらんよ。でもやっぱり◯◯くんとアメリを観たかったよ。すごーくよかった。今年のベストワンやないやろか。パンフ買ったけ、明日学校で見したげる』






携帯はヘシ折って、自販機横の空き缶入れに捨てた。



そして声をあげて泣いた。






終わり。