僕は週末になるとおばさんのアパートに入り浸った。



一緒に昼御飯を食べ、歯を磨いた後、まだ陽が高いうちから交わった。



通りを走る車の音や、おしゃべりに興じている主婦たちの声、アパートの廊下を歩く親子連れの歌うアニメの主題歌などが、すぐ近くに聞こえてくる。



その壁1枚隔てただけの部屋で、僕とおばさんは布団の上で汗にまみれながらお互いを貪りあっていた。



なんとも言えない不思議な気分だった。






僕と交わっているときのおばさんは、従順でありながら奔放だった。



僕が望むことを躊躇いつつ受け入れ、僕が望んだ以上に声を上げ、乱れた。



その一方でおばさんは体を寄せ合っている時に・・・。






「私、この間まで妻子持ちの人と不倫してたの・・・。お互いに割り切ってね。今の仕事を紹介してくれたのもその人。別れたのは別にドロドロになったからじゃなくて・・・そうね、契約が終了したって感じ・・・あっさりとね」






などと、僕が聞きたくもない話をいきなり始めることがあった。



僕はそんなおばさんに翻弄されながらも溺れていった・・・。






「えっ、私・・・?言うの・・・?・・・そうね中学2年の頃だと思うけど、お風呂のときにシャワーをあそこに当ててたら『あっ・・・』ってなって・・・。そのまま当て続けてたのが最初かな」






その日もアパートに来ていた僕は、何かをきっかけにおばさんとそんな話になった。






「今もする?」






「えっ・・・今は・・・あなたがいるからしないわ」






おばさんは照れていた。






「僕は一昨日したよ。この間のあの格好を思い出しながらね。ほら、後ろ向きで片脚だけ・・・」






「もうやめてよ。さあ、お昼の支度をするから・・・」






立ち上がりかけたおばさんの手を握った。






「見たい」






「いやだ、出来ない」






僕は食い下がった。



後ろから抱き締め、首筋を舐めた。



こうすればおばさんの欲情のスイッチが入ることを、3回目に抱き合ったときに気づいていた。






「見たい、見たい、見たい」






おばさんの耳を甘噛みした。






「あん・・・もう・・・どうしてもしなきゃだめなの・・・?」






おばさんの声音がすぐに甘くなった。






「うん、どうしても」






「じゃ・・・後で」






「今見たい」






僕はきっぱりと言った。



おばさんはスカートを捲り、ベージュ色のショーツに手を掛けて足首から抜き取った。



僕はおばさんの前に座った。






「恥ずかしい・・・」






座布団を敷き壁に寄りかかると、おばさんは腰を浮かしてスカートをたくし上げた。



おばさんの下半身が剥き出しになって僕に晒される。



僕は思わず唾を飲み込んだ。



右手が開かれた脚の中心へ、ゆっくりと伸びていく。



おばさんはまず3本の指で全体を優しく撫でた。



そのうち中指が少しクイッと曲げられ、裂け目を行き来しだした。



目を閉じたおばさんは口を半開きにして上を向いていた。






「・・・ああ・・・ああ・・・ああ」






いつの間にか裂け目からは泉が溢れ出していた。



今度はおばさんの左手がするすると中心まで伸び、人差し指と中指とで裂け目の上辺りを引っ張るように引き上げた。



おかげですでに充血したおばさんの敏感な突起はよりはっきりと周囲から際立った。



右手の中指が突起を下から上へと掻いていく。



おばさんの声が切なくなった。






「・・・ねぇ・・・来て・・・来て・・・」






言われるまでもなかった。



僕はジーンズを下ろしてスキンを着けると、体を横たえているおばさんに突き立てた。



おばさんのシャツのボタンを外し、ブラジャーを首のところまで引き上げて胸を露わにした。



おばさんのあられもない姿にさらに僕は脈打った。






「自分で触ってるところ、すごく興奮した・・・両手を使うなんて知らなかったよ」






「やだ・・・言わないで・・・ねぇ・・・入れて・・・もっと・・・奥まで入れて・・・」






僕はおばさんに意地悪したくなった。






「入れてって、何を?」



「やだ焦らさないで・・・あれ・・・入れて」






「あれじゃわからないよ」



「お願い・・・あれよ・・・あなたの・・・大事なあれ・・・」






「・・・って言って」






僕はおばさんの耳元で囁いた。






「いやだ・・・恥ずかしい・・・言えない・・・」






「じゃ・・・ここでやめる」






「やだ・・・ねえ・・・やめないで・・・」






おばさんは首を振っていやいやをした。






「私の・・・に、あなたの・・・を・・・て下さい」






おばさんは僕が言った言葉をぼそっと口走った。






「聞こえない」






冷たく言い放った。



おばさんは大きな声で繰り返した。



僕はおばさんの両脚を肩に掛け、一気に深く突き刺した。






梅雨明けと共に夏休みになった。



おばさんは平日は仕事があるので、週末におばさんのアパートを訪れる。



僕のスケジュールに変わりはなかった。



僕は週末までの間、次に逢ったときはおばさんとどんな風に楽しもうかと夢想して過ごしていた。






「ねぇ、今日は外に出ましょうよ」






おばさんは部屋に来たばかりの僕の手を引いた。



僕は部屋で今すぐにでもおばさんと抱き合いたかった。



おばさんもそれを待ち望んでいると思っていたのに・・・。






「私たち、いつも部屋の中ばかりじゃない。たまには出ましょうよ。いいでしょ?さぁ」






渋る僕をおばさんは半ば強引に車に乗せた。



車は山へ向かい、やがて小さな展望台のある公園の駐車場で停まった。






「わぁキレイ。海が真っ青」






展望台に立つと眼下に市街が見渡され、その向こうに夏の青空を映した海が広がっていた。



ちょうど定期船が出港するところで、汽笛がここまで聞こえた。



ここへは幼稚園の頃に両親と来て以来だった。



その頃はここも結構賑わっていたが、今は来る人も少なくなり寂れていた。



時間も早いせいか見渡しても僕たち以外は誰も居なかった。






急に風が吹いた。



おばさんのスカートが捲れ、太腿まで見えた。



おばさんは慌ててスカートを押さえている。



おばさんの体の隅々まで見知っているのに、その姿に僕はどきんとした。



僕は周囲に誰もいないことを確かめると、後ろから抱きついた。






「私のアパート、あの辺りかな・・・」






僕が首筋にキスしているのに、おばさんは何の反応も示さず風景を眺めていた。



ムキになった僕はおばさんの胸を弄り、ブラウスの上から頂をつついた。






「ねぇ、前に私、不倫してたって言ったでしょう。その時ね、その人の家に行ったことがあるの。付き合い初めの頃で、ちょっと舞い上がってたのね。その人がその日出かけて家に居ないことは前の日に聞いて知ってたから、別にいいかなって思って」






僕はおばさんのブラウスの中に手を入れ、直接胸を揉んだ。



片方の手はスカートの中に潜らせショーツを引き下ろそうと手を掛けた。



僕はここでおばさんと交わろうと決めた。






「その頃、まだ外交やってたからお邪魔しても全然不自然じゃないし。現にドアを開けた時は緊張して声が震えたけど、留守番してたその人の子供には怪しまれなかったわ」






おばさんのそこは全然濡れていなかったが、僕のをあてがえばどうせおばさんのことだ、いつものようにすぐ潤って腰を動かすだろうと考えた。



あいにくスキンは持ってきてなかったが、1回くらい付けなくても大丈夫だろう・・・。



僕は自分自身をジーンズから引き出した。






「で、結局、私たちは別れて・・・あの人に何の未練もなかったはずなのに・・・。でも、あの人の子供を偶然街中で見かけたとき、ふいに悪戯しようと思ったの・・・あの人の自慢の子供にね・・・」






話を止めないおばさんに僕はいらいらした。



早く繋がっておばさんを喘がせたかった。



ここでまた卑猥な言葉を叫ばせるのもいいなとも思った。



僕はもう一度周囲を見回した後、おばさんの白いお尻を剥き出しにして後ろからあてがった。






「私はその子を誘った。私が願った通り、その子はまた私に逢いたいと言った。でも私は約束してもすっぽかすつもりだった・・・。それが私の悪戯・・・ううん、今考えると復讐だったのかもしれない・・・」






僕の動きが止まった。



胸が何かに押されたようにドキドキして、息苦しくなった。






「でも、とっくに帰っているだろうと思っていたあなたが、私との約束を信じて公園のベンチに何時間も座ってるのを見たとき、私の気持ちはいっぺんに・・・」






おばさんは腿の辺りまで引き下ろされたショーツを穿き直した。



僕もおずおずと自身をジーンズに仕舞い込んだ。






「子供の怪我の話は本当よ。あの日の少し前のことだったけど・・・。これで私の話はおしまい・・・」






おばさんは振り向いた。






「なんで・・・そんな話を今頃になって・・・」






おばさんは僕の問いに答えず・・・。






「いい空気を吸って気持ちよかったぁ。私は帰るけど送ろうか?」






と、事も無げに言った。






「1人で歩いて帰る!」






僕は声を荒げた。






「そう、じゃあね・・・」






「ちょっと待てよっ!」






おばさんの肩を掴んだ。



俯くおばさんの目から涙がこぼれていた。






「さよなら・・・」






おばさんは僕の手を振り解くと、後ろ手でバイバイと手を振り、展望台を下りていった。






「こっからなんだよなぁ・・・」






僕は、ため息交じりに独り言を漏らした。



あの本屋があった場所の、道路を隔てた正面に僕は立っていた。



本屋があった場所には小さなビルが建ち、1階は託児所になっていた。






2年前、ここで本屋のおばちゃんとの経験がなければ、美雪の母親との関係はまずなかった。



美雪も外国に行かず、美雪を抱く機会もなかった。



経験のない僕は、おばさんの誘いにも怖気づいて乗らなかったかもしれない。



僕はいつか経験できる日を夢見て、悶々とした毎日を過ごしていただろう。



この場所から僕は別の人生を選んだような気がした。






おばさんと展望台で別れてから3週間が経っていた。



僕は何度かおばさんのアパートに行こうかと思った。



おばさんを罵倒しに?



それとも許して、また元のように・・・?






自分でもどうしたいのか判らなかったし、結局行かなかった。



行ってもおばさんは再びドアを開けてくれる気がしなかった。



そうしない為におばさんはああいう別れ方を選んだのだろう。






思えば僕はおばさんのことが好きというよりも、僕の自由になるおばさんが好きだった。



おばさんはとっくにそれを見透かして、お互いの為にすぱっと僕との繋がりを断った。



そう思うことにした。



無理やりにでも・・・。






しばらくは親父の顔を見るのが嫌だった。



10日くらい掛かってようやく自分の中で決着をつけた。



食事のとき、この親父のどこにおばさんは惹かれたのだろうと、今度は親父の顔をしげしげと見ていたら怪訝な顔をされた。



お袋はおばさんの存在をたぶん知っていたはずだ。



だから温泉ツアーの復活にあんなにはしゃいだのだ。



何事もなかったように今日も2人はツアーに出かけて行った。






「残念だったね。本屋が失くなって」






ふいに後ろから声を掛けられ、はっとなった。



僕がずっと、その帰りを待ちわびていた奴の声だった。



彼女は2年前にここで僕に声をかけたことを覚えていて、茶目っ気で再現しているのだ。






しかし、今の僕は無邪気には喜べなかった。



もし、いつか彼女が母親の秘密を知ったら、彼女は深く傷つくだろう。



僕は1年前に自分がしたことを、今回我が身で思い知らされた。



僕もおばさんのように自分でケリをつけられるだろうか・・・。






「あんたもここにそんな本を見に来てたんでしょ?」






いや・・・、つけないといけない。



僕にはその責任がある。



いつ来るか知れないその日のことを僕は覚悟した。



僕にとっては結構悲壮な覚悟だった。



僕が彼女を胸の中に抱くことはもうないだろう・・・。






「そうだよ」






僕は笑顔を作って振り向いた。






「・・・おかえり、美雪」






終わり。