俺は21歳で、放送系の専門学校に通っています。



彼女は19歳。



歯科衛生士の資格を取る為に、やはり専門学校に通っています。



俺は成人で酒を飲める年齢ですが、飲めません。



弱いんです。



彼女は未成年で酒を飲んではイケない年齢ですが、ガバガバ飲みます。



飲みますが、強くはありません。



すぐに酔い、記憶が飛ぶのです。






ただ、飲んでる時の記憶が無くなるのではなく、飲む前の根本的な記憶が無くなり、自分の名前や生まれ、年齢など、シラフの時の記憶というより情報が消えるのです。



シラフの時の記憶が無くなると酒を飲んでいた時の記憶が甦って来て、二重人格みたいに、“もう一人の私”が彼女に乗り移るのです。



そして酔いが醒めると“もう一人の私”は酔っていた時の記憶と共に消えるのです。






俺は康正、ヤスと呼ばれています。



彼女は覚(さとり)、サトリと呼んでます。






サトリは基本的に飲む席に誘われると断りません。



俺は逆に、いつも断る理由を用意してます。



地元の父だったり母だったり叔母だったり、何度も危篤にしましたし、この数年の間に俺の唯一の妹は5回も出産してますし・・・。






特に、俺とサトリの共通の友だち絡みの飲み会に2人で誘われると俺は憂鬱、サトリは発奮。



なんでか・・・と言うと、サトリは飲むと明るくなってよく話しだしエロくなるのです。



サトリ曰く、「もう一人の私のせいで、シラフの私の責任じゃない」そうですが。






どのくらい人が変わるのかと言うと、例えば飲み屋さんの隣の店の前を通ると店員さんがサトリに、「先日はありがとうございました。新作のスカート、入ってますよ」と声を掛けてくれても、サトリは『誰、アンタ?』オーラ出しまくり。



飲んで飲み屋から出て、その店の前を通るとサトリから店員に、「こないだのパンツ、評価高め!新しいの何か入った?」と馴れ馴れしく声掛け・・・。



店員はひび割れて崩壊寸前。



このくらい人が変わります。






ある時は、身体の付き合いはヤスだけだと言ってたのに、酔いが回って同じ店で飲んでた男を、「あーっ、ヤり逃げ男っ」って指をさす。



翌日、問いただしても、「知らな~い、浮気とかしたことないし」って泣き出す。






何が本当で何が嘘なのか?



どっちも本当なんだよね、きっと。






一緒に飲むとサトリのスイッチが切り替わったのがわからなくて、さっきまでイチャイチャしながら喋ってたのに突然、「誰だ、お前はっ」て怒り出す。



友だちが「サトリの彼氏じゃん」って笑いながら教えても、「サトリって誰?」みたいな受け答え。



そうなると友だちも距離を置くから、サトリは全然関係無いグループに声を掛けて同化してゆく。



酔っ払い同士で気が合ったらお持ち帰りコースで、サトリは昔からの恋人同士みたいにして腕組んだり肩抱かれたりしながら飲み屋を後にする(泣)



連れ戻そうとすると、「ウザイんだよ、お前は」とか「いい加減にしないとケーサツ呼ぶよ」とか言う。






一緒に飲みに行って帰りは大概別になり、翌日の昼前後に帰って来るか連絡があるんだけど・・・。






「ごめ~ん、記憶ないけど、ヤス、どうやって帰った?私、目が覚めたら◯◯にいたんだけど・・・」






身体検査するとザーメン臭いし、サトリのパンツはカピカピだし、明確に『ヤりました。ヤッてきました』状態なのに、サトリは、「私、そんなこと、ようせんわ」ってマジで怒り出す。



胸の乳首に近いとこにキスマークを発見しても、「これか?これは先週、ヤスが吸った跡やんか」とか言うし、「なんか無理な体勢でなんかやったのかな、腰から背中から痛いで。なんか知ってる?」って聞いてくる。






「俺に聞くなっ!」






て言うと、「ナニ怒ってるの?ちょっとゴメン。トイレ行かして・・・」ってトイレに行き、帰って来るなり、「お尻、痛いんだけど、知らんよな?」だって。






「お前・・・初対面の男にケツまで捧げたの?」






もう俺はサトリと別れたいんだけど、サトリは・・・。






「なんで別れるの?私、なんかした?なんもしてないやろ?なんで別れなきゃならんの?意味、わからんし」






もう俺はサトリから逃げられないのか・・・と思うと憂鬱で。



友だちも「あいつ、なんかに取り憑かれてるで、お祓いか陰陽師さんに頼め」とか言うし。






シラフの時のサトリは大人しくて良いんだけど、見知らぬ男が最近サトリに馴れ馴れしく声を掛けてくることが増えてさらに憂鬱・・・。



相変わらずサトリは、「何言ってんの。だいたい、アンタ誰?」だし。



知らない間に穴兄弟が増えてる、確実に・・・。



間違いなく・・・。






とにかく別れたい、それだけが今の俺の願いです。