いきなりですが、高校時代の思い出をば。






高校2年の春、俺が友人たち数人と廊下で喋っていると、向こうから一人の女がズカズカとやって来て、俺の前に立ちはだかり、「ねえ、あんたが◯◯?」と、俺の名前をぶしつけに聞いてきた。






「え、そうだけど」






とっさの事に俺は気圧されて、間の抜けた返事をすると、その女は、「ふ~ん」と言いながら、真顔で俺の頭からつま先までをジロジロと見て、「なるほど。んじゃ、そういうことで」と言って立ち去っていった。



俺も友人たちも彼女の後ろ姿を見ながら、しばらく呆然とした。






「何だ、ありゃ?」と、俺が言うと、「お前に気があるんじゃないのか?」などと友人たちにからかわれた。






この女、2組の香というやつだった。



それ以来、何かと俺につきまとってくる。



俺が2組の前を通れば、「お~い」と叫んで教室の中から大きく手を振ってくる。



当然、皆から一斉に注目されるし、一緒にいる友人たちからは冷やかされるし、初めの頃は本当に迷惑だった。



しかし徐々に慣れてきて、内心満更でもなくなった。



周りの手前、素っ気なく振舞ってはいたけれど。






香は家に電話までかけてきた。



母親が「女の子からよ」と妙な笑みを浮かべ取り次いでくれた。



電話で香には、俺の身長やら体重やら趣味やら、ごっそり聞かれた。



俺は母親の視線を背中に感じながら、小声でいつも以上にぶっきらぼうに答えたものだった。






香は背がそこそこ高く、スリムな体型。



ずば抜けて可愛いワケではないが、愛嬌のある顔だった。



うるさく厚かましく、少々鬱陶しいところがあるが、本人はマイペースだ。



それでいて言動にどことなくエッチな雰囲気があった。



悪い言い方すれば品がないんだが。






俺はそれまで一度も女の子と付き合った事なかった。



そしてこういうふうに女の子に積極的にされた事もない。






「おい、あいつお前のこと好きなんだって。付き合っちゃえよ」






香が俺に何かしてくる度に、俺は友人達からこう言ってからかわれた。






そのうち段々と俺もその気になってきていた。



オナニーなんかは香の事を考えながらするようになった。



香のあれやこれ、いやらしい事を想像した。



だけど周りには気取られないように、興味ないふりをしていた。



自分からは動かず、いつも香からのアクション待ちだった。



友人たちの手前、やっぱり照れがあったのだ。






そんな香からある日ついに体育館の裏に呼び出された。






「ねえねえ、あんた、ほんっとに付き合ってる人とかいないんだよね?」






これは今まで何度も聞かれた事だが、この日もしつこく念を押された。






放課後、俺は妄想を膨らませつつ、友人の目を欺き、体育館の裏へと行った。



しばらく待っていると、香がやってきた。



香は一人じゃなかった。



隣にもう一人女の子を連れていた。



そう言えば、いつも香と一緒にいる子だが、でもあまり印象が無い。



香も一人じゃ恥ずかしいから、立会人でも連れてきたんだろうか。






「で、何の用?」






俺はしらじらしく香に聞いた。



すると香は隣にいる女の子に・・・。






「ほら、◯◯来てくれたよ。言っちゃいなよ~」






するとその女の子はしばらくモジモジしていたが、「あの・・・私、実は・・・前から◯◯君の事が好きで・・・」と顔を真っ赤にして、そこまで言ってまた黙ってしまい、香の方を助けを求めるような目で見た。






「ほら」と香はその子の背中を軽く押す。






「あの・・・もしよかったら、私と付き合って下さい」






その子はそう言うと、今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまった。






俺は、そういう事だったのか、とすべてを悟った。



今まで香が俺に付きまとっていたのは、この内気な子の為に調査をしていたのか。






香はその子の肩をよしよしといった感じで抱き、俺に、「ね、こう言ってるじゃん。こんないい子いないよ。付き合いなよ~」とフォローを入れてきた。



そして畳み掛けるように言う。






「あんたも教室の前通る時、いつもこの子のこと見てたじゃん。ね、ね」






いや、悪いけど俺はその子の方は見ていない。



お前が派手に手を振るからそっちを見ていただけだ。






だけど、この場でそんなこと言えるはずもない。



俺はしばらく口の中でもごもご言っていたが、最終的には押し切られ、この子と付き合う事になってしまった。



この子、名前を久恵と言った。



この日、初めてその名を知った。






俺は久恵についてよく知らなかったのだが、久恵と同じ中学出身の友人に言わすと、結構人気があったそうな。



大人しく、背も小さくて、素朴な可愛らしさをもっている。



香とは全く正反対の控え目な性格だ。



友人に言わすとお嫁さんにしたいタイプ、ナンバー1だそうな。






「久恵ちゃんは俺が守ってやるから、お前は香とでも付き合え」なんて友人にやっかみ半分そう言われたものだ。






この日から俺と久恵との清いお付き合いが始まった。



毎日、俺と久恵と香の三人で一緒に帰った。



それまで一緒に下校していた友人たちからは、裏切り者と後ろ指を指されたが。






学校から見て、俺の家と、二人の家の方角は全く逆だ。



俺は自転車通学で、彼女たちは徒歩だ。



俺は自転車を押しながら歩いて二人を家まで送った後、自転車に乗り一人で家まで帰る。



結構な遠回りだったが、付き合うってこういう事なんだろうと思った。






久恵は筋金入りの内気な子で、なかなか自分から話し掛けてこない。



俺が気を使って色々話すのだが、それについての答えは返ってくるが、それ以上の広がりはなく、また無言になってしまう。



ホント困ったが、こういうときに香の存在は役に立った。



久恵も香にはよく喋るし、自然と俺も久恵より香によく話し掛ける。



だから香を通して、俺と久恵はコミュニケーションをとっているような形になった。



だから久恵と二人でデートの時など気まずくて、俺は息が詰まりそうだった。



久恵ははたして満足しているのだろうか。






俺はオクテだし、久恵も大人しい。



エッチな関係にはならなかった。



彼女が出来たとは言え、俺は相変わらず一人でオナニーする日々が続いた。



一応、久恵の事を考えてしてみたが、想像が湧いてこないし、興奮が得られない。



何だかんだでオナニーの時に思い浮かぶのは、いつも香だった。






さて、そんなある日、久恵が熱を出して学校を休んだので、学校帰りに香と二人で久恵の家へ見舞いに行く事にした。



久恵の家へ向かう途中ふと思ったが、香と二人きりで歩くのって初めてだ。



何となく嬉しかった。



話も妙に弾んだ。



話題もいつもと違う。



この日の香は下ネタが多かった。



いつもは久恵と一緒だから控えているのか。






久恵の家に着き、部屋に通された。



女の子の部屋は初めてだ。



久恵はパジャマ姿。



可愛いなあ、とは思った。



熱で辛そうだったので、用件を済まし、すぐにおいとました。






久恵の家から出た後、何故か香が、「うち寄ってく?」と言うから香の家にも寄って行った。



久恵の家のすぐ近くだ。



部屋にはあげてもらったが、一分もしないうちに追い出された。



自分で呼んでおいてそれはないだろうと、帰りに一人思った。






翌日も久恵は休みだった。



久々に俺は友人たちと帰ろうとしたのだが、香に捕まった。



友人たちは意味ありげに笑い、俺を置いてさっさと帰ってしまった。






「帰るの?一緒に帰ろっか」



「嫌だよ。家逆だろ。それとも今日も久恵んちに見舞い?」






「う~ん、あんたが行きたいならついていってもいいよ。どうせ一人じゃ行きづらいんでしょ?」



「いや、いい。帰る」






「冷たいんだー。あ、そうだ。よし、今からあんたんち行こう」






俺は正直ドキッとしたが、平静を装い・・・。






「ついてくるなよ」



「行く。昨日、久恵と私の部屋入ったんだから、今日はあんたんち」






「じゃあ、久恵が治ってから二人で来いよ」



「ん~。その時は私がいたら邪魔だろうから、今日は偵察を兼ねて先に」






「何なんだ、その理屈は・・・」






そう言いつつ俺の心はウキウキした。






ただ、香と二人で俺の家に行く所は人に見られてはいかんと思った。



自転車の後ろに香を乗せてこそこそと帰った。



俺にしがみつく香の胸が背中に触れる。



柔らかい。






俺の部屋での香の暴れっぷりには困った。






「ぎゃーぎゃー、何これー!」と騒ぎながら勝手に机の引き出し開けたり、押し入れ覗いたり。






「やめろって」と香の手を掴むと、「あははは」と異様なテンションで俺にもたれかかってくる。



香からはいい匂いがするし、さっきの自転車の事もあって、俺はムラッときたが、とりあえずは抑えた。



ちなみに両親は共に仕事で夜まで帰ってこない。






香はベッドに腰掛け、辺りをきょろきょろ見渡しながら、「ふ~ん」と、しきりに関心していた。






「どうした?」






「べっつにー。結構片付いてるなーと思って」






そう言うと香はベッドの下を覗きだした。






「おい。何やってんだよ」






「男の人ってえっちな本、ベッドの下に隠すんでしょ?」



「隠してねえよ」






「隠してる」



「隠してない」






香はベッドの下を丹念に探し始めた。



四つん這いになってベッドの下を覗き込む。



お尻だけを突き出した体勢だ。



そのお尻を見ていると、俺は香とバックでやっているのを連想してしまった。



チンコがムズムズきた。



香を後ろから犯しそうになった。






「つまんなーい。えっちな本どこに隠してるの?」






その言葉でハッと我に返った。






「隠してないよ。持ってないもん」






「え~嘘だ~」



「ホント」






「・・・じゃあ、どうしてるの?」



「は?何が・・・?」






「何がって・・・ねえ・・・ナニじゃん」



「・・・」






「あ、分かった。久恵のこと考えてしてるんだー」






香は普段からおかしい奴だが、この日はいつもとは違ったおかしさだった。






「してるんでしょ?久恵のこと考えて。ね、ね?」



「してないって。久恵は何と言うか、そういうんじゃないんだよ。エッチなこと想像できないって言うか・・・」






「へえ~、よく分からないけど、久恵のこと大事に思ってるんだ。じゃ、ずっと我慢してるわけだね」



「いや、ちゃんと抜いてるけど・・・」






「ええ~、何で何で?よく分からな~い」



「ま、一人でする時はもっぱら香のこと考えてるよ」






これは嘘ではない。



が、冗談っぽく言ってみた。



香は固まった。






しばらく黙っていたが、「ま、また~。やらしぃ~」と言って笑った。






明らかに動揺している。



たじろぐ香を見て俺は調子に乗った。






「いや、ホントホント。毎晩毎晩、香のいやらしいの想像して、してる」と言って右手を上下に動かした。






香は恥ずかしがって俯き、上目遣いで俺を無言のまま見つめてきた。



俺もその香の表情に息を呑んだ。






<続く>