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僕と彼女と、浮気相手。Part3









僕とせーちゃんが付き合いだして1ヶ月になろうとした頃。

連休ボケも抜け、学年が変わってから始めての定期テストに教室の空気も沈んでいる頃。

あまりにも一方的に、せーちゃんから別れを告げられた。

「ゆぅ君、やっぱり○○の事忘れられないんだね」

意味が分からず、その真意を問いただす。

せーちゃんに感情の起伏は見られず、只淡々と言葉を発した。

「ゆぅ君さ、○○とメールしてるんでしょ?だから学校でも避けるんでしょ?」



一方的かつ、筋の通らない話であった。

そもそも学校であまり接さないようにしようと提案したのはせーちゃんであり、僕はそれに従っていたのだ。

僕も○○の手前、別れた翌日にはせーちゃんと付き合っていた負い目のようなものもあり、学校で、まして○○の前では不用意な接触を避けたほうが良いとの考えもあったのだが。

しかしせーちゃんは止まらず、さよなら、と言ってメールを打ち切った。

僕の意見を一つも聞かないままでの別れ。

あまりの事に、情けなくも数分涙が止まらなかった。

幾度の電話も、メールにも返事はなく、その日は生まれて初めての眠れない夜となった。



次の日、授業の内容も友人の話も頭に留まることなく右から左へ流れ、僕はせーちゃんのことばかりを考えていた。

昼休み、何かを食べる気にはなれず購買で買ったイチゴミルクを呆然と眺めていると、教室が少しどよめいたのを感じた。

すると、一人のクラスメイトが僕の名を呼んだ。どうやら他のクラスの誰かが僕を呼び出したようだ。

直感的に、せーちゃん関係だなと感じた。そしてそれは現実となった。

「あのさ、あんた芹菜にしつこくメールとかしてるでしょ?」

そう切り出したのはせーちゃんの一番の友人だった。

「や、その話だったらここじゃちょっと…」

「いいから。答えな。芹菜すごくメーワクしてるんだよ?」

相手は酷く興奮した様子で、どうにも話を聞いてくれてはいない。

「次、同じことしたらまた来るからね。覚悟しときなよ」

軽く絶望を覚え、僕が何かを言う前に相手は教室へと踵を返した。

廊下を歩く背中を見ていると、廊下の脇に○○がいたのが見えた。



翌日、僕はアルバイトの為部活を休んでいた。

休憩時間に携帯電話を開くとメール受信の表示が出ていた。

送信主は○○。

「バイト終わったら教えて。話すことある」

良い予感はしなかった。

むしろ、全ての裏工作が露呈した悪寒すらあった。



バイトを終えて、連絡を入れる。

僕の家に着くと、近くに立つ古びた電柱によしかかり、携帯電話のディスプレイを見つめる○○がいた。

「…どうしたの?」

声を掛けても驚く様子はなく、○○は静かに歩み寄り、鋭く早い平手打ちを僕にした。

「っ……!?」

視界がブレて、鋭い痛みと、数秒送れて頬が熱くなった。

頭が真っ白になり、殴られたと気づいたのは頬の痛みがピークを迎えたころだった。



「あんた、芹(せーちゃん)と付き合ってるんだ?」

やっぱりだ。全てバレている。

「…あぁ。そうだよ。でも昨日フられた」

「知ってる。全部芹に聞いた」

そこでもう一度平手打ちをされた。今度は反対の頬だった。

メガネがふっとび、視界がぼやける。頬の熱さだけがハッキリとした痛みを教えてくれた。

「あんた、ストーカーなの?気持ち悪いよ。それに浮気してたんでしょ?」

それは断じて違うと言える意見はあったが、心で何かが折れてしまったように、言葉を考えることができなかった。

その後もう一度平手打ちをして、○○は家へ帰っていった。

空を見上げると月が出ていて、メガネを通さなくても綺麗だな、と思ったのを覚えている。



その後数日、僕は学校へ行かなかった。

後にも先にも、テスト前にこんなに欠席をしたことはなかった。

担任の教師から電話がきたとき、一部の事情をクラスの生徒から聞いたらしく

「まぁ、そのなんだ。失恋の一つや二つでヘコんでたら、この先いろいろ大変だぞ?」

という有難いのかわからない助言をもらった。

両親は殆ど心配していないようで、明日行けるようなら、行ってきなさい。先生にちゃんと謝るのよ、と言っただけで事情を詮索してくることはなかった。



4日ぶりに登校すると、クラスメイトは何事もないように接してくれた。

帰る場所が出来ていたような気がして、言葉に出さずに感謝をした。



放課後、せーちゃんの親友が再び僕を呼び出した。

こんどは教室の入り口で怒鳴ることはなく、普段あまり使われることのない階段へと連れられた。

教室や廊下から切り取られたかのように静かな階段に、やはり人気はなかった。

相手は目的の場所へと到着したというのに、なぜだか何も話さない。

両手の指をもじもじさせながら、しきりに落ち着きがない。

「話って、何?せーちゃんにならもう連絡してないよ」

僕が切り出すと、相手はハっとしたように体を震わせ、両手を左右に振りながら

「やっ、わかっ、てる。うん、もうそれはいいのっ」

どうみても焦っているようで、僕には理由がわからなかった。

「えっと…じゃあ、なんで呼ばれたのかな」

そう言うと、彼女は吹っ切れたように、頭を下げた。

「ごめんなさいっ!あたし、あんたと芹菜がそういう仲だったって聞かされてなくて!」

言われた僕はというと、今ひとつ話が飲み込めない。どうして謝られているのか、なぜこの人が話しに出てくるのか。

「え……?どういうこと?」

相手は頭を上げた。目からは涙が流れていたが、どうとも思わなかった。

「あ…あのね。あたし、あんたが一方的に言い寄ってるって聞かされてて」

「だっ…だからっ…芹菜の代わりにガツンと言ってやろうって…」

そこまで言うと、堪えていた嗚咽があふれ出し、声を上げながら泣いた。

「そっか。わかった」

僕はそう言って、その場をあとにした。後ろから聞こえる泣き声が大きくなったが、そんなものに構う気もなかった。



教室に戻ると、今度は○○が居た。

僕の席に座り、相変わらず携帯を眺めている。

会話する気はなく、机の上のカバンに手を掛け教室を出ようとして、止められた。

「ねぇ?ちょっと話せない?」

女っていうのはどうしてこんなに話すのが好きなのか。溜息が出た。



「なんかね、芹が嘘ついてたみたい」

その一言から話は始まり、内容は僕の心を抉るものであった。

「芹とあんたが付き合ってたのは本当なんだよね。でも芹、1年前から遠距離の彼氏いたんだって。知ってた?」

知るわけがない。相手がいるなら手は出さない。

僕が首を横に振ると、○○は話を続けた。

「芹が学校見学行ってる時、その人と会ってたらしいよ。それで時間遅れたりして、一緒の友達が迷惑したって聞いた」

どうして嬉しそうに話すのか。そんなに他人の不幸が楽しいのだろうか。

「ま、あんたは遊ばれてたんだね。ゴシューショーサマ」

そう言うと、細い足でヒラリと立ち上がり、数日前に二回殴った僕の左頬にキスをして、その場を後にした。

僕はまたも何も考えられずに、しばらくその場に座り続けていた。



数日して、せーちゃんが学校へ来なくなった。

どうやら一件の事がクラスにバレたらしい。

同じ頃、僕は部活を正式に辞め、その足で退学届けを提出した。

担任の教師には驚かれ、親には呆れられた。

その後僕は父親の会社を紹介してもらい、無理を行って支社で働かせてもらうことになった。

一刻も早く地元を出たかったので、支社のある場所も確認しなかったが、どこでもいいと確認しないまま引越し作業を続けた。



引越し前日、父から渡されたチケットに書かれていた行き先は、せーちゃんの彼氏がいる場所だった。



後日、僕とせーちゃんは、また出会うことになった。









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