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同体位








それは確か、

クリスマスの馬鹿騒ぎも一夜にして去った、

去年の年の暮れの出来事だった。



その夜、何時ものように遅く帰宅した親父が、

「話しがあるから降りて来い」と、しつこく俺を呼びつけた。



もうこの時点で嫌な予感は感じていた。













暇潰しにやっていたゲームのセーブデータを

画面から“YES”を選んで、メモリーカードに上書きすると、

俺はしぶしぶ階段を下りて行った。



親父が勤めるのは誰もがその名を知る有名企業で、

どういう手を使ったかは知らないが、それなりの地位を築いている。

しかも何やら親父は裏でいろいろ暗躍しているのもあって、

自慢ではないが家はかなり裕福だ。





今は不景気+デフレで以前のように物が売れない時代。



大変だとぼやく父親の、頭に白髪が多く混じるようになっていたが、

そんなの俺の知ったことでは無い。



どうやら髪の毛が薄くなる家系では無いようで良かったと、

それを見てむしろ喜ぶぐらいだ。



親父は埃を被ったキッチンにから更に奥のリビングルームを選ばす、

普段はあまり立ち入らない応接間に俺を呼びつけた。

マジメな話(あくまで親父にとって)をする時は、

いつもこの部屋を使う。



どんどん現実に近づく嫌な予感に俺は小さく舌打ちをした。



広い応接間のローテーブルに

対面して並んだどっしりとしたソファー。

ブランド物のボストンバックをその脇に置いて、

きょろきょろと部屋を落ち着くなく見回しながら

浅く腰を掛けている女が目に入った。



やはり、そう言うことか。



俺が部屋に入った途端、女はいそいそと立ち上がった。



背は低く、わずかに癖のある亜麻色の髪は、

シンプルな白のセーターの胸元の上まで垂れている。

俺を凝視し瞬く瞳は大きくぱっちりとしており、

縁取る長い睫は丁寧に上向きにカールされている。



グロスで光る小ぶりの唇。

同じく小ぶりの鼻先は、僅かに上向きではあるが、

顔の各パーツが 柔らかなカーブの輪郭に囲まれ

綺麗に整えられているので、不恰好な感じはまるで感じられない。

むしろ、童女のような幼く可愛らしい印象を醸し出している。



そう、化粧で誤魔化してはいるが、かなりの童顔だ。

緊張の為か、頬がほんのりと紅潮している。



一体、何歳なんだ?中学生とは言い過ぎだろうが、勝るとも劣らない。

(後に本人の口から二十三と聞いたが、今でもそうとは思えない)



これまた今度は、えらく毛色の違った女がやってきたものだ。





「小太郎、もっとこちらに来なさい。



 紹介しよう。こちらは“鈴木”茜さん。」





女がぺこりと頭をさげる。

その動作に伴って亜麻色の少しパーマをあてた髪がさらさらと靡いた。

小太郎(こたろう)というふざけた名前はこの親父がつけた俺の名だ。



親父は 女の名を述べる時、“鈴木”という苗字を確かに強調した。



この時はまだ、同じ苗字なんだなという感想しか湧かなかった。

何しろこの苗字、小中高と必ずもう一人、同学年に居なかった試しが無い。



続いて親父の口から飛び出た言葉に俺の思考は寸断された。





「この人は、お前のお義母(かあ)さんだ。」





「は?」





眉を吊り上げる俺を無視して、親父は女に振り向いて言った。





「茜、これが俺の息子の小太郎だ。

 なかなか難しい年頃だが、仲良くしてやってくれ。」





「初めまして、小太郎ちゃん。これから宜しゅうな。」





標準語とは程遠いイントネーションが、茜という名の女の口から流れ出た。

顔からの予想を裏切らず、その声はアニメのキャラを思わせるほど高く幼い。



何よりもこの女、

初対面の仮にも息子になろうとする俺に、臆する様子を微塵も見せずに、

「小太郎ちゃん」などと、その甲高い声で

来年には17になろうという男を捕まえて、

ぬけぬけと呼び捨ててみせたのだ。



流石の俺も、呆気にとられた。



親父が家に連れ込む女を、紹介されることなどゴマンとあったが、

母親だと紹介されたのは、この女が初めてだ。

ちゃん付けされるなど、耐えて久しい。



まぁいい。紹介の仕方が少し違えど、

(次いでこの女が、親父の今まで連れこんできた女とタイプが違えど)

その内容までにも変わりは無いだろう。





「・・・どうも。」





親父の無言の圧力に負けた訳では断じて無い が、

俺は茜が差し出してきた手を、軽く握り返した。



華奢な外見の割には、ふっくらとした手のひらが印象的だった。





「と言う訳で」



(ここで誰も、何が“と言う訳”なのか、突っ込むことはなかった)



「今日から茜さんとは この家で生活を共にすることとなるのだが、

 茜さんは仮にも― いや、正当にもお前の母親になるのだから

 くれぐれも失礼の無いようにな。」





俺が沈黙を守っているのを良いことに、

親父は当り障りの無い適当な文句を述べて言葉を打ち切った。



今更どうなろうと大して興味のない俺は、

その言葉を耳から耳へと素通りさせ、

二人を応接間に残してさっさと自分の部屋へと戻った。







その夜、親父の寝室の方から僅かに漏れてきたのは、

すすり泣くような あの茜という女の声。





「あうっ・・・うわ   あん  くはっ・・ はん・・・」





あ、意外といいかもな。この声。

高い声の女が鳴くと、こんなふうに聞こえるのか。



しかし、まあ あんな女に入れ込むなんて

ついに親父もロリコンに走ったのか。





俺はぼんやりと 無感動に聞き流して、眠りについた。



______________________________





「小太郎ちゃ~~ん!!

 もう起きなあかんよ~っ!?



 若い男の子がこんな日が高こうなるまで寝よったら、体が腐る!

 ほら起きい? うちがこさえた朝ご飯たべて~なぁ!」





「うう・・・」





霞む目で時計を見る。

短針は8と9の数字の間を指している。

冬休みに入ったというのに、何故こんな時間に起きなければならないのか。



俺の寝起きの機嫌というのは 通常の二乗を百倍して悪い。



一夜を共にした女に、無理やり揺り起こされて

思わずその横面を殴りつけそうになったことが多々ある。

ホテルのチェックアウトの時間だと言う、正統な理由であったとしてもだ。



この時も、寝起きの身体というものが、思い通りに直ぐ機能するのなら、

本当にそうしていただろうと思われた。





「起きてえ~なぁぁ~。潤一郎さんはもう、会社に行ってもうたんよ~?」





根気負けして、しぶしぶ起きた俺をダイニングルームのテーブルに着かせると、

バターを塗ったトーストにベーコン、目玉焼きをのせた皿を差し出した。





「今、サラダも出すけに、ちょっち待ってぇな?」





俺は何気に茜の居るキッチンの方へ視線を向ける。

男の二人暮しの為、使われもせず埃を被っていたその場所は、

光の反射するほどに綺麗に磨きあげられ、本来の機能を取り戻している。





「せっかくの休みやのに、どこも行かへんの?

 小太郎ちゃん、潤一郎さんに似てかっこええし、

 言い寄って来る可愛い女の子、わんさかおるんちゃうの~?」





はっきり言ってこの女はウザイ。

ウザイほど人の世話を焼く。

それと分かるようにはっきり顔と態度に出しても、

屋久杉の御神木――そんなの本当に在るかも知らないが― 並みの

図太い神経をしたこの女には、何の効果も与えないようだ。





「・・ちゃん付けするのは、止めてください。」





「なんでぇな。」





「貴女にそう呼ばれたくない。」





「ええ?そうなん? ええやん。

 小太郎ちゃんって。ええ名前やて、うち思うわぁ。」





俺の真向かいに座ってテーブルに両膝をついて、にっこりと微笑む。



だめだ、コイツは・・・



怒りが一瞬過ぎって、どっと無気力が襲った。



茜が来て、三日が経つが 常にこの調子だ。

俺はすでに諦めモードに入っている。

もう、どうとでもしてくれ という感じだ。





年末。学校もなく、家でごろごろと過ごした。

茜は煩かったが、慣れると どうって事はない。

これでも適応力には優れている。



茜はきりきりとよく働いた。

特に家政婦を雇うでもなく、荒れ放題になっていた家は

この女の手で見違えるように、さっぱりと生まれ変わっていった。



外出して戻ると、いつも玄関には良い香りが立ち込めていた。

その大元を辿ってみると、廊下の隅の小さな網籠の中に、

草か葉っぱの干したようなものが入っていた。

不思議に思って摘んで見ていると、

何時の間にか背後に居た茜が、それはポプリだと教えた。





「ええ匂いやろ?」





ふわりと近づく茜からは、ポプリとやらに負けないほど

甘く良い芳香がした。



__________________________________





「小太郎ちゃん、もし今日、何にも予定入ってへんのやったら・・・」





大晦日の日

高く上擦って鼻に掛かる声質は普段通りだったが、

この女にしては珍しく、言い難そうに言葉を途切れさせた。





「正月の買出し、一緒に行ってくれへん?

 うち一人じゃ、絶対、どーしても荷物持てへんのよ。お願い!」





「いいですよ。」





俺の言葉が意外だったのか、一瞬、茜はきょとんと俺を見上げて瞬いた。





「ほんま?!おおきに!助かるわぁ~。」





俺の譲歩的な態度に気をよくしたのか、

茜は大型スーパーに向かう車の中、買い物途中、帰り道でも

ぺちゃくちゃとよく喋った。

「ちゃんと前を向いて運転してください。」

と、時々注意を促していなかったら

間違いなく事故っていたのではないかと、俺は思う。



元来、おしゃべりな性格だったのだろう。

今まで、煩いながらも必要以上のことは喋らず、

それなりに沈黙を多く保っていたのは、

一応 この女なりに気を使ってのことだったのだろうか。



奇怪な方言のしゃべり方について尋ねる俺に、

茜は相変わらず甘ったるい声で話した。





「ああ、うちな、お母はんがもともと関西の人やってんけどな。

 あちこち転々としとるけん、いろんなのが混ざっとんのよ。」





「その“お母はん”は、どうしたのですか?」





茜の口調を真似て、丁寧ながらも少し皮肉って尋ねた。





「亡くなってしもうた・・・。」





「あっそう。」





「そや、小太郎ちゃんも うちも 同じやな。」





「同じではありません。」





「え?ちゃうの?小太郎ちゃんのお母はんは

 とうに○んでしもうたって・・・」





「親父はそう言ってますけど、本当は違います。」





俺は努めて素っ気無く答えた。





「昔、親父と関係を持っていた女の一人が――

 家に突然現れて、これは貴方の子だとって言って、

 乳児だった俺を親父に押し付け 去って行ったそうです。



 母の姿を見たのはそれっきりだったと、

 その時 また別の親父の女だった人から聞いたので間違い無いです。」





「・・・そぅ やったん・・・

 何や悪いこと、聞いてしもたな・・・」





茜は悪びれながらも、続いて とんでもない事を俺に聞いた。





「じゃあ、小太郎ちゃんのお母はん、今も生きとるんちゃう?

 ほんまの・・・お母はんに会いたいて、思ったりせえへんの?」





俺は ゆっくり首を回して 茜を見た。



次に 続く言葉を もし、もう一言でも発したら



すぐにでも ○すような勢いで。





「あっ・・ごめ・・堪忍な・・・」





俺の表情に気づいて、茜はその小さな身体を

さらに小さく縮めるように擦り寄らせた。





「ああっ!でも! もう、うちがお母はんやけん!

 これからはうちがぃいっぱい小太郎ちゃんの傍に居てな、

 何でもしてやるきに、いくらでも甘えていいでぇ!!」





助手席の俺をちらちらと見ながら、

明るく虚勢を張った声で叫ぶ。

いや、茜にとっては叫ぶとまで言っていないのだろうが、

その金切り声は耳に来る。



そんな言葉、今更 俺が誰かに必要としているとでも思うのだろうか。

どうでも良いから、きちんと前を見て運転して欲しい。





「そんな、怒らんといて・・・。うちが悪かったから・・・」





俺は車外の景色を見つめて何も答えなかった。



暫くの間、今日では初めての沈黙が流れた。



先に口を開いたのは俺だった。

これ以上黙っていると、茜が泣き出しそうだったからだ。



なるべく良く聞こえるトーンの声色に変えて、

親父との馴れ初めを聞いてみる。



今までいた数々の親父の女に、一度も聞いたことの無い話題だったが、

この女には何故か興味が湧いた。





「・・・・うちのこと、軽蔑せぇへん?」





「しませんよ。」





「・・・うちな、水商売やっとったんよ。」





「それで?」





「なんや?吃驚せぇへんの?」





俺の記憶上、親父が連れ込む女で、まったくの素人なんて

居た覚えがあまり無い。

親父はいつもそういう女を好んだ。

その中でもこいつはちょっと(いいや、かなり)異色だけど。





「うち、短大出て、普通にOLしよったんやけど、

 お母はんが病気になってしもうてな、その治療費がえらくかかったんよ。



 そいでな、普通の上がりだけやとあっちゅうまにいっぱいっぱいになってしもて、

 友達の紹介でそいういうお店で働くようになってんよ。



 お母はん、ちっとも良くならんでなぁ。そない歳やなかったんやけど、

 女手ひとつでうちを育てあげてくれたけに、その苦労が祟ったんやて思うてな、

 今度はうちがお母はんに返す番やて、

 一生懸命色んなお医者さんにみせたんやけど・・・



 その度に治療費はかさむし、稼いでも借金も増えるしな、

 よう首がまわらんようになってな・・・。



 そんとき、お店で潤一郎さんと知り合ってな、



 

“ある時”事情を話したら、えらく親身になってくれてなぁ・・・。

 借金、肩代わりしてくれて、お母はんの治療費まで出してくらはったんよ。

 今でも、感謝してもしきれへんわぁ・・・」





その“ある時”というのはかなりの確率でベッドの上だったに間違いない。





「それで?何で結婚にまですることになったんですか?」





厄介なことに、再び今度は違う意味で

じんわりと涙ぐみだした茜の雰囲気を嗅ぎ取って、俺は話を進めさせた。

親父が今ごろになって、結婚まで至るとは意外だった。



俺の問いに、茜は一変して 顔を赤く染め始めた。





「・・・うちのお母はんな・・、病院に入ってからは

 うちがいい人見つけるまでは○ねへんて

 うわ言のように繰り返し言うとってな・・・。



 お母はん、もう長くないて、わかっとったし、

 うち、お母はんに安心して貰いたい一心で潤一郎さんに頼んだんよ。

 嘘でも、演技でもええけん、お母はんの前でだけ、

 婚約者として振舞ってくれへんかて・・・

 

 潤一郎さん、嫌な顔ひとつせんで、二つ返事で引き受けてくれたんよ。

 そんでな、すぐお母はんに、この人がうちのいい人なんよって紹介したら、

 今度は、二人がちゃんと結婚するまでは○ねへんって言いよって。」





茜はくすくすと笑った。





「そんでな、潤一郎さんが何思うたか、うちら実はもう結婚しとんです言うたら

 ほな、証拠見せてみ、戸籍抄本見せてみぃ それまでは納得出来ひんて

 お母はんが言い出してなぁ・・・うち、途方に暮れてしもうたんやけど、



 潤一郎さんがうちの手ぇ引いてな、その足で役所に行って、

 婚姻届貰って書いて、ちょうどその日同じぅして届を出しよった人に、

 無理言うて証人になってもろてな、そのまま籍を入れてしもうたんよ。」





少し目を見張った俺に、茜はくふふと微笑して見せた。





「吃驚やろ?うちも吃驚したわぁ。



 そんで戸籍持って行って見せたらなぁ、

 お母はん、安心したように静かに眠って逝きなはって・・・



 お医者様に言われた、○ぬっちゅう宣告の時期は とっくに過ぎとったんやけど、

 ほんまにうちのことが気掛かりで逝けんやったんやな って

 間に合って、安らかに逝ってもろうて ほんま良かったなって言うて・・・



 お母はんの葬儀まで出してもろて、その上、結婚したままやなんて、

 恐れおおて、もう十分してもろうて、これ以上迷惑掛けとうないけに、

 すぐ離婚届を出そう言うたらね、潤一郎さん、

 ○んだ人に嘘はつけん うちさえ良ければ、ほんまにこのまま結婚しようて・・・

 きゃ~~~~!!!」





感極まったのか、信号待ちの列の中、茜はバンバンとハンドルを叩いた。

途端に耳を引き裂くクラクション。

これには その音を叩き出した張本人も驚いたようだ。

通行人や隣の車が、訝しげにこちらを見やるのに、

いちいちぺこぺこと、顔を赤く染めたまま 茜は頭を下げていた。



こいつは本当に 馬鹿で哀れな女だと 俺は心底思っていた。







その日、親父は帰ってこなかった。

居間のコタツに入ったまま、紅白の後に始まった

ゆく年くる年という題名の毎年代わり映えのしないチャンネルを変えて、

カチカチとリモコンボタンを操作していた。





「年越しも仕事なんやて。大変やなぁ~。

 正月ぐらい、休みもろたらええのにな?」





俺は相槌も打たずに、平坦なテレビ画面に視線を置いたままだった。





「潤一郎さんの分の年越し蕎麦、無駄になってしもうたわ。」





茜は寂しそうに、ぽつりと呟いた。



親父が正月も仕事なんて、そんな殊勝なことをするものか。

大方、どこかの店にでも入り浸って、華々しく新年を迎えているのだろう。

時計は午前0時を回った。

テレビから花火の炸裂音がする。





「明けましておめでとう。」





語尾の“とう”の部分をあげて、舌ったらずな甘い声で

茜は言った。





「明けましておめでとう。」





俺は茜の作った、白い湯気の上がる蕎麦を口にした。

誰かと一緒に年を越すのは、今年が初めての気がした。



_______________________________





「ビデオテープがな、つまってしまってん。

 どないしたらええん?」





新年も明けて三日目、

真夜中に俺の部屋の戸を叩いて茜が言った。

風呂上りだったらしく、乾ききれていない亜麻色の髪が

いつもよりボリュームを半分に減らして垂れていた。

首にはタオルを掛けている。

所々テディベアのプリントのある赤いチェックのパジャマを着ている。

二十三の女の着る寝巻きにしては幼稚過ぎだが、

この女が着ると似合い過ぎだと言っていい。



俺は茜と連れ立って、階段を降りて一階のテレビのある居間に向かう。

問題のビデオデッキは、ボタンを押してもガチリと噛む音だけして、

うまく反応して出ない。

テープ口の隙間から指を差し込んでみたが無駄なようだ。

俺はコード類をちゃっちゃと抜くと、ビデオラックから引っ張り出し、

プラスドライバーで螺子とカバーを外すと、機械内部を剥き出しにした。

バーでピンとはじくと、ウィィンと音を立てて、テープが取り出される。





「うわ~ すごいわぁ。小太郎ちゃん!」





俺は無言で、外したカバーを元通りに戻していく。

コードも元通り刺して、電源を入れる。今度は正常に反応するようだ。





「あー、ほんま、助かったわ。

 機械に強くて、頭の良い息子持つと、嬉しーなぁ。」





茜が嘆声をあげ、俺の手つきを覗き込むように身を擦り寄らせる。

洗い立ての髪のシャンプーの香りが鼻先を擽る。

茜の周りの空気は、しっとりと湿気を含んでいる。





「・・・・もう、出来ましたよ、茜さん。」





最後の言葉に何気なく力を入れる。

それを聞いて茜は眉を顰める。





「・・・まだ、うちのこと、お母さんとは

 呼んでくれへんのやな・・・。」





呼ぶかっっての。



俺はじろりと睨み付ける。





「ご、ごめんな。うちみたいな女が、行き成り来て、

 おかん呼べていうても そないなの嫌に決まっとぅな。

 でもな、うち、ちょっと寂しいなぁ思うて・・・。

 機嫌悪うせんどいて?」





元旦の日、夜遅くなって、親父はそそくさと家に戻ると

何やら荷造りをし、またそそくさと出て行った。

その時に告げた内容は、

明日から急遽、一週間、インドネシアに出張になるということだった。



確かに親父の企業にはインドネシアに支社があるようだが、

こんな正月休みの時期に、しかも親父の地位のような人間が

そんなところにわざわざ出張など行くはずもない。



正確な行き先はバリ島で、しかも女連れであるということを

俺はとっくに知っている。

親父のパソコン履歴を調べれば、それは容易いことだった。



もちろんこの目の前の、馬鹿な女に教えてやる気はないけれど。







最初は ほんの 悪戯心 それだけだった。



ビデオデッキの修理する俺の手元をよく見ようと

身を摺り寄せた茜の身体を軽く抱き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。



茜は瞬時に目を見開き、

反射的な、察知不可能な速度で右手をしならせると

俺の左頬をパンと叩いた。



軽くも突然の衝撃に 驚いた俺が、もう一度茜を見遣ると、

茜は自分が叩かれたような顔をして

右手をぎゅっと胸の上で握り締めて、顔を真っ赤に染めていた。





「こ、小太郎ちゃん・・・! あ、あかんよ・・・

 そないなこと、したらあかん・・・・。」





身を震わせ、ぶるぶると硬くして、

自分の腕でかき抱いて うっすら涙の潤ませた上目遣いで



あ~あ、そんなコトしたら、男の加虐心ってやつを

仮にもその気がなかったとしても 沸き立たせてしまうって、

気づかないのかね、この女は。



俺はくす と微笑すると、茜の腕を取って押し倒した。

困惑する茜を余所に、幼稚なパジャマの袂を両手で掴んで引き裂いてみる。

意外と簡単に、大き目のボタンはピンピンと弾けとんだ。

抵抗する細い手首を、がっちりと掴んで頭上で押さえつける。





「いやぁ!!やっ!!あかん!!だめや!! やめてぇ

 いやや、やめてぇな!うち、潤一郎さんのちゃんとした妻なんよ!?

 戸籍の上では小太郎ちゃんのお母はんやないの!」





もちろん、俺に止める気などない。

年頃の息子と、血のつながりの無いこんな女を家に残しておいて、

何かあったところで責める権利は親父には無い。



むしろ 茜の無神経なこの言葉に、

俺の欲望は燃え上がった。



俺は赤いチェックの布地を除いて、茜の身体を剥き出させる。





「あかん!!や!いやぁ!」





おや、けっこう胸、でかいな。

細身で華奢な体にこの胸は・・・なんか余計に卑猥だよな。



茜が抵抗して身を捩るたびに、ぷるんと揺れる豊かな双丘。



俺は片手で茜の両腕を押さえつけたまま、

もう片方の手で、その大きく柔らかい乳房を揉み解した。

見た目通りの、揉み応えのあるしっかりとした弾力が、

俺の手に吸い付いて揺れる。



風呂上りで間もない肌は、表面にまだ湯気の立ち昇らせているようで

艶かしくほのかな桜色をしている。



豊かな胸の頂きの突起にも、くにくにと指を這わす。

指先で、挟んで摘んで、きゅきゅっと 時折捻りあげる。

胸元にキスを落として、淡く尖る乳首に吸い付く。

舌先で舐めあげて、甘噛みする。





「やあ!やあ!! あかんのよ! 小太郎ちゃん、やめてぇえ!!」





俺の下でじたばたと暴れながらも、

丁寧に擦ると胸の突起は、生理現象的に硬くしこって立ち上がった。





「うっ!く!! いやああああ!!」





俺は茜の 酷く高い泣き声に、酔い痴れてさえいた。







親父の異性関係は派手だった。

俺の幼い頃から、家にはいろんな女がひっきりなしに出入りしていた。

親父の歳のせいか、最近ではめっきり数が減ったが、

これはあくまで昔と比べての数値だ。



母を持たない俺は、親父のその一時の女たちに育てられたのだった。

俺は正しい箸の持ち方よりも先に、男女の営みというものを知る。



夜の家に響く、不穏な女の叫び声

俺が覗いていることを、きっと親父も知っていたと思う。

激しく律動する親父の下に組み敷かれて、

当時、俺が母のように慕っていた女は

ドアの隙間から怯えるように覗き込む俺と目線が合うと、

白い肢体を震わせ、艶やかな表情を見せ付けて

歓喜の声を紅い唇から迸らせ、エクスタシーに達してみせた。



それが俺の、物心ついてからの一番古い記憶。



親父の女たちは幼い俺を(いろんな意味で)かわいがってくれた。

実際、俺は 自分で言うのも何だが 可愛かったのだろう。

俺の出生を証明するのは、

突然、親父の前に現れた母親が主張した言葉では無くて

完璧に親父譲りの、甘く整ったこの顔つきだ。

年を重ねるごとに親父に似てくる鏡の中の自分に、

俺は吐き気さえ覚えている。



とにかく、親父の連れてくる ふしだらな女たちは、

意中の男とそっくりの顔を持つ俺を

性的対象として見始めるのに、そう時間は掛からなかった。



すべてを含め、初めての性体験は

したというよりされたという方が正確か。



自慰より初体験のほうが先だなんて男、

他にはなかなか居ないのではないかと俺は思う。

そもそも自分のペニスという物体に、排尿以外にも

性的快感を感じる機能があるということを

初めて知ったのは女の口の中で、

自慰自体、女の手でされたことで覚えた気さえする。



『女のね、取りあえずクリトリス攻めりゃあ感じるなんて

 大間違いなのよ。たまに居るのよねー、そんな男。

 いい?小太郎。そんな男になっちゃ駄目よ?

 さぁ、よく覚えて。ここよここ。こうよ、こう。』



そうやって、やけに物知り顔で色々俺に教えたのは、

何人目の女だったのやら。





こんな状況で育ったものだから、

セックスは気軽に誰とでもやるものだと思っていた。

誘われれば、クラスメイトだろうが他の男の彼女だろうが、

誰とでも付き合うし、請われるままに行為に及んだ。



俺の事例に懲りたのか、避妊はしろと、

親父から耳の痛くなるほど聞いていたので

過ちを犯すまでには至らずに済んではいたが



俺の彼女だと言う女が、俺が他の女と寝たことを、

何故、泣き喚くほどに怒るのか、よく理解出来なかった。



高校に入って間もない日、一番の親友だと思っていた男が、

他の友人と嘲りながら あいつはヤリチンだからなと

陰口を叩いているのを偶然聞いて

俺は何もかも馬鹿らしくなり、女と寝るのはその日からやめた。





だから茜との行為は

物心ついてからの、俺の人生で初の

女っ気の無い期間が半年以上という

驚異的な記録を打ち立てていた時期だったので

久しぶりの女の身体のもたらす快楽に、俺は溺れる思いだった。





胸への愛撫を一通り終えて、

俺は茜の、パジャマのズボンと下着を身に付けたままの下半身に

手を伸ばした。





「やん!やっ!!やああ!!!!あかんんん!!!」





俺の手が降り下るのを感じて、茜は甘ったるい声をあげた。



だから そんな声で叫んだら、

余計にこっちはその気になるって。



むしろ半ばこの女、確信しているかのような甘い嬌声だ。



下着の上からという、まどろっこしい手順を省いて、

俺は直接その秘部に手を滑らせた。



おや



おかしい。 無い。



まさか いや、つるつるだ。



肌触りからして剃っているとも思えない。





俺が不審に思った理由を悟ってか、

茜はますます顔を火照らせ、俯くと、ぽろぽろと涙を零した。





「いや・・・いやや・・小太郎ちゃん・・・ もうやめてぇな・・・」





「茜さん、毛が生えてないの?」





俺はその なめらかな肌の割れ目に手を滑らせた。





「ひゃああ!!」





にゅちゅん・・・ とした感触が、俺の指先に触れた。





「茜さん、濡れてる。」





茜の秘部は温かいを通り越して熱く感じ、

染み出した愛液で指がぬめるほど潤っていた。



さらに、そこをちゅっくちゅっくと擦り動かしてみる。





「やっ! あっ・あっ! そんな筈ない!あかん!嫌!! 

 あっ・・あっ!!」





俺の指先と茜の卑猥な裂け目が擦れる度に、

華奢な身体がびくんびくんと跳ね踊る。

それに伴ってゆさゆさと 互いに違う動きをしてみせる豊かな胸は

見ているだけでも俺の充血する下半身に刺激を増幅させる。



秘裂に満遍なく手を這わせてみる。

確かにどこにも恥毛の触れる感触が無い。

まぁ、これはこれで・・探し易い。





「あかん!駄目やのっ・・・うちはあっ・・

 うちは潤一郎さんのものやのぉっ・あっ・ああっ・」





この期に及んでこの女は、まだそんなことを言ってるのか。

親父は今ごろ他の女と、俺と同じことをしているよ。





「茜さん、悪いけど・・・」





俺は彼女の反応からして、ここだろうなというポイントを探り当て、

こちらは定番の硬く充血した突起と一緒に擦りたてた。





「ふあああああん!!」





まるで幼い子供のような声で、茜は高い鳴き声をあげる。

しかし、本当に俺より年上なのか?この女。



やっぱり 何も知らないこの女に

事実を知らせるのは気が引ける。





「俺、茜さんの弱いとこ、もう見つけたよ。」





「あっ・・そな・・あか・ん ひやっ・・」





俺は茜のすべすべした秘唇を掻き分けると、

ちゅくちゅくと 自然に流れ出る卑猥な水音を際立たせて指を動かした。



親父がベッドの上で、どれ程のものかは知らないけれど、

俺も俺で散々幼少のころから、女達に仕込まれたお陰で、

性的快楽の上で、女を喜ばせるツボというのは、心得てはいるつもりだ。





「あっ・・あく・・ふぁあ・・あ」





「感じているんでしょ?茜さん。」





「ちゃ・・・ちゃう!そんな・ふぁ! あっあー!!」





「ほら、やっぱり感じてるよ。

 気持ちが良くて声が抑えられないって分かるよ。」





俺は静かに優しく囁き掛ける。

それは努めてその声色を作ったわけじゃなくて、自然と出てきた声だった。

その事実に気づくと、俺は少しだけ自分が可笑しかった。





「んぐっ・・・・んん・・・ん・んんーー」





俺にからかわれて、茜は必○で嬌声を出すまいと歯を食いしばる。

その姿はなかなか健気で可愛い。





「無駄だよ。そんな 我慢をしても。」





俺は冷ややかに言いながらも、

吹き出しそうな微笑を俺は内側に押さえ込みながら、破顔した。





「ほら・・・ほら、こうしたら、どうせまた声が出るでしょう?」





「んんぅやっ!!あっ・あああっ・・ ひゃ・あっ あーっ!」





「・・このまま、イかせてあげる。」





「あん!やあ!こ・たろうちゃ・・んはっ

 ・そんなのっ!あっ・あかん~!!」





「こんな時にまでちゃん付けは、いい加減やめてくれません?」





「ふぁ・ひどい・・ひどい、小太郎ちゃん・・うち、そないされたら・・・

 ・・・っあ! ひゃあ あん・・ あっ あっ・・・」





「いいね、茜さんの気持ちいいって声、もっと聞かせて下さい。」





「や・あ・あ・あ・あ!!そんな・あかん。うち・うち・も・・

 ・・ふぁ・あん あん あっあああっ ああああっ・・・」





一層、正確な注意深さを払って擦りたてると、

茜は背をこれ以上なく反らせてぶるぶると戦慄く。

長い収縮が終わると、一瞬で弛緩して果てた。



意識の彷徨う ぐったりと力の無い身体を、俺は優しく撫でながらも、

茜の身に纏っていた衣服を全て脱がせていった。





「凄いな・・・ほんとうに、茜さんのここ、まるで毛が無い。」





パジャマのズボンとパンツをずり下ろして脱がせた後、

御開帳とばかりに股を開かせ、股間を興味深く凝視して俺は言った。



この低い背に・・幼い顔つきに・・・高い声に・・

おまけにつるつるの股間ときたもんだ。しかも巨乳。

これはヤバ過ぎだろう?





「!! いやや!!見んで!!お願いぃ!!」





その言葉に正気が戻ったのか、茜はぱっと股を閉じようとした。

俺はがっちりと茜の両脚を掴んでいたので、そうとは行かず、

茜は手だけで自分の陰部を覆い隠した。

別段 俺の力が強いわけではなくて、この女が非力なのだ。



自分の恥ずかしい場所を隠そうとする手の上から

更に俺は手を重ねて、茜の指越しにぬかるんだ秘裂を押し付けた。





「いやらしいおまんこしてるね、茜さん。」





わざと隠語を用いて茜の耳元にそう囁きかけると、

ただ上に触れて置いただけの指先から、

ひくひくと蠢く膣の収縮が伝わった。





「イッ・・や、やあ・・・」





俺の指ではなく、自分の指が

ぬるりと秘部に喰い込んでいくのを感じた筈だ。





「ほら、こんなに。茜さんのおまんこ、どろどろになっている。

 自分で触って、分かるでしょう?」





また反応して動く。

ひくひくと。



ああ、やっぱり。

どうもこいつは、卑猥な言葉責めに弱いらしい。



茜はしっかりその箇所を手で抑えて、

顔じゅうを真っ赤に染めて、羞恥に耐えている。





「毛が無いのは体質ですか?

 それとも親父に剃られた?」





「ちゃうっ!! ・・うちの・・・体質や・・・



 あかん。・・もう、堪忍して、小太郎ちゃん

 うち、ほんま恥ずかしゅうて、○んでまう・・・」





「茜さんのここ、すごく綺麗だよ。」





ぺちゃ・・・

俺はそのつるつるな秘裂に舌を這わせた。

隠して遮る、茜の指ごと一緒に だ。





「ひゃ!!あ!! あかん!!やっ・・・!!」





びくく と俺が折り曲げ抑えつけた二肢が震える。

邪魔な毛の無い分、ずっとクンニがしやすかった。



俺が顔を埋め、茜の手の僅かに開いた指の間から、

ぬるぬると舌を絡めていると、

茜は切ない叫び声をあげて、股の閉じようとする力は緩んでいった。



俺は両脚を押さえつけていた手を離して、

未だ邪魔する茜の手を掴んで両脇に下ろさせた。





「くあ・・ああっ・・ ああっ・・ ああー 」





何も遮るものがなくなった茜の剥き出しの秘裂を

俺は何度も舌を這わせて音さえ立てて舐めあげた。





「茜さんって、毛も無いけど味も無いね。」





「・・・ッ、」





なじる俺に反旗を翻そうと、身を起こそうとする茜の身体を押えつけて

とろりと蜜の溢れる秘裂をまた舐めあげる。





「・・ふぅっ・・あひぅ・はっ・・・ああん・・はあぁ・・」





身を蝕む快感に観念したのか、

茜はさほど抵抗を見せず、そこから手を放して、

自分の陰部にほどこされる、一番淫らな愛撫に身を委ねた。



舌で弄って、唇で吸い上げて、

硬く立てた舌先を、ねじ込むように膣内に差し入れ蠢かす。



思うがままに舌を操り、鼻先でひくつくクリトリスを押し込み刺激する。





「ああっ ・ああっ・・ うち・・また・・ああっ。あ」





両脇に下ろさせた際、繋ぎ合った手のひらを、

ぎゅっと痛いほど茜が握り返してくる。



俺はその手を振り解いて、自分のズボンのチャックを外し、

すでにぱんぱんに充血してそそり立った自分の身を取り出すと、

茜の膣口に押し付けた。





「っ!! あかん!だめ!!したらあかん!!」





俺の熱さと硬さをそこで感じ、

今から犯される身の危険に仰け反って、茜は俺から離れようと身を捩った。

そんなことはとっくに予測済みで、俺は先端を押し付けたまま、

逃げないよう茜の腰を、しっかりと押さえ込んでいた。





「どうして?茜さん。」





すぐに沈み込むことはせずに、俺は膨らんだ欲望で

茜の入り口をつんつんとつついて、促した。





「茜さんだって、欲しいでしょう?

 ここが欲しいってひくひくしているのが分からない?」





「う・あ・・ちゃうの・・あかんの・・・」





「茜さんがピル飲んでるのを、俺は知ってるよ。

 だから生で入れても大丈夫でしょう。」





「そんな問題やない!! ・・・うち、だめやの・・

 ほんま、やめよ? 今ならまだ・・戻れ・・あうっ!!」





俺は硬く勃起した先で突付くのをやめて、

茜の秘裂にぴったりとペニスを添わせて上下に擦り付けた。



そうやって焦らして、堪らなくなった茜の口から

俺への肯定の言葉を出してやろうと思った。



腰を動かし、擦り付ける。

繰り返し往復させていると すぐに

俺の充血した肉の塊は、快楽に喘ぐ茜の淡く白濁した愛液で

 ぬるぬるとまみれた。





「こんなにいやらしく濡らしているのに、

 まだ、そんなこと言ってるの?」





「あっ・・・あっ・・ はあぅ・・」





「本当は欲しくて堪らないくせに。」





俺は意地悪い笑みを浮かべて微笑みかける。

何度も俺を擦り付けながら、耳元で囁く。





「親父とさ、ここんとこずっとご無沙汰でしょう?

 最初の三日間以来?新婚で、それは辛いんじゃないの?」





「いやっ!!いややあ!!やああっ!!」





それを聞いて茜は、身を捩って悲鳴をあげた。



しまった。

親父を持ち出すのは、どうも逆効果だったようだ。

やっぱり俺もまだまだだよな。



っていうか、もう 俺のほうこそが耐えれそうにない



このまま深く中に、埋もれてしまいたい





「入れるからね、茜さん。

 どんなに泣いたって、俺は止めないから。」





「いやや!いやや!!ひぃっ・・・あっ!!」





俺は暴れる茜を押さえつけるためにも、

腰に添えた両手に力を込めた。

両親指が、僅かに突き出した骨盤の上の柔らかな腹の皮膚に食い込む。



自分の腰を突き動かす。



じっくりと 粘膜に 包み込まれるこの感覚。



俺はしばし、その総べてを 全神経で感じ取ろうと目を閉じる。



半分ほど挿入して、俺は目を開け、二人の接合部に視線をやった。



茜のそこには毛が無いので、

俺の張り詰めた赤黒い物体が

茜のほんのり色づいた秘裂に

ずぶずぶと飲み込まれていく様子がよくわかる。





「ほら 見て、茜さん。

 俺のが茜さんの中に入っていくのがよく見えるよ、いやらしい。」





腰から撃ちだされる快感に痺れながらも、俺は茜を言葉でなじった。





「ひあ・・・んくんっ!!」





総べて押し込められると、茜は俺の全部を飲み込んだまま、

半開きの唇を、ふるふると戦慄かせた。



腰を引きながら、また突き出す。





「あんっ!!・・あく・・ふあ・・」





舌ったらずの甘い声。

腰を打ち出すと流れ出る。





「気持ちいいんだね?茜さん・・。

 俺も気持ち良い・・・。」





茜は答える代わりに、ひくりと膣を収縮させた。



間を置き、何度も続ける。

突き上げることに没頭する。少し、ペースを速める。

奥を 重点的に。 統べてを 擦り付けるように。

うねる。 かき回す。



豊かに跳ねる、胸の双丘に手をやると、

手で揉みしだいて、硬く色づく二つの突起を両手で刺激した。





「あっ・・あふぁああ!うち・・イッ・あっ はああああん!!」





何度かそうしていると、茜は亜麻色の髪の波打つ頭を振り乱して

あっけ無く独りで果ててしまった。



俺は茜の体を四つん這いにさせて、今度は後ろから突く。





「あうっ・・・うわ   あん  くはっ・・ はん・・・」





あ、いいな。この声。

高い声の女が鳴くと、こんなふうに聞こえるのか。



いや いつかも、そう思った気がする・・・。



これは以前、聞いた声と 全く同じ・・・



駄目だ。こんなこと、聞くべきではない。



それでも言って 聞いてみたい。

容赦なく詰って、責め立てたい。



茜の 止むことの無い上擦った高い嬌声が

俺の残虐性を剥き出しにする。





「・・・茜さん、親父と何度、こうした?」





後ろから突き上げなら覆い被さり、

なるべく茜の耳元の傍でゆっくり呟いた。





「う・・・やあっ・・・くは・あん・・ひあ」





茜は苦しそうに喘いで答えない。

それもそうだ。



俺は自分のいきり立つペニスを突き立てながら

後ろから茜の細い腰へと回した手で、淫乱な液の垂れる結合部の、

剥き出されて 敏感な クリトリスをも刺激していた。

恥毛が無いぶん、そこへの刺激は強烈だ。





「親父はバックが好きなんでしょう?

 昔の親父の女にそう聞いた。

 ・・・茜さんも その後ろから突かれる体位が一番感じる?」





「はぁっう・・はっ・・・ひゃひいいぃぃぃぃ・・・」





じゅじゅじゅと蜜にまみれた敏感な突起を指の腹でしごいて

奥までドンと突き上げたと同時に、静かにゆっくり出し入れていると、

茜は何の前触れも見せずに

情けないほど高い掠れた声をあげて、身体をがくがくと奮わせた。





「っく・・・・」





膣が強烈に締め付ける。

危うく射精しそうになるのをぐっと堪えた。



まだまだ 終わるには勿体無い。

もっと、俺ので 茜の気を狂わすほど責め立てて遣りたい。





「またイったね。茜さん。すぐイクんだね。

 敏感だから?それとも淫乱だから?」





くすす と笑いながら俺は言葉を投げかける。

低く四つん這いになった茜の腕を取って、上体を捩じらせこちらを向かせる。

伏せた睫の下から、小さく涙の雫をしたたらせて、

はぁはぁと肩で息をしている。





「もぉ・・・やめてぇなぁ・・小太郎ちゃ・ん・・

 ・・うち・・ もう苦しゅうて・・どうかなりそ・・うっあふっ」





俺は再び、腰を突き動かした。

するとすぐに茜の肉付きの良い膣壁も

きゅうきゅうと収縮して俺を迎えた。





「だい・・じょうぶ・・・茜さんのつるつるのここ・・

 俺のをちゃんと締め付けてくるよ。」





「あか・・あかん・・ふぁ・・堪忍・やぁ・・あふぁ・・

 ・・もう・かん・に・・んしてぇなぁ・・あっ・ああぅ」





俺は茜の体を横にして其のまま突き上げた。

茜が苦しそうに身を捩るたび、反り返ったペニスが揉まれるようで、

俺は噴き上げる射精感に向かって、只管に腰を振った。





「・・・中に・・・出すから」





総てが激動して 瞬間に 出て行った。



断続的に収縮する 熱い塊。 迸る 欲情の濁り。



茜の胎内に流し込んで、味わう恍惚。





「ひゃ・・ああっ・・・くは・・ひああ・・あっあ・・」





膣奥に打ち付ける、熱い精液を感じてか、

茜は再び 小さな身を震わせて鳴いていた。







「っくう・・・・ッうぅ・・・ふっく。・・ううぅ・・・」





荒い息を吐き終え達した後、

まだ震えている茜を、俺は無言で後ろから抱きしめて、

二人で身を横たえていた。





「・・・ぅう・・ ・っく・・・ぇぐ・・・ ふっ・・ッ・  ・ぅっく・・」





茜の啜り泣きが いつまでも部屋に響く。



行為の最中は、快楽に酔い痴れすぎて、何も気づかなかったけれど

こうやって、俺の腕の中で

ただ只管、奥歯で噛み締めるように泣いてる茜を見ると、

俺はやはり、あの忌み嫌っている親父の血を引いているのだ と思った。



それに気づくことで、余計に茜の泣き声にイライラする。



肩を掴んでこっちをむかせ、顎をあげさせその顔をみる。



あーあ、涙でぐちゃぐちゃじゃないか。

そんなに嫌だったのか?



ちゃんとイかせたし(少なくとも三回は)

妊娠する心配は無いし、   ・・・おそらくは よかったはずだけれど。



 俺  だったから だろうか。

親父以外の男に、寄りにもよってその息子に、

快感を導かれて抱かれることは、

親父を想う彼女にとって 何よりも辛いと

そういうことなのだろうか。



例え顔は似ていたとしても、

所詮 俺は、親父の代わりにも なれさえ しない。





「茜さん、好きだ。」





無意識に呟いたら、茜の泣き濡れた顔がふっと和んで、微かに笑った。



ああ、俺って奴は。



一番大事なこと、忘れていた。

大切なことを言うのを忘れていたんだ。





顔を寄せて唇を重ねると、

茜は抵抗せずに応じた。



咥内の奥で、引っ込んで出てこようとしない舌を吸い出して、

舌を絡めて じっくりと味わう。



茜にキスをしたのは、一番最初の 軽く重ねたあの瞬間だけ。

舌を絡ませたのは、この時が初めてだった。



抱きしめた茜の身体からは

いつか嗅いだことのある ポプリの清んだ匂いがした。







翌朝

半ば強引に、一緒に入って眠ったベッドの中には

シーツの皺と、一本の栗色の髪の毛を残して、茜の姿は無かった。

けれども一階の台所にはちゃんと 彼女の姿があった。



本気で心配した訳じゃない。

何故なら彼女も 他には何処にも 行く所は無いのだから。



俺が再び身体を求めると

最初こそ激しく抵抗したが、昨夜知り尽くしたポイントを

根気強くほぐしてやると、最後には抗うことを止めた。



この時ばかりは 今まで俺を通過していった女共に

感謝の念さえ抱いたものだ。





「小太郎ちゃん こたろうちゃあぁあん!

 あう・・ああ・・うち・・うち・・・もう あかん・・・もう・イク・・・」





甘ったるい声が俺を呼ぶ。

やはり その呼び名は気に食わない。 が、まぁいいかなと思う。

茜は、更なる快感を捕らえようと必○で腰を振り乱す。





「イっ・・・・くううう・・う うああ あああああぁあ――――」







茜は気づいているのだろうか。

親父が茜と結婚したのは、ほんの気まぐれに過ぎないということを。



親父が俺を引き受け、育てたことも、

ほんの気まぐれに過ぎなかったことと同じように。



それが人のこれからの人生、全てを変えるような選択肢でも、

親父はほんの気まぐれで チェス盤の上の駒を動かすように

指先ひとつで造作無く やってのけてしまうのだ。



それだけの、金と力と器量とを 親父は備え持っていた。



ただ、動かされる駒の気持ちを想う気など、

微塵も持ち合わせてはいない。



親父が女にもてはやされるのはよく分かる。

ただ顔やスタイルが良いというわけじゃない。



彼のもつ不思議な魔力は人の心を魅了する。

それは俺とて例外ではないからだ。





『そや、小太郎ちゃんも うちも 同じやな。』





いつか茜が言った あの言葉は本当だった。



俺たちは同じ人間だ。

すべてのものに見放されていたところを、

親父の気まぐれで拾われたのだ。



道端に捨てられている犬猫が、

拾い主の愛玩として飼われるのと

何ら大してかわりは無い。







塵捨て場のようなこの場所で



俺に芽生えたこの恋が この先どうなるのかは知らない。



けれど 必ず 奪ってみせると、俺は心に誓ってる。







 







-END-










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